ごっこ遊び

真鉄

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ごっこ遊び

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「遅い!」

 尖った声とともに勢いよくドアが開き、俺は思わずインターホンを押した指を引っ込めた。頭ひとつ分を忌々しげに見上げる意思の強そうな二重の眼。目の前の若い男は唇をへの字に曲げ、しばらく俺を睨み上げていたが、不服そうに一歩退いた。俺のでかい身体では、男が立ちはだかったままでは狭い入り口をすり抜けられないからだ。靴の裏の汚れを落とし、そのまま室内に上がりこむ。この部屋の欧米風のルールには未だに慣れない。

「連絡はしたっしょ」
「見た。その上でクレームを入れているんだ」

 俺は小さく嘆息し、部屋の隅に上着と肩にかけていた鞄を放り出すと、洗面所へと足を踏み入れた。男は後ろからついてくる。

「しゃあねえっしょ。内装のやつがひとり急にばっくれやがったもんだから、面倒くせーけど手伝わざるをえなかったんっすよ」

 石鹸を泡立て、指の間から爪の隙間まで丹念に洗いながら、俺は遅刻の理由をぼそぼそと年下の男に申告した。節くれだち、小さな切り傷や軽い火傷が幾つも残ったままの日に焼けた労働者の手は、水で洗ったところで白くなりはしないが、土や木屑、ペンキなんかの汚れをそのままにしておくわけにはいかない。ついでにべたつく顔も洗い、棚から勝手にタオルを漁る。いかにも品質の良いタオルはいつもどおりふかふかだ。

「僕は七時から準備して待っていたんだぞ。それを今何時だと思ってるんだ。これだけ時間があれば取引のひとつやふたつ完了していたというのに機会損失も甚だしい」

 背後では男がきゃんきゃんと吠えていた。タオルの隙間から鏡に目をやる。洗面所の入り口で不服をまくしたてる男の意志の強い大きな目は、今は拗ねるように斜め下へと向き、濃いまつ毛の影を目元に落としていた。
 腕組みをする手首には俺でも知っている有名ブランドの時計が洗面所の明かりをはね返していた。薄いピンク色のワイシャツと深い紺のスラックスは、あつらえたかのように引き締まった細身の身体にぴったりと添い、無駄なシワもたるみもなく、若き実業家にはよく似合っていた。いや、本当は何を生業にしているのかなんて俺は知らないが、いかにも経済誌のコラムで斜め上の方向を見ながらろくろを回す手つきで意識高い主張をしていそうな、胡散臭いまでの清潔感が男にはあった。

 俺はタオルを放り出し、時間の大切さについて説教し続けている男に向き合った。先の尖った男の革靴と、薄汚れた俺のスニーカーの先端が触れ合う。すう、と俺はひとつ息を吸った。

「ぶつぶつうっせえんだよ。説教垂れてる暇があるんなら俺のちんぽでもしゃぶれってんだ」

 男の後頭部を掴み上げ、鼻先が触れるほどに顔を近づけると、低くしゃがれた声で俺は凄み、始まりの台詞を吐いた。誠実さが漂うよう計算してきっちりとセットされたツーブロックの黒髪をわざとぐしゃぐしゃに乱し、洗面所の入り口から男を軽く突き飛ばす。

「あっ……」

 たたらを踏んだ男はふらふらとよろけ、部屋の大部分を占拠する大きなベッド端に座りこんだ。相変わらず生活感のない部屋だ。毛足の長いラグとベッド、そして窓辺に置かれたテーブルセット。この部屋にあるのはそれだけだ。ここは男が所有する高級なヤリ部屋なのだ。俺は靴やズボン、下着をその辺に脱ぎ散らかしながら、タンクトップ一枚の姿でわざと威圧的に男へと大股で近づいていく。

「なあ? 好きだろ、これ」

 男をベッドへと突き倒し、その胴体を跨ぐようにしてしゃがみこんだ。まだ萎えたままのちんぽを男の鼻先や唇に押しつけ、俺はにやりと笑う。すん、と男が鼻を鳴らす。はあ、と熱い吐息が薄い唇から漏れた。そして男はとろけた微笑を浮かべた。

「好きです……。ご主人様のちんぽ最高……」

 もう、そこには意識の高い新進気鋭の若き実業家の面影はなかった。瞳にはハートの光を宿し、目を潤ませ、頬に血の色を上らせた、発情したマゾ男が一人――。男は俺のちんぽを捧げ持つように両手で支え、うっとりとした表情で饐えた雄の匂いを嗅いでいた。

