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07 生真面目な第二王子
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「スミス様、陛下との謁見は……」
謁見を終え、回廊へ出た私の前にはシティラ様が待っていた。
「それが……」
「な、何かあったのですか……?」
「正式に帝国に迎えられてしまいましたわ」
「良かった……父上…陛下はこれまで花嫁候補者を直接謁見の間に呼ぶことはあまりなかったので、それも突然でしたから」
「……なるほど?」
「陛下が認める相手はそう多くはありません、良かったですね」
「素直に褒め言葉として受け取っておきましょう」
「そうしてください。それで、この後なのですが、兄弟の紹介を──」
「失礼します!兄上!緊急事態です!」
私達の元へ駆けて来た青年は、彫像のような逞しく大きな体躯に、短い赤髪と黄金の瞳。
「バルバ?どうした?」
「それが、会食用の料理を確認しに行ったところ──」
余程のことが起きたのだろうか、分からないけれど、彼の顔は深刻そのものだった。
「──食材が料理人を攫って脱走したようです」
……え、私の聞き間違い……?
料理人が脱走?
「な!?馬鹿な!宮廷料理人が食材に負けるだと!?どうなっているバルバ!」
聞き間違いじゃない……!?食材に対して勝ち負けがある……!?
◇◇◇◇◇◇◇◇
「え、あの」
「失礼、スミス様。紹介が遅れました、彼は次男のバルバです」
「は、はじめまして、スミスと申しますわ」
「初めまして、自分はバルバです!お見苦しいところを見せてしまい!申し訳ありません!」
軍人らしく、キビキビした動きで挨拶を返すバルバ様。
「い、いいえ。それより、その大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫です、必ずや討伐してみせましょう!」
「討伐……!?」
食材を……?
「だがバルバ、宮廷料理人が倒されるなど尋常ではない、一体何が起きている?」
「……肉、魚、野菜、果物、穀物、全てが暴れている状態です……自分が新鮮なものを用意したばかりに……!」
「大丈夫だ、なんとかなるさ!他の皆は知っているのか?」
「野菜、果物、穀物は既に兄弟が向かっています。肉と魚はこれから自分が……っ」
よろめくバルバ様。
「……怪我してるのか?」
「対した怪我では……」
足を庇う。
「……お前はスミス様を頼む!後は任せろ!」
「あ、兄上──」
そう言って走り去って行くシティラ様。
「くっ……!魚と肉は兄上一人じゃ……どうしたら……!」
「……あの、手が足りませんか?よければ」
「自分は貴女を兄上から任されたのです……!命じられた以上、戦いに貴女を巻き込むわけには……」
「バルバ様……」
「自分は兄弟を、国も、そして貴女を守らねばならないのです……それが力を与えられし者としての義務……!自分は……くっ」
よろめいた彼を支える。
「大丈夫ですか?」
「ですが、今の自分にはどれも出来ていない!……それが悔しくてなりません……!」
「そうですか?少なくともシティラ様の命は遂行していると思いますよ」
「言われたことは出来て当然……!言われたこと以上のことが出来なければ……!」
「真面目なんですね、バルバ様は」
「ありがとうございます、ですが今日は自分のせいで食材が……」
「どうしてその、暴れるほど新鮮な物を?」
「……お恥ずかしい話ですが、スミス様を歓迎するためなのです。最上の品を最も新鮮な状態で提供する為に……やはり料理は自分自身の手で得た物が一番ですから!」
……私のために……ね。
「そうなのですか?買えば簡単に手に入るのでは?」
「確かに我々兄弟や、そしてスミス様であれば如何なる食材も容易に手に入ることでしょう」
「はい。知りうる限り、私に調達できない食材はないでしょう」
「ですが、違うのですスミス様」
「……そう言うものなのですね?」
自分の手で得た食材……何が違うんだろうか。
「……バルバ様が食材を調達したのは私のためなのですね?」
「はい」
「……では、私に原因があると言うことになりますね」
「い、いえ、そんなつもりでは!申し訳ありません!」
「冗談です」
「す、スミス様?」
