ストーカー

真鉄

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ストーカー

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「風呂空いたから、次入っておいでよ」

  濡れた緩い癖毛を億劫そうに掻き上げながら、ソファでテレビを見ながらくつろぐ大男に尚は言った。

「んー、そうだなぁ……」

  大男は汚らしい顎髭を指で掻き、身を清めたばかりの尚の立ち姿をしばらく眺めていたが、徐々にその頬がだらしなく緩み始めた。何しろ、お気に入りのセフレと久々に共にする夜なのだ――助平心が頭をもたげないはずがない。男はTシャツとハーフパンツというゆるい部屋着姿の尚をにやついた笑みを浮かべて見つめた。

  冷蔵庫から出したばかりの冷たいミネラルウォーターを火照った身体に染み込ませ、一時の清涼に息をついていた尚だったが、そのいやらしい視線に気づいて、呆れたように男の方へと歩を進める。

「何?  入んないつもり?  今日は一日遊び回ったんだから汗かいたでしょうが」
「そーなんだけどー……」

  傍らに腰をかけた尚に向き直り、男は歯を剥いた下品な笑みを浮かべ、尚の細い腰に腕を回す。濡れ髪の間から覗く桜色の貝殻のような耳元に、男は口先を寄せた。低い声で囁く。

「お前、俺の汗の匂い好きだろ?」
「バッ……!」

  尚のまろいカーブを描く頬に、さっと血の色がのぼる。羞恥に染まる彼の様子に男は唇を歪めて笑った。尚は思わず身を離そうとしたが、男の太い腕がしっかりと抱き止めていたのでそれも叶わない。諦めたように、目の前の分厚い胸板に頬を寄せ、小さな溜め息をつき、長い睫毛を伏せた。

「……その気になっちゃうし」
「なっちゃおうよ」
「んー……」

  尚の痩身を抱きとめたまま、男はソファに寝転がった。弾力のある分厚い胸板に顔を埋め、猫のように目を細めた尚の癖毛を男の浅黒い手が無遠慮に掻き混ぜる。しばらくの沈黙ののち、大男が口を開いた。

「こういうのさ、久しぶりだろ」
「……そうだっけ」
「うん、お前が……ストーカー被害にあい始めてからさ、こうやって全力で遊び回ったの、何ヶ月ぶりかな」

  癒えかけていた傷をえぐり直す男の言葉に、つらそうに目を眇めた尚が小さな声で呟いた。

「……ごめんな」
「お前のせいじゃない。ストーカーの屑野郎が全部悪い」

  顔を歪め、さも憎々しげに男は吐き捨てた。だが、すぐに卑しい顔で笑い、悄然とする尚の頬を無骨な指先で撫で回し始めた。

「でももう、いなくなったんだ。お前が酷い目にあうことはもうない」
「うん……」

  一介の大学生だった尚の許にある日突然、ドアノブに様々な「プレゼント」がひっかけられるようになった。ケーキやおにぎりといった食べ物、ペットボトルに入った飲み物、果ては際どい下着や女装用衣装や大人のオモチャ、盗まれた尚の下着、既に使用された男物の下着――漏れなく大量の精液が塗りたくられていたそれらには、「君を真に愛しているのは私だ。私はいつでも君を見ている」と、手書きのメッセージが添えられていた。

  そうした「心のこもった贈り物」のことを思い出したのか、尚はひとつ首を振ると、更に深く男の胸板に顔を埋めた。そもそも思い出させたのは男自身なのに、痛みを全て「ストーカー」に転嫁して、いかにも俺が守ってやると言わんばかりに尚のしなやかな身体を力強く抱き締める。

