隣の席の一条くん。

中小路かほ

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桜の木の下で

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夏休みの間、晴翔は学校の夏期講習があるから、普段と変わりなく学校に通っていた。


こんなことなら、わたしも夏期講習に申し込んでおけばよかった。


もちろん、夏休みだからって仕事も休みなわけがない。

組まれたスケジュールを淡々とこなす日々。


そして、晴翔と会えないまま、夏休みはあっという間に過ぎていった。



夏休み最終日は、どしゃ降りの雨予報だった。


明日の2学期の始業式後、また事務所へ行って、社長と話す予定になっている。


…結局、まだ答えは出せていない。


今日は仕事もないし、雨だしということで、1日中家にいるつもり。


部屋の窓から、憂鬱そうな顔をして、憂鬱な空を眺めていた。


そのとき――。


~♪~♪~♪~♪


スマホの着信音が鳴った。

見ると、晴翔からの電話だった。


〈もしもし、ひらり?〉


当たり前だけど、電話越しの晴翔の声はいつも変わりない。


晴翔の声だけが、わたしの憂鬱な気持ちを晴らしてくれる。


〈今、なにしてた?〉

〈今ねー、アイス食べてたところだよっ〉

〈あっ、おんなじ。俺も〉


こんな些細な会話でさえも、楽しくてうれしい。


…だから、余計に辛くなる。

こんな日常が、なくなっちゃうんじゃないかと思うと。


〈…どうした、ひらり?〉


急に会話が途切れたわたしを不思議に思って、晴翔が聞き返してくる。


〈…ううん!なんでもないのっ…〉


そうは言ってみたけど、なんでもないわけがなかった。


言葉に詰まる。

楽しいはずの晴翔との電話なのに、べつのことが気がかりで、頭になにも浮かんでこない。


〈ひらり、なんかあった…?〉


顔は見えなくても、わたしがいつもと様子が違うことに晴翔が気づいた。


このまま黙っていても、なにも解決なんてしない。


そう思ったわたしは――。


〈本当は、直接会って話したかったんだけどね…〉


晴翔といっしょにいるところを撮られてしまったこと。

社長から、晴翔とは別れて、新しい仕事に専念するようにと言われていること。


そのすべてを話した。



晴翔からの返事はなかった。

しばらく、電話越しでの沈黙が続く。


電話が繋がっているのかどうかと疑うほど、耳に届くのは無音のみ。


――しかし。


…ガタガタッ!


いきなり物音がして、びっくりして耳からスマホを離す。


〈は…晴翔…?〉

〈わりぃ、スマホ落としたっ。…1回切ってもいい?〉

〈えっ…。あ……うん〉

〈またかけ直すからっ〉


そう言って、晴翔は電話を切った。


『またかけ直す』


その言葉を信じて待っていたけど、10分経っても20分経っても、30分経っても…晴翔から電話がかかってくることはなかった。



晴翔からの電話を、半ば諦めかけていた――そのとき。


~♪~♪~♪~♪


待ちに待っていたスマホが鳴った。

それはもちろん、晴翔からの着信。


晴翔が電話を切ってから、1時間近くがたっていた。


〈…もしもし!?〉

〈あっ、ひらり?〉


慌てて電話に出ると、なぜだか雑音がすごい。

晴翔の声も聞き取りづらい。


〈なんか声が聞こえづらいんだけど…、電波でも悪いの?〉


そう聞いてはみたけど、この音は雑音ではなく雨音だということに気づいた。


〈晴翔、…外にいるの?〉

〈うん、まぁ〉


返事をする晴翔の声といっしょに、電話越しから救急車のサイレンの音が聞こえた。


徐々に大きくなるサイレン音。


ふと思えば、わたしの部屋からも救急車の音が聞こえる。


「こっちでも鳴ってるよ。偶然だね」


そう言おうとして、わたしはなにかに気がつく――。


…もしかしてっ!


ベッドから飛び起きて、慌てて窓の外を見る。


家のすぐそばを救急車が通って行くのが見えた。

と同時に、晴翔の電話から聞こえる救急車の音も小さくなっていく。


わたしが目を凝らして、辺りを見回すと――。


…見つけた。


わたしの部屋の窓から見える公園のジャングルジムの上に、……金髪の人物がいることに。


あれは、…紛れもなく晴翔だっ。


〈晴翔…!なんでいるの…!?〉

〈あれ?もうバレた?〉


しかも、傘も差さずにずぶ濡れだ。


〈傘は…!?〉

〈途中で壊れたからさ。それにこんなどしゃ降りなら、傘があってもなくても同じだし〉

〈それは、そうかもしれないけどっ…〉


小さく見える晴翔は、なにかを探すようにキョロキョロと辺りに視線を移す。
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