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虚空塔攻略戦:後編

燃え尽きる空の追憶

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《起動しました》

《おめでとう!!お前は従魔型管理端末:1号ぅ!この皇都を守護する我らの盾だぁぁぁ!》

《はい》

 今から遥か昔のことです。
虚空塔はアルヴァントという街を守る為に建造され、街の上空に浮かべられました。

 そして私はその制御の為に、意志を持つ端末として生み出されました。

《あの》

《何で少女の形にしたのか!?そんなの可愛い方が良いに決まってるからだぁぁ!》

 この逆さまの塔の役目は、都の魔族達から魔力を少しずつ貰って、それを分配したり、都を守る為の障壁を作ったりする事です。

《俺様の開発した魔術障壁は完全無欠!最強無敵!》

 壁を作らなければならない理由は、人族との争いと聞かされました。
でも、生まれて間もない私には、何のことか、わかりませんでした。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「え、ちょっと待って」

 アカーシャの話を聞いていた私は、混乱してしまった。

「はい……?」

「先ず、凄い勢いの人誰?」

「かかっ、おれさまがだれかって?なくこもだまる、てんさいまじゅつし……!!」

 大袈裟な身振り手振りで誰かの真似をしている。

「ごめん、わかんない」

「……そうです……か」

シュンとするアカーシャ。

「ごめんよー、上手だったから落ち込まないでー」

 というか元々女の子の形してたんだ。
じゃあ……私の影響って……やめよう、考えたくない。

「……続けます」


◆◆◆◆◆◆◆◆
 

《みろぉ!これがお前の守る魔族の国、我々の生きる魔族の都だぁ!》

 私の世界の全ては、研究者の作ったヘンテコな部屋と、この塔のバルコニーから見える景色でした。

 その風景はいつでも、眺めるだけの私を決して退屈させませんでした。

 朝には大陸中から集められた品が並ぶ市場。
騒がしく動き回る魔導具、
配管から吹き出す蒸気、
街を薄く覆う幕のような魔力障壁、
張り巡らされた線路、
その上を走る列車に灯る魔力光。

《1号ぅ!あの黄金を見るのダァ!アレが沈むその瞬間をぉ!》

 夕暮れ時、それぞれ帰っていく魔族の方々。
沈んでいく光が障壁に反射し、空は金色の輝きに満たされました。

 日の沈む前の瞬間が街の最も明るい時でした。

《くぅぅ!眩しいぃ!眩し過ぎるぅ!俺様の発明が光っているぅぅぅ!》

《そうですね》

 騒がしい街も、夜になればその姿を変えました。
穏やかな光が街を照らし、魔力で動くものだけが街の夜を静かに彩っていました。

 魔族達は皆、夜半になると灯りを全て消し、静かに空を見上げて、星を占ったものです。

《……なるほど……そうか……変わらないか》

 この塔から見た夜天は、手を伸ばせば触れられるような、ひょっとしたら落ちてしまうんじゃないか、そう思えるくらいに真近に感じられたました。

《ゆめゆめ忘れるなぁ!我々はこの街を守る最大の要ぇ!そしてお前はその盾そのものダァ!》

 私はその素晴らしい景色を守る事、その役割に誇りを持っていました。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 何処かへ出兵していくアルヴァント軍の兵士達は、験担ぎの為に虚空塔に作られた講堂へ、しばしばやってきました。

《では、行って参ります!》

《武運をいのる!我らアルヴァントに栄光があらん事をォ!》

《みなさんの無事を祈ります》

《ハハハっ、1号ちゃんも、この街を頼んだよ》

《了解しました》

 魔族は死を迎えても、魔力がある限りは、数日のうちに生まれた場所で再生或いは再誕します、なのでどの魔族も楽観的でした。

 その考え、魔族が絶対的に優位だという認識は、ある時を境に引っ繰り返る事になります。

 人族との戦闘に敗北、そして--復活する筈の魔族が全く戻らなくなったのです。

 戦地から戻った彼らが、戦死した友人が蘇るのをいくら待っても、その姿はありません。

 そう、いくら待っても。
皆、混乱していました、最初は少し遅れたのだろうと思っていた彼らですが、どれほど待とうとも、戻って来ることはありませんでした。

 その時、魔族は初めて死というものを知りました。

《……当たって欲しくない予想ばかり当たるものだ》

 人族の侵攻が始まりました。
これまで、魔族にとっては力試し程度でしかなかったのが、生存競争に変わったのです。

 本来、圧倒的な魔力で優位であった筈の魔族が、人族に土をつけられたのです。

 すぐには街の雰囲気は変わりませんでしたが、緩やかに重苦しい空気が漂ってきていました。

 願掛けの為にやってくる方々は以前はそれほど居ませんでしたが、徐々に増えていき、皆昔のように気楽な表情はしていませんでした。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 戦争はあまり長くは続きませんでした。
魔族側が早々に休戦を申し出、講和によって終結させたからです。

 その時にわかった事でしたが、戻らなかった魔族の一部は人族よって捕らえられていたのです。

 それでもほんの一部で、やはり多くの魔族は死んでしまっていました。
 
 彼らと引き換えに多額の賠償を支払い、様々な不利な条件を飲む事によって成立した講話は、実質的には人族側に従属し、属国として振舞うことで何とか魔族の生存が許される状態に近いものでした。

