成れの果て

真鉄

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「あ……? あっ、待てっ! 止まれっ! やっ、やっ、やめ、や……っ!」

 俺のちんぽを包み込んだ気持ち悪い肉の塊は、射精直後の敏感さなど知ったことかと言わんばかりに上下のストロークを再開し始めた。神経を直接やすりがけられるような快感から逃れようと俺は必死になって身を捩らせた。だが、身体中にみっちりと絡みついた触手のせいで腰を後ろに逃すことすら叶わない。

 何でこんなことになっちまったんだ――。俺は溢れる涙も、鼻水も、涎も拭うことが叶わないままに、快楽で狂いそうな頭の片隅で考える。弟の優斗の代わりに部屋に巣食っているこいつは何なのか。昨日は優斗が遅くまで帰って来なかったことと何か関係はあるのか。弟はどこへ行ったのか。何故この化け物は俺にこんなことをするのか。疑問は尽きない。

「あっ、ヒィっ……!」

 だが、それに対する答えなど、今の俺には見つけられるはずもなかった。考えた端から思考が快楽に塗り潰されていくのだ。みっちりと吸いつく肉襞だけでなく、肉穴に刻まれた伸縮に富んだ幾つもの狭いくびれを亀頭が通過するたび、気が遠くなるほどの快感がビリビリと俺の理性を灼いていく。普段は包皮で守られている分めちゃくちゃ敏感な亀頭を、ぬるついた肉で吸いつき、こすられ続けているのだからたまったもんじゃない。

 最初は刺激が強すぎて尿意に似た強い感覚しか覚えなかったが、しばらく過ぎて、俺のちんぽは再び射精に向けてガチガチになりつつあった。俺を押し包む得体の知れない肉塊は、男をイカせるのに特化した形をしていたのだ。

「あっ、あっ、ちくしょ、またイクっ……!」

 食いしばった歯の間から漏れたうわごとに、肉塊が反応し、にわかにストロークを強めた。肉塊の先端に開いた狭い穴から、真っ赤に充血した俺の亀頭がにゅぷにゅぷと顔を何度も覗かせる。狭いくびれがカリを舐めるのがまた気持ちいい――。

「――っっっ!」

 熱いものが尿道を駆け上がる。何に遮られるものもない射精の解放感に、俺はもう声も出なかった。一回めと同じぐらいに大量の白濁が、俺の足許にわだかまる肉塊に降り注いだ。喜ぶように触手がうねる。こいつは本当に意思を持っているのだ。それなら、意思疎通もできるのでは――? 俺は荒い息をつきながら、方法を考えようとした。

「うっ、ぐ、やめ……っ」

 だが、それもすぐに邪魔されてしまう。ちんぽを包み込んでいた肉塊の動きがやっと止まったかと思うや、枝分かれして細く伸びた触手が真っ赤に充血した鈴口に吸いつき始めたのだ。尿道の中の精液の残滓がじゅるじゅると吸いこまれ、あまりの気持ちよさに俺は熱い息を吐いた。

 ヒルが亀頭に食らいついているようなグロテスクな光景なのに、この身を襲う快感の凄まじさの前にはそんなものは障害にもならなかった。肉ヒルは更に精液を求めるように、頭をぐりぐりと鈴口に押しつけ始めた。まるで舌先でくすぐられているような――

「ひっ、ぐっ、おい、やめろっ……!」

 灼けつくような快感に、俺は思わず制止の言葉を口走った。だが、肉ヒルはぐねぐねと身体を左右に捻りながら、俺の中に入りこもうとするのを一向に止めようとはしなかった。やはり言葉など理解できない下等動物でしかないのか。俺は歯を食いしばり、果たして意味があるのか分からないが、小便を堪えるように下腹に力を込めた。今の俺に動かせるのは体内の筋肉だけなのだ。内腿の腱が強い緊張にがくがくと痙攣する。

