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番外編02試験結果(2)
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「……エルシー」
「殿下……」
「ここまでがんばってくれて、ありがとう」
「約束しましたから」
エルシーはにっこりと笑い、ライナスを見上げる。会うのも、言葉を交わすのも久々で、なんだか少しだけ気恥ずかしい。
ライナスはそんなエルシーの笑顔を見下ろしつつ、胸元から小箱を取り出した。ぱかりと箱を開け、中からネックレスを取り出す。空になった箱は、トレイシーがすかさず回収していった。
ネックレスはゴールドのチェーンで、真ん中にライナスの瞳の色のような青い石が付いている。宝石から透けて見える台座には、王家の紋章がほどこされていた。
「エルシー、後ろを向いて」
「はい」
エルシーがくるりと後ろを向くと、ライナスが後ろから腕を回してネックレスをつける。
久々のライナスの体温に胸の鼓動が騒がしくなって、少し指先がうなじに触れるだけで、そこがひどく熱い。
「正式な婚約者となった証に、これを送るよ。……よし、できた。こっちを向いて?」
また、くるりとエルシーは体の向きを変えて、ライナスを見上げる。
ライナスは、ネックレスをつけたエルシーを見つめて、満足気に頷いた。
「思ったとおり、よく似合ってる。これからは、肌身離さずつけていて」
「ありがとうございます、殿下」
二人の様子に、周りにいた講師陣が拍手を送った。
◇
試験に合格したとはいえ、まだまだ学ぶべきことはたくさんある。また、次の日からエルシーの王城通いが再開された。
王城に到着して、馬車を降りると、とことこと足音が聞こえる。城の方を見やると、ユージンがこちらへと走ってきていた。その後ろから、女性が追いかけてきている。
「エルシー!」
「ユージン殿下!」
エルシーは反射的に屈んで、走り寄ってくるユージンを抱き止めた。腕の中で、ユージンはひまわりのような笑顔でエルシーを見上げる。
「エルシー! おめでとう!」
「ありがとうございます。わざわざ、それを言いにここまで来てくださったのですか?」
「うん!」
「ユージン様! やっと追いつきました……」
息を切らした年配の女性が二人を見下ろす。ユージンは女性のことを気にもせず、エルシーの腕の中で満足気にしている。
エルシーは女性を見上げて、少しだけ困った顔をした。女性も眉尻を下げて、申し訳なさそうにしている。
「ユージン様、お嬢様が困っていらっしゃいますよ」
「……はーい」
しぶしぶエルシーから離れたユージンを女性は自分の方へ引き寄せ、改めて礼をとった。
「申し遅れました。ユージン様の乳母を務めております、アルマ・クーデルと申します。お嬢様、此度のこと、お祝いを申し上げます」
「ありがとう」
「本日は、ユージン様とお嬢様のお迎えにあがりました」
「お迎え?」
エルシーはアルマの言葉に首を傾げる。すると、ユージンが待ちきれない様子で口を開いた。
「今日は、エルシーに僕の勉強を見てほしいんだ!」
「ユージン様の勉強ですか?」
「ええ、実は、講師が所用でお休みになってしまいまして……困っていたところにライナス皇太子殿下が通りがかられて、お嬢様にお願いするようにと」
「お兄様にね、エルシーを頼むってお願いされたの!」
エルシーにユージンを頼むではなく、ユージンにエルシーを頼むとはどういうことだろうと疑問を感じつつも、エルシーは2人について城へ入る。
人の気配を感じて振り返ると、フィルが無言で後ろからついてきていた。
「フィル様……ごきげんよう」
「様は必要ありません、クルック嬢。本日は、殿下より、ユージン殿下とあなた様と行動を共にするように言い付けられております」
「そうなのですね……」
上機嫌でエルシーとアルマの手を引くユージンと、いつも通り無口なフィルを見比べる。
フィルがいれば、以前のように監禁されるような罠に嵌るようなことはないだろう。気を取り直して、エルシーはユージンの話に歩きながら耳を傾けた。
しばらくして目的の部屋に着くと、ユージンはエルシーの手を離し、勉強の準備を始める。準備が終わるのを見守っていると、アルマがエルシーに近づいてきた。
「お嬢様、先ほどはユージン様を抱き止めていただき、ありがとうございました」
「そんな、大したことではないわ」
エルシーは笑顔でアルマに答える。アルマは首を振り、悲しそうな顔をして、ユージンを見つめた。
「いえ、ラブキン卿や王妃陛下と慕っていた方々が次々に亡くなり、ユージン様はここの所、以前よりも落ち着きがないのです」
「……そうだったのね」
「私もなるべくおそばを離れぬよう注意しておりますが、お嬢様があたたかく迎えてくれたこと、きっとユージン様は嬉しかったことでしょう」
エルシーは、ふと、いつかの王妃の言葉を思い出す。ダルネルが亡くなった時、悲しみふさぎこむユージンに、王妃はきっとこの経験を乗り越えてくれるだろうと話していたことを。
