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闘争か逃走か
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「……先生はよぉ、俺が欲しいときにアンタを貰うって条件、覚えてねえわけ?」
「今は駄目だと言っているだけだ。別に忘れてはいない」
背後から抱き締めるテオドアを一顧だにもせず、スヴェンは手元の書類を真剣な眼差しで眺めている。面白くない。テオドアは唇を尖らせると、黒髪から覗くスヴェンの白い首筋に顔を埋め、鼻を鳴らした。
「……甘い匂いがするぜ。先生だって抱いて欲しいんだろ?」
スヴェンからかすかに漂う香子蘭の実に似た甘い香り。強い性欲と、それが高じると身体から発散される甘い匂い、これはあの日以来、スヴェンの身体に残った後遺症の一つだ。スヴェンは首筋にかかる吐息と皮膚を撫でる顎髭の感触に身を震わせ、恥じ入るように背後を振り返った。眼鏡の奥の瞳は情欲に濡れていた。
「……これから用事があるんだ。その気にさせるな」
「用事ぃ?」
「ギルドマスターに呼ばれている。……メイテイカズラのことを聞きたいそうだ」
テオドアは訝しげにスヴェンの手元に目をやった。書類には几帳面な文字がびっしりと並んでいる。どうやらメイテイカズラの生態が書かれているようだった。
「あれが、どれだけ危険な植物だったか訴えてくるつもりだ」
書類を持つスヴェンの指に力が篭る。あの時、密かに収集した分泌液や、変質した己の精液を調べてみたが、解毒する術は未だに見つかっていなかった。身体もあの時のまま一向に元に戻らず、急激に強い性欲に襲われてはテオドアにすがる日々だ。
腑甲斐ない身体にされてしまったあの時の蹂躙を思い出しただけでも怖気が走る。拷問にも比するほど強烈な快楽は、身を苛み、脳を灼いた。テオドアに抱かれることでスヴェンは身を襲う強い性衝動をやり過ごすことがかろうじてできているが、もしもあの時テオドアが訪れなければ――気が狂っていたかもしれない。
テオドアの腕の中でスヴェンはぶるりと身を震わせた。正直に言えば、もしもまたあの植物に捕らわれたなら、あの時ほどに抵抗できる自信はスヴェンにはなかった。ぬるぬると全身をくまなく撫で回され、体内を甘く灼かれながら貫かれるあの甘美な快感。全身が粘膜になったかのような掻き毟るような恍惚。それは思い出しただけでも――。
「……とにかく、もうそろそろ行かなければ」
吹っ切るようにスヴェンが立ち上がる。書類をいつも持ち歩いている大きな鞄に入れ、いつものローブではなく、シャツにベストという軽装のまま肩にかけた。カチャカチャとガラス瓶の触れ合う音がする。大事な試薬やサンプルは全てこの鞄の中に入っており、いつも肌身離さず持ち歩いているのだ。スヴェンは背後を振り返り、眼鏡の奥の濡れた目でテオドアを見る。
「いつまでかかるか分からないが、ここで待っていてくれるか?」
控えめな誘いの言葉にテオドアはにやりと笑い、勝手知ったる様子でスヴェンのベッドに寝転ぶと手を振った。
「いいぜ。寝てたら起こしてくれ」
「今は駄目だと言っているだけだ。別に忘れてはいない」
背後から抱き締めるテオドアを一顧だにもせず、スヴェンは手元の書類を真剣な眼差しで眺めている。面白くない。テオドアは唇を尖らせると、黒髪から覗くスヴェンの白い首筋に顔を埋め、鼻を鳴らした。
「……甘い匂いがするぜ。先生だって抱いて欲しいんだろ?」
スヴェンからかすかに漂う香子蘭の実に似た甘い香り。強い性欲と、それが高じると身体から発散される甘い匂い、これはあの日以来、スヴェンの身体に残った後遺症の一つだ。スヴェンは首筋にかかる吐息と皮膚を撫でる顎髭の感触に身を震わせ、恥じ入るように背後を振り返った。眼鏡の奥の瞳は情欲に濡れていた。
「……これから用事があるんだ。その気にさせるな」
「用事ぃ?」
「ギルドマスターに呼ばれている。……メイテイカズラのことを聞きたいそうだ」
テオドアは訝しげにスヴェンの手元に目をやった。書類には几帳面な文字がびっしりと並んでいる。どうやらメイテイカズラの生態が書かれているようだった。
「あれが、どれだけ危険な植物だったか訴えてくるつもりだ」
書類を持つスヴェンの指に力が篭る。あの時、密かに収集した分泌液や、変質した己の精液を調べてみたが、解毒する術は未だに見つかっていなかった。身体もあの時のまま一向に元に戻らず、急激に強い性欲に襲われてはテオドアにすがる日々だ。
腑甲斐ない身体にされてしまったあの時の蹂躙を思い出しただけでも怖気が走る。拷問にも比するほど強烈な快楽は、身を苛み、脳を灼いた。テオドアに抱かれることでスヴェンは身を襲う強い性衝動をやり過ごすことがかろうじてできているが、もしもあの時テオドアが訪れなければ――気が狂っていたかもしれない。
テオドアの腕の中でスヴェンはぶるりと身を震わせた。正直に言えば、もしもまたあの植物に捕らわれたなら、あの時ほどに抵抗できる自信はスヴェンにはなかった。ぬるぬると全身をくまなく撫で回され、体内を甘く灼かれながら貫かれるあの甘美な快感。全身が粘膜になったかのような掻き毟るような恍惚。それは思い出しただけでも――。
「……とにかく、もうそろそろ行かなければ」
吹っ切るようにスヴェンが立ち上がる。書類をいつも持ち歩いている大きな鞄に入れ、いつものローブではなく、シャツにベストという軽装のまま肩にかけた。カチャカチャとガラス瓶の触れ合う音がする。大事な試薬やサンプルは全てこの鞄の中に入っており、いつも肌身離さず持ち歩いているのだ。スヴェンは背後を振り返り、眼鏡の奥の濡れた目でテオドアを見る。
「いつまでかかるか分からないが、ここで待っていてくれるか?」
控えめな誘いの言葉にテオドアはにやりと笑い、勝手知ったる様子でスヴェンのベッドに寝転ぶと手を振った。
「いいぜ。寝てたら起こしてくれ」
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