ごっこ遊び

真鉄

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ロールプレイ

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「あんたの中、めちゃくちゃ気持ちいいな……」
「っ……!」

 背後から耳元に寄せた唇が、艶のある低い声で囁いた。ぞわりと全身に甘い鳥肌が立つ。自分がどうやら耳も弱いらしい、いうことを今初めて知った。抱きとめていた腕が、ワイシャツ越しに僕の身体をまさぐり始める。

「慣れるまで、ここで遊ぼうぜ」
「あぁっ……!」
「やっぱりな。ここも弱いのか。全身モロ感だな、あんた」

 男の爪の先が布越しの乳首に触れた瞬間、僕は甘い声をあげていた。確かに、オナニー時に気分を上げるために自分で触りはするけれど、くすぐったい程度でそんなに気持ちよくもない部位だと思っていた。なのにどうして――。

「やっ、待って、ちがっ、あっ、っ……」

 男の指先が突起を引っ掻き、つまみ、弾く。それだけで甘い快感が走り、男を咥えこんだままの腰がびくびくとわなないた。肉門がぎゅうぎゅうと男を締めつけて、その巨大さを知らしめる。

「こんなはずじゃ、乳首だめっ、っあ、イクッ、あああぁぁっ……!」

 まるでバイブのような速度で上下に引っ掻かれ、身体が弓形に反る。胸から感じるはずの快感が、なぜか腹の奥と共鳴して甘く疼かせる。顎がのけぞり、後頭部が背後の男の肩口に強く押しつけられた。締めつけた巨大な肉杭の張り出した胴体が前立腺を押しつぶす。

 快楽のスパイラルとでもいうべきか、今までに感じたことのないほどの絶頂につぐ絶頂、それも回数を増すごとに甘くて深くなる雌のアクメを浴びて、僕の頭はとろけきっていた。

「あんたがイクと全部、中の俺に伝わってくるぜ。そんなに乳首が気持ちよかったか」
「きもち、い……です……」
「そりゃあ良かったな。――ところで、そろそろ俺の大きさには慣れたか?」

 男の手がワイシャツの中にもぐりこみ、僕の下腹をそろりと撫でた。男がいるであろう場所――。

「そろそろ動くぞ」
「あ!」

 ほとんど抜かぬままにぐいと腰を押しつけられただけで、瞼の裏に星が散った。びりびりと痺れるような快感。これが本格的に動き出したら――どうなってしまうのだろう? 男の手が羽交締めするように僕の肩口を掴んだ。

「っ、あ、あ、あ、あ、あ、あぁ、あっ……!」

 男の腰が控えめに前後する。それだけなのに、僕はもう身体の全てが粘膜になってこすられているかのような錯覚に陥っていた。奥を小突かれるたびに、閉まらない唇からは無意味な母音が漏れる。きもちいい。きもちいい。頭の中ではただその言葉しか繰り返すことができなかった。

 後ろから犯されて、僕は何度も絶頂していた。触れられていないちんぽから漏らすように白濁を垂れ流し、力のこもった身体が勝手に弓形に反り、意識はくらくらと快楽に酔う。けれど、まるで高みへと放り出される僕を引き留めるように、がっしりと肩を掴む男の腕があった。僕はその腕にすがるように手を添え、男から与えられる快楽をあますことなく享受する。

「……そろそろ、俺もイクぞ」

 男が耳元で囁いた。その言葉に思わず生唾を飲み、腕を握る手に力がこもった。僕は何度もうなずき、懸命に首を曲げて背後へと目をやった。

「僕の中に、たくさん、出してくだ、さい……っ!」

 ごくりと鳴ったのは僕の喉か、男の喉か。肩を掴んでいた腕が振り向いたままの僕の顎を押さえる。そして、肩口から覗きこむように意外と近くにあった男の顔が、さらに近づいた。目の前に影がさす。

「ンッ……!?」

 唇がやわらかいものに触れた。何度もついばまれ、舐められる。斜め上を向かされて薄く開いた唇の隙間からぬめる舌が入りこんできた。

 キス、しているのだ。

 相手がいないのだから、当然キスだってしたことがないし、そういうぬるいことは恋人同士ですればいいと思っていた。けれど――思っていたよりも、気持ちがいい。

「ん、ふ……っ」
 男の舌が器用に口内をまさぐり、歯列をなぞり、上顎を舐める。フェラチオしたときと同じ、甘くくすぐったいような快感がじわじわと意識を侵蝕していく。甘いキスも睦言もいらないとか言っておいてこの体たらく。知らずにイキっていた僕自身への羞恥に血をのぼらせ、抵抗して顔を背けようとした。

