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29:目覚め
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エルシーが目を覚ますと、そこはまた見覚えのない場所だった。
体のあちこちが、扉に打ちつけたためか、ひどい痛みを訴えてきていた。だんだん意識がはっきりしてくると、左手に温もりを感じる。
そこには、エルシーの横たわるベッドに突っ伏して眠るライナスの姿があった。エルシーの方へ顔を向けて、穏やかな寝息を立てている。
ライナスの伏せられた長いまつげを見ながら、左手を何度か強く握ってみる。ゆっくりと彼の瞳が開いて、青がのぞく。そして、エルシーと目があった。
その瞳がゆるやかに弧を描くのがあまりにも美しく、エルシーは見惚れそうになる。
「お、おはようございます、殿下」
「……おはよう、目が覚めたんですね。良かった。体の具合はどうです?」
「痛いですけど、我慢できます。お休みになっていたところを起こしてしまって申し訳ありません」
「いえ。眠るつもりはなかったのですが、私としたことが気を抜いてしまいました」
そう言って腕を上にあげて体を伸ばすライナスに、たくさんの疑問が次から次へと浮かんできた。
「殿下、あの、今いつですか? それに、王妃陛下は? あと、任命式はど――」
「落ち着いてください」
思いついたことを端から言っていこうとするエルシーの唇に、ライナスは苦笑しながら人差し指を当てる。
そして、虚をつかれたエルシーが静かになったのを見て、指を離した。
「私……今、はしたなかったですね……」
「そんなことは。気になるのは無理もありませんよ」
そこで、ライナスは一呼吸おいて、話し始めた。
「任命式は昨日、終わりました」
「では、私は二日間も眠って……!?」
「そうです。おそらく、体のダメージもあったとは思いますが、スキルの使いすぎも原因かと思いますよ」
その言葉にエルシーは、おずおずと頷く。あの時は体当たりに夢中で時間なんて忘れていたけれど、かなりの時間スキルを使いっぱなしだったはずだ。
「任命式は、各国からの来賓や貴族たちを集めて行う行事でしたから、急に取りやめることもできませんでした。母上とエルシーは、病気ということで通してあります」
「王妃陛下は……」
「残念ながら。あの場にいた者達には箝口令を敷いて、突発的な病による死亡という処理になりました」
ライナスはなんでもないような風にエルシーに説明をする。
さらに、王妃のことについてエルシーが尋ねようとすると、それを阻むようにライナスが口を開いた。
「エルシーが無事でよかった。あなたを危険な目に遭わせないと言ったのに、こんな怪我をさせてしまって申し訳ありません」
「いえ、そんな。私も、もっと警戒をするべきでした」
「母上から呼び出されてそれを拒むなんて、一令嬢には無理です。私の失態です」
「……でも、殿下はちゃんと助けにきてくれたではないですか。今だって、式典の後で疲れているでしょうに、私についていてくれたんですよね。感謝こそすれ、恨むことなんてありません」
「……ありがとう、エルシー」
そう言って、エルシーの左手を口元に近づけ、口付けを落とす。
エルシーの体温が高くなり、鼓動が早まっていく。
顔を上げたライナスとしばし見つめあっていると、ライナスの後ろにあったカーテンが突如開いて、アルフが顔を出した。
相変わらず、目元は長い前髪に隠されていてはっきりしない。その姿を目に入れた時、エルシーはここが医局なのだと初めて気づいた。
「あの~殿下~、ここでイチャイチャしないでくださいね~」
「イチャ……!?」
エルシーは急に恥ずかしくなり、ライナスに掴まれていた左手をはなしてもらえるようにぶんぶんと振った。
ライナスは面白くなさそうな顔をして、渋々とその手をはなす。
「御令嬢、目を覚まされて何よりです~。一通り診させてくださいね~。はい、殿下どいて~」
「アルフ、エルシーは自分の部屋にもう戻れるのか?」
「え~まだまだ痛むと思いますから、しばらくはここで過ごしていただきたいですね~。あとで痛み止め持ってきますから、飲みましょうね~」
ライナスを目上の人扱いしない言動に、このアルフという医師の青年は殿下とどういう関係なのかとエルシーは頭にクエスチョンマークを浮かべながら、彼の質問に答えていった。
あらかたの聞き取りを終えて、アルフは、エルシーの病衣の腕の部分をめくろうとする。
そして、一旦手を止め、空気のように存在感をなくしていたライナスに顔を向けた。
「さ~殿下~、そんなところからずっと見ていたら、御令嬢も恥ずかしいと思いますよ~。あと、僕は余計なことはしませんから~そろそろご退室を~」
「……あぁ、分かった。エルシー、また来ますね。ゆっくり休んで」
「はい。殿下、来てくださってありがとうございました」
アルフに背中を押されるように、ライナスはカーテンの向こうへ去っていく。
「殿下も、すっかり男なんですね~」
