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5 デラックス超肯定ロボvs何も出来ないマンvs俺
しおりを挟む「おはようございます!デラックス超肯定タイムの時間です!」
腹部に突然感じた重みで俺は起きた。
俺の腹の上には、尻尾を全力で振っているカチューシャが乗っていた。
「今度は何が始まるんだ……」
「私が貴方を超・肯定する時間です、さあ、超・弱音や超・愚痴をどうぞ」
「請求されて出るようなものでも──」
「さぁ!あるでしょう?」
「いや」
「何もないんですよ!貴方には!」
「だからって」
「仕事も!金も!才能も!住む場所も!」
「じゃあここはどこだ!家じゃないのか!?」
「オールナッシング、オアじゃないですよ?オールです、空っぽのナッシング星人です!」
「空っぽの方が詰め込めるだろ!夢が!」
「それは戦闘民族だけです!ナッシング星人は戦えません!」
「いや、なんで朝から罵倒されないといけないんだよ」
「悲しい気持ちになった貴方を優しく肯定してあげるのです、ほら、甘えていいですよ」
「雑なサイコパスかよ、甘えるかそんなの」
「何もないのに突然優しくされたら不安になるでしょう?」
「自信のない女子か俺は」
「え、女性だったのですか?貴方」
「お前の例え話に合わせてるの、わかって?」
「その言葉遣いは女性的で素敵だと思いますよ!自信を持って下さい!」
「なんで性別を気にしてる前提で肯定してくるんだよ、その気遣い別のとこに使って?」
「全く!私がこんなに肯定してるのにまだ不満だなんて!じゃあ!やってみて下さいよ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「え?何で?」
「あー、自信ないなぁ!仕事もないし!」
俺の上から降り、下を向いて寝室を歩き回り、こちらを振り返ってそう言う。
「なに、もう始まってんの?」
「あーあ、これじゃ私何もできないマン!」
また数歩下を向いて歩き、振り返って言う。
「雑過ぎないかな?お前にとっての俺」
「私、ナッシング星人だし!肯定がデラックス超・必要マン!どこかにいないかなぁ、超・肯定してくれるマン!」
力強く、天井を仰いで言う。
「なんだその語尾、言葉が意味不明マンだぞ」
「あ、丁度いいところに──」
寄ってくるカチューシャ。
「来るな来るな、丁度良くな──」
「──隣のナッシング星人さん!」
通り過ぎて虚空に話しかける。
「ぴーががっ、我々はナッシング星人、何もありません、何かある地球を滅ぼすのです」
反対側に回り、一人芝居を続けるカチューシャ。
「その隣に住んでるお前は何役だよ、何星人なんだよ」
「お隣さんとして、仲良く何もなかったじゃないですか!私との関係は世界を滅ぼすのを止められなかったんですか!」
「ほぼ他人だろ、止まるか」
「ぴぴー、この世は何もない姿こそ真の姿、伽藍堂の宇宙に虚無として散るがいい、愚かな実在達よ」
「ごめん、これ何の話?褒めるのはどこに行ったん?」
「それは私が許しません!ナッシング星人さん!──この、何も出来ないマンが!貴方を止めます!」
どうやら何も出来ないマン役らしい。
「何も出来ないマンに何が出来るんだよ…」
「くくく!何も出来ないマンに何が出来る!」
「感想被っちゃってんじゃねーか」
「──出来る!何も出来ないマンには何も出来ないけど!何か出来るようになるまで待ってることも出来ない!だって!今ここで立ち向かわなかったら!いつ戦っても何も出来ないまま!今日逃げれば、明日はもっと強くなる!だから今!」
構えるカチューシャの腕が変形し、巨大な銃になる。
「何も出来ない私でも!──立ち向かうことだけは出来る!」
「ショックだよ、不覚にもカッコいいと思ってしまった自分にショックだよ」
「ならばやってみろぉ!何事も挑戦しなければ始まらないのだから!出来るかどうかは、やってみければ分からないのだ!そうだろう、皆さん!チャンスには飛び込んでみなくては!」
「え、この短い間に自己啓発本読んだ?」
「うぉぉぉぉ!!何も出来ないマンパンチ!」
「技名に捻りがないよ!パンチもっとひねって!えぐり込んでもっと!」
「はいバリア!バリア貼ったから!程度低い攻撃は効きませーん!──さあ!お前も虚無に還れ!何もないパンチ!何もないキック!そして!何もないビーム!!」
「どっこいどっこいだろ、程度が低くて効かないならお互いノーダメージだわ」
「ぐぁぁぁ!!か、勝てません!……やっぱり私は何も出来ないマン……仕事も、金も、家も何もないマン……オールナッシングマン、そしえナッシング星人になってしまうのですね……」