「――何逃げようとしてんだ」

 ぎらついた男の瞳が至近距離で睨む。

「俺がキスしようとしたら口をあけろ。俺の唾液を飲みこめて嬉しいだろ」
「ん、ンッ……!」

 舌と舌が絡まり合う。下肢では男の腰も再び動き出した。男に命じられたのなら仕方がない。そうだ仕方がない。ざらつくような、ぬるつくような初めての感触に、僕はいつしか舌同士を夢中になってこすりあわせていた。攪拌された唾液を飲みこむ音が、妙に大きく響いた。他人の唾液をすするなんて。ああいけない、こんなこと。でも仕方がない。

「ンッ、ふ、ああぁっ、あ、ン、んんっ……!」

 唇が離れ、男の片腕が僕の腰を抱きこんだ。さっきまでの控えめなものとは違い、激しいストロークで巨大な熱が僕の中をこすりたてる。顎を押さえていた指が僕の唇を撫で、口内に入りこんだ。あの反り返った中指。ぞくぞくと皮膚が甘く震える。

 いつも見ていた。何気ない日常を切り取った写真に映り込む彼の特徴的な指を。あの指がもしも僕に触れたならと、いつしか思い描くようになっていて――。

 彼の指にそっと舌を這わせる。彼の指が僕の舌を挟みこみ、ぐじゅぐじゅとしごく。舌を突き出し、涎を垂れ落ちるに任せ、僕はただ極上の快楽に喘いだ。

「っ、は、奥に出すぞ……!」
「あぁっ……!!」

 耳元で囁かれる種付け宣言。それだけで僕はまた絶頂した。ぎゅうぎゅうと精を搾り取ろうと震える媚肉。男はそれに抵抗するように、二度、三度と抜け落ちそうなほどに激しく突き入れる。そして、僕の身体をぎゅうと抱きしめ、男にしか届かない奥にまで肉杭の先端を突きこんだ。

「――お……っ!!」

 濁った声しか出なかった。身体の奥深くで、びぐびぐとわななく男の熱。ポンプのように激しい勢いでびゅうびゅうと放たれる精液が粘膜にぶち当たる。男の小さな動きひとつで絶頂するような――いや、もうひたすらにイキ続けているのか。僕自身にも分からない。

 全身が熱い。思考はどろりと甘く溶けて、でも身体は絶頂にかたく引き絞られて。高みへと放り投げられた意識が戻ってきたとき、僕はまた天井を見上げて激しく空気を貪っていた。男の肩口に頭を預け、しっかりと抱きしめられたまま。

「……あんたの中が良すぎて萎えねぇ」

 男が溜め息混じりに囁いた。確かに、体内の雄茎は、まだ物足りないとでも言うかのように固さを備え、我が物顔で居座っていた。どくんどくんと激しく脈打つ搏動が、僕の鼓動と同じリズムを刻んでいる。

 僕は無言で男の腕をほどき、中を穿つ屹立をゆっくりと引き抜いていく。名残惜しそうに媚肉が吸いつくのが自分でも分かった。途方に暮れたような膝立ちのままの男を正面から見据えて座りこみ、靴を履いたままの足をゆっくりと開いた。

「ご主人様が満足するまで、僕の中にいっぱい出してください……」

 片足を抱え上げ、手で尻の谷間を広げた。濡れた熱気が指に伝わる。きっと入り口は男の大きさそのままに、中のとろ肉を覗かせていることだろう。濡れているのは男の放った精液か。いや、あれだけ奥に出したなら、簡単には出てこないだろう。みっちりと体内を埋め尽くしていた熱がもう恋しい。僕は潤んだ目で男を見上げた。ベッドが軋む。男が長い手足で僕に覆いかぶさる。

「なら、あんたの中、俺のザーメンでいっぱいにしてやるよ」

 逆光の中、僕を見下ろす男の目は情欲にぎらぎらと濡れ光っていた。果たしてそれが演技か本気か、僕には分からない。けれど、押し当てられた熱だけは本物であることに間違いはなかった。ぞくぞくと皮膚が期待に粟立つ。