「ですが……そうですね……自分で得た食材の味が気になって、そちらへ向かってしまうかも知れません」
「それは……」
「私を守るのなら、私の行く先には貴方がいないといけませんよね?」
「……!ありがとうございます!」
「それに、私。守られるだけではありませんので」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「いました!あれが鶏肉です!」
「◾︎◾︎◾︎◾︎──!!」
雄叫びが響き渡る。
鶏肉──城壁に近い高さの巨大な雄鶏が帝国市街を走り回っていた。
どう見てもその巨大さは、一度の食事に使い切れる量じゃあ、ない。
一体どうやって保管していたんだろう。
「……あの、バルバ様、あれはどうやって捕まえたのですか?」
「がっ、と掴みました!あとはグッとやって、さっと、仕舞っておいたのですが……拘束が甘かったようで!」
「なるほど」
何も分からないけど、多分彼はそれで捕まえられたんだろう。
「◾︎◾︎◾︎◾︎──!!」
巨大な鶏は火を吹きながら羽ばたき、風圧で何もかもを凪倒しながら、こちらへ向かってくる。
私はバルバ様に支えられ、なんとか風に耐える。
「今!その!がっと掴めますか!バルバ様!」
「怪我がなければ!シュバっと出来たのですが!」
吹き荒れる風の音に負けないように、声を張り上げる。
「くっ……今の足では……!」
そうこうしているうちに、こちらへ駆けてきた雄鶏は──目の前で止まった。
『名を名乗れ』
そして低い声で喋り出した。
「え……?」
「スミス様、狩りは礼儀に始まって礼儀に終わるのです──我が名は陸の帝国王子が一人、バルバ!故あって其方を屠らせていただく!」
『ならぬ』
「──!?」
バルバ様はあっさり吹き飛ばされた。
「えっ」
『一度屠り損ね、力を失った者には我は倒せん!』
「自分は損なったわけではありません!待っていただいただけ──」
戻って来て早々、また吹き飛ばされていった。
『神聖なる狩りを終えれば速やかに屠るべし、しかし貴様は無用な時間、我を待たせ礼儀を失した。故に貴様の足から力を奪った。そして我は貴様らを屠り、肉とする』
……怪我の原因はこの雄鶏というわけね。
「……あの」
『なんだ?』
「私は、エヴァ・スミスと申します」
『我は鶏肉の王、釈迦釈迦地金。釈迦の称号を与えられし雄鶏である』
「そうなのですね。では、釈迦釈迦地金様、私は狩りをする権利はございますでしょうか?」
『良かろう、だが、一つ礼儀を失するごとに貴様は一つ失う、良いな』
「はい、よろしくお願いします」
「す、スミス様!狩りの礼儀は──」
『ふん』
また視界からバルバ様が消えた。
「……では、狩らせていただきます!」
私の手の先に魔法陣が浮かび上がる。
『マナー違反だ』
「え?」
魔術が構築途中で霧散する。
『突然魔術を使おうとするのは失礼だ、そして我が狩りを許可したからと言って、すぐ言葉通りに狩りを開始するのも失礼にあたる、故に魔術と魔力を奪った』
「……なるほど」
バルバ様の性格がこの狩りに適していたわけだ。
真面目過ぎるくらいでなければ、この狩りは難しいのかも知れない。
「さて、どうしましょうか……」
魔術と魔力を封じられれば、私の攻撃手段は実質なくなってしまったに等しい。
『では、こちらも参るぞ──!』
前傾姿勢になって今にも襲い掛かろうかという鶏肉の王。
私は身構え、出方を見守る──
『──はじめまして!』
「えっ」
『釈迦釈迦チキンと申します、この度は私を食材として選定いただき、有り難く存じます。さて、今回に狩りにつきましては──』
長々と喋り出した。呆然とする私の前で鶏肉の王は延々と何かを言っている。
内容はあまりないけれど、私に対して過剰なくらいの丁寧さで挨拶をしているらしい。
「ご丁寧にありがとうございます」
『では、貴女様を屠らせていただき──』
「ですが──その丁寧さはかえって失礼なのでは?」
『な、何を言って──』
鶏肉の王は突然足から力を失ったように跪く。
『な、なんだと!?我が失礼な振る舞いを!?我は礼儀正しさにおいて釈迦の称号を与えられし──』
「そして、狩りのルールを事前に伝えないのも、失礼に当たるのでは──?」
『ぐ、ぐぁぁぁ!!』
見えない力に抑えつけられるように、倒れ伏す。
