隣の席の一条くん。

中小路かほ

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桜の木の下で

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…えぇ!?

ユイカちゃん…!?


「社長。私も、PEACEを抜けたいと考えていました」


…マオちゃんまで!?


突然のユイカちゃんとマオちゃんの、グループ脱退宣言。


話が入ってこないのは、社長も同じだったようで――。


「…は?ど…どうした、お前たち。自分たちがなにを言っているのか…わかっているのか!?」


こんな展開、だれが想像しただろうか。

メンバー全員が、脱退を希望しているだなんて。


「社長、なにも驚くことはありません。私も脱退する、マオも脱退する、ひらりも脱退するなら…。それこそ社長がおっしゃったように、『解散』っていうことで解決じゃないですか?」


ユイカちゃんの間違ってはいないけど、大胆な発言。


さすがの社長も頭が回らなくなったのか、「少し時間をくれ」と言って、わたしたちを追い返した。


……びっくりした。

まさか、ユイカちゃんとマオちゃんまでもが同じことを考えていただなんて…。


「でも、どうして2人があの場に…」

「実は、マネージャーからひらりのことを聞かされてさ。彼氏といるとこ撮られて、社長に追究されてるって」

「私だって隠れて彼氏がいて、“恋愛禁止”の約束破ってるのに、ひらりちゃんだけ責められるのはおかしいと思って」


マオちゃん…。

あの彼と付き合うことにしたんだ。


「そんなこと言ったら、私なんて約束破りまくりだよ!」

「ユイカちゃんが、そういう意味では一番の先輩だもんね」


2人の冗談に、思わず笑ってしまう。

解散するかしないかという、大事な話の直後だというのに。


「このまま、ファンのみんなに嘘をつき続けたまま向き合うなんてことできないよね」

「うん。そのけじめは、自分たちできっちり取ろう」

「『解散』という形で」


わたしたち、PEACEの意見がまとまった瞬間だった。



それから、しばらくの間は事務所から引き止められて、なかなか話が進まなかった。


だけど、3人の思いがみな同じということ、わたしたちの考えは決して折れないということが伝わって、ようやくPEACEの解散が決定した。


2人とも、わたしを守るためにグループ脱退を希望したわけではなかった。

それぞれ理由があった。


ユイカちゃんは高校卒業後、美容学校へ行き、将来はヘアメイクさんになりたいんだそう。


マオちゃんは、来年カナダへ留学したいと語った。

今付き合っている彼も英語の勉強が好きで、2人揃って留学の申請を出すんだそう。


そして、わたしは普通の女の子になって、堂々と晴翔の隣を歩きたい。


みんながそれぞれ、夢に向かうために下した決断だった。



事務所内でPEACE解散が決まると、すぐにテレビ局各社に伝えられた。

新聞の見出しには、【PEACE、突然の解散発表!!】という文字が大きく載った。


もちろん、メディアは大騒ぎ。

連日、テレビではPEACEの解散報道がされ、様々な憶測が飛び交った。


だけど、わたしにとってはそんなものは気にならない。


来年の3月31日をもって、PEACEは解散する。

そのために、残された活動をがんばるのみ。


『受験勉強』といっしょに。



わたしは、芸能コースのある私立高校から、家の近くの公立高校に進路を変えた。

そこは、晴翔が志望する高校だ。


晴翔だけじゃない。

この中学に通う生徒にとっては徒歩圏内の高校のため、だいたいはそこへ進学する。


もちろん、彩奈と爽太くんも。


だけど、もともとその高校へ進学予定で勉強していた3人とは違って、わたしは2学期に急遽進路を変えた。


正直、今の成績では合格できるかは微妙なライン…。


せっかく来年の春から普通の女子高生になれるというのに、わたしだけが落ちて、晴翔と違う高校になってしまったら意味がない。


だから、芸能活動が減った分の空き時間に、受験勉強に励んだ。

晴翔と彩奈と爽太くんが付きっきりで教えてくれて。



そして、4月――。


わたしは、念願の制服に袖を通した。


見事、4人全員で今日の入学式を迎えることができた。


入学式に出席すると、周りからチラチラと視線を向けられた。


「…ねぇ、あれって」

「もしかして、PEACEのひらり!?…本物!?」

「うちの学校だっていう噂はあったけど、マジだったんだ…!」


PEACEを解散したのがついこの間のことだから、まだわたしは芸能人として見られていた。


だけど、徐々に溶け込んでいって、小声で話されていたことも懐かしく思えるような日がくるに違いない。


「PEACEのひらりだって、みんな話してるぞ。『元』だって言ってやれよっ」

「…晴翔!」
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