ごっこ遊び

真鉄

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シンデレラ

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「……じゃあ、遠慮なく」
 僕の脚の間で膝立ちになった彼が、ダイナミックにカットソーを脱ぎ捨てた。たくましい肉体をあらわに僕を見下ろす顔。雄の顔だ。『ご主人様』のサディスティックな顔とも違う、『望月青葉』という目の前の一人の人間の剥き出しの雄の顔。望洋と、飄々とした普段の彼の顔からは想像もつかないほどに、男の色気の漂う淫靡な表情だった。

 きっと、これは僕しか知らない顔――。

 たまらなくなって身を起こすと、膝立ちの彼のチノパンのボタンを外し、下着ごと引きずり下ろした。いつ見ても見事な巨根が重たげに頭をもたげて僕を見下ろす。彼をちらりと見上げると、欲情にぎらついた目で小さく頷いた。きっと僕も彼と同じ表情をしていることだろう。

 熱い溜め息とともに、僕は勃ち上がる威容に頬を寄せた。エラの張り出した亀頭。僕の指が周りきらないほどに中太りした竿。幹に巻きつく雄臭い太い血管。くっきりと浮かぶ裏筋。その下で重たげに揺れる陰嚢。僕をいつも最高に気持ちよくしてくれるもの。愛おしさに突き動かされて、僕は恭しくその根元に口づけた。そして、そのまま頬を滑らせるように裏筋を舐め上げていく。

「ふっ……、う……」
 顎が外れそうなほどに大きく口を開き、ゆっくりと彼を迎え入れる。最初は口蓋に先端をすりつけるように。彼の大きな手が僕の後頭部に添えられ、ゆるく頭皮を撫でるのがくすぐったい。張り出したエラや裏筋に舌を這わせ徐々に喉奥まで飲みこんでいく。息苦しくて、反射的に吐きそうになりながら、彼の雄の匂いと味を嚥下する。そして、ついに鼻先が彼の濃い陰毛に触れた。

「はぁ……気持ちいいす」
 じゅぶじゅぷといやらしい音をたてながら、頭を前後させて喉奥まで飲みこみ、吸いつきながら抜き出す動きを繰り返す。口蓋や喉まんこをこすられる物理刺激もさることながら、恍惚の表情でこちらを見下ろす男の視線が、『ご主人様』の時とは違って素直に快感を伝える表情が、僕を腹の底から甘く震わせる。

「このままだと……イッちゃうかも」
 僕の頭を撫でながら、男が甘えたやわらかい声で囁く。このまま喉奥で射精されて飲みこまされるだとか、顔面にたっぷりぶっかけられるとか、そういうのを試してみたい気持ちもあるが――。ずろりと長大なちんぽを吐き出し、それをゆるくもてあそびながら、上目遣いで僕は言った。

「それなら、中に出してほしい……」

 さっきから腹の奥が疼いて仕方がなかった。彼にぐちゃぐちゃに抱かれて、奥深くに種付けされたかった。僕のストレートなおねだりに『ご主人様』ではない素の男は嬉しげににっこり笑うと、足元にわだかまっていたチノパンを下着ごと脱ぎ捨てた。ついでに僕の最後の砦だったワイシャツも脱がされる。
 橙色の弱い灯りの下、裸の僕たちに落ちた濃い陰影が妙に淫靡に映る。いつもの煌々とした灯りに照らされた虚構とは違う、匂い立つ生々しさがそこにはあった。それが妙に気恥ずかしく、僕は思わず背を向ける。

「あー、じゃあせっかくなんで、寝バックしましょ」

 うつ伏せに寝そべってくれます? と男が後ろから囁く。聞いたことのない体位だが、よく分からないまま男の指示どおり寝そべってみる。シーツの上に敷いた分厚いバスタオルが縒れないように気を使いながら。マッサージように男の大きな手が背中から脇腹を撫で下ろし、それからもったりと尻たぶを鷲掴んだ。

「ふふ、甲本さんのおまんこヒクついてる」

 すっかり受け入れる準備を整えた入口は、あらわになった肉の谷間で物欲しげに唇を尖らせていることだろう。誘うように僕は少し腰を浮かせた。熱く濡れた塊があわいに触れる。僕はかすれた声で懇願した。