「そして、マナー違反だからと言って人の能力を封じたり、奪ったりして罰を与えるのも、過剰で失礼だと思います!」
『ぐぅぅぅ!!』
私の体に魔力が戻る。
「では、これから貴方を狩らせていただきます!」
『くっ、だが手順やマナーに則った攻撃でなければ我には効かないのだ!何をしたところで再びマナー違反で終わりだ!』
「なるほど、私にはどうにもならないわけですね」
『さあ!我に屠られ、新鮮な生肉となる幸福を──」
「──バルバ様、今です!」
『何──!?』
「上から唐突に失礼致します──!」
飛び出したバルバ様が雄鶏へ拳を叩きつける。
『がっ、貴様、何故、そんな力が──』
「貴方が私に失礼を働いたので、バルバ様から奪った力が戻ったのでしょう?」
衝撃が大地を伝わって足元を激しく揺らした。
『くっ、認めねばならんか……ほ、本日は神聖なる狩りにご参加いただき、ありがとうござい、ましたぁぁぁぁ!!』
雄鶏はその一撃で断末魔を挙げて意識を失い、飛び上がったバルバ様が私の下へ戻ってくる。
「ありがとうございます、これで料理に取り掛かれます」
「料理人の方は……」
「見つからなければ、自分が作りましょう。元々そのつもりでしたので!」
「楽しみにしておりますわ。それにしても立派な雄鶏で──」
力尽きた雄鶏の巨大な嘴に触れ──
『上から……突然の攻撃は失礼に当たる……故に……お前を奪おう──」
その目に光が戻り、私を見──
「スミス様!」
「えっ……」
『我と共に肉となれ──』
全てがゆっくりに見えた。
ここから私に取れる手段は──
間に合わ──
「うぉぉぉおお!失礼!致しましたぁぁ!!」
爆風が一気に吹き抜けたようだった。
バルバ様の拳に雄鶏は吹き飛ばされ、遠く空の雲を散らし、彼方へ消えて見えなくなった。
吹き戻す風が、私の体を一瞬浮かせる。
けれど、しっかりと支えられていた。
「はぁ……はぁ、無事ですか、スミス様……くっ」
「バルバ様こそ、無理をしたのではありませんか?それに……食材が……」
「食材など良いのです、スミス様を守るのが第一ですから!多少の無理など吹き飛ばして見せましょう!」
「……全く、仕方のない人だこと」
「自分、不器用なので!」
「不器用で、調理は務まりますの?」
「も、問題ありません!自分は宮廷料理人と並ぶ腕ですから、」
「冗談です、よろしくお願いしますね、バルバ様」
肝心の食材は飛んで行ってしまったし、自分で得た物の味は分からずじまいだけれど。
多分、今日の食事は美味しく食べれるような気がした。
少なくとも退屈はしないはず。
謁見を終え、回廊へ出た私の前にはシティラ様が待っていた。
「それが……」
「な、何かあったのですか……?」
「正式に帝国に迎えられてしまいましたわ」
「良かった……父上…陛下はこれまで花嫁候補者を直接謁見の間に呼ぶことはあまりなかったので、それも突然でしたから」
「……なるほど?」
「陛下が認める相手はそう多くはありません、良かったですね」
「素直に褒め言葉として受け取っておきましょう」
「そうしてください。それで、この後なのですが、兄弟の紹介を──」
「失礼します!兄上!緊急事態です!」
私達の元へ駆けて来た青年は、彫像のような逞しく大きな体躯に、短い赤髪と黄金の瞳。
「バルバ?どうした?」
「それが、会食用の料理を確認しに行ったところ──」
余程のことが起きたのだろうか、分からないけれど、彼の顔は深刻そのものだった。
「──食材が料理人を攫って脱走したようです」
……え、私の聞き間違い……?
料理人が脱走?
「な!?馬鹿な!宮廷料理人が食材に負けるだと!?どうなっているバルバ!」
聞き間違いじゃない……!?食材に対して勝ち負けがある……!?
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「え、あの」
「失礼、スミス様。紹介が遅れました、彼は次男のバルバです」
「は、はじめまして、スミスと申しますわ」
「初めまして、自分はバルバです!お見苦しいところを見せてしまい!申し訳ありません!」
軍人らしく、キビキビした動きで挨拶を返すバルバ様。
「い、いいえ。それより、その大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫です、必ずや討伐してみせましょう!」
「討伐……!?」
食材を……?