「――ひっ……!」

 すると、肉ヒルはまるで嘲笑うかのようの自身を急激に太らせた。恐らくは2、3ミリ程度のことだろうと思うのだが、それだけで存在感はいや増し、こいつの気分次第では尿道が裂けるほどに太くなることだって可能なのだと思い出して、一気に血の気が引く。

 俺は屈辱に泣きながら、ゆっくりと下半身の力を抜いた。

「んっ、んっ、――ああっ、くそっ……!」

 ぶじゅ、ぶじゅ、と鈴口と肉ヒルの隙間から大量の分泌液が漏れ出した。その途端、ちんぽが中から熱くなり、むず痒さが襲い始める。身体中に塗りたくられ、擦りこまれたこの粘液はひどく曲者だった。むず痒く、肌がかすかに熱を持っている。自分で掻き毟ることのできないこの状況では、それがたとえ気色の悪い化け物でも、身体中を這い回ることを歓迎してしまうからだ。それに――何だか、身体中の皮膚が敏感になってしまっているような、気がする。

「あっ、あっ、……ん、ああっ、はっ……!」

 肉ヒルがのたくり、分泌液を溢れさせながら尿道を前後するたびに、ちんぽの中は熱くなっていく。行きつ戻りつを繰り返していた肉ヒルだったが、竿の根元辺りまで到達すると、急に動きを止めた。

「……ちょ、やめ、やめろっ、も、漏れるっ……!」

 恐らく、尿を堰き止めている括約筋に阻まれているのだろう。肉ヒルはこじ開けるように先端を左右に捻りこみ始め、俺は尿道内で肉ヒルが暴れる衝撃と、突然引き起こされた擬似的な強い尿意に思わず叫んだ。ずむ、ずむ、と頭突きを繰り返し、ぐりぐりと頭を捻り、ゆっくりと、確実に肉ヒルは奥に押し入りつつあった。

「や、やめ、てくださいっ! 漏れ……、漏れっからァっ……!」

 いつしか言い慣れるようになっていた嘆願を口走りながら、俺は歯を食いしばる。身に受けている感覚に最も近いのは尿意なのだが、それだけではないのが怖かった。背筋を突き抜けていくような甘く鋭い快感が、肉ヒルが奥で暴れるたびに身を苛み始めていたのだ。

「――……っ!!」

 腹の奥で起こった衝撃に俺は叫んだ――と思ったが、それは声になっていなかった。ついに肉ヒルが括約筋を通り抜け、その奥に到達したようだった。またしても分泌液が鈴口から大量に漏れ出し、その途端、腹の奥がかっと熱くなる。

「――……ぁぁあああっ! あっ、あっ、やああぁぁっ!」

 そんな中、尿道の奥に食いこんだ肉ヒルが、バイブのように震え出したのだからたまらない。今までに感じたことのない、感じまいと努めてきた、射精のような一過性のものとは次元の異なる快感が、腹の奥で爆発したのだ。みっちりと固定されているにもかかわらず、がくがくと腰がせり上がった。目の前がちかちかと瞬き、自分が目を開けているのか閉じているのかすら分からない。

「ひっ、いいいぃぃっ……! とめ、てっ! むりむりむりっ! 変になるっ! も、むりっ……!」

 自分でも、もう何を言っているのか分からなかった。ただとにかく、もしもこの爆発的な快感がこれ以上続いたら気が狂ってしまうという恐怖に突き動かされ、俺はただ、とにかく止めるよう懇願し続けた。

「がああぁぁっ……!」

 だが、まるでそんな俺を嘲笑うかのように、肉ヒルは全身に巻きつけていた触手を蠢かせるだけだった。その中でも、ぬるぬると胴体から這い上がり、首を一巻きして俺の頬や耳や唇をしきりに撫で回す一本の触手が目障りで仕方がなかった。得体の知れないものに頭部を触られることほど不安を誘い、不快に思うことはない。

(やめろ、気持ち悪りぃ! 触んな!)

