飴と鞭

真鉄

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飴と鞭

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  ざーっ、と水の流れる音がした。片山がしゃがみこみ、洗面器に水を張っていた。今度は何をする気なのか、俺には見当もつかない。この男が何を考えているのかなんてかけらも分からない。こちらに背を向けて何かをしている片山が振り返り、洗面器を滑らせた。俺の足に当たり、ばしゃ、と水が跳ねる。

  全身を見せた片山の手には巨大な注射器のようなものが握られていた。俺はそんなものはコントの小道具としてしか見たことがなかった。だが、ギラついた目の片山が握るとそれは禍々しい凶器にしか見えなかった。俺は扉に背を擦り付けてわなないた。

「な、何だ、それは」
「これで水を入れて、吉岡さんの中を綺麗にするんですよ」
「中……?」

  理解できずに縮こまる俺の脚を掴み、片山は残忍に笑う。

「お尻の中ですよ。さあ、自分で脚を開いてください」

  つまり、浣腸をするとこいつは言いたいのか。小便だけで飽き足らず、大失禁までさせようと言うのか。俺は弱々しく首を振った。

「い、嫌だ。お願いです。嫌です、やめてください、お願いします」
「大丈夫ですよ。直腸の中を綺麗にするだけですからね。ちょっと汚れた水が出るだけです」

  まあ別に、うんちも出しちゃっても構いませんけどね、と片山が優しく笑う。このイカれた男に俺の言葉など通じないのだ。閉じていた脚を割り開き、胴体に押し付けると強引に俺の手を添えさせる。自ら股間を見せびらかすように開いた屈辱的な姿勢に涙がこぼれた。

「へえ、吉岡さんって、ここには毛が生えてないんですね」

  膝の裏に手を差し入れ自ら局部を見せびらかす俺の写真をスマホに収めると、片山は尻肉を押し広げ、自分でも見たことのない後肛をじっくりと眺め回した。羞恥に気が遠くなる。

「薄いココア色って言うのかな、すごくいやらしい色してますよ。……ふふ、ひくひくしてますね。かわいいなぁ」

  巨大な浣腸器の先で蕾をつつかれ、身をすくませた。何がかわいいだ。キチガイ。変態。俺は唇を噛み締め、心の中で罵る。濡れた浣腸器の嘴が、つぷ、と俺の中に潜り込む。思わずきつく肛門を締め、異物の侵入を拒否した。片山が拒む後肛を優しく指先で撫で、諭すように俺に言う。

「駄目ですよ、力抜かなきゃ。この注射器、ガラス製なんですから下手したら割れて怪我しますよ?」

  想像してひゅっと血の気が引いた。その隙に嘴が中に入り込み、ぬるい湯の奔流が身体の中に入り込む。気持ち悪さに俺は呻いた。全身をびっしりと冷たい汗が濡らす。

「うう……っ」
「もう少し入れましょうね」

  そう言うと、片山は容赦なく次々とぬるま湯を入れていった。嘴が後肛から抜け、俺は漏らしたくない一心できつく締め付けた。早速、腹が鈍痛に苛まれ始める。ぐるぐると恐ろしい音が身体の中から鳴り響き、脚を押さえる手が苦痛に震えた。片山の指が汗に濡れた俺の額に張り付いた前髪を梳かし、苦痛に歪む俺の顔を楽しげに覗き込んだ。

「このまま十分ぐらい出さずに我慢してください」

  絶望に目の前が真っ暗になった。固く目を閉じ、荒い息を吐いた。懸命に後ろを食い締めるが、脚を割り開いたこの姿勢では我慢も効きづらい。ひくひくと後肛がわなないているのが自分でも分かった。

「っあ、やめ……!」

  突然、性感が走り、俺は身体をビクつかせた。目を開けると、片山が柔らかい俺のペニスを手で緩くしごいていた。痛みと快感で俺の身体は混乱しきっていた。足指を丸め、内腿を震わせ、俺は唇を噛み締めて身体を襲う刺激に耐え、ひたすら後肛に力を込め続けた。

「あは、勃ってきましたよ。吉岡さん、気持ちいいですか?」

  そんなわけないだろ変態野郎。しかし、確実に片山の手の中で肉竿がむくむくと身を擡げつつあった。嘘だ。嘘だ。強く首を振ると、同時にゆらゆらと胸の洗濯バサミが揺れ、甘い疼きに似た痛みがぴりっと走る。痛みと快感が綯い交ぜに身体を襲い、俺は混乱にすすり泣いた。

「うっ……ぐ、うぅ……っ、やめ……」

  片山の指が執拗に鈴口を指の腹でくじる。そのダイレクトな刺激に気を取られ、ぴゅっと後肛から水が一筋流れ落ちた。まだ駄目ですよ、と片山が楽しげに笑い、乳首を挟んだ洗濯バサミを指で弾いた。

「うあああっ……!」

  びくびくと腰が揺れ、ぐっと肛門が盛り上がった。いけない、と思った時にはもう遅い。ぶしゅっ、と激しい音を立てて、肛門から一気に水を吐き出した。

「あっあっ、ダメ! ダメなのにっ……!」

  思わず尻を押さえようと伸ばした手を片山に押さえつけられ、無力感に俺は泣いた。手と脚を押さえ込まれ、突き出した尻から汚れた水をほとばしらせる姿を一部始終観察した片山は、興奮から頬に朱を昇らせて俺の尻を愛おしげに撫でた。

「十分は我慢してって言ったじゃないですか。いけませんね」
「ぐあっ……!」

  ねっとりとそう言うや否や、俺の尻に衝撃が走った。鏡を見ると、後肛をヒクつかせ、じっとりと濡れた尻に真っ赤な手型がくっきりとついていた。熱を持った手型を優しく爪の先でくすぐる片山の手に、俺は身を震わせて熱い息を吐いた。

「さあ、もう一回やり直しですよ。脚を持って」

  俺はおとなしく再び脚を抱え込んだ。腹に勃起したままの肉茎が揺れる。もう、痛いのか気持ちいいのか、怖いのか気持ちいいのか、気持ち悪いのか気持ちいいのか、気持ちいいから気持ちいいのか、俺には何も分からなくなっていた。 

  その後、二度の洗浄が済まされ、満足した片山が俺を立ち上がらせた。ずっと開脚していたせいか股関節ががくがくと震え、俺は思わず片山の腕にすがりついた。片山がくすくす笑い、俺の身体をタオルで優しく拭いてくれる。乳首を挟んだままの洗濯バサミと勃起したままのペニスがゆらゆらと揺れる。じわじわと身を苛む痛みに似た甘い刺激に、俺は熱い息を吐いた。

「じゃあ、寝室に行きましょう」

  遂に俺はこの男に犯されるのか、と覚悟を決める。もうこれ以上恥ずかしいことなどないだろうと、今日一日で何度思い、何度覆されただろう。汗で若干湿ったワイシャツとTシャツと洗濯バサミだけを身につけ、勃起ペニスを揺らした間抜けな姿で片山の寝室に通された。
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