「ンあああぁぁっ……!」

 ずずず、と中に入りこんでくる絶対的な存在に、僕は情けない悲鳴をあげた。体位が変わって、張り出したエラが容赦なく媚肉をこそぐのだ。入り口は相変わらずぎちぎちに広がったものの、多少の抵抗感程度で全てを体内に収めることができた。もう、僕の中はご主人様のちんぽの形に作り変えられてしまった――。そう思うと、ぞくりと腹の奥が甘くわなないた。

 男の腰が突き上げるように、しゃくるように動き始める。奥をとんとんと小突かれるだけで、びりびりと激しい快感が脳を焼く。男の手が腰を掴み、突き上げる。下半身は熱く、まるで甘くとろとろに溶けてしまったかのようだ。壮烈すぎる雌の快感に負けた僕の雄茎は、やわらかな芋虫のように、突き上げに任せてぐにゃぐにゃと腹の上で揺れていた。

「ンッ、あ、あああっ……!」

 びくんっ、と身体が震え、僕はなすすべもなく絶頂した。男の突き上げはそれでも容赦なく続く。僕の中で、燃え盛るような快感に混ざって、きゅんきゅんと甘く疼く別種の欲が頭をもたげ始めていた。内側をエラでこすられるたびに強くなっていく欲求。

 それは排泄欲――つまり尿意だ。

「あっ、あ、あ、ン、んんっ……!」

 濃く煮詰めたような強い尿意。歯を強く噛み締め、僕は必死に堪えた。だって気持ちがいいから、ここで一旦止めるなんて水をさすような真似はしたくない。シーツを掴み、耐える。だが、我慢しようと筋肉を締めると体内の肉槍をも締めつけてしまい、余計に快感が増して頭も身体もバカになってしまう。とんとん、ごつごつとちんぽで中から小突かれる。

 ああ、きもちいい。とけて。あつい。

「ンひぃっ……!」
「おっ」

 しょわっ、と熱い感覚が尿道を焼いた。あっ、きもちいい……。そう思ったと同時に、じわじわとワイシャツが濡れていく。漏らした――。ようやく気づいた僕は痛くなるほど顔に血をのぼらせ、腰を掴む男の腕に向かって反射的に手を伸ばした。

「違っ、これはっ、あの……!」
「潮吹きするほど気持ちよかったか?」
「あ、え……」

 男は伸ばした僕の手を纏めて掴んだ。そして、腰の動きだけで突き上げる。

「エロいなぁあんた。もっと漏らすところ、俺に見せてみな」
「やあぁっ……!」

 ずんずんと中を小突かれ、再び尿意が濃くなっていく。失禁という、成人が人前ですれば人生を崩壊させかねない行為。けれど、これは潮吹きだって。見せてみろ、エロいって、ご主人様が、言うから――。

「んはぁっ、漏れ、あっ、だめ、だめだめだめぇっ……!」
「はは、えっろ……」

 男が腹の奥を突き上げるたびに、やわらかな肉茎から熱い体液が勢いよく噴き上がる。初めて見たAVで女に尻をいじられて潮吹きした男を思い出す。これが潮吹き。精液とは異なる液体が尿道を焼き、射精とはまた違う快感を脳に刻みつける。こんなの――クセになってしまう。だめ、だめとうわごとにように喘ぎながら、僕は絶頂とともに、最高の背徳感と開放感に酔いしれていた。

 ワイシャツが体液に濡れて肌に貼りつき、身体の凹凸が透けて見えるころ、男は息も絶え絶えな僕の顔の横に手をつき、突き上げる動きをやめて覆いかぶさった。僕の尻が天を向き、ほぼ垂直に肉杭が僕を貫く。

「あぁ……っ」
「そろそろ、俺もイカせてもらおうか」

 逆光の中、男が不敵に笑う。身体が屈曲している分、さっきよりもさらに奥まで入りこんでいるのか、男の腰がのの字を描くように先端を捻りこむだけで、全身がびりびりと感電したように甘く痺れた。エラが最奥の狭いくびれを掘り返し、そのたびに頭が真っ白になるほどの快感が襲う。僕の身体も意識ももう絶頂に登ったまま降りることができない。

 そう、男が射精するまでは――。

「出してっ、僕のことオナホ代わりにしてっ……!」

 感極まった僕がそう叫ぶと、男はくくっと喉奥で笑い、ゆっくりと腰を引き上げた。長く太い肉茎が抜けていくのに合わせて、肉門が名残惜しそうに吸いついて唇をを尖らせている。そんな情けなく媚びた肉から目が離せない。

