王子に婚約を迫られましたが、どうせ私のスキル目当てなんでしょう?ちょっと思わせぶりなことしないでください、好きになってしまいます!

宮村香名

文字の大きさ
上 下
7 / 48

06:夜会

しおりを挟む

 豪華絢爛なホールにシャンデリア。優雅な音楽が流れる。口から心臓が出そうとまたもや思いながら、エルシーはライナスの隣を歩いていた。
 周りから、ヒソヒソと二人を見ながら話す声が聞こえる。

「お兄様!」

 会場の奥へと向かって歩いていくと、こちらへ駆け寄ってくる少年がいるのに気づいた。少年は、二人の前まで来ると、小さな体で精一杯背伸びして、見上げてくる。ライナスは、さっと屈み、少年に視線を合わせて微笑んだ。

「ユージン、珍しいな。夜会に参加とは。大人の仲間入りか?」
「今日は、その……お兄様と婚約された方を見たくて。少しだけわがままを許してもらいました!」

 ユージン・ブラグデン。ライナスの歳の離れた弟だ。ライナスをそのまま幼くしたような容姿をしている。兄弟仲は問題なさそうだと、エルシーは二人の様子を見ていた。
 
「そうか。ユージン、紹介しよう。こちらが私の婚約者、エルシーだよ」
「エルシー・クルックと申します。ユージン殿下、お会いできて光栄です」

 エルシーもユージンに目を合わせるように屈んで挨拶をすると、目をキラキラさせて、興味津々という風に見つめてくる。

「エルシーってよんでもいい? ですか?」
「ええ、もちろん。敬語も必要ございません」
「あのね! お兄さまはとっても優しくて、とっても強いんだ!」
「自慢のお兄様なのですね」
「そうだよ! エルシーはお兄さまのどんなところが好き?」

 思いがけない質問にエルシーは、目を瞬いた。ライナスがユージンの頭を撫でながら、諌める。
 
「ユージン、いきなりする質問ではないだろう。エルシー、弟は、あなたに会えて気分が高揚しているようです。許してほしい」
「もちろんです。ユージン殿下、今後ともよろしくお願いします」
「うん!」

 何度も頷くユージンの後ろから、ユージンの名前を呼びながら近づいてくる男がいる。

「あっ! ダルネルが来ちゃった!」
「ユージン王子! 私から離れないと約束したでしょう。王妃陛下からも頼まれているんですから。言うことを聞いていただきたい」
「ごめんなさーい」

 男は、やれやれと首を振るが、ユージンを見つめる表情からは怒りよりも愛情を感じる。誰なのだろうと疑問に思いながら見ていると、男がライナスとエルシーに頭を下げた。
 
「ライナス王子殿下、ご挨拶が遅れました。本日も、ご機嫌麗しゅう。そして、婚約者候補の決定、おめでとうございます」
「ラブキン卿、ありがとうございます。あなたがいつも通りユージンのお目付け役なのですね」
「ええ、ユージン王子がどうしてもと言うので……。ですが、目的は達成されたようですね」

 ダルネルの視線がエルシーに向けられる。

「ダルネル・ラブキンです。ユージン王子の教育係を一任されております」
「エルシー・クルックです。以後お見知りおきを」
「ええ、王城にいる者同士、またどこかでお会いすることもありましょう。もう少しお話ししたいのですが、私達はこれにて失礼させていただきます」
「えー! もっとお話したーい!」
「ユージン王子、一目見たら帰るとお約束したでしょう」

 ユージンが頬を膨らませて、駄々をこねる。可哀想だが、まだ子どもなので、本格的に夜会に参加することはできないのだ。ダルネルの側から離れないというのを条件に特別に許されたものであったらしい。
 ダルネルは、ユージンに言い聞かせながら、その手を引いて急ぎ足で会場から出ていく。ユージンが振り向き、手を振ってきたので、エルシーも手を振って見送った。

「ユージン殿下から慕われていらっしゃるんですね」
「歳の離れた兄弟ですから、どうしても甘くなってしまいますね。さて、エルシー、父と母の元へ行きますが、大丈夫ですか?」
「……はい、大丈夫です」

 会場の奥の少し高くなっているところに、ゆったりと二人が腰掛けているのが見えた。エルシーは、ごくりと唾を飲み込む。

「父上、母上。ご機嫌麗しゅう。お話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ライナス、来たか。もちろんだ」
「そちらが、あなたの選んだ婚約者候補ね?」

 エルシーは、ライナスと組んでいた腕を離し、慎重にカーテシーをする。
 
「……国王陛下、王妃陛下、こうしてお声を直接かけていただけること、誠に恐悦至極にございます。エルシー・クルックと申します」
「よいよい、直れ」
「真面目に教育を受けていると、講師陣からも評判よ。頑張ってるのね」

 王と王妃の優しい言葉に、エルシーは顔をあげる。二人は言葉と違わず、優しい眼差しを向けていた。

「なかなか、ライナスの婚約者が決まらないものだから、やきもきしていたの。あなたのような令嬢が見つかって良かったわ」
「だから、本人に任せろと言っていたのだ」
「あなたは、放任しすぎなの。実際、私のパーティーでエルシーは見つかったのよ」
「そうだった、王妃のおかげか。感謝せねばな、ライナス」
「ええ、母上にはいつも感謝していますよ。心配をかけましたが、こうして、愛らしい婚約者に出会うことができました」

 ライナスの手が腰に周り、ぐっと引き寄せられて、顔を覗き込むように見つめられる。寄り添うような姿勢に、ライナスを見つめるエルシーの体温は上がっていく。
 二人の様子に、王と王妃は顔を見合わせ、微笑んだ。
 
「エルシー、今度、私の部屋に遊びにいらっしゃいな」

 ライナスから目を逸らし、エルシーは返事をした。
 
「私でよろしければ、喜んで参ります」
「ライナス、時間を作るようにお願いね」
「わかりました、母上。では、私たちは会場を回ってきます」

 ライナスとエルシーは、寄り添ったまま、二人の前から退く。会場の中ほどまで来ると、ライナスはエルシーを離した。

「やりすぎじゃないですか」
「あなたが失格になる可能性は少しでも減らしておきたいのです」

 小声で赤い顔のまま文句を言うエルシーに、ライナスは悪びれもせず微笑んだ。そして、近くにいた使用人から飲み物を受け取り、エルシーに渡す。

「喉、乾いたでしょう。飲んでください。何か食べ物も食べますか?」
「いえ、飲み物だけで……」

 そんな話をしている間も、挨拶をしたい貴族たちがひっきりなしにやってくる。その中には、ニナとニナの父親もおり、すっかり驚かれてしまった。その後、エルシーの父親もやってきて、心労でふらふらになったエルシーは、ライナスの計らいで、父親とひと足先に帰宅を許されたのだった。
しおりを挟む
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、お気に入りに追加を押して貰えると、大きなモチベーションになりますので応援よろしくお願いします。
感想 0

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

処理中です...