「大丈夫。俺が取っ捕まえて説教してやってから何もないだろ?  もう大丈夫だからな」
「……そう、だよな。な、ひーちゃん」
「ん?」
「ありがとな」

  そう囁くと、尚は身を上げ、少し悲しげな、儚い笑みを浮かべた。その瞳はかすかに潤んでいる。整った可愛らしい造りの顔に浮かぶその笑みは、その気がない者にすら今すぐに組み敷いてその身体を征服したいという欲求をむらむらと起こさせる、天性の魔性とも言うべき色香を漂わせ、雄を惑わせる。元々、尚とのセックスのことしか念頭にない大男などひとたまりもなかった。

「んっ……」

  男は慣れた手つきで他人の家のソファの背もたれを下ろし、尚を横に転がすと、野生動物の身のこなしでその小さな身体に跨った。がっつくように赤い唇に貪りつく。小さな果実のように艶めく唇を唾液で汚しながら、何度も何度もついばみあう。男のなめくじのような舌が可憐な唇を割り込み、舌同士を触れ合わせ、くちゅくちゅといやらしい音を立てた。

「ひーちゃん……」

  かすかに唇が離れた隙に、尚のかすれ声が健気にも男の名前を呼んだ。だがそれもすぐに男によって呑み込まれ、虚空へと消えていく。激しく口付けあいながら、小さな身体の上に乗り上げた巨体が下品に腰を擦りつけ始めた。広大な背中に手を這わせながら、尚がその様子に苦笑する。

「ひーちゃん、もうおっきくなってんの?」
「だってさぁ……、久しぶりだし」
「そうだねぇ……」

  しみじみとした口調で尚が呟いた。そして、ひとつ笑みを浮かべると、大男に横になるように指示した。仰臥した男の股間では、チノパンを押し上げる勃起が早く尚を犯したいと激しく自己主張しているのが、否が応にも目立っている。小さい身体で太い胴を跨ぎ、尚が背後の男を振り返った。

「溜まってるみたいだからヌいてやるよ」

  大きな目を細めて笑うその綺麗な顔。無垢な天使のように愛らしく、それでいて手練れの娼婦のように妖艶な色香を放つ笑顔に見惚れている間にも、その華奢な指は男の股間を寛がせていた。

「はぁ……」

  下着からまろび出た威容に、尚は思わず熱い息を漏らした。その巨体に見合ったグロテスクなほどに巨大な雄だった。その下にだらしなく垂れ下がる陰嚢も重たげであり、この男の性欲の強さを体現しているかのようだ。尚の小さな手では指を回し切れないほどの太い直径。大きく張り出した赤黒いエラ。男の臍の下まで届く長大さ。いかにも凶器といった禍々しいシルエットと、楚々とした尚の唇のコントラストがひどくいやらしく見えた。

「んっ、ふっ……」

  大きく唇を開いても、その小さな口に入るのは赤黒い先端のみだった。ときおり、ふっくらした赤い頬を亀頭の形に膨らませながらもしゃぶりつき、舌を這わせ、血管を纏う太い幹を小さな手で上下し、懸命に奉仕する尚の姿はひどく健気であり、それ故に喉奥へと無理やりにでも己が剛直を突き入れて征服したいという欲求を掻き立てて止まない。きっとその狭い喉奥は嘔吐感に蠕動し、敏感な先端をきゅうきゅう締めつけることだろう。

「気持ちいいよ……」

  男は上擦った声でそう呟きながら、目の前で揺れる小ぶりな尻肉を薄手のハーフパンツの上からゆったりと揉んだ。尚の身体がぴくりと揺れる。男の手は何の遠慮もなしに、下着ごと尚のハーフパンツをずるりと引き下ろした。

  白桃のごときまろやかで可愛らしいカーブを描いた小尻が直接外気に触れ、ふるりと震えた。浅黒くごつごつと節くれだった男の手が包み込むように尻肉を撫で、揉んだ。深い谷間の奥に覗く慎ましやかな窄まりが、その度にぬめりを帯びた妖しい光を帯びた。もう何度も抱かれているはずなのに、そこは感動的なほどに美しいピンク色をしていた。手入れをしているのか生まれつきなのか、その周囲には一本の毛もない。これが本来ならただの排泄器官でしかないとは信じがたく思えた。

