快楽の牢獄

真鉄

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快楽の牢獄

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  ――あれからというもの、スヴェンには二つの後遺症が残った。一つは香子蘭の実の匂いが嫌いになったこと。菓子店や焼きたてのケーキやクッキーには絶対に近寄らなくなった。そして、もう一つは――。

「テオドア、後で手伝いに来てくれ」
「ん、あいあい」

  荒くれ数人と酒場で飲んでいたテオドアの元にスヴェンが訪れ、それだけ言うとすぐに出て行った。酒を呷っていた傷だらけの男が片眉を上げた。

「何でえありゃ。薬草のセンセーだろ。何でお前が手伝いとかしてんだ?」
「つーかお前が手伝えることって何だよ?」
「手伝いって手当てとか出んのか?」

  口々に質問を投げかける荒くれ者たちにテオドアはニヤリと笑う。

「俺にしかできねえお仕事さ。まー……献血みてえなモン……かな」
「そういや珍しい血液型があるとかって聞いたことあるぜ、俺」
「へー、そんなもんがあるのかよ」

  テオドアは雑談を聞き流し、手持ちの酒を一気に呷った。席を立ち、荒くれたちに軽く手を振る。

「ンじゃ、オシゴトしてくるわ」
「いってらー」
「いいなぁ、俺も臨時収入欲しいぜ……」
「でもよー、あのセンセー最近輪をかけて気難しくなってねえ? 失敗でもしようもんならどうなることやら」
「テオドアにできんだから俺にもできるって。センセーに言っといてくれよなー」
「……んー、聞いといてやんよ。じゃあな」

  軽口を叩きながら酒場を出たテオドアは苦笑した。もしも手伝いたいと言ってる奴がいると告げたら、スヴェンはどんな顔をするだろう。――いや、万が一にも承諾されたらかなわない。これは自分と先生だけの秘密なのだ。ふしだらな灯りや誘う女たちに目もくれず、急ぎ足で夜の街を行く。酒場を訪れたスヴェンの濡れた眼差しを思い出しただけでも股間が熱くなり始めていた。

「テオ……」

  宿を訪れると、机に向かっていたスヴェンはテオドアの姿を見るや、頬を上気させて駆け寄ってきた。扉が閉まるのが早いか、テオドアの足元にひざまずき、ズボンの上から固くなりかけている股間に鼻先を埋めた。

「ああ……早く……」
「三日も我慢できねえのかい、先生」
「無理だ……。これ、が頭にチラついて……」

  腰紐をほどき、勝手に前をくつろげると、勃ち上がり始めた雄竿に愛しげに口づけた。うっとりとした表情で立ち上る雄の匂いを胸いっぱいに嗅ぐ。眼鏡が生い茂る下生えに埋まるが一向に気にする様子もない。

「そんなに俺のちんぽが好きかい」
「好き……。早く欲しい……」

  肉竿に手を当て、それでぱしぱしと鞭のようにスヴェンの唇や頬を叩くと、恍惚の表情で口を大きく開けて赤い舌を突き出した。その上に乗せてやると、乳をねだる子供のようにむしゃぶりついた。

  口いっぱいに頬張った雄竿は更に力と体積を増し、スヴェンは心を込めて精一杯唇と舌と喉で奉仕した。鼻先を下生えに埋めて限界まで飲み込む喉を指先で撫でてやると、苦しげにひそめられていた眉根が緩み、きゅうきゅうと喉が締まった。

「先生、そんなにされたらイッちまうよ。口に出していいのかい」
「……らめ、中に出して……」

  唇と赤黒い先端に太い唾液が繋がったまま、スヴェンが上目遣いでねだる。全く、素直になったものだ、とスヴェンは苦笑した。

  もう一つの後遺症。それは、未だに快楽の牢獄に囚われていることだ。普段は以前に増して排他的な態度を取っているにもかかわらず、一度性欲に火がつくともうテオドアの、いや、テオドアとの激しいセックスのことしか考えられなくなってしまう。身体から媚薬は抜けた。だが、壮絶な快感は物覚えのいい頭にすっかり刻み込まれてしまったようだった。

  排他的で気難しい堅物の顔と、自分の前でだけ見せるいやらしく笑う多淫の顔。そのギャップにテオドアは陥落した。早くこの淫乱をよがり泣かせて絶頂に叩き込んでやりたい。テオドアはスヴェンに激しく口づけながらもどかしい思いで寝台へと歩を進めた。

  テオドアもまた、スヴェンとともに快楽の牢獄に囚われていた。


(了)
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