 そうして早期に終結した戦争、魔族達はまだ現実を受け入れられずにいました。

 そんな心情とは裏腹な快晴の空、旧皇都アルヴァントでは盛大な祝祭が催されていました。

「この良き日に!」

「《この良き日に乾杯》」

 その日人族と魔族は、終戦を祝して盃を掲げました。

 訪れるほんの短い間の平穏の為に。


◆◆◆◆◆◆◆◆


《--っ!これは……》

 私が目を覚ました……正確には正気を取り戻した時には全てが終わっていました。

 見渡す限りの火の海。

 私が、私達が守っていた景色を照らしていたのは、見慣れた輝きではなく、激しく燃え盛る炎でした。

「……チッ、効きが甘かったか。もう戻りやがって、止まっちまったじゃねえか」

 すぐ近くにいた人族の男が私の頭を掴みました。

《これは一体》

「何ってそりゃ、戦だよ」

《そ、そんな終わった筈じゃ》

「それは前のお上が勝手に決めた事だ、そんな軟弱者は死んだ」

 当時、人族側でクーデターが起こり、講和を破棄、再侵攻したようです。

《それだけでここまで》

「魔族の奴らにも、戦争が終わってもらっちゃ困る連中がいるってこった」

《そんな事を考える魔族はいません!》

「人間が何故、お前ら化け物に勝てるようになったかわかるか?答えはこういう事だ」

《イチゴウ!マリョクヲアツメルノダ!オレサマノイウコトガワカルカァ!》

 その人族の後ろから現れたのは、正気を失ったような……いえ、普段から彼が正気だったとは言い難いですが、いつもとは様子が違う姿でした。

《ど、どうして》

「洗脳術、我々人族が魔族に勝つために手に入れた力だよ」

《オレサマノイウコトガ、キケナイノカ、スベテノ、マリョクヲ、スイツクセ》

《そ、そんな事……!》

 もしそんな事をしてしまったら、この街の魔族達は二度と蘇る事はありません。

《何故ですか!人族よ!》

「《名も無き精霊よ!その者の全てを癒せ!》」

 男は回復魔術を暴走させ、私の許容量の限界を超えた魔力を注ぎ込みました、その時は自分自身がどうなっていたのかもわかりませんでした。

《う、ぐ、あ》

「いやぁ、魔力が大量にあるってのはいい気分だなぁ?」

 身動きが取れない私を踏みつけて笑う人族。

《わたし……わたしは……》

「次はすぐに戻らないよう、丁寧にやらないとな--」

 そうして、私の街、国は滅びました。
操られながら、意識はそのままに、私は愛した物を破壊していきました。

 全てが終わった後、私と虚空塔は封印されました。

 浮力を失い、空から落ちて地に突き刺さった塔。

 まるで墓標のように立ったこの塔を見て、人族は勝鬨を上げました。

………

……



 そこから長い間、私は封印されたまま、地上に繁栄する人族を眺め続けました。

 塔の周りに魔族の亡骸が山のように積まれても。

 積まれた亡骸が火にかけられ辱められても。

 美しかった街並みが崩れ去り、人族の物へ建て替えられても。

 人族によって塔の姿が作り変えられても。

 時が経ち、彼らが魔族、魔人の存在を忘れ去り、その姿すら変わったとしても。

 いつか必ず。

 彼らに復讐する為に。

 私は暗闇の中で待ち続けました。
復活した魔人、クドゥリューが現れるまで。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「ということ……なのです」

「えっと、つまり」

「ひとぞくきた!!!……まぞくみんなうわぁぁいってるやばい!!こわい!!!!きゅーこーとぼろぼろ!!!!……とうついらく、ぐちゃぐちゃのわたし!!!!」

「う、うん」

「まちにほのおがぉぉぉ!!!!まぞくたおれてたいへん!!!!!!そらもまっかでごぉぉぉぉ!!!!!!」

 シュバババっと何かのジェスチャーをその小さな体でオーバーなくらいに披露するアカーシャ。

 元気いっぱいで何よりだけど、一体なんのジェスチャーなんだろう、てか炎がおーってなんやねん。

「ぜったいゆるすまじ!!!ひところす!いつかころす!!!でした!!!!」

 著しく精神年齢が下がったような状態で殆ど何を説明してたのかわからなかったんだけど……眠いのかな?

 いや、まさかとは思うけどアカーシャって説明がクソがつくほど下手くそなんじゃ……?

「くろいまりょくこうでどかーーん!!!とうでどーん!!!さよならひとぞく!!!!」

「そっか!」

 すげー勢いだけど、全然何言ってんだかまじでわかんねぇ。

 もしかして今まで眷属達がロクなことしてないのってコレの所為なんじゃ……?

「こほん、ですので。今後とも宜しくお願いします、最後の魔人様」

 なんで説明してない時だけ、まともになるの……?

 敵にも辛い過去があったんだよ、的な説明エピソードを大体でしか理解できなかった私はこの後どうりゃいいですか?

 漫画やアニメなら、これに共感した私が本当に黒幕になったり、彼女を止める為に決心したりしそうだけど

「え、あ、うん、コンゴトモヨロシク」

 まあ、別にいいか、恐らくなんか人族が悪くて仇討ちマンになりたいという事だろう!

 よっしゃ、まあ黒幕になってもマヌ爺にボコられる未来しかないし、やはりどうにかして事件を収拾しよう、そうしよう。

「ゆるすまじひとぞくゆるすまじ!!!!!!」

……人族の言葉は難しい、そういう事にしておこう。
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