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桜の木の下で
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晴翔もママも背中を押してくれる。
だから、あとは社長に思いを伝えるのみ。
そして、次の日――。
わたしは事務所に向かった。
社長室に入ると、なぜかにこやかな表情で社長が出迎えた。
来年は、映画とドラマの主演が確定。
さらには、ソロデビューも約束されている。
こんな好条件、普通なら断るはずがない。
きっとわたしは、仕事を優先するに違いない。
社長はそう思っている。
…だから、わたしが芸能界を引退したいと告げると、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔で口がポカンと空いていた。
「ひ…ひらり、本気か…?」
「本気ですっ。真剣に考えて決めました」
「どうした、ひらり…!?あの男のどこがいいんだ!?そんなことで、チャンスを棒に振るなっ。お前はもっと…活躍できるっていうのに!」
「わたしは、好条件でお仕事がしたいわけじゃないんです。普通の女の子に戻りたいだけなんです」
「そんなこと言ったって、PEACEはどうする…!?お前が抜けたら――」
「PEACEはわたしがいなくたって、ユイカちゃんとマオちゃんなら2人でやっていけます。2人には、わたしから話すつもりです」
ユイカちゃんとマオちゃんなら、きっとわかってくれる。
だって、ここまでいっしょにかんばってきた仲間なんだから。
わたしがそう説明すると、社長は悔しそうに奥歯を噛み締めた。
そして、思いもよらないことを口にする。
「もし、ひらりが辞めると言うのなら……。…PEACEは解散だっ!ユイカとマオは解雇する!」
突然のPEACEの解散。
それに加え、ユイカちゃんとマオちゃんの解雇発言に、わたしは言葉を失った。
「そ、そんなっ…」
『解散』という言葉は、想像していたよりもわたしの肩に重くのしかかる。
わたしが抜ければ…、PEACEは解散。
わたしのせいで、PEACEがなくなる…。
これはもう、わたし1人のわがままでどうにかなる問題ではなかった。
「…どうする、ひらり?今ならまだ間に合う。バカな考えはやめて、これまでのようにいっしょにがんばっていこうっ」
「社長……」
わたしは、すでに行く手を阻まれてしまった。
『PEACE』を人質に取られては…。
わたし1人だけでは、このピンチを切り抜けることはできない。
覚悟を決めて今日ここへきたというのに、わたしはこのまま社長に従うしか…。
――そう諦めかけていた、そのとき。
「「待ってくださいっ!!」」
社長室のドアが勢いよく開いた。
そこへ現れたのは――。
「…2人とも!どうしてここへ…!?」
「ひらりの力になりにきたよっ」
「だって私たち、仲間でしょ?」
PEACEのメンバーである、ユイカちゃんとマオちゃんだった。
「お前たち、なにしにきた?今日呼んだのは、ひらりだけだぞ?」
突然のユイカちゃんとマオちゃんの訪問に、社長も驚いている。
「私たち、社長に伝えたい急なお話がありまして…」
「急な話…?」
「はい!なので、無礼を承知でこの場にきました」
「…まぁ、ちょうどいい」
社長は2人を招き入れると、ソファ席に座らせた。
社長を正面に、ユイカちゃん、わたし、マオちゃんの順番で並ぶ。
「聞いてくれ、2人とも。ひらりがおかしなことを言い出したんだ。芸能界を辞めたいと」
そのことについては、わたしの口から2人に話したかったのに、先に社長に言われてしまった。
わたしには、口を挟む隙さえ与えてくれない。
「そうなったら、PEACEは解散するしかなくなる。同じメンバーとして、お前たちも迷惑だろう?だから、ひらりを説得してやってくれ。きっと、一時の気の迷いなだけなんだから」
社長は、ユイカちゃんとマオちゃんからわたしを説得させることで、わたしを断りにくくしようとしているんだ。
もし2人から懇願されたら、わたしだって決意が揺らいでしまうかもしれない。
両隣に座る、ユイカちゃんとマオちゃんの顔が見れない…。
急に『解散』なんて言葉を上げられて、きっと困惑しているに違いない。
2人は、怒っている…?
それとも…悲しんでいる?
どちらにしても、わたしの身勝手で2人を傷つけてしまったのは確かだ。
――そう思っていたとき。
「それなら、ちょうどよかったですっ」
なぜだか、ユイカちゃんの明るいトーンの声が社長室に響く。
「話、すぐに済みそうでよかったね。ユイカちゃん」
マオちゃんも、にっこりとユイカちゃんに微笑んでいる。
……えっ。
これって、どういう展開…?