「早く、ちんぽ挿れて……」
「ん」
 かすかに笑いを含んだやわらかな男の声とともに、切先が肉蕾に当てがわれる。
「く、あぁ……」

 充血して膨らんだ柔肉にもぐりこみ、その奥の分厚い括約筋を巨大な雄にこじ開けられる瞬間が、たまらなく僕は好きだった。自ら受け入れるべく、肉門をいきみ広げても、それでも足りないとばかりにじりじりと押し広げられる。潤滑剤を足し、何度か前後して、僕の中を徐々に侵蝕していく熱。どくどくと拍動する彼の脈。一番太い部分を過ぎたのか、ずるんと一気に入りこみ、彼の腰が密着した。思わず声が漏れる。

「甲本さん」
「……っ」

 耳元で名前を囁かれ、僕は背筋を震わせた。背中全体にかかる重みと体温。彼の大きな手がシーツとの間にさしこまれ、僕の胸元や肩口をゆっくりと撫で回し始める。身じろぎして、はたと気づいた。胴体を完全に押さえこまれた僕には末端しか動かせない。注ぎこまれるこの快楽からの逃げ場はどこにもないのだ。

「甲本さん」
「やっ……!」

 ふきこむような囁き声がくすぐったくて、僕は思わずシーツに顔をうずめた。血がのぼりきった耳を彼の舌先がなぞる。その間も彼の腰や手が僕の身体をとろかせていた。

「あ、あぁぁっ……」
 『ご主人様』の荒々しい犯し方とは違う、小刻みにこすりつけるような腰の動きに激しさはないが、僕の弱いところを押しこむように同じリズムで細かく前後されるとたまらない。

 背中全体に感じる彼の体温。ときおり脇腹や下腹を撫でつつ、固く尖った乳首をこね回す大きな掌。首筋や耳殻をねぶる熱い舌。僕の名を呼ぶやわらかな声。全てが僕を昂らせる。

「甲本さん、イキそう?」
「ん、んっ……」
「いっぱいイこうね」
「っ、ふ、あぁぁぁっ……!」

 けれど、それはいつもの投げ出されるような不可抗力で強制的な絶頂ではなくて、上から覆いかぶさる彼と溶けて混ざるような絶頂だった。すぐに僕は雌の悦びに達したが、絶頂に震える前立腺を変わらぬ速度で責め立てられ、すぐにまた高みへと駆け上がっていく。抱き締める腕に爪を立て、恍惚にそり返った首を曝け出し、後頭部を彼の肩口に押しつけて震えた。

「甲本さん」
 大きな掌があらわになった喉を撫でた。そのまま顎を押さえられ、横を向かされる。目の前に影がさし、唇にやわらかなものが触れた。この体位なら、奥深くまでひとつに繋がったまま彼と口づけできるのだ――。

「ふ、あ……」
 舌同士を絡ませあう甘さに僕は絶頂した。そして体内の彼を全力で食い締め、また達する。頭の線が快楽の過負荷にちぎれてしまいそうだ。熱くて、こすれて、溶ける。気持ち良すぎてもう何が何だか分からない。だが、覆いかぶさる熱と、抱き締める腕と、程よい重みが、ネジの外れた頭に安心感を与えてくれる。

 強制的に絶頂させられる、という不可抗力と大義名分が、体面を気にする僕には必要だった。けれど、今わかった。僕は自分の意思でどれだけ無様に連続絶頂したっていいのだ。全身で逃がさないと伝えてくる彼はそれを受け入れてくれる。僕は夢中になって彼の唇にかじりつき、舌を絡ませあいながら、もう何度目かも分からない絶頂に身を震わせた。

「は……やば、俺もイく……」

 初めて聞く彼の切羽つまった声。『ご主人様』の傲岸な射精宣言とは違う、かすれ、うわずった声だった。僕は胸の内に高まるものに突き動かされ、腕で彼の後頭部を抱えこむと、硬い髪をくしゃくしゃに撫で回しながら鼻先や唇を擦り合わせた。

「甲本さ、……っっ!」
「っ、く、あ……っ」
「……っ、ふ、あ……」

 腕の中の僕を苦しいほどに抱き締め、彼が腰を数度激しく叩きつける。ポンプのようにびぐびぐと体内でわななき、大量に注ぎこまれる熱。終わりとともに首筋にかかる熱い溜め息とかすかに漏れ出た喘ぎ声。僕はただ悦びで震えた。

 満たされる。
 身体も心も彼で満たされている。
 『ご主人様』がもたらすものとはまた違う満足感に、僕は熱い溜め息をついた。
 そして、決意を新たにする。

 彼を――『望月青葉』というこの男を、僕のものにしようと。

「やっばい、全然萎えない……」

 僕の上にぐったりと突っ伏していた彼が、甘い溜め息とともに苦笑した。確かに、あれだけしたたかに射精したというのに、体内の雄はいまだにその体積を少ししか減らしてはいなかった。