 そして、先端のみを体内に残すまで引き出すと、男は一気に中へと突き入れた。

「――、……っ!!」

 その衝撃。言葉も出ないほどの暴力的な快感。ぐぽっ、ぐぽっと体内をえぐる湿った音。ぱんぱんと肉同士がぶつかる乾いた音。恍惚とした僕の喘ぎ声。男の荒い息。淫猥なハーモニーが鼓膜を震わせる。

 僕はたまらなくなって男の背中に腕を回し、しがみついた。身を伏せた男の胸元に顔が埋まる。スモーキーなコロンと汗の匂い。男は僕の頭を抱きこむように上体を伏せ、射精に向けて激しく腰を振り下ろしていた。

 大男に一分の逃げる隙もなくがっしりと抱えこまれ、中途半端に脱がされた情けない姿で、僕の意志とは関係なく、なされるがままに種付けされる――という何度となく夢見たシチュエーションの再現に、僕はもう天にも昇る心地だった。

 汚らしくも卑猥な、ぶじゅぶじゅと湿った音が鳴る接合部は、張り出したエラで掻き出されたローションと男の精液で白く泡立っていた。男の荒い息に混じるかすかな喘ぎ声が、彼が感じている快感を僕にそっと教えてくれる。びりびり震えるような快楽と、ふわふわ浮かぶような多幸感が頭を満たす。

「出すぞっ……!」
「っ――、ンっ、ああああぁぁっ……!」

 切羽詰まったような男の声とともに、ばちんと腰が打ちつけられた。奥深くにもぐりこんだ先端が、中太りした幹が、びくんびくんと激しくわななく。ああ、来る――。二回目にもかかわらず男の射精の勢いは強く、僕の中で二度、三度とその巨体をしゃくりあげ、大量の精の奔流が僕の中に注がれていく。

 男の身体に手足を絡ませて、一滴たりとも逃がすまいとしがみつく僕の頭の中は満足感でいっぱいだった。

 今日一日で、これまで僕を強固に縛りつけていた禁をいくつ破っただろうか。男らしくあれ、清らかであれ、という親の教えは自覚する以上に根深かったようで、それを犯すという背徳の喜びは想像をはるかに超えていた。

 何かに怯え、誰かに謝り、ひとり慰める――。そうして静かにひび割れていった心が、男とのロールプレイで癒えていく。あたかもセラピーのように、身体は心地よく疲れ、心はとてもすっきりしていた。男には感謝してもしきれない。

 それにしても、今まで思い描いてきた理想のセックスよりも、現実の方がはるかに上を行ってしまった。こんなもの、いまさら下手くそな妄想をオカズにした味気ないディルドでの一人遊びになど戻れるわけがない。

 そのためには、この男が必要だ――。

「……ほうしゅうを、」
「え?」

 散々喘いだ喉はがらがらで、引っかかった言葉を咳払いで整える。

「報酬を提示していた倍出すから、今後、僕が頼んだらここに来て犯してくれないか」

 突然の提案に、男は上半身を持ち上げて僕の顔をじっと見下ろした。仮面の落ちた、人のいい間伸びした顔だった。乱れた前髪の下で、眠たげな目が困惑気味に瞬き、ぼそぼそと答えた。

「俺は……正直、身体の相性も良かったし、報酬とかもういらないかなって……」
「は!? 駄目だよそんなの!」

 何言ってんだこいつ。それじゃ僕の感謝の気持ちが伝わらないじゃないか。

「君の時間と手腕を買うと言っているんだ。それに、金に困っているんだろう?」
「そりゃ、まあ……そっすけど……」

 男は困惑したように頭を掻く。困惑したいのはこっちだ。

「今回、とても満足したけれど、改善して欲しい点が二つほどある。一つは罵倒する語彙を増やして欲しいこと。もっと厳しくていい。あ、けれど飴と鞭の具合は良かったよ」
「はぁ……」
「もう一つは、もう少し激しく責めてほしいこと。何ならワイシャツのボタンを引きちぎるとか、ネクタイを首輪がわりに引っ張るとか、尿道責めとか――」
「そういうのはちょっと荷が重いっす……」

 お互い身を起こし、ベッドの上に座りこんだ。事後の余韻などという甘ったるいものはなく、むしろ説教、いや、反省会が始まりつつあった。

(了)

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