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桜の木の下で
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入学式が終わり、体育館から退場すると、列を崩してわたしの隣にやってきた。
中学から変わらない金髪は、この高校でも目立っている。
「見てっ、あの人…」
「…うわぁー、超不良!こわそ~」
「もしかして、2人付き合ってるのかな…?」
「そんなわけないでしょ!だって、どう見たって美女と野獣だよっ」
そんな声がこそこそと聞こえてくる。
「晴翔も噂されてるよ?」
「うるせー。だれが『野獣』だよ」
「わたしは『美女』だって。それは、さすがに言いすぎだよね?」
「いや。ひらりは『美女』でいいんだよ。俺だけのな」
中学のときとは違って、人前でもお互い名前で呼び合える。
それが、とても新鮮だったりする。
わたしのクラスは、1年3組。
彩奈と爽太くんは、この隣の4組だ。
2人とは離れてしまったけど、このクラスには晴翔がいる。
今は、名簿順に座っているから席は離れているけど。
1年前、隣の席になったのが懐かしい…。
「え~。それではみなさん、ホームルームを始めます」
丸メガネをかけた、太っちょの男の先生が入ってきた。
頭はクリクリヘアで、このちょっと変わった見た目の先生がわたしたちの担任だ。
「いきなりですが、今から席替えをします」
「「…えぇ!?」」
先生の突拍子もない発言に、クラス全員の驚きの声がこだまする。
ちょっと変わった見た目だと思っていたけど、考え方もちょっと変わっている…。
入学初日に席替えだなんて、聞いたことがない。
隣の席の人ともまだまともに話していないというのに、わたしは順番にまわってきたくじ引きの紙を引いた。
紙には、【13】の数字。
真ん中らへんの席かな?
と思いながら、黒板に描かれた座席表に目を移すと、前から順番に1番ではなく、ランダムに数字が書かれていた。
かなり見づらい…。
なんとか【13】の数字を見つけると、そこは窓際の一番後ろの席だった。
まだなにも知らないクラスを一望できる席。
ラッキー!
自分の荷物を持って、窓際の一番後ろの席へ移動する。
隣は、どんな人がくるだろうか…?
女の子…?
それとも、男の子?
どちらにしても、やっぱり初めてのあいさつは元気よくしたほうがいいよね。
そんなことを考えながら、隣に人がくるのを楽しみにして待っていた。
…ガタンッ
隣の席のイスを引く音がした。
きっ…きた…!
緊張をほぐすため、深呼吸をする。
顔の筋肉を緩めて、笑顔もつくる。
「隣の席同士、これからよろしくね!」
そう言って、振り返ると――。
「ああ、よろしく。花宮さんっ」
聞き覚えのある声。
そして、わざとらしく聞こえる『花宮さん』という呼び方。
なんと、隣の席に座ったのは――。
「晴翔っ…!?」
…だった。
こんな偶然…あるだろうか。
中学のときよりも1クラスの人数が多くて、晴翔と隣になる確率なんてとてつもなく低いのに…。
晴翔を知るきっかけとなった1年前と同じ座席に、わたしと晴翔が並んで座る。
「隣の席だね、一条くんっ」
お返しに、わたしもわざと『一条くん』と呼んでみた。
その日の帰り。
「晴翔、帰ろー!」
「待てよ、ひらり。爽太と島田さんは?」
「先に帰るって連絡あったよっ」
わたしは、下駄箱で上靴を脱ぐ晴翔の腕を引っ張る。
そして、ローファーに履き替えた晴翔がわたしの手に指を絡めてきた。
こうして、人前で堂々と手を繋げることが幸せだ。
「あ、そーだ。ここって、中庭の桜がきれいらしい」
「そうなの?じゃあ、見て帰ろうよ!」
わたしと晴翔は、手を繋いだまま中庭へやってきた。
入学式初日で、午前で終わってみんな早々と帰ってしまったため、中庭にはわたしたちの他はだれもいなかった。