「一日労働で蒸れたちんぽだ。嬉しいだろ」
「はい……。ご主人様の匂い、たまりません……」
「そんなに嗅ぎてえかよ」

 正直なところ、俺だって風呂に入ってさっぱりしたいところだが、この男が悦ぶのだから仕方がない。俺は一度立ち上がると反対を向き、今度は男の顔を跨ぐようにしてゆっくりと屈みこんだ。いわゆる顔面騎乗、というやつだ。

「あぁ……」

 男のくぐもった恍惚の声が股の間から響く。だらしなくぶら下がった鶏卵ほどの金玉が男の鼻先を塞いだのだ。男は自ら顔を動かし、一日汗に蒸れ、さぞや匂いがこもっているであろう陰嚢の根元から蟻の門渡りの辺りで何度も鼻先を往復させた。ふと目を上げると、寝転んだ男の股間は既に膨らみ、あそびのないタイトなスラックスの中で窮屈そうにその形を露わにしていた。俺はくくっっと喉の奥で笑う。

「匂いだけで興奮してんじゃねえよ。俺のちんぽはほったらかしか。さっさとしゃぶれ」
「んっ……、は、はいっ……」

 少し兆し始めたちんぽを男の唇に押しつける。どこか男の声は嬉しげだ。まだやわらかい肉に男の舌が愛おしげに絡みついた。鈴口が舌先でくすぐられ、カリの段差を前後にこそがれる。そして、亀頭全体がすっぽりとあたたかく濡れた肉に包まれた。まだ半分も勃っていないが、既に男の口内は俺でいっぱいになっている。

「んぅ、……んっ……」

 じゅる、こぷ、と粘り気のある水音とともに、熱くざらつく舌がねっとりとちんぽに絡みついた。本格的に膨張を始めた肉塊はみっちりと男の口内を埋め、先端が喉奥に触れる。男の荒い鼻息が蒸れた皮膚をさらに湿らせた。俺は少し前屈みに体勢を変え、真上から杭打つように入るところまで押しこんだ。

「んっ、ぐぅっ……」

 えずくような濁った声と喉から鳴る気味の悪い水音。喉輪が敏感な先端をきゅうきゅうと締めつける。全体はさすがに入りきらないが、それでも男は健気にも幹に舌を這わせ、愛する巨大ちんぽに懸命に奉仕していた。俺は思わず熱い溜め息をつく。喉を完全にふさがれ、懸命に鼻で呼吸をしているのだろう、見下ろした俺の目の前では男の胸板がふいごのように大きく上下していた。さらに目線を上げると、窒息寸前の男の股間は萎えるどころか、生き物じみてびくびくと脈打っているのが見えた。全くとんだ変態だ。これはご褒美をあげねばなるまい。

「おいおい、おまえ、ちんぽどころか乳首まで勃起してんじゃねえか」
「んおおっ……!?」

 肌触りのいい薄ピンク色のワイシャツの下で存在を主張する小さな乳首を爪の先で弾くと、男の身体は面白いほどに跳ね上がった。甘い悲鳴が喉に詰まったちんぽにびりびりと響く。

「おっ、おっ、おっ……」

 両の人差し指で滑りのいい布越しに小さな尖りをかりかりと引っ掻き続ける。その度に男の腹や腰はびくびくと波打ち、感じているであろう快感を視覚で俺に訴えた。小指から人差し指まで四本の爪の先でずろずろと順に乳首をなぞってやれば、下手くそなブリッジでもしているかのように男の腰が高く浮いた。嬌声が喉奥で爆発する。

「んんんんんんっ……!」

 バイブのように細かい動きで尖りを引っ掻き続けていると、ついに男は我慢しきれない様子で俺の跨ったままの太ももにしがみついた。男の腰が大きく跳ね、ガニ股のままかくかくと何度か空を掻いた後、どさりとベッドへと沈みこんでいく。何が起こったのかは紺のスラックスに広がっていく濡れた黒いシミを見るまでもない。

「――おい」

 俺はわざと冷たい声を男に投げかける。腰を上げ、ぞろりと喉奥から屹立を抜き出した。そんな摩擦ですら快感を拾えるのか、男の腰が小さく痙攣した。粘度の高い唾液が太い縄のように俺のちんぽと男の唇を繋いでいる。

