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第一幕

10 パート・オブ・ユア・ワールド.1◆

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 何故か俺は目隠しをさせられていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
 
 いつも通り、聖女様の為に食事を作り持って行くと、俺を待っていたのか、扉からひょこっと顔を出していた聖女様。

「ちょっと…待って!」

「お、おい、食事は──」

「もらうっ!」

 余程慌てているのか、俺から食事をひったくるように回収して、扉は勢い良く閉められた。

 それから暫くして扉が開くと、今度は聖女様に、食器の下に敷いていたプレースマットで顔を覆い隠され、庭園の中に引き摺り込まれた。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「聖女様?……それで俺に見せたいものって何だ?」

「海!」

 俺の後ろからそう言う聖女様。

 最近、彼女は少しずつ元気になって来た。

 起きている時間もゆっくりと伸びている。

 流暢に喋るのはまだ苦手らしいが、聞き取りはかなり上達したらしい。

「海?どう言うことだ……?」

「海、作った」

「作った……?海を……?」

 失礼かも知れないが、薬の吸いすぎじゃないかと一瞬思った。

 彼女が何を言っているのか、何を伝えたいのか分からないのは時々あったが、言葉が通じている状態で、ここまで全く分からなかったのは初めてだった。

 だが、彼女の正気は疑いようもないし、摂取させる量は確実に減らしてきた。

 今更そんな事は無い筈だ。

 でも、作ったって一体なんだ?

「おーど…信じてない」

「え、いや、そんな事ないぞ」

「そう…?じゃ、ちょっと…しゃがむ…ここ」

 聖女様に手を引かれて、促される。

「しゃがんだぞ」

「うん…よし…これで」

 柔らかい何かが、俺の額に触れた。

『るぅなふ、いぶるぐんとむ、ぶくとらぐる』

 聖女様の声で俺に分からない言葉が、頭の上辺りから聞こえた。

 ほんの少し目眩似た感覚が襲う。

「目…開けて」

 その時俺は、

 "天と地の狭間には、君達の哲学では思いもよらないことがある"

 そんな言葉を思い出す事になった。
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