「うわー!すっごくきれい!」
中庭には3本の桜の木が植えられていて、そのすべてが満開に咲き誇っていた。
落ちてしまいそうなくらい大粒の桜の花が、優しい風に揺れている。
桜の木の根本に座って見上げると、まるで淡いピンク色の空が広がっているようだった。
晴翔の肩に頭を寄せる。
木漏れ日が気持ちよくて、なんだか眠たくなってきそう。
「…ひらり」
ふと、隣からわたしを呼ぶ晴翔の声が聞こえた。
…と思ったら、その直後に唇を塞がれた。
顔を離して、ニヤリと晴翔が微笑む。
「いいだろ?ずっと我慢してたんだから」
「…もうっ。こんなところで…」
と怒ったフリをしてみたけど、実はうれしかったりする。
晴翔とは、あのボートでのファーストキス以来、一度もキスをしていなかった。
引退する前にだれかに見られるわけにはいかないということと、引退するまではアイドルを全うするために。
だから、晴翔もわたしにキスしたいのを我慢してくれていたんだそう。
「…もう1回していい?」
「ダメだよっ…!こんなとこ…マスコミじゃなくて、先生に見られたら――」
「て、言われても無理。ひらりがかわいすぎるのが悪い」
「まっ…待って、晴――」
晴翔は、わたしの言うことなんか聞いてくれない。
だけど、わたしも晴翔との久々のキスは心地よくて、とろけてしまいそうになった。
これからは、学校に登校するときも、下校するときも晴翔といっしょ。
デートだって人が多いところでも、どこへでも行けちゃう。
そんな…普通の女の子がしているようなことが、わたしもできるようになった。
好きな人といっしょにいれることが幸せすぎて、芸能界を引退したことに後悔なんてない。
これが、わたしが叶えたかった夢だから。
「…晴翔、好きっ」
「俺のほうが大好きだよ、ひらり」
この日、わたしは桜の木の下で、晴翔からの甘いキスに…何度も何度も溺れるのだった。
隣の席の一条くん。【完】
中学から変わらない金髪は、この高校でも目立っている。
「見てっ、あの人…」
「…うわぁー、超不良!こわそ~」
「もしかして、2人付き合ってるのかな…?」
「そんなわけないでしょ!だって、どう見たって美女と野獣だよっ」
そんな声がこそこそと聞こえてくる。
「晴翔も噂されてるよ?」
「うるせー。だれが『野獣』だよ」
「わたしは『美女』だって。それは、さすがに言いすぎだよね?」
「いや。ひらりは『美女』でいいんだよ。俺だけのな」
中学のときとは違って、人前でもお互い名前で呼び合える。
それが、とても新鮮だったりする。
わたしのクラスは、1年3組。
彩奈と爽太くんは、この隣の4組だ。
2人とは離れてしまったけど、このクラスには晴翔がいる。
今は、名簿順に座っているから席は離れているけど。
1年前、隣の席になったのが懐かしい…。
「え~。それではみなさん、ホームルームを始めます」
丸メガネをかけた、太っちょの男の先生が入ってきた。
頭はクリクリヘアで、このちょっと変わった見た目の先生がわたしたちの担任だ。
「いきなりですが、今から席替えをします」
「「…えぇ!?」」
先生の突拍子もない発言に、クラス全員の驚きの声がこだまする。
ちょっと変わった見た目だと思っていたけど、考え方もちょっと変わっている…。
入学初日に席替えだなんて、聞いたことがない。
隣の席の人ともまだまともに話していないというのに、わたしは順番にまわってきたくじ引きの紙を引いた。
紙には、【13】の数字。
真ん中らへんの席かな?
と思いながら、黒板に描かれた座席表に目を移すと、前から順番に1番ではなく、ランダムに数字が書かれていた。
かなり見づらい…。
なんとか【13】の数字を見つけると、そこは窓際の一番後ろの席だった。
まだなにも知らないクラスを一望できる席。
ラッキー!
