上 下
49 / 123
第4章過去との決別

48理想の限界

しおりを挟む
 

 俺は画面に表示される数字を見つめていた。
 その数字は俺の余命宣告だ――。


『現在・2ターン目前半、プレイヤー鮫島』
王の裁定ジャッジメント発動まで……後2ターン』


 そう。鮫島にかけられた魔法『王の裁定ジャッジメント』この魔法のせいで、俺は3ターン目が終わればHPが0になるらしい。
 要するに死ぬって事だ。


 鮫島は俺の目の前でニヤニヤと顔を歪ませている。
 俺の力を本当にイカサマだと信じているようだ。俺を指差して悪魔のように笑う。


「ふはは。攻撃値をイカサマしても、防御値まではイカサマできねぇだろ? 最高の痛みを教えてやるよ」
「……」
「恐怖で言葉も出ねぇか」
「違うよ」
「じゃあ何だよ! またイカサマをしようってのか?」
「それも違う。俺は呆れているんだよ。現実を受け入れられない鮫島君にね」
「また、意味分かんねえ事を言いやがって」
「……」


 俺が黙り込んでいる理由はシンプルだ。言い訳ばかり言う鮫島がとても醜かったからさ。
 俺、今どんな顔をしてるんだろうな。力の無いダラっとした表情かもしれない。
 鮫島の言い訳をする仕草を見て思ったんだ。
 こんな奴に虐められてきたのかって。


 実際、鮫島と戦ってみて分かった事がある。
 鮫島は強くも何ともないんだ。精神が特にね。
 彼は自分の理想の中でしか生きられない可哀想な奴なんだって、今初めて気づいたよ。


 これまで虐めてきた相手に敗北しそうな現実を受け入れられない鮫島。
 俺の事をイカサマ呼ばわりまでしてさ。全く……意味分からない事を言ってるのはどっちだよ。


 俺は冷ややかな視線で鮫島を見つめていた。
 いや、俺だけじゃない。クラスメイト達もだ。鮫島に対する目つきが変わっている。
 これまで雰囲気で鮫島の事を特別扱いしていた彼らだが、今では恐怖の対象でしかないようだ。
 鮫島を称える声はもう無い。


 教室内の静けさがそれを物語る。
 本当に静かな空間。まるで戦闘など起こっていないかの様な静寂。
 それを遮(さえぎ)るのは機械音だった。ゲームの進行を続ける為に淡々とターンを進める。


〈プレイヤー鮫島の攻撃『鉄の棺桶アイアン・メイデン』を発動します〉


 アイアン・メイデン。聞いた事がある。
 確か、中世ヨーロッパにおいて使われた拷問具。
 鉄の棺桶の内部に無数の刃が備え付けられている。だっけな。


 俺は何となくではあったが、これから何が起こるかを理解することが出来た。
 でも自然と冷静さを保てていたんだ。スキルで防御値を100万にしたからな。


 その冷静な目で鮫島を見ると、彼は興奮を抑えられない様だ。
 そんなに俺を串刺しにしたいんだろうか?悪魔の様な微笑みで語りかけてきた。


「ははははは。お前が悪いんだぞ? 痛みでショック死するなよ?」


 鮫島の病気じみた笑顔が俺を捉えている。
 でも、もう鮫島に対して何の感情も抱かない俺は、めんどくさそうに手でクイッ、と挑発した。


「早くやれよ」
「チッ! そういう態度が気に入らねぇんだよ。『鉄の棺桶アイアン・メイデン』! その不届き者を串刺しにしろ!!」


 鮫島が叫んだその瞬間。


【ガバァッ……】


 大きな地響きと共に鉄の棺桶が俺の背後に現れた。
 開かれた棺桶の内部には無数の巨大な針が備え付けられている。
 ここに閉じ込められれば身体中が穴だらけになる。そんな構造だ。
 そう思っていると俺は鉄の棺桶に吸い込まれ、閉じ込められた。


【ガチャッ!!!】


 棺桶の閉まる音が教室内に響いた。鮫島の笑い声も響いている。
 あと火憐の悲鳴も。
 俺は驚いたね。皆、俺が串刺しにされたって思い込んでるんだから。
 でもこんなもの俺には効かない。巨大な針も俺に触れれば逆に壊れてしまう。


【バキッバキッ!】


 俺は閉じ込められた後、棺桶の隙間を無理矢理こじ開けようとした。勿論、この時点で棺桶内の針は砕けて全て折れている。
 今の俺の皮膚は鉄なんかじゃ貫けないから。


【バキンッッ!】


 俺が勢いよく棺桶を左右に広げると、鉄製の留め具が外れて完全に棺桶が開いた。
 やっぱり力加減が難しい。
 壊すつもりは無かったんだけど鉄の棺桶を壊してしまったんだ。


「壊しちゃったか……」


 そのままゆっくりと外に出ると、そこには驚きに満ちた鮫島の顔があったよ。
 この時には、流石の鮫島も俺には勝てないって気づいたみたいだ。向こうからお願いしてきたよ。


「ごめん蓮くん……」
 もう戦いを止めないか?――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...