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第3部
彼方
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「かの再生の日と呼ばれる一件以来、獣や変異は増加の一途を辿り、いまや純粋な人間は殆ど姿を消したが、それ以前よりも変異による死者は格段に減った。これは帝国史において重要な──」
黒板にずらずらと文字を書き続けながら、説明する教師。
「……僕らに何百年前の話されても実感わかないよな」
授業を受ける生徒達は教師に聞こえないようにこそこそと、会話をしていた。
「変異が無い方が珍しいし、大人はみんな変異してるもんな」
猫の耳と鼻の変異を持つ少年が言う。
「俺は出来るなら"整った"獣になりたい、中途半端に変異するくらいならな」
蜥蜴のような鱗の肌の少年は自分の肌を掻きながら返事をした。
「整った獣になるには変異した物を食べまくれば良いんだってさー」
鳥のような翼の生えた金髪の少女が呟く。
「……それは不味そうだな」
「おい、そこの。話を聞いているのか?数百年前といえど、歴史は重要だぞ?」
残念ながら会話は筒抜けだったらしい。
「は、はい!」
「──では答えてもらおうかの?」
均整の取れた美しい少女の身体に、蜘蛛の下半身をした教師はニヤリと笑う。
◆◆◆◆◆◆◆◆
放課後、居残りから抜け出して学園から逃げた少年達は、"追手"に捕まらないよう、裏路地を行く。
「酷い目にあった……なんだよ課題の量を倍にするって……」
猫耳の少年は項垂れながら歩く。
「しかし、何故あの教師は歴史の話になると妙に厳しくなるんだ……?」
キョロキョロと辺りを窺う鱗肌の少年。
「歴史を知らなければ同じことを繰り返す、からだってさ。言いたいことはわかるけど、まあ、居残りはまた今度でいいだろ」
「賛成ぇ~」
少女は、羽ばたくこともなく、ほんの少しだけ地面から浮かんで二人の後ろについていく。
「しっかし、変異しないなんて考えられないよな。どんなんなんだろ?」
「さあ~?わかんないけど、まあ私から翼が無くなったら同じ感じじゃない?」
「……それはそれで、違和感あるな」
「確かに──」
裏路地に六弦の音が響く。
「うわ、詩人の爺さんがまた酔っ払ってる」
「花と酒、君も浮かれる春の季節に、楽しめその一瞬を!それこそが、真の人生だ!」
「いや、残念だが俺達はまだ飲めない」
「この永遠の旅路を人はただ歩み去るばかり、帰って来て謎をあかしてくれる人はない。気をつけてこのはたごやに忘れものをするな、出て行ったが最後二度と再び帰っては来れない」
「ここを通るだけで大袈裟だねぇ、それとも先生に何か言われてるのー?」
「身の内に酒がなくては生きておれぬ、
葡萄酒なくては身の重さにも堪えられぬ」
「ああそう来たか、全く」
「酒姫がもう一杯と差し出す瞬間の、われは奴隷だ、それが忘れられぬ」
「なんで子供に酒をせびってるんだよあんた……」
「ああ、空しくも齢をかさねたものよ!いまに大空の利鎌が首を搔くよ。いたましや!助けてくれ、この命を、のぞみ一つかなわずに消えてしまうよ!」
「ああもう分かった分かった!僕の小遣いやるから先生には黙っててくれよ!」
「わが心の偶像よ、さあ、朝だ、酒を持て、琴をつまびき、うたえ歌!」
「なんて調子が良いんだ全く……」
小銭を取り出そうとすると、詩人は財布ごと取り上げて走り出した。
「さあ、一緒にあすの日の悲しみを忘れよう、七千年前の旅人と道伴れになろう!」
「僕の財布!」
「全部使われるぞ!早く捕まえろ!」
「ちょっと待ってよー」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「あっ」
詩人を追いかけて路地から飛び出した少年の一人が、通行人にぶつかって転び、膝を擦り剥く。
「痛っ」
「あら、大丈夫ですか?飛び出すと危険ですよ?」
ぶつかった通行人は修道服を来た若い女性だった。
「ご、ごめんなさい……」
「……どこをぶつけましたか?見せて下さい」
「あれ、お姉さん……変異が……ない?」
「あ……いえ、ありますよ?」
少年の足元に屈み込む女性は修道服のフードの隙間から狼のような耳を取り出す。
「わ、大きい……」
思わずそう口にする少年。
「そう言うこと言うのはやめた方がいいぞ」
追いついた別の少年が諫める。
「何してるのー?」
続いて現れた少女が少年の顔を覗き込む。
「な、なんでもない!ただ転んだだけ!」
「そーなの?あー、ごめんなさいお姉さん。こいつら馬鹿でさあー」
「いいえ、大丈夫ですよ」
女性は自分の耳を触り、「そんなに大きいかな?」と小さく独り言を言ったが、それを聞いた者はいなかった。
「ああそうだ、擦りむいたのですね、可哀想に。ちょっと目をつぶって下さい」
「え……はい」
少年は素直に目を閉じた。
「神の御加護を──……」
ボソリと呟く女性。
「……あれ?もう痛くない!すごいね!お姉さん!」
「良かったです。気をつけて下さいね」
「うん!ありがとう!──いくぞお前ら、僕らの財布を取り戻すんだ!」
「お前のだろ」
「なんで仕切ってんのさー」
少年達は駆け出して行った。
「……なんだ?何かあったのか?」
