上 下
51 / 88
虚空塔攻略戦:中編

推理と呼ぶには

しおりを挟む
 ターリアと名乗る少女に助けられたフュリアス一行は彼女の魔術で錯乱から脱し、荊の迷宮を進んでいた。

「……君は何年生なんだ?」

フュリアスは道中、ターリアへ幾度も質問を投げていた。

「私はアドルノ寮の1年生です……寮の中にいたので、この塔が出現した時に飲み込まれてしまったんです……」

「……そうか、だがあの魔術の腕だ、一人でも問題なかったのだろう?」

「いいえ、一人ではとても……ここで身を潜めるのが精一杯で……フュリアスさんが回復してなかったら……不意打ちも難しかったです……」

照れたように髪を触るターリア。彼女の髪は鮮やかな緑の髪だった。

「……珍しい髪の色をしているな?」

フュリアスはなんの遠慮もなく、その髪の毛に触れた。彩度の高い色は魔力を髪の毛に蓄える人種のみがもつ特徴だ。

「え、ええ。父方の血です……」

更に顔を赤らめるターリア。

「……そうか」

「フュリアス様?近すぎるのではありませんか?」

ターリアに対して妙に距離が近いフュリアスに、荷物持ちの少女が聞いた。

「……か弱い女子を守るのは紳士の役目だ」

そう言うフュリアスの目は何か別の事を考えているような目に映った。

「助けられたくせに……いいのでありますか?アドルノ寮でありますよ?」

「生徒はなるべく回収していくと言っただろう?」

「それはそうでありますが……」

荷物持ちの少女はただただ不服そうな様子であった。

彼らは会話しつつも警戒を怠らなかったが、辺りに魔物の気配も魔力光も無く、一行を遮るものは、荊の壁と徐々に悪くなっていく足場だけであった。

「そろそろです、私がいつも隠れている場所は……」

ぬかるんだ道を乗り越え、一行はようやく彼女の隠れ家へ到着した。

「やっと休憩でありますか?」

「ええ、それはもう」

「それにしては足場が悪いような……」

「そんな事ありませんよ、私にとっては最適な場所です」

「え?」

「--泥のように眠れますからね」

全員がそこへ足を踏み入れた瞬間、泥の中から大量の荊が伸び、フュリアス達をその場に拘束した。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「こんな簡単に連れてこれるとは思いませんでした」

「た、ターリアちゃん?何を言ってるでありますか?冗談はやめてほしいであります!」

「最初から貴方達は、私の掌の上」

「だろうな。全て幻影術魔術だったんだろ?」

フュリアスは拳を握り締めながら聞く。

「気がついていたのですか?」

「ああ、やっぱりそうなのだな。まあ、今君自身が答えてくれたようなものではないか?」

「何を?」

「古典的なカマかけに引っかかってくれてよかったよ」

「!」

「さて種明かしをしようか。先ずは一つ目、君は明らかにおかしな事を言っている。何かわかるか?」

「……?」

「実に初歩的な話だと思うがな。一週間前にアドルノ寮の中にいて塔の出現に飲み込まれ、この階層から出ていない生徒が、なぜ、"ここが塔である"と分かる?……後から入った人間以外そんな事はわからないはずだ」

「なるほど?」

「それに、恥ずかしい話だが、僕は《名もなき精霊に呼びかける》のが苦手でね」

「確かにフュリアス様が二人も回復できるとは思いませんでした……」

従者の一人が言う。

「だから言っただろ?"いつまでも未熟ではない"と、魔力晶を使えばなんとか、二人までは行使できるように学園で訓練したのさ」

「……だから?」

「正直に言うと"あの時、僕は自分自身にしか魔術を使えなかった"」

「……は?」

「状況的に考えて、あの場で二人分回復できる能力があるなら、態々、魔力晶で増強した魔力で、それをしない道理はない……普通なら」

「何故使わなかったのですか?」

「僕の魔術でその《幻覚から》回復できるとも限らないし、得意でもない魔術、自分も錯乱している状態だ。何か誤れば、怪我じゃ済まない。まあ、君はそういう初歩的なミスは想像もしない人間なんだろう」

「……」

「そうなると、何故僕の魔術で僕を含め二人の症状が治ったのか、という事になる」

「……なぜでありますか?フュリアス様は自分にしか使ってないでありますよ?」

「僕の推測を言うと、そもそも"音響魔術による錯乱自体が起こっていない"からだ」

「え?でも現に変な物を見ましたよ?」

「変な物なら、僕達はずっとここで見続けているだろう?」

「……どういうことでありますか?」

「ここはどこだ?宙に浮かぶ塔の中だろう?何故室内なのに日の光が射してるんだ?」

「それは魔人が作った迷宮だからじゃ……?」

「先入観だ、不可思議な迷宮なら、鹿が音響魔術を使ってもおかしくないと思わされたのだよ」

「……いつまで君の推理ごっこを聴き続ければいい?」

ターリアが話を遮る。

「僕らはここで脱落だろうから最後まで聞いてもらいたいな」

「そうですか」

「つまり、"音響魔術を受けて錯乱したような光景"を見せていただけだ。そして、僕がそれを《目覚めさせよ》と魔術を使ったから治ったように見せた。……ただ相手にとって誤算だったのは僕が使おうとした魔術の範囲だ」

