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第5章崩れゆく世界

56 令嬢の笑顔

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 俺は火憐に手を取られ、自衛隊が募集しているダンジョン攻略部隊の集合場所へと向かっていた。
 タッタッタッ……。


 廊下に響き渡る足音。
 そう。俺は今走っているんだ。
 自衛隊が指定している場所。俺達の高校のグラウンドに向かって。


 ■□■□■□


 タッタッタッ……。


 俺は保健室を出ると火憐より前に出て走っていた。
 実は俺自身、ダンフォールさんとの会談以前にも、ダンジョン攻略部隊に興味があったのだ。
 以前入ったダンジョンでは酷い目にあったが、未知なる世界に興味を抱かない者などいないだろう。


 ――それに、新たな出会いがあるかもしれない。
  

 鮫島をこの世界から排除した事。その事実は、確かに気分をスッキリとさせる。
 でも、爽快感だけじゃない。罪悪感が心の片隅に住み着いているんだ。


 俺は正しい選択をしたんだろうか?って。
 鮫島は殺した方が良かったのか?それとも、何もせずに生かした方が良かったのか?ってさ。


 1人でこんな事を考えていたら頭がどうにかしてしまいそうなんだ。
 かと言って鮫島の事を話そうにも、他の人達は彼の事を忘れている。
 だから、他の事へと意識を集中させて気を紛らわせたいんだ。
 俺が1人の人生を消したって事実からさ。


 そんな事を考えながら廊下を走っていたんだ。
 ボッーとしながらね。
 そしたらいつのまにか、隣にいたはずの火憐が消えていたんだ。
 後ろの方で荒い息遣いが聞こえ始めた頃に。


「はぁはぁはぁ……」


 その荒い呼吸が聞こえ始めると俺は足を止めた。火憐のケガを思い出したからね。


「ごめん火憐」


 後ろを振り向くと彼女は怒っていたよ。
 そして、こちらを睨(にら)みつけて叫んできたんだ。


「ちょっと蓮! 走らないでよ!」
「……忘れてた」
「松葉杖で移動しなきゃならないのに。酷いわ」


 俺が見ると、彼女は息も絶え絶えの様子である。だから松葉杖に体重をかけて休んでいた。
 とても走れるようには見えない。一緒に歩いてもいいんだけど。


(をすれば、早く目的地に着けるよな)


 俺は腕を組んで彼女を見つめた。


「……」
「なによ。人の身体をジロジロ見て」
「……おんぶ、しようか?」
「え……」
「嫌だったかな? なら一緒に歩いていくけどさ」


 俺が澄ました顔で言うと、火憐は急に慌てたような顔で顔をブンブンと横に振った。


「いいわよ! おんぶあげるわ」
「え……なんで偉そうなの」
「偉くないわよ。普通じゃない」
「いや。普通じゃないような」
「もう! しのごの言わずに私をおんぶしてよ」
「は……はい」


 火憐の勢いに押されて俺は彼女をおんぶする事になった。いや、俺が言い出したんだけどさ。
 でも、いざ女性をおんぶするとなると少しビビってしまうんだ。


 実際におんぶをしてみると彼女の体温や、胸の感触が伝わってくる。
 それを見透かすように彼女は話しかけてきた。全くなんで、俺の気持ちが分かるんだよ!



「蓮。何照れてるのよ~」
「ち……違う! 照れてない!」
「またまた~強がっちゃって~。ほら!」


【ムニュ】


「うっ……やめてくれ火憐……」


 彼女は、俺が照れてると分かると胸を押し付けてきたんだ。
 さっきより伝わる柔らかい感触……俺は動揺を誤魔化すためにスキルを発動して攻撃値を高めたよ。
 もちろん。ダンジョン攻略部隊の集合場所。グラウンドにいち早く到着する為にね。


 タタタタタタタ……!


「ちょっと蓮! 速すぎない?」
「普通だよ!!」


 あまりの速さに驚く火憐。そんな彼女のとった行動は、俺に強く抱きつく事だったんだ。
 逆効果だったよ。
 俺は火憐の胸の感触に気を取られないよう、必死にグラウンドまで駆けた。


 そのおかげでグラウンドの手前、いわゆる下駄箱まではすぐに着けたよ。
 流石に自衛隊の人達に異常な脚力を見られるわけにはいかないから、下駄箱で止まったけど。
 火憐を背中から下ろしてさ。


「ありがとう。ふふ」
「な……なんだよ」
「背中大きいんだな~って思って!」
「それはどうも……」
「ぷっ! 何照れてんのよ~」
「だから照れてないってば!!」


 からかう火憐と動揺する俺。
 そんな俺達はある事に気付いた。


「ちょっと蓮! あれ見てよ」
「もう……みんな集まってるんだな」


 そこで目の当たりにしたんだ。
 グラウンドの前方に集合している集団を。しばらくの間、俺達はその集団を無言で見つめていた。
 仲間を見つけたみたいな、変な気持ちでさ。


 よく見ると50人くらいだったかな?
 この地区でダンジョン攻略部隊に応募したのはこれだけって事になる。
 想像はしていたが、やはり少ない。
 命の危険を伴うのだから当然と言えば当然かもしれないけど。


 しかし、集まっている人達はバラエティに富んでいた。
 学生はもちろん。スーツを着た人や、金髪の外国人まで様々だ。
 それを確認すると、俺は無意識に火憐の手を握りグラウンドに歩き出した。
 同志が集(つど)う場所へと。


「行こう火憐」
「うん。分かったわ!」


 満面の笑みを浮かべながら応(こた)えてくれる火憐。
 そんな彼女は俺の手を強く握り返した。
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