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21:聞き込み
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「力になりたいですが、うちではなさそうですな」
あれから、二週間。カーティスは今日もフラれている。
「だーーー! 見つからないって!」
店を出て、頭をガシガシ。お目当ての店は見つかる気配もなかった。
◇
「エルシー」
名前を呼ばれて顔を上げると、ライナスが立っていた。エルシーは、窓際に置かれた長椅子で、読書に集中しすぎていたらしい。
「殿下、ごきげんよう」
「ごきげんよう。おや、今日はもうレポートは?」
「終わったので、本を読んでいました」
手元の本を閉じて、表紙を見せる。読んでいた本は、隣国で書かれたおとぎ話を集めた本だ。語学も兼ねて子ども向けの簡単な本にした。
「……そうですか」
レポートを手伝うためにフィルを伴って来たのだろう。資料室の入り口に目を向けると、フィルが軽く会釈したので、エルシーも返す。
「せっかく来ていただいたのに申し訳ありません」
「謝る必要などありません。私のことはお構いなく。本の続きを読んで、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
読書の続きを勧めてくるライナスに、手伝いがないからもう自分の執務室に戻るのかと、エルシーは本をまた開いて、視線を落とした。
すると、ライナスがエルシーの隣に腰掛ける。
「執務室には戻られないのですか?」
「休憩しようかと」
「ここではないところの方が休憩できると思いますが」
「……せっかく婚約者に会いに来たのに、ただ仕事に戻るなんてもったいないですから」
ライナスに目を向けると、ニコニコと微笑んでエルシーを見ていた。
「……。では、殿下も本を読んではいかがです? 読書はストレス解消にもいいそうですよ」
「なるほど。そうします」
立ち上がって資料室の本棚に向かったライナスは本を選び、また戻ってくる。
二人で並んでただ本を読むだけ。もっと居心地の悪い気持ちになるかと思ったが案外そんなこともなく、時間が穏やかに流れていく。
あと一週間で任命式の日となる。本当にライナスが言った通り、それまでにこの事件が解決するなら、こんな時間もなくなるのだ。
エルシーはそっと視線を隣に向ける。真剣な顔でライナスが本を読んでいる。何をしても絵になる人だと、目を逸らしながら、思わずため息をついた。
「大丈夫ですか? 疲れている?」
ため息に反応したライナスが視線をエルシーに向ける。エルシーは慌てて首を振った。
「大丈夫です。疲れてなんてないです」
「出かけるたびにトラブルに見舞われてますから、さすがに心労が溜まったかと」
「歌劇場の件から、もう日が経ってますし大丈夫ですよ。殿下こそ、疲れているんですよね?」
パタン、とライナスが読みかけの本を閉じる。
「心配してくれるんですか?」
悪戯っぽく微笑んだ瞳がエルシーを映した。エルシーはそれを見返しながら、真剣に頷く。
劇場での事件以来、なかなか落ち着いて話す時間が取れなかった。フィルやエルシーがいなければ、ライナスは怪我、運が悪ければ死んでいたかもしれない。きっと周りに見せないだけで、心労も疲労も溜まっているのは、ライナスの方だ。
「心配しています」
エルシーのまっすぐな瞳に、ライナスは一瞬だけ目を見開き、すぐに柔らかく微笑む。
「ありがとうございます。……私は大丈夫ですよ」
弱みを見せまいとするようなその言葉にエルシーは寂しいような、物足りないようなそんな気持ちになる。それをおくびにも出さず、表情を緩めて見せた。
◇
「どれどれ、見せていただきましょう」
城下の外れの武器屋で、カーティスは祈るような気持ちでナイフを差し出す。
任命式まであと二日。そろそろ手がかりだけでも見つかってほしい。
「……あー、このナイフなら覚えがあります」
「えっ!? 本当に!?」
「女性が買いに来ましたよ」
「女!? どんな?」
「ブラウンの髪で……えー、……それくらいしか覚えてませんな」
「長さとかは!?」
「顎くらいだったような……。それよりも、騎士様、こちらとかどうです?」
「悪いね、おっちゃん。急ぐから、また!」
店を出て、ガッツポーズ。あまり参考にならないかもしれないが、何も情報が得られないより良い。
