123 / 123
第6章過去転移
122 星空の下で
しおりを挟む暗い……。
何も見えない。
ここはどこだ?
意識を失ったせいで、蓮は混乱していた。
大剣を握っていたところまでは覚えている。だけど、それ以降が思い出せない。
思い出すのは、大剣の柄から手に伝わってくる寒気だけだ。
思い出せ、思い出せ。
確か俺は、大剣を持ったまま気を失ったはずだ。俺は一体どこにいるんだ?
……そう。そうだ。急に全身の力が抜けて、視界がぼやけていって真っ暗になってしまったんだ。
そのまま何も見えないし。何も感じない状態だ。
寝ているのか、それとも死んでいるのか。それすらも区別がつかない。
もう、考えるのをやめようか。
いろいろな事があってもう疲れた。少しだけ、もう少しだけ眠りにつこうかな。
「しょ……ゆう……しゃ……」
蓮が諦めて思考を止めようとしたその時だった。
どこからか声がする。この声は、ドラゴンの声が聞こえじゃないか。
なんて言ってるんだ。ぼんやりとしてはっきりと聞こえない。
くそ。俺は眠いんだ。要件はなんなんだ。
「一体なんなんだ!!!」
「やっと目覚めたか。新たな所有者よ。目を覚ませ」
突然はっきりと、その声は聞こえた。
しかも遠くから聞こえてくるものではない。すぐ目の前から聞こえてくるのだ。
その声は深く、そしてどこか荒々しいものであった。
さきほどの大剣の声であることには間違いないが、明らかに違う。何といえばいいんだろうか。そうだ、声に厚みがました気がする。
「新たな所有者よ。まだ目覚めぬのか?」
こちらがもう既に起きていることを向こうは気づいているようだった。少し不機嫌そうな口調で再度、言葉を放つ。
バレているならしょうがない。目をあけてやろうじゃないか。
俺は恐る恐る目を開けた。この時には体の感覚がもどっていたので、不思議と恐怖心はなくなっていた。
「いや、もう起きてる……。って、え?」
俺は驚いて声を出せなくなっていた。
そこには何もないからだ。
目を開けてみると、青々と広がる草原が映っている。
「なんだこれ? 暗いのに明るい?……」
そして、頭上には見たこともないほど美しい星空が広がっていたのだ。
透き通った夜空に広がる星の輝き。肌に心地よく当たる涼しい夜風。それらは荒んでいた俺の心を多少なりとも潤してくれた。
そこには、ドラゴンの姿はない。俺の聞いた声はどこにいるんだろう。
ってか。俺のいる場所はどこだ。もしかしてただの夢の中か?
まぁでも今はそんなに急いで考える必要もない。
澄み切った空気を吸い込んでリラックスしていた。ヒンヤリとした風を体に受けて背伸びをした。
「久しぶりだな。こんなに晴れ晴れした気持ちになるのは」
俺はそのまま草原に手足を伸ばして、勢いよく寝ころんだ。
青々と茂った草は、まるで上質な羽布団のようだった。そして、寝転がった眼前に広がるのはあまたに輝く星の群れ。最高だ。
「このままずっとここにいたい」
ついそんな言葉がでてしまった。
俺にはまだやらなければならないことが、たくさんあるのに。もう疲れた。
こんな綺麗な星空の下で寝れるなんて幸せだ。
俺はあまりの気持ち良さに背伸びをして、目を閉じた。もう少しくらい眠ってもいいだろう。
「寝るな。2度と目覚めなくなるぞ」
「え?」
突然ドラゴンの声が聞こえた。
しかし、勢いよく立ち上がるって周囲をキョロキョロと見ても、ドラゴンの姿など見当たらない。
周りは見渡す限りの草原が広がっているだけだ。
木などの隠れる物体はない。
どこだ。どこから声がきこえるんだ。
辺り一面を隈なく見つめて、何も無いことを確認すると安堵した気持ちになる。
「にしても、本当に綺麗だな」
人工的な灯りが何もない中にあって、星空の明かりだけで照らされる草原は何とも幻想的だ。
不思議な場所だな。
何もないけど。
寂しくない。
なんでだろう。まるで、誰かがそばにいるみたいだ。
俺は自然を体に感じるために目を閉じて、風の向きに体を向けた。
ヒュウゥゥゥゥゥゥ。
ヒンヤリとした風がまた、心地よく体を通り抜ける。
ちょうどその時だ。
草がゆっくりと左右に動き出した。カサッカサッと音をたてて乾いた音をたてるそれは、どんどん激しくなる。
ん、なんだ。
急に風邪が強くなってきたような……。
ビュゥゥゥゥゥゥゥ!!!