2人の意外な反応に、困惑してしまったのはわたしのほうだった。
「社長、実は急なお話というのが……。私、PEACEを抜けたいと思っています!」
だから、あとは社長に思いを伝えるのみ。
そして、次の日――。
わたしは事務所に向かった。
社長室に入ると、なぜかにこやかな表情で社長が出迎えた。
来年は、映画とドラマの主演が確定。
さらには、ソロデビューも約束されている。
こんな好条件、普通なら断るはずがない。
きっとわたしは、仕事を優先するに違いない。
社長はそう思っている。
…だから、わたしが芸能界を引退したいと告げると、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔で口がポカンと空いていた。
「ひ…ひらり、本気か…?」
「本気ですっ。真剣に考えて決めました」
「どうした、ひらり…!?あの男のどこがいいんだ!?そんなことで、チャンスを棒に振るなっ。お前はもっと…活躍できるっていうのに!」
「わたしは、好条件でお仕事がしたいわけじゃないんです。普通の女の子に戻りたいだけなんです」
「そんなこと言ったって、PEACEはどうする…!?お前が抜けたら――」
「PEACEはわたしがいなくたって、ユイカちゃんとマオちゃんなら2人でやっていけます。2人には、わたしから話すつもりです」
ユイカちゃんとマオちゃんなら、きっとわかってくれる。
だって、ここまでいっしょにかんばってきた仲間なんだから。
わたしがそう説明すると、社長は悔しそうに奥歯を噛み締めた。
そして、思いもよらないことを口にする。
「もし、ひらりが辞めると言うのなら……。…PEACEは解散だっ!ユイカとマオは解雇する!」
突然のPEACEの解散。
それに加え、ユイカちゃんとマオちゃんの解雇発言に、わたしは言葉を失った。
「そ、そんなっ…」
『解散』という言葉は、想像していたよりもわたしの肩に重くのしかかる。
わたしが抜ければ…、PEACEは解散。
わたしのせいで、PEACEがなくなる…。
これはもう、わたし1人のわがままでどうにかなる問題ではなかった。
「…どうする、ひらり?今ならまだ間に合う。バカな考えはやめて、これまでのようにいっしょにがんばっていこうっ」
「社長……」
わたしは、すでに行く手を阻まれてしまった。
『PEACE』を人質に取られては…。
わたし1人だけでは、このピンチを切り抜けることはできない。
覚悟を決めて今日ここへきたというのに、わたしはこのまま社長に従うしか…。
――そう諦めかけていた、そのとき。
「「待ってくださいっ!!」」
社長室のドアが勢いよく開いた。
そこへ現れたのは――。
「…2人とも!どうしてここへ…!?」
「ひらりの力になりにきたよっ」
「だって私たち、仲間でしょ?」
PEACEのメンバーである、ユイカちゃんとマオちゃんだった。
「お前たち、なにしにきた?今日呼んだのは、ひらりだけだぞ?」
突然のユイカちゃんとマオちゃんの訪問に、社長も驚いている。
「私たち、社長に伝えたい急なお話がありまして…」
「急な話…?」
「はい!なので、無礼を承知でこの場にきました」
「…まぁ、ちょうどいい」
社長は2人を招き入れると、ソファ席に座らせた。
社長を正面に、ユイカちゃん、わたし、マオちゃんの順番で並ぶ。
「聞いてくれ、2人とも。ひらりがおかしなことを言い出したんだ。芸能界を辞めたいと」
そのことについては、わたしの口から2人に話したかったのに、先に社長に言われてしまった。
わたしには、口を挟む隙さえ与えてくれない。
「そうなったら、PEACEは解散するしかなくなる。同じメンバーとして、お前たちも迷惑だろう?だから、ひらりを説得してやってくれ。きっと、一時の気の迷いなだけなんだから」
社長は、ユイカちゃんとマオちゃんからわたしを説得させることで、わたしを断りにくくしようとしているんだ。
もし2人から懇願されたら、わたしだって決意が揺らいでしまうかもしれない。
両隣に座る、ユイカちゃんとマオちゃんの顔が見れない…。
急に『解散』なんて言葉を上げられて、きっと困惑しているに違いない。
2人は、怒っている…?
それとも…悲しんでいる?
どちらにしても、わたしの身勝手で2人を傷つけてしまったのは確かだ。
――そう思っていたとき。
「それなら、ちょうどよかったですっ」
なぜだか、ユイカちゃんの明るいトーンの声が社長室に響く。
「話、すぐに済みそうでよかったね。ユイカちゃん」
マオちゃんも、にっこりとユイカちゃんに微笑んでいる。
……えっ。
これって、どういう展開…?
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