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飴と鞭
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「よぉ、吉岡。あのボケ、来月どっかに飛ばされるってよ!」
「あ……、そうなんだ。やったな」
「何だよ他人事みたいによぉ。あの後、課長とみんなで直談判に行ったんだぜ! あいつが辞めないんなら俺ら全員辞めます、つってよ。……つーか、お前もちゃんと結果報告しろよ。取引どうなったんだよ」
月曜日、フロアの前で同僚に乱暴に肩を叩かれ、俺は身体をビクつかせた。……結果。結果、か。
「……無事、俺が元サヤに収まって解決したよ。今後は多少、足元見られるけどな」
「まあその辺はしょうがねえ。けどめでたいじゃねえか! 心配事も減って、これで課長の髪もしばらくは安泰だなー」
口笛を吹かんばかりの上機嫌さに俺はくすりと笑った。と、怪訝な顔で同僚が俺の顔を覗き込む。
「てか、あのバカ飛ばしたったってメッセ入れたのに全然返さねえんだもんよ。……何かあったのか?」
怪訝な顔をする同僚に、俺はごまかすように笑った。
「……いや、別に。ちょっと忙しかっただけだ」
「……ははぁ。そういうこと」
いやらしく目を細めて笑う同僚にどぎまぎしつつ、少し興味が湧いたので訊いてみた。
「何だよ、何がそういうことなんだ」
ニヤリと笑い、同僚が自分の首筋をつついた。不意に思い当たり、顔を赤くしてつけられたキスマークを咄嗟に手で隠した。緩めていたネクタイを急いで締め直す。同僚はニヤニヤと笑い、俺に顔を近づけた。
「激しい彼女だな、オイ。羨ましいねぇ。何か雰囲気変わったなって思ったのはそういうことかぁ。ふーん」
「……変わった、って、どう?」
上目遣いで訊くと、同僚は少し目を彷徨わせ、言い淀んだ。
「うーん、何か……、色っぽくなったっつーか……。って、男に使う言葉じゃねえな! 変なこと言って悪ぃ悪ぃ」
頭を掻きながら苦笑する同僚に、俺は薄く微笑みつつも内心舌を巻いた。本当に鋭い男だ。何やら惚けたように俺を見ていた同僚の袖を引き、二人で始業間際のフロアに入る。自分の机のPCを立ち上げ、課長に遅まきながら報告のメールを書こうとした時、スマホが震えた。
――次はどんなことをして遊びましょうか
それだけの片山からのメッセージに、俺の身体の奥がじわりと熱くなった。
(了)
「あ……、そうなんだ。やったな」
「何だよ他人事みたいによぉ。あの後、課長とみんなで直談判に行ったんだぜ! あいつが辞めないんなら俺ら全員辞めます、つってよ。……つーか、お前もちゃんと結果報告しろよ。取引どうなったんだよ」
月曜日、フロアの前で同僚に乱暴に肩を叩かれ、俺は身体をビクつかせた。……結果。結果、か。
「……無事、俺が元サヤに収まって解決したよ。今後は多少、足元見られるけどな」
「まあその辺はしょうがねえ。けどめでたいじゃねえか! 心配事も減って、これで課長の髪もしばらくは安泰だなー」
口笛を吹かんばかりの上機嫌さに俺はくすりと笑った。と、怪訝な顔で同僚が俺の顔を覗き込む。
「てか、あのバカ飛ばしたったってメッセ入れたのに全然返さねえんだもんよ。……何かあったのか?」
怪訝な顔をする同僚に、俺はごまかすように笑った。
「……いや、別に。ちょっと忙しかっただけだ」
「……ははぁ。そういうこと」
いやらしく目を細めて笑う同僚にどぎまぎしつつ、少し興味が湧いたので訊いてみた。
「何だよ、何がそういうことなんだ」
ニヤリと笑い、同僚が自分の首筋をつついた。不意に思い当たり、顔を赤くしてつけられたキスマークを咄嗟に手で隠した。緩めていたネクタイを急いで締め直す。同僚はニヤニヤと笑い、俺に顔を近づけた。
「激しい彼女だな、オイ。羨ましいねぇ。何か雰囲気変わったなって思ったのはそういうことかぁ。ふーん」
「……変わった、って、どう?」
上目遣いで訊くと、同僚は少し目を彷徨わせ、言い淀んだ。
「うーん、何か……、色っぽくなったっつーか……。って、男に使う言葉じゃねえな! 変なこと言って悪ぃ悪ぃ」
頭を掻きながら苦笑する同僚に、俺は薄く微笑みつつも内心舌を巻いた。本当に鋭い男だ。何やら惚けたように俺を見ていた同僚の袖を引き、二人で始業間際のフロアに入る。自分の机のPCを立ち上げ、課長に遅まきながら報告のメールを書こうとした時、スマホが震えた。
――次はどんなことをして遊びましょうか
それだけの片山からのメッセージに、俺の身体の奥がじわりと熱くなった。
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