「なんで俺より先にイッてんだ?」
「ご、ごめ、な、さい……」
「イラマチオ中に乳首でイクとか最低のマゾ豚だなぁオイ」
「あっ、あ……」

 跨っていた体勢から脇に退き、男の顔を薄ら笑いで覗きこむ。首元まで濃いピンク色に蒸気した男の顔。大きな二重の目尻には大粒の涙が溜まり、今にも落ちそうになっていた。唾液で濡れ光る半開きの薄い唇からはちらりと赤い舌が覗く。その表情はまさに恍惚のそれだ。

「立て」
「あ、え……」
「壁に手ェついて立て、ってんだよ。早くしろ」

 俺は男の二の腕を掴み、無理やり立たせると壁際へと押し出した。踏ん張りの利かない足で毛足の長いラグの上をふらふらと歩き、壁に手をつくと、男は不安げに小さくこちらを振り向いた。だが、その瞳は隠しようもない期待に潤んでいる。俺は男の腰に手を回し、そのベルトを何の躊躇もなく緩めた。

「てめえのそのだらしねえちんぽ、躾けてやんねえとなあ?」
「あ……」

 ずるり、とスラックスと下着を一気にその足元までずり下ろす。青臭い精液の匂い。ワイシャツの裾から覗く引き締まった腰と、肉付きのいい白い尻が俺の前に露わとなった。節くれだった手で丸い肉をゆっくりと撫で回す。日に当たらない肌に比べて俺の手のなんと浅黒いことか。男の耳元に顔を寄せ、軽く尻をはたきながら俺は囁いた。

「お前もそう思うよな?」
「あっ……!」

 ばちっ、と小気味のいい音とともに男の身体が揺れた。同時に、振り下ろした掌がじんと熱く痛む。円を描くように何度か尻を撫で回し、再び打つ。男の指が白い壁を掻いた。衝撃に大きく開いた唇からは恍惚の溜め息が漏れる。

「おしおきだ」

 俺は容赦なく男の尻を平手で打った。乾いた打擲音と男の甘い悲鳴が部屋中に響き渡る。尻を打つのは痛みが目的ではない。いい大人が、悪さをした子どものように尻を剥かれ、ぶたれるという情けない行為そのものに、この男は興奮するのだ。

「――ふん、反省したか?」
「あ、ありがとうございます……」

 男は背中を波打たせ、恍惚に濡れた声で言った。何度も肉を打った掌はじんじんと熱く痺れている。だが、真っ赤に腫れあがった男の尻はそれ以上だろう。

「ひゃあっ……!」

 赤く熟し、敏感になった熱い皮膚を爪で軽く引っ掻いただけで男はびくんと身体を戦慄かせた。丸い尻をざらついた掌で撫で回しながら俺は再び男の耳元に囁きかけた。

「まんこの準備はもうできてんのか」
「あ……」

 掌の下で筋肉が期待に蠢くのが分かる。俺は男の足元にしゃがみこむと、両手で尻たぶをゆっくりと押し開けた。ああ……、と頭上で男の甘い嘆息が響いた。
 深い谷間の奥には、腫れた尻よりもさらに赤く充血した縦長の肉の蕾がひくひくとわなないていた。本来、すぼまっているはずの肛門はこれまでんの過度の摩擦でめくれ、膨らみ、いやらしく変色し、事前に男が中に仕込んでおいたローションを入り口から滴らせ、太ももまで濡らしていた。卑猥すぎる光景に、俺は唇を舐める。

「はっ、何度見てもまんこそのものだな、おまえのここはよ。恥ずかしくないのか?」
「あっ、は……!」

 いきなり指を二本突っこんでも何の抵抗もない。どこまでもやわらかい肉がただ指を食み、まとわりつく。指を差し入れたままぐぱりと開いても、やはり特に抵抗はなかった。ふ、と息を吹きかけてみると、刺激に身を縮める軟体動物のようにきゅうと締まった。

「とんだガバまんこだなぁ。――挿れてほしいか?」

 俺は小さく笑うと立ち上がり、男の腰の上に半勃ちに萎えたちんぽをのたりと乗せた。身体の大きさが違えば足の長さも違う。俺が足を広げて高さを調節しなければ、立ちバックのままでは男の穴には入らない。俺は男の腰の上に乗せたちんぽに、たっぷりと温感ローションをぶっかけた。そのまま腰を前後し、尾骨や谷間にぬるぬるとちんぽを擦りつける。尻の上の雄に力がみなぎり始めたのを感じたのか、男の熱い溜め息が漏れた。
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