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虚空塔攻略戦:後編
ホルムズの授業
しおりを挟む「早く……逃げてください!フュリアス様!」
レパルスの叫び、しかしフュリアスには退くことはできなかった。
「サテ、ショクン、キミタチニハ、ショホテキナ、コトヲ、サイカクニン、シテモラオウ」
まるで普段、授業を行う時のように語り始める教師のホルムズ。
しかし足元には、つい先程まで別の場所にいた筈のアローニアとレパルスが倒れ伏している。
「ワレワレガ、アツカウ、ゾクセイ、トイウモノハ、ソウコクスル、ユエニ--」
ホルムズの持つ杖に僅かな魔力光が灯る。
「《土精よ、土の壁を!》
「ソウコクセヨ!モクセイヨ!」
それを見たフュリアスが反射的に土壁を作り出そうとするが、魔術は成立せず、魔力光は散っていく。
「な……!?」
「コノヨウニ、イッパンテキニハ、ゾクセイニヨッテ、」
「《……木精よ、小枝の矢を……放て》」
「ソウコクセヨ、カセイヨ」
死に体のアローニアが何とか放った魔術も解け消えた。
「アイショウ、トイウモノガ、アリ、ソノ、サヨウヲ、ヘンカ、サセルコト、ガ、デキル、タトエバ、コノヨウニ」
説明しながら、右手の二本の指を立てるホルムズ。
「モクセイ、カセイヨ」
ホルムズの指に灯る翠と赤の光。
「《我が魔力を贄に--》」
「ソウセイセシ、カキュウヲ、ハナテ」
放たれた火球は、ホルムズが指に灯した魔力光の量からは想像できない大きさのモノであった。
「--防げぇぇぇ!!」
火球の着弾、白煙が上がる。
「フム……?」
ホルムズは眉を釣り上げる、期待した回答とは異なった解決方法であった為だ。
「《………》」
フュリアスの召喚したそれはカモメのような鳥、ただし彼等を覆い隠せるほどの翼を持つ巨鳥であった。
「《オェェェェェ》」
「……うわ、汚なっ」
巨鳥が突然吐き出したのを見て思わず、素の反応をしてしまうエステル。
「……フルマー、頼んだ」
「《うっぷ、俺調子悪いからすぐに帰っていいか?》」
大層しんどそうな声で抗議する巨鳥。
「……ベッカイヲ、ミトメナイホド、サイリョウデハナイガ--」
「《グェェェ》」
巨鳥が話を遮り、液体をホルムズへ吹きかける。液体は瞬時に凍りつき、彼の体を拘束する。
「ム、コオリマジュツカ」
「《悪いが、ちょっくらいっしょに飛んでもらうぜ、先生よぉ》」
ホルムズを掴み巨鳥は木々の合間へと飛び去る。
「レパルス!アローニア!」
その隙に倒れている二人の方へ合流するフュリアス。
「フュリアス様!何故逃げなかったのですか!」
「それは……ここで逃げて助かったとして、貴様らがいなければ、じきに詰む!覚悟は立派だがそれとこれとは別だ!」
「……そういうことにするであります」
「《名もなき精霊よ!我らの傷を癒せ!》」
遅れて近寄ったランプラが回復術をかける。
「生きてますか?馬鹿二人」
「何とか、でも私達をあのホルムズの魔術……」
「相剋と相生か……」
「いえ、そちらではなく--」
ドサリと重い音が鳴り、フュリアスの召喚した巨鳥がすぐ近くに落ちた。
「ふ、フルマーッ!」
「《すまねーが、手に負えんわ、帰るぜ……》」
巨鳥は光となって消えた。
「サテ、ジュギョウヲ、ツヅケヨウカ?」
空間に亀裂が入り、宙に開かれた暗黒からホルムズが這い出る。
「マジュツハ、タイオウスル、ゾクセイソンザイトノ、ケイヤクニヨリ、コウシカノウニナル、ユエニ」
身体に着いた氷を砕きながら、説明し続けるホルムズは、言葉を区切る。
「スイセイ、モクセイ、カセイ、ドセイ、フウセイヨ」
右手の指にそれぞれ蒼、緑、赤、褐、翠の魔力光を灯す。
「……5色全て使えるというのは本当だったのか」
「テキセイサエ、ユルスノデハレバ、アツカウコトガデキル。モットモ、ソレガ、サイダイノ、ショウガイダガ--サテ、モンダイダ!」
ホルムズの手の魔力光が全て混ざり合う。
「ソウセイヲカサネ、スイリュウヲハナテ!」
迫り来る激しい水流、これもまた彼らの知る威力とは全く異なり、瀑布のような勢いであった。
「……説明が正しいなら!《土精よ!相剋せよ!》」
ホルムズの言う通りであるならば、土は水を剋する、フュリアスはホルムズの拘っている授業の方式に則って回答を返した。
彼の予想では魔術は分解される筈だった、しかし。
「ヨワスギル!アナドレ、ミズヨ!」
瀑布はまるで弱まることなく、進み続けた。
「くぅぅぅ!」
そして水流は彼らを直撃する。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「《我が指先に瑪瑙の盾》」
水流は直撃した--光輝く白い盾に。
「ヒカリ、ジユウキジュツカ」
魔術を放ったのはこれまで震えていたエステルだった。
「ダガ、ナゼダ?"シュゴシャ、エステル"ワタシハ、オマエヲ、"キュウシュツニ"、キタノダゾ?」
「守護者っ!?」