自分の荷物を持って、窓際の一番後ろの席へ移動する。
隣は、どんな人がくるだろうか…?
女の子…?
それとも、男の子?
どちらにしても、やっぱり初めてのあいさつは元気よくしたほうがいいよね。
そんなことを考えながら、隣に人がくるのを楽しみにして待っていた。
…ガタンッ
隣の席のイスを引く音がした。
きっ…きた…!
緊張をほぐすため、深呼吸をする。
顔の筋肉を緩めて、笑顔もつくる。
「隣の席同士、これからよろしくね!」
そう言って、振り返ると――。
「ああ、よろしく。花宮さんっ」
聞き覚えのある声。
そして、わざとらしく聞こえる『花宮さん』という呼び方。
なんと、隣の席に座ったのは――。
「晴翔っ…!?」
…だった。
こんな偶然…あるだろうか。
中学のときよりも1クラスの人数が多くて、晴翔と隣になる確率なんてとてつもなく低いのに…。
晴翔を知るきっかけとなった1年前と同じ座席に、わたしと晴翔が並んで座る。
「隣の席だね、一条くんっ」
お返しに、わたしもわざと『一条くん』と呼んでみた。
その日の帰り。
「晴翔、帰ろー!」
「待てよ、ひらり。爽太と島田さんは?」
「先に帰るって連絡あったよっ」
わたしは、下駄箱で上靴を脱ぐ晴翔の腕を引っ張る。
そして、ローファーに履き替えた晴翔がわたしの手に指を絡めてきた。
こうして、人前で堂々と手を繋げることが幸せだ。
「あ、そーだ。ここって、中庭の桜がきれいらしい」
「そうなの?じゃあ、見て帰ろうよ!」
わたしと晴翔は、手を繋いだまま中庭へやってきた。
入学式初日で、午前で終わってみんな早々と帰ってしまったため、中庭にはわたしたちの他はだれもいなかった。
「うわー!すっごくきれい!」
中庭には3本の桜の木が植えられていて、そのすべてが満開に咲き誇っていた。
落ちてしまいそうなくらい大粒の桜の花が、優しい風に揺れている。
桜の木の根本に座って見上げると、まるで淡いピンク色の空が広がっているようだった。
晴翔の肩に頭を寄せる。
木漏れ日が気持ちよくて、なんだか眠たくなってきそう。
「…ひらり」
ふと、隣からわたしを呼ぶ晴翔の声が聞こえた。
…と思ったら、その直後に唇を塞がれた。
顔を離して、ニヤリと晴翔が微笑む。
「いいだろ?ずっと我慢してたんだから」
「…もうっ。こんなところで…」
と怒ったフリをしてみたけど、実はうれしかったりする。
晴翔とは、あのボートでのファーストキス以来、一度もキスをしていなかった。
引退する前にだれかに見られるわけにはいかないということと、引退するまではアイドルを全うするために。
だから、晴翔もわたしにキスしたいのを我慢してくれていたんだそう。
「…もう1回していい?」
「ダメだよっ…!こんなとこ…マスコミじゃなくて、先生に見られたら――」
「て、言われても無理。ひらりがかわいすぎるのが悪い」
「まっ…待って、晴――」
晴翔は、わたしの言うことなんか聞いてくれない。
だけど、わたしも晴翔との久々のキスは心地よくて、とろけてしまいそうになった。
これからは、学校に登校するときも、下校するときも晴翔といっしょ。
デートだって人が多いところでも、どこへでも行けちゃう。
そんな…普通の女の子がしているようなことが、わたしもできるようになった。
好きな人といっしょにいれることが幸せすぎて、芸能界を引退したことに後悔なんてない。
これが、わたしが叶えたかった夢だから。
「…晴翔、好きっ」
「俺のほうが大好きだよ、ひらり」
この日、わたしは桜の木の下で、晴翔からの甘いキスに…何度も何度も溺れるのだった。
隣の席の一条くん。【完】
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