Illusion of Halloween

まちは

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前編

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神様はすべての人々を等しく見守ってくださっている。
けれどその神様には少しお茶目なところがあって…


「ソフィー、ごめーん!!また挟まったー。」
「いい加減自分の頭の大きさに慣れなさいよ、ジャック!!その頭になってから1年でしょ!?」
「でもぉー…」
「でもじゃないよ!」

ソフィーと呼ばれた明るい雰囲気の少女がいるお店の入り口で、ジャックと呼ばれた少年は身動きが取れなくなっていた。
もう少し詳しく言うと、ジャックが頭にかぶっている大きなパンプキンと入り口のサイズが同じくらいなのにそこを強引に通り抜けようとしたため、頭が入り口に挟まり抜けられなくなっている。

…これが神様のイタズラ。
この村の10~15歳くらいの清い魂を持つ人に大きなパンプキンをかぶせ、魂を導くという神様の仕事を1年間だけ手伝わせる。
これは完全に神様の気まぐれで、2年連続で誰かがその仕事を与えられるときもあれば、何十年誰にも仕事を与えられないときもある。
村の人はその仕事を与えられた人に対して敬意を払い、その人が仕事を終えるまで"ジャック"と呼んでいた。

すぽんっ

「つっ…疲れたぁ。」
「ソフィーありがとうー。」
「はいはい。どーいたしまして。」

ソフィーはお店の中からジャックを力一杯引っ張り店に引き入れた。
そのまま少し疲れた様子でお店の会計テーブルまで戻る。
ジャックはお店を見渡すとお菓子コーナーに行き、色とりどりのキャンディーが入ったガラスの小瓶を1つ選びソフィーの元まで行く。
そのままお金を出しながら軽い調子でジャックは言った。

「ソフィー今日ね、最後のジャックとしての仕事なんだー。」
「そうだったわね。このかぼちゃ頭とお別れだなんて少し寂しいわ。」

そう言ってソフィーはジャックの黄色い頭をつついた。

「えー?はじめの頃は自分と同じ色じゃなくなって嫌だって言ってたじゃん!!」
「あれ、そんな事言った?確かにジャックの元の色も好きだけど、今のかぼちゃ頭も好きなのよ。」

ふわりとソフィーは微笑んだ。
その笑顔にジャックは顔を赤らめた。

仕事を与えられる前のジャックとソフィーのオレンジ色の髪と緑色の目は殆ど同じ色をしていた。
その色彩は村の中では物珍しく、さらに2人の幼馴染特有の中の良さもあり村の人々はジャックとソフィーをパンプキン姉弟と呼んでいた。

「あーもう!!今日は僕の頭の話をしに来たんじゃないの!!」

会計をする机の前でぴょんぴょんと跳ねているジャックの姿に、ソフィーは首を傾げた。

「じゃあ、一体なんの話をしに来たの?」
「あのねー、神様に最後のお仕事をソフィーに見せたいって言ったらいいよって言ってくれたからソフィーのこと誘いに来たのー!」

ソフィーは目を見開いた。

「ジャックって神様と話ができるの?」
「うん、ジャックになってからだけどね。結構頻繁に話すよー。」

なんてことのない様子でジャックは言った。

「本当はお仕事は他の人に見せちゃいけないんだけど、"私の大好きなパンプキンの色をしてるから特別に見せてもいいよ"って許可してくれたのー。」
「神様が?」
「神様が。」

ジャックの言葉にソフィーは目眩がした。

「そんな…そんな理由でいいの……?」

そのままふらりと脱力して机に突っ伏した。

「神様がいいって言っていってるからいいんだよ。そういう事だから今日の日が落ちるときに置き時計のところで待ってるからきてねー!」

そう言い残すとジャックは買ったキャンディーを持って店を出て行った。
もちろん今度は頭が入り口にはまらないように気をつけながら。

「神様…好きなパンプキンと同じ色だからって理由で大切な仕事見せていいんですか…?」

ソフィーは大きなため息をついて今日の外出を隣の家にいるおばあちゃんに言いに行った。



その時誰も触っていないのに左右に揺れた入り口のカボチャのランタンにソフィーは気付かなかった。



夜も近くなり家から出ようとしたとき、この村から少し遠い街へ商品を買い付けに行っていたソフィーの父が帰ってきた。
ソフィーがジャックの仕事に誘われた話を父にすると、

「今夜はハロウィンだから悪いものもいいものもたくさんくる。何があってもジャックのそばを離れちゃいけないからね。見知ったものやどんなに素晴らしいものがあっても絶対にそこにふらふらと行っては駄目だよ。」

とソフィーの父は言った。
しかしその表情に強く言い聞かせている雰囲気はなく、どこか懐かしんでいるようであった。
そして「ハッピーハロウィン良い夜を」と言いソフィーの額に口付けをした。
ソフィーは父に同じことをすると少し小走りでジャックの元へと向かった。

ソフィーの父はそんなソフィーを見送りつつ、パンプキンの形をしたネックレスを指輪がはまっている左手で包み込んだ。



ソフィーが置き時計のところに着く頃には、もうすでにジャックは待っていた。

「ごめんジャック、待たせちゃった?」
「ううん、僕も今来たところー。今日で最後だからって家で少し豪華なご飯がでてて。」
「明日は村でジャックのお疲れ様会だもんね。今日しか家でのお祝いはできないよね。」

ジャックはソフィーの言葉に少し照れたように笑った。

「じゃあ、そろそろ仕事の時間だから行こっかー。」

そう言ってジャックは右手を出した。

「絶対に僕の手を離しちゃ駄目だよ??でもそれを守れば大丈夫ー。さぁ、ハロウィンを楽しもう!!」
「なんだかテンション高いね。」
「だってー、ソフィーに素敵なものを見せてあげられるんだもん。」

ソフィーは黙って左手でジャックの右手を掴んだ。

「ジャック…本当に今年14歳?」
「どうしたの急にー?ソフィーが14歳なら僕も14歳だよ?」

きょとんと首を傾げるジャックにソフィーは脱力した。

「そうだね。私と同い年だものね。はぁ…早く行こうか。」
「うん!行こー!!」

ジャックはいつの間にか左手に持っていたかぼちゃのランタンを前に掲げた。
そして2人は歩き始めた。


村の外れにある木の群集。
その周りに建てられている木の柵には、丁度ソフィーたちぐらいの身長の人がギリギリ通れるくらいの穴が空いていた。

「ここから先はあいだの世界だから気をつけてー。特に今日はハロウィンだからたくさんの人が来るのー。去年のハロウィンより後に神様のところに行った人も、未練があったら戻ってきちゃうんだー。」
「戻ってきちゃうの!?」
「うん。今日の僕のお仕事はその人たちを全部神様のところに送ってあげることなのー。1年で1番忙しいんだー。」

ソフィーは少し考え込んだ。

「何で前のハロウィンより後に神様のところに行った人は戻ってきちゃうの?」
「分かんなーい。神様が教えてくれなかったし、そういうものなんだと思ってたー。」

驚くジャックと白けたような顔をしたソフィーの間にこの時期には珍しい少し温かい風が吹いた。
その風に何かを感じた2人はお互いに笑い合い、その穴を潜って森へと足を踏み入れた。
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