カーティスは城に向けて、馬を走らせた。
あれから、二週間。カーティスは今日もフラれている。
「だーーー! 見つからないって!」
店を出て、頭をガシガシ。お目当ての店は見つかる気配もなかった。
◇
「エルシー」
名前を呼ばれて顔を上げると、ライナスが立っていた。エルシーは、窓際に置かれた長椅子で、読書に集中しすぎていたらしい。
「殿下、ごきげんよう」
「ごきげんよう。おや、今日はもうレポートは?」
「終わったので、本を読んでいました」
手元の本を閉じて、表紙を見せる。読んでいた本は、隣国で書かれたおとぎ話を集めた本だ。語学も兼ねて子ども向けの簡単な本にした。
「……そうですか」
レポートを手伝うためにフィルを伴って来たのだろう。資料室の入り口に目を向けると、フィルが軽く会釈したので、エルシーも返す。
「せっかく来ていただいたのに申し訳ありません」
「謝る必要などありません。私のことはお構いなく。本の続きを読んで、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
読書の続きを勧めてくるライナスに、手伝いがないからもう自分の執務室に戻るのかと、エルシーは本をまた開いて、視線を落とした。
すると、ライナスがエルシーの隣に腰掛ける。
「執務室には戻られないのですか?」
「休憩しようかと」
「ここではないところの方が休憩できると思いますが」
「……せっかく婚約者に会いに来たのに、ただ仕事に戻るなんてもったいないですから」
ライナスに目を向けると、ニコニコと微笑んでエルシーを見ていた。
「……。では、殿下も本を読んではいかがです? 読書はストレス解消にもいいそうですよ」
「なるほど。そうします」
立ち上がって資料室の本棚に向かったライナスは本を選び、また戻ってくる。
二人で並んでただ本を読むだけ。もっと居心地の悪い気持ちになるかと思ったが案外そんなこともなく、時間が穏やかに流れていく。
あと一週間で任命式の日となる。本当にライナスが言った通り、それまでにこの事件が解決するなら、こんな時間もなくなるのだ。
エルシーはそっと視線を隣に向ける。真剣な顔でライナスが本を読んでいる。何をしても絵になる人だと、目を逸らしながら、思わずため息をついた。
「大丈夫ですか? 疲れている?」
ため息に反応したライナスが視線をエルシーに向ける。エルシーは慌てて首を振った。
「大丈夫です。疲れてなんてないです」
「出かけるたびにトラブルに見舞われてますから、さすがに心労が溜まったかと」
「歌劇場の件から、もう日が経ってますし大丈夫ですよ。殿下こそ、疲れているんですよね?」
パタン、とライナスが読みかけの本を閉じる。
「心配してくれるんですか?」
悪戯っぽく微笑んだ瞳がエルシーを映した。エルシーはそれを見返しながら、真剣に頷く。
劇場での事件以来、なかなか落ち着いて話す時間が取れなかった。フィルやエルシーがいなければ、ライナスは怪我、運が悪ければ死んでいたかもしれない。きっと周りに見せないだけで、心労も疲労も溜まっているのは、ライナスの方だ。
「心配しています」
エルシーのまっすぐな瞳に、ライナスは一瞬だけ目を見開き、すぐに柔らかく微笑む。
「ありがとうございます。……私は大丈夫ですよ」
弱みを見せまいとするようなその言葉にエルシーは寂しいような、物足りないようなそんな気持ちになる。それをおくびにも出さず、表情を緩めて見せた。
◇
「どれどれ、見せていただきましょう」
城下の外れの武器屋で、カーティスは祈るような気持ちでナイフを差し出す。
任命式まであと二日。そろそろ手がかりだけでも見つかってほしい。
「……あー、このナイフなら覚えがあります」
「えっ!? 本当に!?」
「女性が買いに来ましたよ」
「女!? どんな?」
「ブラウンの髪で……えー、……それくらいしか覚えてませんな」
「長さとかは!?」
「顎くらいだったような……。それよりも、騎士様、こちらとかどうです?」
「悪いね、おっちゃん。急ぐから、また!」
店を出て、ガッツポーズ。あまり参考にならないかもしれないが、何も情報が得られないより良い。
カーティスは城に向けて、馬を走らせた。
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