「だがバルバ、宮廷料理人が倒されるなど尋常ではない、一体何が起きている?」
「……肉、魚、野菜、果物、穀物、全てが暴れている状態です……自分が新鮮なものを用意したばかりに……!」
「大丈夫だ、なんとかなるさ!他の皆は知っているのか?」
「野菜、果物、穀物は既に兄弟が向かっています。肉と魚はこれから自分が……っ」
よろめくバルバ様。
「……怪我してるのか?」
「対した怪我では……」
足を庇う。
「……お前はスミス様を頼む!後は任せろ!」
「あ、兄上──」
そう言って走り去って行くシティラ様。
「くっ……!魚と肉は兄上一人じゃ……どうしたら……!」
「……あの、手が足りませんか?よければ」
「自分は貴女を兄上から任されたのです……!命じられた以上、戦いに貴女を巻き込むわけには……」
「バルバ様……」
「自分は兄弟を、国も、そして貴女を守らねばならないのです……それが力を与えられし者としての義務……!自分は……くっ」
よろめいた彼を支える。
「大丈夫ですか?」
「ですが、今の自分にはどれも出来ていない!……それが悔しくてなりません……!」
「そうですか?少なくともシティラ様の命は遂行していると思いますよ」
「言われたことは出来て当然……!言われたこと以上のことが出来なければ……!」
「真面目なんですね、バルバ様は」
「ありがとうございます、ですが今日は自分のせいで食材が……」
「どうしてその、暴れるほど新鮮な物を?」
「……お恥ずかしい話ですが、スミス様を歓迎するためなのです。最上の品を最も新鮮な状態で提供する為に……やはり料理は自分自身の手で得た物が一番ですから!」
……私のために……ね。
「そうなのですか?買えば簡単に手に入るのでは?」
「確かに我々兄弟や、そしてスミス様であれば如何なる食材も容易に手に入ることでしょう」
「はい。知りうる限り、私に調達できない食材はないでしょう」
「ですが、違うのですスミス様」
「……そう言うものなのですね?」
自分の手で得た食材……何が違うんだろうか。
「……バルバ様が食材を調達したのは私のためなのですね?」
「はい」
「……では、私に原因があると言うことになりますね」
「い、いえ、そんなつもりでは!申し訳ありません!」
「冗談です」
「す、スミス様?」
「ですが……そうですね……自分で得た食材の味が気になって、そちらへ向かってしまうかも知れません」
「それは……」
「私を守るのなら、私の行く先には貴方がいないといけませんよね?」
「……!ありがとうございます!」
「それに、私。守られるだけではありませんので」
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「いました!あれが鶏肉です!」
「◾︎◾︎◾︎◾︎──!!」
雄叫びが響き渡る。
鶏肉──城壁に近い高さの巨大な雄鶏が帝国市街を走り回っていた。
どう見てもその巨大さは、一度の食事に使い切れる量じゃあ、ない。
一体どうやって保管していたんだろう。
「……あの、バルバ様、あれはどうやって捕まえたのですか?」
「がっ、と掴みました!あとはグッとやって、さっと、仕舞っておいたのですが……拘束が甘かったようで!」
「なるほど」
何も分からないけど、多分彼はそれで捕まえられたんだろう。
「◾︎◾︎◾︎◾︎──!!」
巨大な鶏は火を吹きながら羽ばたき、風圧で何もかもを凪倒しながら、こちらへ向かってくる。
私はバルバ様に支えられ、なんとか風に耐える。
「今!その!がっと掴めますか!バルバ様!」
「怪我がなければ!シュバっと出来たのですが!」
吹き荒れる風の音に負けないように、声を張り上げる。
「くっ……今の足では……!」
そうこうしているうちに、こちらへ駆けてきた雄鶏は──目の前で止まった。
『名を名乗れ』
そして低い声で喋り出した。
「え……?」
「スミス様、狩りは礼儀に始まって礼儀に終わるのです──我が名は陸の帝国王子が一人、バルバ!故あって其方を屠らせていただく!」
『ならぬ』
「──!?」
バルバ様はあっさり吹き飛ばされた。
「えっ」
『一度屠り損ね、力を失った者には我は倒せん!』
「自分は損なったわけではありません!待っていただいただけ──」
戻って来て早々、また吹き飛ばされていった。
『神聖なる狩りを終えれば速やかに屠るべし、しかし貴様は無用な時間、我を待たせ礼儀を失した。故に貴様の足から力を奪った。そして我は貴様らを屠り、肉とする』
……怪我の原因はこの雄鶏というわけね。
「……あの」
『なんだ?』
「私は、エヴァ・スミスと申します」
『我は鶏肉の王、釈迦釈迦地金。釈迦の称号を与えられし雄鶏である』
