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42 シー・コールド・ア・キャンドル◇-3

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「……絵か?上手いな、誰に教わった?」

 絵を描く私を眺めるベストラさん。

「……お父様」

「…そうか。ああ、そうだ、礼なら、私の絵をくれない?」

「お礼……なる?」

「街の奴に描かせると、いつも若く描かれるからね、正確な絵が欲しい」

 そう言う彼女の背後の壁に、一枚の小さな絵が掛けてあるのが見えた。

 ベストラさんと、少し似た女の人、そして男の人。

 穏やかな笑顔の三人。

 派手な絵じゃないけれど、見ていると何故か心が暖かくなるような、そんな絵だった。

 私の絵がお礼になるのなら、いくらでも描けるけど……そんな立派な物があるのに、私の絵なんかで良いんだろうか。

「…それ、は?」

「ん……ああ、これは……ずっと……ずっと前の絵なんだ、私と妹、あとは夫だ」

 何か、懐かしむような目をしてそう言う。

「今…顔…同じ」

「お世辞はよしな、肌のハリが違う」

「……わからない……」

「だから正確な絵がいる、今の顔が知りたい」

「……う、うん」

「なあ、アイツはどうだ?」

「あいつ?」

「息子」

「……オード…は、強い」

「……そう、か。まあ、アイツのことを頼むよ、あれで見かけほど強かないし、賢くもない」

 ベストラさんはなんとも言えない表情をした。

「……そう?」

 とてもそうは見えない。

「……にしても、本当そっくりだね。目元は特に……瞳の色は違うが」

「……そっくり……誰に?」

「そりゃ、あんたの母親のアルティア──」

 その時だった。いや、また時が来た。

「──マナ様!」

 オードが真剣な顔で駆けつけたのは。

「お、オード?どうしたの?」

「……出発だ」

「追手……?」

「もうここに留まる事はできない」

「もう出るのか?気の早い──」

 ベストラさんが嗜めるように言う──

「いや、あんたも逃げろ!……"天井"が破壊された!」

「……上か?」

 一瞬で雰囲気の変わった彼女は、鋭い目をした。

「正直、どう説明したらいいのかも分からないんだ、今、ヴェリルが街の連中と食い止めている……!」

「分かった、ヴェリルはどこに?」

「どこに行くつもりだ」

「決まってる。私も戦うんだよ」

「ダメだ!」

「家族を置いて逃げるのは、私じゃない」

「そんな程度じゃない!」

「今度は孫の顔でも見せてくれるといいね」

「気が早いのはアンタだ!出来ない約束はしたくない!」

「出来る。約束も守って、全部守る、それが私だ。私達はいつだってここで待ってる。……行きなよ」

「何を言って……!」

「オード…行こう…?」

 私がオードの手を引く。

「っ…すまない……行こう」

 それにしても、何がそんなに問題なんだろう?

「出かける時はなんて言うんだ息子よ!」

「…行ってきます!これでいいか!」

「よろしい!マナもだ!」

「い、いって、きます」

「いってらっしゃい!私もちょっくら片付けてくるよ!」

 大きく手を振るベストラさんの背中。

「っ、はい!」

 ただの追手ならオードもここまで警戒することもない……天井って上の浮島の事?あれが壊れるって、それじゃ上は……?何が起きてるの……?
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