修道服の女性に近づいて来た大男──狼のような顔のような兜と無骨な鎧を纏った者──が聞く。
「……ふふ、何でもないです」
「そうか?」
「──ただの、お祈りですから」
黒板にずらずらと文字を書き続けながら、説明する教師。
「……僕らに何百年前の話されても実感わかないよな」
授業を受ける生徒達は教師に聞こえないようにこそこそと、会話をしていた。
「変異が無い方が珍しいし、大人はみんな変異してるもんな」
猫の耳と鼻の変異を持つ少年が言う。
「俺は出来るなら"整った"獣になりたい、中途半端に変異するくらいならな」
蜥蜴のような鱗の肌の少年は自分の肌を掻きながら返事をした。
「整った獣になるには変異した物を食べまくれば良いんだってさー」
鳥のような翼の生えた金髪の少女が呟く。
「……それは不味そうだな」
「おい、そこの。話を聞いているのか?数百年前といえど、歴史は重要だぞ?」
残念ながら会話は筒抜けだったらしい。
「は、はい!」
「──では答えてもらおうかの?」
均整の取れた美しい少女の身体に、蜘蛛の下半身をした教師はニヤリと笑う。
◆◆◆◆◆◆◆◆
放課後、居残りから抜け出して学園から逃げた少年達は、"追手"に捕まらないよう、裏路地を行く。
「酷い目にあった……なんだよ課題の量を倍にするって……」
猫耳の少年は項垂れながら歩く。
「しかし、何故あの教師は歴史の話になると妙に厳しくなるんだ……?」
キョロキョロと辺りを窺う鱗肌の少年。
「歴史を知らなければ同じことを繰り返す、からだってさ。言いたいことはわかるけど、まあ、居残りはまた今度でいいだろ」
「賛成ぇ~」
少女は、羽ばたくこともなく、ほんの少しだけ地面から浮かんで二人の後ろについていく。
「しっかし、変異しないなんて考えられないよな。どんなんなんだろ?」
「さあ~?わかんないけど、まあ私から翼が無くなったら同じ感じじゃない?」
「……それはそれで、違和感あるな」
「確かに──」
裏路地に六弦の音が響く。
「うわ、詩人の爺さんがまた酔っ払ってる」
「花と酒、君も浮かれる春の季節に、楽しめその一瞬を!それこそが、真の人生だ!」
「いや、残念だが俺達はまだ飲めない」
「この永遠の旅路を人はただ歩み去るばかり、帰って来て謎をあかしてくれる人はない。気をつけてこのはたごやに忘れものをするな、出て行ったが最後二度と再び帰っては来れない」
「ここを通るだけで大袈裟だねぇ、それとも先生に何か言われてるのー?」
「身の内に酒がなくては生きておれぬ、
葡萄酒なくては身の重さにも堪えられぬ」
「ああそう来たか、全く」
「酒姫がもう一杯と差し出す瞬間の、われは奴隷だ、それが忘れられぬ」
「なんで子供に酒をせびってるんだよあんた……」
「ああ、空しくも齢をかさねたものよ!いまに大空の利鎌が首を搔くよ。いたましや!助けてくれ、この命を、のぞみ一つかなわずに消えてしまうよ!」
「ああもう分かった分かった!僕の小遣いやるから先生には黙っててくれよ!」
「わが心の偶像よ、さあ、朝だ、酒を持て、琴をつまびき、うたえ歌!」
「なんて調子が良いんだ全く……」
小銭を取り出そうとすると、詩人は財布ごと取り上げて走り出した。
「さあ、一緒にあすの日の悲しみを忘れよう、七千年前の旅人と道伴れになろう!」
「僕の財布!」
「全部使われるぞ!早く捕まえろ!」
「ちょっと待ってよー」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「あっ」
詩人を追いかけて路地から飛び出した少年の一人が、通行人にぶつかって転び、膝を擦り剥く。
「痛っ」
「あら、大丈夫ですか?飛び出すと危険ですよ?」
ぶつかった通行人は修道服を来た若い女性だった。
「ご、ごめんなさい……」
「……どこをぶつけましたか?見せて下さい」
「あれ、お姉さん……変異が……ない?」
「あ……いえ、ありますよ?」
少年の足元に屈み込む女性は修道服のフードの隙間から狼のような耳を取り出す。
「わ、大きい……」
思わずそう口にする少年。
「そう言うこと言うのはやめた方がいいぞ」
追いついた別の少年が諫める。
「何してるのー?」
続いて現れた少女が少年の顔を覗き込む。
「な、なんでもない!ただ転んだだけ!」
「そーなの?あー、ごめんなさいお姉さん。こいつら馬鹿でさあー」
「いいえ、大丈夫ですよ」
女性は自分の耳を触り、「そんなに大きいかな?」と小さく独り言を言ったが、それを聞いた者はいなかった。
「ああそうだ、擦りむいたのですね、可哀想に。ちょっと目をつぶって下さい」
「え……はい」
少年は素直に目を閉じた。
「神の御加護を──……」
ボソリと呟く女性。
「……あれ?もう痛くない!すごいね!お姉さん!」
「良かったです。気をつけて下さいね」
「うん!ありがとう!──いくぞお前ら、僕らの財布を取り戻すんだ!」
「お前のだろ」
「なんで仕切ってんのさー」
少年達は駆け出して行った。
「……なんだ?何かあったのか?」
修道服の女性に近づいて来た大男──狼のような顔のような兜と無骨な鎧を纏った者──が聞く。
「……ふふ、何でもないです」
「そうか?」
「──ただの、お祈りですから」
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