ユージンのためになるならば、私に出来る限りのことをしよう。そう思いながら、エルシーはユージンの勉強を見るため近づいた。
「殿下……」
「ここまでがんばってくれて、ありがとう」
「約束しましたから」
エルシーはにっこりと笑い、ライナスを見上げる。会うのも、言葉を交わすのも久々で、なんだか少しだけ気恥ずかしい。
ライナスはそんなエルシーの笑顔を見下ろしつつ、胸元から小箱を取り出した。ぱかりと箱を開け、中からネックレスを取り出す。空になった箱は、トレイシーがすかさず回収していった。
ネックレスはゴールドのチェーンで、真ん中にライナスの瞳の色のような青い石が付いている。宝石から透けて見える台座には、王家の紋章がほどこされていた。
「エルシー、後ろを向いて」
「はい」
エルシーがくるりと後ろを向くと、ライナスが後ろから腕を回してネックレスをつける。
久々のライナスの体温に胸の鼓動が騒がしくなって、少し指先がうなじに触れるだけで、そこがひどく熱い。
「正式な婚約者となった証に、これを送るよ。……よし、できた。こっちを向いて?」
また、くるりとエルシーは体の向きを変えて、ライナスを見上げる。
ライナスは、ネックレスをつけたエルシーを見つめて、満足気に頷いた。
「思ったとおり、よく似合ってる。これからは、肌身離さずつけていて」
「ありがとうございます、殿下」
二人の様子に、周りにいた講師陣が拍手を送った。
◇
試験に合格したとはいえ、まだまだ学ぶべきことはたくさんある。また、次の日からエルシーの王城通いが再開された。
王城に到着して、馬車を降りると、とことこと足音が聞こえる。城の方を見やると、ユージンがこちらへと走ってきていた。その後ろから、女性が追いかけてきている。
「エルシー!」
「ユージン殿下!」
エルシーは反射的に屈んで、走り寄ってくるユージンを抱き止めた。腕の中で、ユージンはひまわりのような笑顔でエルシーを見上げる。
「エルシー! おめでとう!」
「ありがとうございます。わざわざ、それを言いにここまで来てくださったのですか?」
「うん!」
「ユージン様! やっと追いつきました……」
息を切らした年配の女性が二人を見下ろす。ユージンは女性のことを気にもせず、エルシーの腕の中で満足気にしている。
エルシーは女性を見上げて、少しだけ困った顔をした。女性も眉尻を下げて、申し訳なさそうにしている。
「ユージン様、お嬢様が困っていらっしゃいますよ」
「……はーい」
しぶしぶエルシーから離れたユージンを女性は自分の方へ引き寄せ、改めて礼をとった。
「申し遅れました。ユージン様の乳母を務めております、アルマ・クーデルと申します。お嬢様、此度のこと、お祝いを申し上げます」
「ありがとう」
「本日は、ユージン様とお嬢様のお迎えにあがりました」
「お迎え?」
エルシーはアルマの言葉に首を傾げる。すると、ユージンが待ちきれない様子で口を開いた。
「今日は、エルシーに僕の勉強を見てほしいんだ!」
「ユージン様の勉強ですか?」
「ええ、実は、講師が所用でお休みになってしまいまして……困っていたところにライナス皇太子殿下が通りがかられて、お嬢様にお願いするようにと」
「お兄様にね、エルシーを頼むってお願いされたの!」
エルシーにユージンを頼むではなく、ユージンにエルシーを頼むとはどういうことだろうと疑問を感じつつも、エルシーは2人について城へ入る。
人の気配を感じて振り返ると、フィルが無言で後ろからついてきていた。
「フィル様……ごきげんよう」
「様は必要ありません、クルック嬢。本日は、殿下より、ユージン殿下とあなた様と行動を共にするように言い付けられております」
「そうなのですね……」
上機嫌でエルシーとアルマの手を引くユージンと、いつも通り無口なフィルを見比べる。
フィルがいれば、以前のように監禁されるような罠に嵌るようなことはないだろう。気を取り直して、エルシーはユージンの話に歩きながら耳を傾けた。
しばらくして目的の部屋に着くと、ユージンはエルシーの手を離し、勉強の準備を始める。準備が終わるのを見守っていると、アルマがエルシーに近づいてきた。
「お嬢様、先ほどはユージン様を抱き止めていただき、ありがとうございました」
「そんな、大したことではないわ」
エルシーは笑顔でアルマに答える。アルマは首を振り、悲しそうな顔をして、ユージンを見つめた。
「いえ、ラブキン卿や王妃陛下と慕っていた方々が次々に亡くなり、ユージン様はここの所、以前よりも落ち着きがないのです」
「……そうだったのね」
「私もなるべくおそばを離れぬよう注意しておりますが、お嬢様があたたかく迎えてくれたこと、きっとユージン様は嬉しかったことでしょう」
エルシーは、ふと、いつかの王妃の言葉を思い出す。ダルネルが亡くなった時、悲しみふさぎこむユージンに、王妃はきっとこの経験を乗り越えてくれるだろうと話していたことを。
ユージンのためになるならば、私に出来る限りのことをしよう。そう思いながら、エルシーはユージンの勉強を見るため近づいた。
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