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第3部

31 決闘-2

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◆◆◆◇◇◇◇◇


「アリアァァァァァァァ!!」

「クララァァァァァァァ!!」

 お互いに遠距離から攻撃する権能は、最早使えない。

 だから私達が振るうのは杖ではなく、剣の他に無い。

「この程度の腕力まで落ちてくるとは!"人間"に合わせたつもりですか!この偽物ぉぉぉ!!」

 アリアも私と同じように、魔力で増幅した力で、剣を叩きつけてくる。

「アリア!例え力が同じでも!戦い続けていた私が!踏ん反り返っていたお前に負ける訳が!」

 甘い一撃を弾き返し、返す刃で切りつける。

 剣が打ち鳴らす高音が響く。

「踏ん反り返ってただぁ?!」

 しかし、アリアが切り返してくる剣は、予想外に鋭い。

「──くっ!」

 アリアの振り下ろしを躱して後退する。

 何故これほどまで……!

「戦い続けてたのは、自分だけだとでも?テメェが聖女としてぬくぬくと暮らしてた6年間、そして牢獄にいた10年間、その間ずっと戦い続けてたんだから──なぁ!」

 一足で目の前に踏み込んできたアリアは、真っ直ぐに突きを放ってきた。

 速さはそれほどでもない、弾くのは造作でも──

「それにぃ!」

 弾こうとした私の剣が巻き上げられる──

「剣術ってのは"人間が人間を"殺す為にあんだよぉ!このマヌケぇ!」

 続け様に振り下ろされる切っ先。

 剣じゃ間に合わない──なら!

「──あぁぁぁぁ!!」

 魔力で強化した脚力で、無理矢理アリアの剣の間合いから逃走する。

 着地──同時に足が砕け散る。

 「くっ──」

 負担を掛けすぎたか──

「これで終いだ化け物ぉぉぉ!!」

 その隙を突いたアリアの大剣が振り下ろされた。

「ぐぅぅ!!」

 対処も出来ずに、私はそれを食らった。

「どうだクララぁ?剣なら絶対に負けないと思っただろう!ハハハ!死ね!死んでしまえ!アハッ!アハハハハハッ!」

 アリアの高笑いが聞こえる。

 体から熱が消えていく。

「後はお前ぇをすり潰して、女神の依代にしてやれば全ては解決すんだよぉ、もう生贄は十分だしなぁ!!」

「……女神……生贄……」

 ……この戦争を仕掛けた理由、それは不完全な召喚をさせる為。

 だけど、私はもう一つの意図をやっと理解した。

「そうか……そうだったんですね……アトラさん……だからこんな方法を──」

「おい、とっとと死ねよクソがよぉ!もう一回切り刻んで──」


◆◆◆◇◇◇◇◇


「『神の、御加護を──』」

 その祈りは、私の体を瞬時に修復し、アリアの剣に対応できる力を取り戻させた。

「なっ──!?」

 アリアの剣を弾き飛ばす。

「な、なにしやがった!テメェ!」

 予想していなかった反撃に、タタラを踏むアリア。

「何って……ただの──お祈りですよ」

 そうだ……今の私は聖女の力……この戦争で捧げられた生贄のお陰で、女神の力が使える。

 あらゆる病や傷を癒す力……そして、誰かを傷つけることでしか発揮できない呪いの力。

 治癒の代償に相手を変異させてしまう呪い……それを私は使えるんだ。


◆◆◆◇◇◇◇◇


「化け物が。女神の力を使いやがったか。それにしても……らしく変異したじゃねぇか、あぁ?なんだその耳と尻尾は。舐めてんのかよ、くひひ、馬鹿みてえだなぁ!おい!」

「……」

 私の頭には獣の耳、そして尻尾の変異が生じていた。……まるで狼のような。

「そうですか?私はそうは思いませんけど」

「……はぁ、回復できるってことは、まだテメエの方が魔力が多いか。だが力任せに棒切れを振り回すのなんざ、私には通じねぇってことがよくわかったよなぁ?諦めてさっさと死ねよ」

 剣を構え直し、悪態を吐く。

 確かに、アリアの方が師匠から正しく剣技を継承している。

 私の魔力は尽きかけ、アリアは《制約》の力を失い、お互いに互角。

 純粋な剣の勝負では完敗だ。

 魔力を使う度に、頭の中の色んな記憶が砕けていくのを感じる、もう私の期限はすぐそこに迫っている、

 もう、ほんの少しの猶予もないだろう。

「でも、私が全力で移動すれば、貴女はついて来れない……」

 肩で息をする私も同じく構え直す。

「はっ!チクチク切ってくるかぁ?どうせ魔力もいずれ尽きる!そんときゃ、私の勝ちだ!」

 口角を歪めて勝ち誇るアリア。

「剣技が劣っていても、貴女が反応できない最大最速の一撃を加えれば良い……!」

「そんな物ねぇよ!テメエの剣も、ワタシの剣も元は同じ師を持つ剣だろうが!そこに違いなんざねぇんだよぉ!さあ、死ねぇぇ!」

 上段に構えた、アリアの突きが迫る。

 確かに私の反応の方が早くとも、剣技で対応されれば、次は命がない。

 私達の剣の師匠は同じ、もしそこに違いがあるとするのなら。

 ……一つだけだ。

 でも、私にも限界がある。

 私の力だけじゃ勝てない。

 なら──。

「《──その者は光を見ず、その祈りは憎悪に満ちる》」


 何かが体を貫いたような衝撃が背中を通り過ぎ、視界が闇に閉ざされる。

 開けていても変わらない。

 目を閉じる。

「《焦熱よ──》」


 そして私は雷の落ちた剣を──鞘へ納める。


「帯電しただけの魔術剣なんぞぉぉぉ!!」


 声と魔力の光が近づいてくるのが分かる。


 さらに意識が加速し、世界が遅くなっていく。


◆◆◆◇◇◇◇◇


 相手よりも早く──

 ありったけの魔力を込めて──


◆◆◇◇◇◇◇◇


 剣を振り抜く、それしかない──!


「疾れ──」

「なに──!?」


 振り抜く、最高最速の剣──


◆◇◇◇◇◇◇◇


「死ねぇぇぇぇぇ──!!」

 アリアが剣をいなそうとしても──

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 残った力全てを込めて──


 その剣ごと──


 ──両断する!

「ぁぁぁぁぁ!!」


 暗闇の視界に、赤黒い雷と魔力の剣閃が輝いた。


「──馬……鹿な」

 振り抜いた剣を鞘へ納める。
 
 遅れて、返り血が顔に降りかかる。

 魔力が尽き、魔術が解け、視界が元に戻る。

 目の前には、胴体を両断されたアリアが転がっていた。

◇◇◇◇◇◇◇◇
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