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第6章過去転移

118異質な存在

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 噴水による水が奏でる音が広場に鳴り響く。
 広場全体が静寂に包まれたために、水が打ちつける心地よい音が良く聞こえる。
 そんな静寂の中で、広場の国民は蓮と老人の2人を見つめている。


 皆んな、口には出さないが奴隷スレイヴに武具を紹介するなど予想していなかったのだ。
 ある者は目を大きく開き、また、ある者は腕を組んでなぜ老人が武具を紹介するのかを考えている。


 もちろん。2人の会話をじっと見ていたのは勇者や大魔導師も同様だ。
 勇者と大魔導師は2人で目を見合わせて驚いている。
 特に大魔導師は、不機嫌そうな表情で勇者と会話をし始めた。


「あのジジイ。我がまだ幼い頃、チビに売る物は売ってねえ。とか意味わからん事をいって我に商品を売らなかった」
「そう。怒らないでください。大魔導師様」
「怒ってなどいないぞ。勇者様。我はあのクソジジイに見る目がないと分かっておるからなぁ」


 なだめる勇者と怒りを隠せない大魔導師。
 彼女は幼き頃、師匠とこの広場で武器商人の店に立ち寄った事があるのだ。
 師匠の買い物ついでに、自分も何か欲しいと思い武器商人に声をかけると笑って商品を売られなかったという経緯がある。


「昔の嫌な記憶が蘇るわ……」


 イライラして持っている杖を地面にめり込ませる彼女を見て、勇者は小声でボソッといった。


「本当は、人を見る目がありすぎるんですけどね」


 勇者が何か言葉を発したことに気づいた大魔導師は、手を止めてイライラしている口調で質問をした。
 もしかしたら、勇者の言葉が聞こえていたのかもしれない。
 ただ、そこは歴戦の勇者。
 聞かれなかったことにして話を流した。


「ん? 何か言ったか勇者様」
「いえ。ただ、あの武器商人が持っている商品はどれも一級品です」


 大魔導師は勇者の言葉を聞いて首傾けた。
 老人は高級そうな布の上に武具や薬草を並べている。
 しかし、武具自体はどの武器商人でも用意出来るような一般的なものしかない。
 大魔導師は、顎に手を当ててじっくりと武具を見つめた。


「本当か。我には作りも粗悪でどこでも手に入るシロモノのようにしか見えないが」


 目を細めて確認する大魔導師を見て、勇者は少し笑いながら自身の発言について説明した。


「たしかに。店先に出ているものは、そうですね」
「勇者様。あの武器商人について詳しいんだな。ひょっとしてあの店で買ってるのか?」
「ええ。もちろん。武器の修復も彼に依頼しています」


 勇者の返答を聞いた大魔導師は、少しイラッとした雰囲気で勇者と武器商人の老人を睨みつけた。


「そうかそうか。どうせ我は無知な大魔導師よ」
「大魔導師様。拗ねないでください。あなたには超優秀な魔道具があるじゃないですか。それに魔導系統の店は別にあるでしょう」
「ふふ~ん! その通り。我は超優秀な魔導師様なのだ! しかし、通常の武具に関しては専門外だ!」
「ははは……」


 あまりにも立ち直りの早い魔導師を見て、勇者は呆れたかのような渇いた笑い声を出していた。
 大魔導師は立ち直った後に、腕を組んで再度問い直した。
 勇者があの武器商人のことを信頼しているのは分かったが、取り扱っている武具は明らかに初心者用だ。
 武器商人として力量があるとはとても思えない。


「で、先ほど勇者様が言っておられた、一級品の商品を売っている。というのはどういう意味だ?」
「あぁ。それは、奴隷くんと武器商人の会話を見ていれば分かりますよ」


 勇者は蓮と老人の方向を指してそう言った。
 その方向では、蓮が老人の発言に対して驚いている。
 顔を老人に近づけて、本当なのか?、と言わんばかりに目を大きく開けている。


「一緒に武器を見てくれるのか?」
「もちろんじゃとも。そもそも奴隷スレイヴが装備できる武具は、今、出しているものの中にはないからのう」


 今、出しているものには無い。
 この言葉が示すことは勇者の発言にもつながる。
 実はこの武器商人。レア度の高い武具に関しては、店先に出さずに保管をしているのだ。
 しかし蓮にとっては店先に出ている初心者用の武具でも、新鮮に感じている。
 むしろ最強のスキルを持っている以上、武具についてそこまでこだわりはない。