「そうなのですね。では、釈迦釈迦地金様、私は狩りをする権利はございますでしょうか?」
『良かろう、だが、一つ礼儀を失するごとに貴様は一つ失う、良いな』
「はい、よろしくお願いします」
「す、スミス様!狩りの礼儀は──」
『ふん』
また視界からバルバ様が消えた。
「……では、狩らせていただきます!」
私の手の先に魔法陣が浮かび上がる。
『マナー違反だ』
「え?」
魔術が構築途中で霧散する。
『突然魔術を使おうとするのは失礼だ、そして我が狩りを許可したからと言って、すぐ言葉通りに狩りを開始するのも失礼にあたる、故に魔術と魔力を奪った』
「……なるほど」
バルバ様の性格がこの狩りに適していたわけだ。
真面目過ぎるくらいでなければ、この狩りは難しいのかも知れない。
「さて、どうしましょうか……」
魔術と魔力を封じられれば、私の攻撃手段は実質なくなってしまったに等しい。
『では、こちらも参るぞ──!』
前傾姿勢になって今にも襲い掛かろうかという鶏肉の王。
私は身構え、出方を見守る──
『──はじめまして!』
「えっ」
『釈迦釈迦チキンと申します、この度は私を食材として選定いただき、有り難く存じます。さて、今回に狩りにつきましては──』
長々と喋り出した。呆然とする私の前で鶏肉の王は延々と何かを言っている。
内容はあまりないけれど、私に対して過剰なくらいの丁寧さで挨拶をしているらしい。
「ご丁寧にありがとうございます」
『では、貴女様を屠らせていただき──』
「ですが──その丁寧さはかえって失礼なのでは?」
『な、何を言って──』
鶏肉の王は突然足から力を失ったように跪く。
『な、なんだと!?我が失礼な振る舞いを!?我は礼儀正しさにおいて釈迦の称号を与えられし──』
「そして、狩りのルールを事前に伝えないのも、失礼に当たるのでは──?」
『ぐ、ぐぁぁぁ!!』
見えない力に抑えつけられるように、倒れ伏す。
「そして、マナー違反だからと言って人の能力を封じたり、奪ったりして罰を与えるのも、過剰で失礼だと思います!」
『ぐぅぅぅ!!』
私の体に魔力が戻る。
「では、これから貴方を狩らせていただきます!」
『くっ、だが手順やマナーに則った攻撃でなければ我には効かないのだ!何をしたところで再びマナー違反で終わりだ!』
「なるほど、私にはどうにもならないわけですね」
『さあ!我に屠られ、新鮮な生肉となる幸福を──」
「──バルバ様、今です!」
『何──!?』
「上から唐突に失礼致します──!」
飛び出したバルバ様が雄鶏へ拳を叩きつける。
『がっ、貴様、何故、そんな力が──』
「貴方が私に失礼を働いたので、バルバ様から奪った力が戻ったのでしょう?」
衝撃が大地を伝わって足元を激しく揺らした。
『くっ、認めねばならんか……ほ、本日は神聖なる狩りにご参加いただき、ありがとうござい、ましたぁぁぁぁ!!』
雄鶏はその一撃で断末魔を挙げて意識を失い、飛び上がったバルバ様が私の下へ戻ってくる。
「ありがとうございます、これで料理に取り掛かれます」
「料理人の方は……」
「見つからなければ、自分が作りましょう。元々そのつもりでしたので!」
「楽しみにしておりますわ。それにしても立派な雄鶏で──」
力尽きた雄鶏の巨大な嘴に触れ──
『上から……突然の攻撃は失礼に当たる……故に……お前を奪おう──」
その目に光が戻り、私を見──
「スミス様!」
「えっ……」
『我と共に肉となれ──』
全てがゆっくりに見えた。
ここから私に取れる手段は──
間に合わ──
「うぉぉぉおお!失礼!致しましたぁぁ!!」
爆風が一気に吹き抜けたようだった。
バルバ様の拳に雄鶏は吹き飛ばされ、遠く空の雲を散らし、彼方へ消えて見えなくなった。
吹き戻す風が、私の体を一瞬浮かせる。
けれど、しっかりと支えられていた。
「はぁ……はぁ、無事ですか、スミス様……くっ」
「バルバ様こそ、無理をしたのではありませんか?それに……食材が……」
「食材など良いのです、スミス様を守るのが第一ですから!多少の無理など吹き飛ばして見せましょう!」
「……全く、仕方のない人だこと」
「自分、不器用なので!」
「不器用で、調理は務まりますの?」
「も、問題ありません!自分は宮廷料理人と並ぶ腕ですから、」
「冗談です、よろしくお願いしますね、バルバ様」
肝心の食材は飛んで行ってしまったし、自分で得た物の味は分からずじまいだけれど。
多分、今日の食事は美味しく食べれるような気がした。
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