「何やかんや言って、尚も風呂で準備しててくれてたんじゃん」

  男はいやらしく笑うと、両の親指で開ききった谷間に息を吹きかけた。肉色の蕾がきゅうと引き締まる姿は可愛らしいが、その中は男に抱かれるために清められ、既に大量のローションが注入されて愛液に濡れるごとくぬらぬらと湿っているのかと思うと気が遠くなるほどだった。

「う、うるさいな……しょうがないだろ」
「そうだなー。しょうがないよなぁ」

  耳まで羞恥に赤く染めながら背後を睨みつける尚だったが、そんなものはこちらの情欲を煽るだけだ。現に男はにやにやと下品に脂下がり、からかうように白い尻肉にかぶりつき始めた。滑らかな皮膚をなめくじのような舌がぬらりと舐め上げ、時折当たる顎髭が痛いのかくすぐったいのか、尚が身をよじる。

「あ、ばか、舐めるなよ……ンなとこ……」
「尚はお口が止まってんぞ」

  男の舌先がピンク色の窄まりをくにくにとくじり始めた。時に舌全体でやわらかに舐め上げ、時に尖らせた舌先で固く閉じた蕾の中へ侵入しようとする、緩急をつけた動きに翻弄され、男の言葉どおり、尚の手も口も完全に止まっていた。

「ヌいてくれるんじゃなかったのか?」

  今度は指で肉蕾を撫でながら男が煽る。催促するかのように、熱を発する巨根が下腹の上でのたうった。顔に似合わず負けず嫌いなところのある尚は、ひとつ息をつくと、再度屹立に顔を寄せ、ミルクを飲む子猫のように、赤い舌を出してぺろぺろと裏筋を食むように舐めた。綺麗な顔を自らの唾液と男の体液で汚しながらも、グロテスクな肉塊に愛しげにしゃぶりつく姿はまるで前衛作品のようですらあった。美は醜とのコントラストでより輝くのだ。

「ん、んっ……!」

  だが、それもすぐに快楽に打ち破られた。分厚い癖毛に埋もれた柳眉を寄せ、甘く切なげな声が漏れ、恥ずかしげに尚は首を振った。男の太い指が尚の雄膣に侵入したのだ。太い節が出入りする度に、ピンク色の蕾が収縮するさまは、まるで吸いつく唇のようだった。

「あ、ああっ、……ひーちゃん、そこ、だめだって……。良すぎて、イッちゃうよ……」

  男の指はある一点を集中的にこね回していた。恐らくは生殖器の裏側にある前立腺。それは尚の身体の隅々までに雌の快楽を流し込んでいく。まるで感電したかのように、髪の毛から指先に至るまでを甘い電流に震わせ、尚は浅黒い下腹の上で目を閉じた。尚の身体を知り尽くした男は指を増やし、更に追い立てていく。

「イッちゃっていいよ。我慢しないで」

  男はおためごかした優しい声で囁いたが、その顔には征服の優越に歪んだ笑みが貼りついていた。自らの手で雌に堕とす悦びとは、これ以上なく雄のプライドを満足させるものであり、何物にも代え難い。二本に増えた男の指は、執拗に熟れきった前立腺をこね回し、更に親指でふっくらと張り出した会陰を押さえ込んだ。内から外から容赦なく責められてはひとたまりもない。

「あっ、ああああっ、イッ、くぅぅ……!」

  がくがくと腰を跳ね上げ、しなやかな背中を波打たせながら、尚は甘い嬌声をあげて絶頂した。その顔は快楽にとろけ切り、赤く上気した頬はかすかに涙で濡れていた。拭うことすら忘れた涎で赤い唇がぬらぬらと照り光る。理性を刈り取る雌の快楽にだらしなく緩み、美の均衡を著しく崩した尚の顔は、この上なく雄を誘惑する淫の香に満ち満ちていた。
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