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第2部

01 闇の底へ

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「……獣さん……ここって本当に牢獄なのでしょうか?」

「ああ、その通りだ」

 私を背負って歩く獣は当然とばかりに頷く。

「全く機能してなさそうなのですが……」

 回廊に並ぶいくつもの格子が破壊された小部屋。

 人骨が転がっているのを見るに、おそらく元は牢屋だったんだろうけども。

 回廊は白い糸のようなものがそこら中に張られている。

 牢に貼られた糸に触れると、縛り付けられていた骨は糸が解けて落ちた。

「……兵士達によると、いつ死んでも構わない者を入り口から投げ入れるだけで、自分達は降りないそうだ。戻れなくなるからな」

 ……ここに勤めている兵士達は、一体何の罰でここにいるのだろう。

 でも一度降りると上がれないなら、アリアは一体どうやってここに何度も出入りして……

「──気をつけろ、何かが来る」

 獣の毛が逆立った。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 暗い回廊の奥に灯るのは、並んだ8つの赤い光。

「お前の剣を借りるぞ」

 獣は私をそっと下ろすと、私の腰に括り付けていた剣を抜いた。

 赤い光はゆらゆらと揺れて、こちらの様子を伺っていたが、ピタリと動きを止め、次の瞬間に飛びかかってきた。

「フッ!」

 獣が剣でその急襲を受け止める。

 獣の腰につけたランプが、その姿を照らし出した。

「ギィィ、ギギッ」

 甲高い音を発しているのは、人よりも大きな蜘蛛だった。

「何者かの眷属か、だが俺には及ばない!」

 蜘蛛を押し返した獣が、間合いを詰め、剣を振り下ろす。

「ギ──ギギ」

 一刀両断された蜘蛛は、赤い血を吹き出して倒れたが、死してなお狭角を鳴らしていた。

「兵士どもの言うほどの事はないな」

 返り血を浴びた獣は、剣についた血を払いながら振り返り、こともなげな顔をした。

「……そうでないと困ります」

「行くとしよう、この回廊の様子を見るにあと何匹いるか知れたものではない」

 獣は私を抱えようと手を伸ばす。

 まだ微動している蜘蛛の死骸が眼に映る。

「……その前に少々よろしいでしょうか?」

「なんだ?」


◆◆◆◆◆◆◆◆


「《だるぷし、あどぅら、うる、ばあくる》」

 唱えると何処からともなく、極彩色の髪を垂らしながら、黒衣の者が現れる。

「何者だ!何処から来た!」

 獣は咄嗟に拳を構え、殺気立つ。尻尾も逆立っている。

「私が呼んだものです、落ち着いて下さい」

「そ、そうか……」

 こういう反応を見ると、なんか普通の犬みたい。喉を撫でたりしたら尻尾を振ったりするんだろうか。

「てぃけり、り、何をなおす?」

「私の腕と足を戦闘に耐えられるように作り直しなさい、材料はそこに転がっている蜘蛛です」

 顎で蜘蛛の死骸を指す。

「これ、脆い、できるもの脆い」

 私と蜘蛛を交互に見ると、首を傾げてそう言う。

「構いません、多少なりとも戦えれば良いのです」

「わかった」

 黒衣から極彩色の触手が伸びて、蜘蛛の死骸と私を分解していく。

「だ、大丈夫なのか!?」

 さしもの獣も驚いた声を上げる。

「……大丈夫……です……」

 虫や死骸の寄せ集めでできた私の足が分解される。感覚がきちんとあるせいで、引き剥がされるたびに痛みが走った。

 そして瞬く間に足は分解され、私は手足のない芋虫に戻った。

 かろうじて残っている肘や膝の先も分解されて、その繊維を組み合せ、触手は蜘蛛や足から分けた死骸の部品を繋いでいく。

「ないわーず、やんがぁ、ないわーず、ろうばぁ」

 黒衣の者が歌う奇妙な歌声と痛みは暫く続いた。
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