「え?」
「あ~御令嬢は、お気にせず~。さて、怪我の様子はどうかな~」
エルシーは、アルフの小さな呟きに首を傾げながら、彼を見つめることとなった。
体のあちこちが、扉に打ちつけたためか、ひどい痛みを訴えてきていた。だんだん意識がはっきりしてくると、左手に温もりを感じる。
そこには、エルシーの横たわるベッドに突っ伏して眠るライナスの姿があった。エルシーの方へ顔を向けて、穏やかな寝息を立てている。
ライナスの伏せられた長いまつげを見ながら、左手を何度か強く握ってみる。ゆっくりと彼の瞳が開いて、青がのぞく。そして、エルシーと目があった。
その瞳がゆるやかに弧を描くのがあまりにも美しく、エルシーは見惚れそうになる。
「お、おはようございます、殿下」
「……おはよう、目が覚めたんですね。良かった。体の具合はどうです?」
「痛いですけど、我慢できます。お休みになっていたところを起こしてしまって申し訳ありません」
「いえ。眠るつもりはなかったのですが、私としたことが気を抜いてしまいました」
そう言って腕を上にあげて体を伸ばすライナスに、たくさんの疑問が次から次へと浮かんできた。
「殿下、あの、今いつですか? それに、王妃陛下は? あと、任命式はど――」
「落ち着いてください」
思いついたことを端から言っていこうとするエルシーの唇に、ライナスは苦笑しながら人差し指を当てる。
そして、虚をつかれたエルシーが静かになったのを見て、指を離した。
「私……今、はしたなかったですね……」
「そんなことは。気になるのは無理もありませんよ」
そこで、ライナスは一呼吸おいて、話し始めた。
「任命式は昨日、終わりました」
「では、私は二日間も眠って……!?」
「そうです。おそらく、体のダメージもあったとは思いますが、スキルの使いすぎも原因かと思いますよ」
その言葉にエルシーは、おずおずと頷く。あの時は体当たりに夢中で時間なんて忘れていたけれど、かなりの時間スキルを使いっぱなしだったはずだ。
「任命式は、各国からの来賓や貴族たちを集めて行う行事でしたから、急に取りやめることもできませんでした。母上とエルシーは、病気ということで通してあります」
「王妃陛下は……」
「残念ながら。あの場にいた者達には箝口令を敷いて、突発的な病による死亡という処理になりました」
ライナスはなんでもないような風にエルシーに説明をする。
さらに、王妃のことについてエルシーが尋ねようとすると、それを阻むようにライナスが口を開いた。
「エルシーが無事でよかった。あなたを危険な目に遭わせないと言ったのに、こんな怪我をさせてしまって申し訳ありません」
「いえ、そんな。私も、もっと警戒をするべきでした」
「母上から呼び出されてそれを拒むなんて、一令嬢には無理です。私の失態です」
「……でも、殿下はちゃんと助けにきてくれたではないですか。今だって、式典の後で疲れているでしょうに、私についていてくれたんですよね。感謝こそすれ、恨むことなんてありません」
「……ありがとう、エルシー」
そう言って、エルシーの左手を口元に近づけ、口付けを落とす。
エルシーの体温が高くなり、鼓動が早まっていく。
顔を上げたライナスとしばし見つめあっていると、ライナスの後ろにあったカーテンが突如開いて、アルフが顔を出した。
相変わらず、目元は長い前髪に隠されていてはっきりしない。その姿を目に入れた時、エルシーはここが医局なのだと初めて気づいた。
「あの~殿下~、ここでイチャイチャしないでくださいね~」
「イチャ……!?」
エルシーは急に恥ずかしくなり、ライナスに掴まれていた左手をはなしてもらえるようにぶんぶんと振った。
ライナスは面白くなさそうな顔をして、渋々とその手をはなす。
「御令嬢、目を覚まされて何よりです~。一通り診させてくださいね~。はい、殿下どいて~」
「アルフ、エルシーは自分の部屋にもう戻れるのか?」
「え~まだまだ痛むと思いますから、しばらくはここで過ごしていただきたいですね~。あとで痛み止め持ってきますから、飲みましょうね~」
ライナスを目上の人扱いしない言動に、このアルフという医師の青年は殿下とどういう関係なのかとエルシーは頭にクエスチョンマークを浮かべながら、彼の質問に答えていった。
あらかたの聞き取りを終えて、アルフは、エルシーの病衣の腕の部分をめくろうとする。
そして、一旦手を止め、空気のように存在感をなくしていたライナスに顔を向けた。
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「……あぁ、分かった。エルシー、また来ますね。ゆっくり休んで」
「はい。殿下、来てくださってありがとうございました」
アルフに背中を押されるように、ライナスはカーテンの向こうへ去っていく。
「殿下も、すっかり男なんですね~」
「え?」
「あ~御令嬢は、お気にせず~。さて、怪我の様子はどうかな~」
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