「体位変えてもいいすか?」
「……正面からがいい」
「俺もそれ好きっす」

 彼はひとつ笑うと伏せていた身体を引き上げた。身体を覆っていた熱が失せ、体内から雄が引き抜かれていく。それが異常に寂しくて、寒々しさに思わず小さく震えた。僕はすぐに仰向けになると、ぽっかりと口を開けている谷間を指で開いて彼に見せつけた。

「挿れてくれ」

 彼の目をまっすぐ見て訴える。覚悟の決まった僕にはもう照れなどない。彼は嬉しげに微笑むと、すぐに僕の中へと潜りこんだ。ゆっくりと巨大な熱が奥へ奥へと進んでいく。後ろから抱かれるよりも構造的に奥まで入るのか、彼にしか届かない最奥へと肉槍が到達する。雄膣のくびれと彼の先端がみっちりと噛み合い、快感にかすむ頭をさらに多幸感が満たしていく。

「はぁ、落ち着く……」
 僕の上に覆いかぶさった彼が、滲んだ視界の中で少しはにかみながら言った。
「興奮してるのに落ち着くってのも変なんすけどね。甲本さんの中ってしっくりくるっていうか……、ガラスの靴みたいな、俺にぴったり合う感じっていうか……」

 って何言ってんだろ、と彼は己の頬を恥ずかしげに手の甲で撫でた。ガラスの靴。読んだ覚えはないが、さすがの僕でもシンデレラのあらすじぐらいは知っている。

 唯一シンデレラの足にしか入らない靴。
 周囲から貶められた少女が、あの輝かしい姫であると証明できるただひとつの証拠――。

 目を逸らせた彼の首筋に腕を絡ませ、僕の方へと向かせた。空いている手を一度彼の視界でひらめかせ、寝そべり平らになった下腹へと滑らせる。彼がいるであろう臍の下辺りを丸く撫で、指先を眺める彼の顔をじっと観察しながら僕は囁いた。

「もう、ここは君の形になってる――」

 息を呑む音が静かな部屋に響き渡った。実際のところは分からない。けれど、回を増すごとにスムーズに彼を迎え入れられるようになっていたのは事実だった。腕に次いで、裸の脚を彼の腰に絡ませる。

 言おう。今が切り札を出す時だ。自ら弱点を晒してしまったのが君の運の尽きだ。僕はとっておきの単語を舌に乗せた。

「そうだろう――青葉」

「っ……!」
 まるで腕の中で火がついたかのようだった。彼の名を口にした途端、突如彼の体温がぶわりと上昇したのだ。咄嗟に覆い隠しはしたが、いくら大きな手でも真っ赤になった顔を隠せるのは下半分がいいところ。体内でずくずくと激しく脈打つ彼の律動が伝染し、僕の鼓動までもを興奮に上擦らせる。

 「……そんなんさぁ、好きになっちゃうでしょ……」

 半分隠した真っ赤な顔のまま、震え声で彼が言う。その目は少し潤み、何かをこらえるように細められていた。僕は笑う。

「だから呼んだんだ。僕のこと、好きになればいいだろ」

 そう答えた僕を、彼はぽかんとした表情で見下ろしていた。だが、一気にそれは笑み崩れた。眉尻を下げ、いつもは眠たげな目を糸のように細め、大きな口から白い歯を覗かせて、それはもう嬉しげに。尻尾でもあれば今頃ぶんぶん振られているのではないだろうか。

「もー知らねー! 全部甲本さんが悪いんすからね!」
「あっ、あは、っ、ぁ」

 火傷しそうに熱した巨体に苦しいほどに抱きしめられ、したたかに腰を打ちすえられた。彼からしか得られない最高の快感。僕は多幸感に笑い、喘ぎ、しがみつき、震え、泣いた。汗ばんだ肌が、繋がった粘膜が、ひとつに融けあうような幻想が脳を支配する。

「あっ、あ、ん、青葉、っ……」

 突き上げられる腰に潮を噴き、最奥のくびれをめくられて絶頂する。都度、うわごとのようの僕は彼の名前を呼んだ。その度に彼がくすぐったいような、嬉しいような表情を返すので、彼が僕の名前をしばしば口にしていた理由が分かったような気がした。
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