「な、なんだ!?」
突然の強風が俺を襲った。
目も開けられないくらいの強烈な風。思わず両手で顔の前をかばった。
なんなんだ。せっかく心が安らいでいたのに、急に立っていられないくらいの風に襲われるなんて。
少し苛立ちながらも、一瞬の間に過ぎ去った風に安堵していた。
でも、目を開けた俺は驚いたんだ。
目の前にさっきまでいなかったものがいたから。
「ド……。ドラゴン?……」
俺の目の前にいたのは真っ赤なドラゴン。
しかも、前に見たミニサイズのものではない。自身の身長の何倍もの大きさのドラゴンだ。
鋭い眼光に紅に輝く鱗。そして、巨大な牙は全てを砕いてしまいそうだ。
「ふはは。やっと姿を見せれたぞ。新たな所有者よ」
「え?……」
「驚いて言葉もでないか。主がこの場所のことをもっと早く理解しておれば、すぐにでも姿を現せたんだがな」
「この場所?」
「あぁ。ここは我の精神世界じゃ。我を封印する為に犠牲になった者達も一緒に閉じ込められとる」
「犠牲になった者達?」
「あぁ。主と同じ、哀れなスレイブだ」
ドラゴンの言葉に俺は辺りを見渡した。
言葉通りなら、他に人か何かがいるはずだ。
しかし……。
誰もいない。何もない。
俺はドラゴンを見つめた。疑いの目だ。
もしかしたら俺をここに閉じ込めて、体を乗っとるつもりかもしれない。
俺がそう思った時だ。
ドラゴンは急に笑い出した。
「ふはは。安心しろ。我が出来ることは限られておる。主も感じているだろう。お前は同胞達に守られている」
そう言ってドラゴンは天を向いた。
しかし、天には何もない。あるのは満天の夜空のみだ。
「どういう意味だ。星しかないじゃないか。人なんてどこにも……」
「何を言っておる。あの星達がお前の同胞だろう?」
え?
まさか。
俺は夜空を見上げた。
夜空に満天に輝く星達は先ほどよりも強く輝いている。それに、どこか懐かしい気がした。
奴隷の本能なのかもしれない。
「新たな所有者よ……」
俺がそうやって星空にウットリしていた時だ。
ドラゴンが突然、牙を剥き出しにして戦闘態勢に入った。
口からはメラメラと燃える炎が見える。先ほどまでの涼しい風が熱風へと変わっていく。
「急にどうしたんだよ。俺を喰うつもりか?」
俺は冗談まじりにドラゴンに言った。
けど、どうやら彼は本気のようだ。目をギラつかせて今にも飛び交かってきそうな雰囲気だ。
そして、ドラゴンは言葉を続ける。
「まぁそんなとこだ。我もここに長いはしたくない。我を使う資格があるかどうか……。品定めさせてもらうぞ!」
0
お気に入りに追加
1,713
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(28件)
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
…こんなに面白いものを大分放置していたとは…過去の俺を殴りたい。
応援しています!
ありがとうございます!
これからも少しずつでも書いていきますよ〜!
チートな主人公に襲いかかるのはそれを上回るチートな魔物達、、、インフレループでたまげたなぁ。そこが好きなんだけど。
あとリリアン好き。ダウナー系で無邪気なサイコパスでチート性能なボスキャラ幼女とか俺得キャラやな。更新ペースが早くて助かる。
完結から復活しとる