快楽の牢獄

真鉄

文字の大きさ
上 下
9 / 13
闘争か逃走か

1

しおりを挟む
「……先生はよぉ、俺が欲しいときにアンタを貰うって条件、覚えてねえわけ?」
「今は駄目だと言っているだけだ。別に忘れてはいない」

  背後から抱き締めるテオドアを一顧だにもせず、スヴェンは手元の書類を真剣な眼差しで眺めている。面白くない。テオドアは唇を尖らせると、黒髪から覗くスヴェンの白い首筋に顔を埋め、鼻を鳴らした。

「……甘い匂いがするぜ。先生だって抱いて欲しいんだろ?」

  スヴェンからかすかに漂う香子蘭の実に似た甘い香り。強い性欲と、それが高じると身体から発散される甘い匂い、これはあの日以来、スヴェンの身体に残った後遺症の一つだ。スヴェンは首筋にかかる吐息と皮膚を撫でる顎髭の感触に身を震わせ、恥じ入るように背後を振り返った。眼鏡の奥の瞳は情欲に濡れていた。

「……これから用事があるんだ。その気にさせるな」
「用事ぃ?」
「ギルドマスターに呼ばれている。……メイテイカズラのことを聞きたいそうだ」

  テオドアは訝しげにスヴェンの手元に目をやった。書類には几帳面な文字がびっしりと並んでいる。どうやらメイテイカズラの生態が書かれているようだった。

「あれが、どれだけ危険な植物だったか訴えてくるつもりだ」

  書類を持つスヴェンの指に力が篭る。あの時、密かに収集した分泌液や、変質した己の精液を調べてみたが、解毒する術は未だに見つかっていなかった。身体もあの時のまま一向に元に戻らず、急激に強い性欲に襲われてはテオドアにすがる日々だ。

  腑甲斐ない身体にされてしまったあの時の蹂躙を思い出しただけでも怖気が走る。拷問にも比するほど強烈な快楽は、身を苛み、脳を灼いた。テオドアに抱かれることでスヴェンは身を襲う強い性衝動をやり過ごすことがかろうじてできているが、もしもあの時テオドアが訪れなければ――気が狂っていたかもしれない。

  テオドアの腕の中でスヴェンはぶるりと身を震わせた。正直に言えば、もしもまたあの植物に捕らわれたなら、あの時ほどに抵抗できる自信はスヴェンにはなかった。ぬるぬると全身をくまなく撫で回され、体内を甘く灼かれながら貫かれるあの甘美な快感。全身が粘膜になったかのような掻き毟るような恍惚。それは思い出しただけでも――。

「……とにかく、もうそろそろ行かなければ」

  吹っ切るようにスヴェンが立ち上がる。書類をいつも持ち歩いている大きな鞄に入れ、いつものローブではなく、シャツにベストという軽装のまま肩にかけた。カチャカチャとガラス瓶の触れ合う音がする。大事な試薬やサンプルは全てこの鞄の中に入っており、いつも肌身離さず持ち歩いているのだ。スヴェンは背後を振り返り、眼鏡の奥の濡れた目でテオドアを見る。

「いつまでかかるか分からないが、ここで待っていてくれるか?」

  控えめな誘いの言葉にテオドアはにやりと笑い、勝手知ったる様子でスヴェンのベッドに寝転ぶと手を振った。

「いいぜ。寝てたら起こしてくれ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...