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57(50)ゴット・ア・グルーヴィー・シング

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 雲の上、その上空よりか遥か高く、星の世界である暗闇との境界。

 鯨はその境目を泳ぐ。

「本気でここまで飛ぶとか正気ですか?私が改造してなかったら死んでましたよ」

 青白い顔をしたアリアが、呆れたように言う。

「長い間飛ぶつもりは無い。本来の速度よりも早く飛ぶために、ここから勢いをつける」

「なんで、そこまですんですかね?」

「約束の為だ」

「出来ない約束をしたくないなら、最初からしなきゃいいんですよ」

「俺にその選択はない」

「きゃー。カッコいいー。……クソガキがカッコつけてんじゃねぇよ。多少強いだけで、どうにかなったら世話はありませんよ」

 修道服に似合わない悪態を吐く。

「男はカッコつけるものだ」

「お前がカッコつけるために反逆に巻き込まれた上に、帝国を支配する計画まで潰されてるんですよ?どれだけ準備したと?魔術も使えないってのに」

 とんでもないヤツを味方にしたものだ……

「……今は使えるんじゃないのか?」

「はぁ?いつも通り、魔力なんてまるで感じませんけど?」

「マナ様は使っていた……それにあの化け物や珊瑚は魔術じゃないのか?」

「魔術ってのは、世界に満ちる魔力を行使するんですよ。それがまるでないのに、どうやって使うんですかねぇ?」

「じゃあ、マナ様のアレは何だ……?」

「化け物だからに決まってるじゃないですか」

「……アンナが言ってたようにか?」

「はぁー、何で人間の世界で暴れてんですかねぇ、私のような人間にとっては迷惑も良いところですよ」

「……何を知ってるんだ、お前は」

「言ってたじゃありませんか、唯一の神を目覚めさせるとか、本気ですよ、アレ」

 ヘラヘラしているアリア。

 ……マナ様が人間じゃ無い……だからなんだと言う。

「……で、オード君。お前は何でそうまでして、あの化け物を助けたいんですかぁ?いいやこう言いましょうか、あの子のなんなんですか?」

「決まっている、俺はあの子の騎士だ、それ以上でも以下でもない」

「……はぁ、私は嘘吐きの反逆を手伝わないと行けないんですかぁ、いやですねぇ」

「嘘など言っていない」

「私は分かりますからぁ、人が嘘つく時の仕草ぐらい、余裕です」

 ……俺が嘘を……何を馬鹿な。

「くひひ、オード君。お前、自分の願いとか無いでしょう──いや、願うことが間違ってると思ってますねぇ?それで自分に嘘をついている」

「は……?何をでたらめな」

「人間の心理について、それなりに詳しいつもりですが、別に詳しくなくても分かるでしょうね。ぁー、こう言うの私恥ずかしくて見てられないんですよね、共感性羞恥って奴です」

 訳が分からないことを……

 俺が何の嘘をついているって言うんだ?


◆◆◆◆◆◆◆◆


「あ、そうだ。とぼけてるところ悪いですが、どうやらアンナに、この機体、深傷を負わされてるみたいですよぉ」

「程度は?」

「安心してください、辛うじて致命傷で済みました」

「……冗談は嫌いだ」

「あと少ししたら、ディスコルディアは揚力を失って墜落します」

「なぜ言わなかった!」

「え?なんで脅してきた相手にそんなこと言わないと行けないんですか?私が不幸になったのに、お前がのうのうとしてるとか、許せないでしょ?」

「いい性格してるな、お前」

「ありがとうございます!よく言われるんですよぉ~」

「くっ、予定には早いが今から降りるぞ!」

「あ、私は手伝いませんので。ここでオード君が死ぬ気で頑張ってるのを眺めてますね!」

「本気で女に腹が立ったのは、人生でこれが二度目だな」

「それは光栄な事ですねぇ!」

 などと言っている間に、ディスコルディアは操縦するまでもなく下降し始める。

「間に合えよっ!」

「きゃー。頑張れー。」

 真横でおちょくってくるアリア。

「だめだ!舵がまるで効かない!」

「ディスコルディアって結構早いですよ。それに落ちる速度まで足されて、無事で済みますかぁ?」

 外に見える空の景色はゆっくりとしたものだったが、実際の速さは尋常じゃないのは間違いない。

「済むわけが……」

 舵が効かないままでは、不時着は不可能だ。

 なす術は無い。

「いや、まだフォルトゥーナがあるな」

「あれって二人乗れますか?」

「なんで当たり前のように乗るつもりなんだ……?」

「えっ、ここで私を見殺しにするような男が、カッコつけるとか抜かすんですか?死んだ方がいいですよ、そんな奴」

 と、言っている間にも見える景色は加速していく。

「不本意だが、仕方ない……いくぞ!」

「きゃー。カッコいいー。あ、私走ったり出来ないんで、抱えて貰えますかぁ?」

「なんなんだお前……」

 ふざけた奴だが、一応は元同僚だ……放置したら目覚めが悪い。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「何とか……なったか……それにしても……」

 フォルトゥーナに乗って、墜落寸前のディスコルディアから抜け出した。

 墜落したディスコルディアは派手に地面を吹き飛ばし、大地に窪みを作った。

 形は残ったが、もう動けそうになかった。

「チッ。オード君も大人しく死んでおけばよかったものを」

「その時はお前も死んでるからな」

「自分だけ助かる方法くらい用意しておくものですよぉ?なんなら、お前が一人でフォルトゥーナに乗ったら、ディスコルディアを直して一人で帝国に帰りましたし」

「直せるなら、何故」

「ディスコルディアは、イムラーナの流れや波に与える影響が大きすぎるので、辿れば位置がバレます。このままだと必ず追いつかれます。お前が私を置いていくようなら、普通に七元徳としてお前を始末して、復帰するだけ。そうじゃないなら、ここで痕跡を消すのが妥当です」

「お前を信用しない方がいいと言うことだけは分かったよ」

「そうですか?私はオード君が信用に足る人間だと言うことは分かりましたよぉ?」

 もっと御し易い奴を味方にした方が良かったかもしれない。
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