――……めてよ、兄さん……気持ち悪いよ……。

 心の中で喚いた言葉に触発されてか、不意に記憶の扉を開いてフラッシュバックした弟の声に、思わず俺は目を見開いた。激しく頭を振る。それは思い出したくないことだ。やめろ。弾き飛ばされもせず、蛞蝓のように頬に貼りついたままだった触手が苛立たしげにうねる。

「ちくしょ……、あ、がっ! やめ、無理無理無理、っあああぁぁぁ……!

 灼熱の快感に俺は声もあらん限りに叫んだ。ちんぽに挿さった肉ヒルが歪に形を変え、唐突にところどころを瘤のように膨らませたかと思うと、ずるん、ずるんとほとんど抜き去らんばかりの深いストロークで尿道を前後し始めたのだ。張り出した丸い瘤がずるりと侵入するたびに、鈴口と括約筋に存在感を刻みこむ。勿論、奥を責めることも忘れない。目も眩むような凄まじい快感の嵐に、俺はもう身も世もなく泣き叫び、身を捩り、ただ翻弄されていた。ちんぽはただ熱く、もう何をどうされているのかも分からない。

「あっ、……ああぁぁ……」

 だから、突然肉ヒルを抜かれ、いつの間にかだらりと萎えていたちんぽから小便が漏れた時も、ただ情けない声をあげる他、俺にはなす術がなかった。フローリングと、足許にわだかまる化け物の身体に、ほとばしる小便がびだびだと降りかかる。下腹は強すぎる刺激に麻痺し、ただじんじんと熱いばかりで、足にかかる熱い飛沫とほとばしる水音がなければ自分が失禁していることにすら気づかなかったかもしれない。俺の意志では排尿が止められない。下腹に力をこめているつもりだが、感覚が全く掴めない。焦燥と羞恥と恐怖に俺は首を振り立て、ただの放尿から感じる無上の快感に歯を食いしばった。

 ――気持ちいいのだ。ただの排尿行為が、散々中を弄られて敏感になったちんぽには。自分の常識と理性がこの化け物に書き換えられていく気がしてひどく恐ろしい。足許では、濡れた肉塊がびちゃびちゃと音を立てながら床の小便を嬉しげに啜っていた。こいつは俺の体液を餌にでもしているのだろうか。気色の悪い、何のために生きているのかも分からない下等生物め。

「ひ、っ……!」

 だが、俺はその下等生物にいいように嬲られている――。ようやく放尿を終えたちんぽに肉塊が再び絡みつき、瘤つきの肉ヒルが鈴口をくじる。もういやだ。やめてくれ。そう口にしたところで肉塊は聞く耳を持たず――俺の身体は体内を探られる悦びに震えるのだ。

 最初よりも尿道が拡張されたのか、肉ヒルは無遠慮に俺の中へと入りこみ、分泌液を滴らせながら深いストロークを開始する。しかも、今回はちんぽ自体に纏わりついた肉塊が屹立を覆い隠し、吸いつく襞でちんぽ全体をしごき始めたではないか。勃起し、狭くなった尿道に甘く食い込んだ歪な肉ヒルごと、皮一枚隔てた外からしごかれる衝撃たるや――

「あーっ……、あーっ……」

 内からも外からも敏感な粘膜を犯され、俺はもう口すら閉じられないままに情けない声をあげて喘ぐことしかできなかった。快楽の津波に意識は押し流され、揉みくちゃにされ、もうボロ切れのような有様だ。身体はがくがくと震え、強張り、上げたままの肩が軋んだ。イキっぱなしなのだ。まるでずっと射精が続いているような衝撃に襲われているのに、自分が本当に射精しているのかどうかも分からない。体内の肉ヒルが出てきたはしから飲みこんでいるのか、それとも――。

「あ、あ……」

 目が眩み、じわりじわりと視界が端から白い炎で舐め尽くされていく。
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