「急に卑屈になったな、大丈夫か?」
「貴様もナッシング星人になれ!そしてSNSで政府や世界情勢に対して物申すのだ!さぁ!お前も日本が終わったと言え!この国はオワコンになったのだと!叫べオワコン!」
「それ宇宙人じゃない!ネットでよく見るおじさん!」
「大変です!何もないマンが負けそうになっています!皆!何もないマンを肯定してあげましょう!さあ!せーの!」
「え、この流れで?この話全部その為だったの?」
「もーっと、大きな声で!何も出来ないマンに届けて!」
「そもそも言ってない!」
「がんばれぇぇぇえ!!何も出来ないまァァん!!」
「自分で言うのかよ!俺必要ないじゃん!」
「頑張って!負けないでぇ!お願い!立って!負けないで……!何も出来ないマンだって、きっと何か出来るマンなの!」
何故か俺に向かって懇願するように言うカチューシャ。
「え、え、俺?俺がやるの?」
「私はもうだめだ、だが、君ならきっと、ナッシング星人を倒してくれるはず……」
「あぁ、受け継ぐ奴ね、あるある、分かったよ、やれば良いんだろ、仕方ないな」
仕方なくカチューシャの前に立って向き合──
「え!?私が何も出来ないマンに!?私ただの女子高生なのに!?」
「やらせろよ!俺に!女子高生どっからきた!あとそれはアイドルになる奴のセリフ!」
「はぁ、そうですか、わかりましたよ、良いですよどうぞ?」
やれやれと言った顔のカチューシャ。
「なに嫌そうに受け継いでんだよ、ピンチに選り好みしてる場合じゃないだろ、よし、俺が─」
「私は普通の女子高生!でも実は何も出来ないマン2号なの!そしてナッシング星人を倒す!」
「だから俺は!?なんなの、何役なの!?一体何を求められてんの!?どこでお前を肯定すれば良いわけ!?」
「うぉぉぉ!さあ来い何も出来ないマン!」
「じゃあいい!俺も参戦する!俺は何も出来ないマン3号!加勢するぞ!」
「ここで物語は終わりだけど、何も出来ないマンの戦いは続く!ありがとうみんな!」
「勝手に終わるな!打ち切りか!尺の都合でボツになったのか俺は!」
「……あの、これ肯定の練習ですよ?なんでツッコミやってるんですか?漫才の練習じゃないんですよ?全く、本当に何も出来ないマンなんですから」
「もういいわ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「仕方ありません、では、私が肯定の手本を見せるので、貴方は何もないマンと、ナッシング星人と、平凡な女子高生、MCのお姉さん、オワコンおじさん、何も出来ない2号を──」
「多い多い、役が多すぎる、なんで肯定するだけなのにそんなに必要なんだよ」
「あの、ご存知ですか?人って実は支え合って生きてるん……ですよね?」
「そこで聞くなよ。そして驚きの新事実じゃないからなそれ」
「あ!何も出来ないマンさん!貴方はもの知りなんですね!」
「え、また始まった?」
「ええ!貴方は始まったばかり!終わってなんていません!日本の夜明けですよ!今!満を辞して始まりました!」
「どこの坂本龍馬だよ」
「ご存知ですか?実は有名な『日本の夜明けぜよ』というセリフ、坂本さんは言ってないんです」
「え、そうなんだ。じゃあ俺を何に喩えたんだ?」
「前も言いましたよね?天照の大神です」
「喜ばない褒め方の一例だったじゃねぇか!」
「さすがです!記憶力がいいんですね!」
「なんなんだよ、ちゃんと褒めろよ!もっと普通に褒めろよ!俺を見ろよ!」
「褒めるのと、肯定するのは違いますよ?」
「え」
「それに私、貴方のことあまり知らないので褒められません、なので受動的に反応するしかないのです、ああ、それと」
「まだなんかあるの」
「お名前、なんですか?」
「知らなかったのかよ……佐藤タダオだよ」
「では、これからよろしくお願いしますね」
「……よろしくするのかぁ」
「貴方のことを、教えて下さい。そうすればきっと、上手に褒めてあげることができると思います──タダオさん」
「あ、ああ」
不思議な気分だった。久しぶりに聞いた自分の名前だった。
一体いつからだろうか、名前を呼ばれなくなったのは。
学校では一人だった、職場では苗字か役職でしか呼ばれない。
俺のことを名前で呼ぶ人は、もうずっと前にいなくなっている。
少しだけ、ほんの少しだけ、家族と暮らしていた頃が懐かしく思えた。
不特定多数の誰かではなく、一人の人間として、認識されていた頃を。
「どうしたんですか、タダオさん?」
俺は泣かなかった。
「……何でもないんだ」
俺は墓参りをすることにした。
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