「……でもそれだと……」

荷物持ちの少女が疑問を口にする。

「……幻影魔術を使っている人間が僕と関係のない他の人間なら、起こり得ない。ですよね……先生?」

「先生?えっ、どういう事でありますか?」

「学園で訓練するのに教師に師事しない奴はあまり多くないと思うが」

「という事は……」

「後から侵入し、ここが塔であると知っている。そして僕が今使える回復魔術の程度を知っている相手。僕が教わったクリン先生以外には考えにくい」

「それが分かったところで、何になりますか?」

「十分、意義がありました」

「そうですかでは、では、終わりにしましょう」

荊の触手がフュリアスを貫く。

「--時間稼ぎには」

 フュリアスは貫かれたまま触手を辿って、走り、ターリアを掴む。

「……一体なにを?」

「会話に詠唱を混ぜて、解除させてもらったんですよ、《名もなき精霊に呼びかける、幻覚から目覚めさせよ》ってね。今の僕には先生がいるようにしか見えませんよ?」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「そろそろ視点を切り替えましょう。お願いしますアカーシャさん」

「フーカさまの為なら」

ネーデルの言葉に渋々従ったアカーシャが、画面に手をかざすと、映像の中の風景はように変わった。

その中で探索していた生徒たちの様子が流れた。

「……会話ばかりでよくわからない」

いや、まあ、確かに私の迷宮のイメージとは会ってるけど、問題はその後だ。幻影がどうのとか意味不明すぎる。

「それで結局、あの階層はどういう事だったの?」

「侵入した者を眠らせ、クリン先生の夢を見せる領域顕現と同期させる階層だ。見せる夢はフーカ君の迷宮に関する記憶を使ってるけどね」

「それで?なんか負けそうな感じだけど?」

まあ突破してくれるなら、ありがたい限りだ。

「あくまで夢だからね。現実のクリン先生は傷一つ付かない。あの階層に足を踏み入れたら最後、養分としてあの領域を顕現させ続けるのさ」

……まさかの夢オチか。なんかかなり頑張って推理とかしてたのにあんまりじゃないそれ?

《わざわざ倒せるようにすると思うか?》

すると思ってたんだよ……協力者なら……あ、そうか、どうにかして本体を叩くとかいう奴か?

「クリン先生も寝てるんじゃ無防備なんじゃない?」

「迷宮の補助で、彼女は限りなく起きている状態に近い、……強力な魔術は使えないけどね。まあ、彼女は同じ階層にはいないから」

どうやって攻略すんのさ。
ん……?見えないとこから魔術をかけるの無理って前にモモ言ってなかったけ?

《侵入者自身に魔術をかけさせるのであろう、それならば射程は関係ない》

……そもそも領域顕現って何?

《見た限り、空間を書き換えて自身の魔術強化しているのだろう。『魔法』が使える我々には無縁だ》

……もしかしてそれ、固有な無限に剣が出てくる奴じゃない?

《なんだそれは人族にはそんな魔術があるのか?》

私達のロマンだよ。自分の心の中を外に塗り替えるとかなんとか。

《魔術は知らんのに何故そんな事を知っておる?》

……私だって知りたいわ。

「もし仮に突破されるとしたらどんな時なの?」

「転移魔術でも使って直接クリン先生を叩いて、かつ自立してる領域の方をどうにかされた時だね」

え、なにそれ、クリアできるの?

「転移術なんて適性殆どないから教えてる人もいないしまあ、ほぼ不可能だね」

これは転移術持ちの奴が現れるフラグだ!

《そう都合よく現れるか?》

じゃないと話が進まないだろっ!

《この世は物語の様にはいかんわ》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

異世界忍法帖 ~影に生きた忍は異世界で希望の光となる~

鈴木竜一
ファンタジー
※本編完結済み ※今後は番外編を投稿(時期は不定期)していく予定です。 戦国時代の少年忍者・支部斬九郎は、主君である矢凪国領主の永西時勝を討ち取った織田信長の軍勢と交戦中に異世界ヴェールへと召喚されてしまう。人々が魔法を当たり前のように使うこの世界で、斬九郎は気絶していた自分を助けてくれた小国の若き女王・イヴリット・ハートレイクを新たな主君として忠義を誓い、彼女の影として生きることを決意する。魔力ゼロの斬九郎は鍛え上げた肉体と魔法によって強化された手裏剣や忍刀を武器にして、新たな主君イヴリットを守るため、仲間たちと異世界を駆ける。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

処理中です...