「え。この木の棒は……」


 簡単な装備だけでも試しで付けてみたいと思っていた蓮は、既に店先に置かれている武具を指した。
 しかし、老人は笑いながら首を横に振った。


「無理じゃ。その武器が装備できるのは【村人】と【騎士】の2つの職業のみじゃ。ほれ!」


 老人が武具に手をかざすと、該当する武具のステータスが空中に表示された。


 ―――――――――――――――――――――――――――
 ・名称『木の棒』
 ・条件『【村人】【騎士】に装備可能』
 ・条件『レベル1以上に装備可能』
 ・効果『攻撃値+100』


 ・説明『なんの変哲もない木の棒。素手で戦うよりは
     マシだろう。
     どんな強大な力を持つ存在も1度はこの木の棒
     を握り、戦った事はあるはずだ。
     最初から力を有する者などいないのだから。』―――――――――――――――――――――――――――


 どうやら、武具を装備するためには条件が必要らしい。
 以前の世界では氷華が武具を身につけていたが、詳しく解析出来なかったため、武具の知識はほとんどない。


「職業によって装備できるものが変わるのか」
「そんな事も知らんかったのか。ははは! それでダンジョンに入ろうとしているのか」


 大笑いしながら布の上を転げ回る老人。
 蓮の強さと知識量のギャップがツボにハマった老人は、笑いをなんとか抑えながら話を戻した。


「単純な知識を知らんと言うことは、奴隷スレイヴ用の武具のレア度についても知らんな?」
「しりません……」
「では、単刀直入に言おう。今、わしが用意できる奴隷スレイヴ用の武具は2つ」


 ――鎖と大剣じゃ……。


「鎖と大剣?……」
「この辺じゃったかのう」


 ニヤリとした顔つきに変わった老人は、店の奥に積み重ねられているケースから2つほど引っ張り出してきた。
 1つは人1人入るほどの大きさのもの。そして、もう一つはスーツケースほどの大きさのものだ。
 真っ黒なケースから放たれるオーラはどこか禍々しい。
 開ける前であっても奴隷スレイヴ用の武具の異質さが際立つ。


「なんか、妙な感じがするな」


 2つのケースを交互に眺める蓮。
 興味深いというよりも、恐る恐るといった様子で見つめている。
 それをみた老人は再度笑い。蓮に優しく語りかけた。


「そう怖がるな少年。まずは中身を見てみないとのぅ」


 ニヤニヤしながらケースに手をかける老人。
 彼がまず開けたのは大きなケースの方であった。恐らく大剣が収納されているケースであろう。
 重そうにケースの蓋を両手で持ち上げると、少しホコリの被った分厚い骨の塊が出てきた。
 刃の部分はもちろん骨で出来ているが、持ち手部分も全て骨で出来ている。


 恐らく非常に大きな獣の骨を丸ごと削って作られたのであろう。
 よく見ても継ぎ目と思われる箇所が見つからない。


 自身の背丈ほどある武具を見た蓮は、武具を包む異質なオーラに圧巻されていた。


「すごい。木の棒と全然違う」
「はは。当たり前じゃろう! この大剣のステータスも見たらもっと驚くじゃろうな!」


 そう言うと老人は大剣に手をかざして、武具のステータスを表示した。


 ――――――――――――――――――――――――――
 ・名称『竜王の大剣』
 ・条件『【奴隷スレイヴ】に装備可能』
 ・条件『レベル100以上に装備可能』
 ・効果『不明』

 ・説明『人間達によって狩られた悲しき竜王の骨剣。
     竜王は人間達の非道な罠によって葬られた。
     皮肉にもこの大剣を操れるのは、竜王討伐の犠牲
     になった民の末裔のみだ。』
 ――――――――――――――――――――――――――


 ステータスを見た蓮は、口に手を当てて驚きを露わにした。
 条件の高さにも驚かされるが、効果の項目については特に凝視する必要がある。


「なんだこれ?……。効果が……」


――不明?
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