思いがけない言葉に驚く一行。
「え、いや……その違……」
どもるエステル。
もはや誤魔化しきれない、彼女の中ではこの瞬間に進退が決まってしまったようなものだった。
「……スゥーー」
意を決したように深く息を吸う。
「"愛故に"!魔人様を打倒させてもらいます!」
「愛故に!?」
アローニアとランプラに衝撃が走る。
「…………ソウカ、ナラバシカタアルマイ、"セイト"ガ、ヒトリフエタ、ソレダケノコトダ」
「洗脳術も完全では無いようですね!"言い訳"があれば反抗も可能で……くぅっ!」
右腕を庇うように抱えるエステル。
「ソレガ、モシ、ヨウイナラバ……ダレヒトリシタガワナイ、ダロウナ」
呆れたように言うホルムズの目はそれまでと違い、狂気を感じさせなかった。
「……(魔人様……?それにホルムズ先生の言葉の意味は……)」
フュリアスの頭に一つの疑念が生じた。
「サテ、キュウケイハココマデ、ツヅケヨウ、フウセイ、スイセイ、モクセイ、カセイ、ドセイヨ」
しかしソレを深く考える時間は与えられない。
「ソウセイヲカサネ、カゼノヤイバヲ!」
「《我が指先に瑪瑙の盾!》」
巨大な翠の斬撃をも防ぐが、白き盾はその次の瞬間に砕け散る。
「くぅぅ!」
「《水精よ!我が剣に宿て、疾く断て!》
砕け散っていく盾の合間から駆け出すレパルスが剣を振りかぶる。
「ドセイヨ、ソウコクセヨ」
「ぬぉっ!」
しかし、彼の魔術は掻き消され、軽く蹴り飛ばされた。
「私達じゃ簡単に消されてしまうであります……どうしたら……」
「ヒカリ、ヤミ、コオリ、キン」
そういいながら、左手の4本の指に、白、紫、青、銀の魔力光を灯すホルムズ。
「コレラノ、ゾクセイソンザイハ、ヒトクサレテイル、アルイハ、ゲンゾンシテイナイガユエニ、アツカエルモノガ、スクナイ」
「《光よ!悪しきを砕き切り裂け!》」
「ソシテ、オタガイニカンショウシナイ」
エステルが放った光の斬撃を前に、ホルムズは微動だにしない。
「ダガ、マジュツニハ、トウキュウガアルガユエニ!アンレイヨ!ヤミノショウゲキヲ、ココニ!」
後から放たれた紫色の光弾がエステルの魔術を正面から弾き飛ばす。
「ヨワイマジュツデハ、ツヨイマジュツニハ、カテナイ」
「9属性持ちなんて、どうやって……」
「……教わった通りにやるしか無いって事か」
「フュリアス様?」
「力を貸してくれ、レパルス、アローニア、ランプラ、そしてエステル様」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「サテ、ジュギョウノオワリニ、モウイチド、モンダイニ、コタエテモラオウ」
「カセイ、ドセイ、フウセイ、スイセイ、モクセイヨ」
「ソウセイセシ、ゴウカヲモタラセ」
爆炎がフュリアス達へ迫る。
「先生の言う通りなら、相剋する属性、相生と強化、そして同等の階級、レパルス!」
「御意!《水精よ!》アローニア!」
「やるであります!《木精よ!》ランプラ!」
「はい!《火精よ!》フュリアス様!」
「《土精よ!》エステル様お願いします!」
「《風精よ!相生せし水流を放ち--》」
「《--相剋せよ!》」
先程ホルムズが放った水流と同等の激流が火球を消し去り、彼を押し流し、大樹へと叩き付ける。
「おめでとう正解だ、諸君」
磔になったホルムズは微笑んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
濡れた服をすぐに乾かし、フュリアス達の前まで歩いてきたホルムズは、懐から煙草を取り出し、吸い始めた。
「さて、エステル君と違って、私が干渉を軽減していられる時間は僅かなので、単刀直入に言おう、今回の件で最も重要なのはこの虚空塔を止める事だ、それさえ出来れば後は敵などいないに等しい」
「それはどういう事であります?」
「そこのエステル君なら、ある程度はわかるだろう。そして君らだけに伝えるが、今回の件を起こせるのは虚空塔の存在を知り、学園、それもアドルノ寮に入る事が出来る存在だ」
「そんなの魔人しか……」
「魔人が現れたのはいつだ?集会と授業、それと今回だ。しかし何の前触れもなく、我々に感知される事すらなく?そんな芸当が可能だろうか?」
「それは……」
「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」
「これ以上は聡明な生徒諸君には言うまでもない事だろう」
「--魔人は生徒或いは教師しかいない」
フュリアスは呟いた。
その言葉を聞いたエステルは何故か冷や汗が止まらなかった。
「そろそろ時間切れだ、私は正気を保つ為にここを離れるとしよう。《此方から彼方へ続く回廊よ、千里を繋ぐ暗夜の道よ、今、我を導き現出せよ、開け、闇の門よ!》」
「では、私はこれで」
そう言ってホルムズは闇に消えた。
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