隣の席の一条くん。

中小路かほ

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いつもと雰囲気が違うわたしに驚く爽太くんを置いて、彩奈はキョロキョロと周りを見回している。

もちろん、彩奈の御目当てはと言うと――。


「…いたっ!!怜也!生怜也だよぉぉ!!」


ロケバスから出てきた怜也を見つけるなり、大興奮の彩奈。


彩奈は怜也しか見えていないみたいで、メイクを終えたわたしのことも、隣にいる爽太くんのことも忘れている。


そんな彩奈の横にいる一条くんは、眠たそうにあくびをしていた。


「ごめんね、一条くん。彩奈に付き合わせちゃって…」

「べつにいいよ。一度はこういう現場、見てみたかったし」


怜也に大興奮の彩奈と違って、一条くんは実に落ち着いている。

金髪で目立ってはいるけど、同じ中学3年生とは思えない冷静さだ。


しばらく一条くんと他愛のない話をしていたけど、一条くんからわたしの衣装やメイクについて聞かれることはなかった。


衣装は、高校生をイメージしたブレザーで、普段着ているセーラー服とはまったく違う。

メイクだって、爽太くんが言ってくれたように、ちょっと大人びた感じに仕上がっている。


なのに、なにも触れてくれない…。


やっぱり…一条くんの中では、あの告白はなかったことになっているのかな。

でもそうだとしたら、どうしてわたしに告白を…。


モヤモヤしていると、わたしの肩になにかが触れた。

見上げると…。


「今日が最後だな、ひらり」


わたしよりも頭1つ分背が高い怜也だった。


怜也が1メートルにも満たない距離にきて、彩奈は興奮のあまり、口がパクパクしていた。

息をするのも忘れるくらい、怜也に夢中だ。


「あ…彩奈!ちょっと落ち着きなよ!1回、深呼吸してっ」

「だっ…だって!目の前に…れ、怜也がっ…!」

「ひらりの友達?オレのこと知ってくれてるの?サンキュー!」


とか言って、キラースマイルを送る怜也。

そのせいで、彩奈は失神寸前だ。


「…彩奈、しっかりして!」

「いいよ~。オレが面倒見てるから」

「ありがとう、爽太くん!」


さすが、こういうときに爽太くんは頼りがいがある。

彩奈を木陰のベンチまで連れていってくれた。


そんな彩奈を心配そうに眺める怜也。


「…大丈夫かな?あのコ」

「たぶん大丈夫だと思うっ。彼氏もついてることだし」


元はと言えば、怜也のキラースマイルが彩奈の症状を悪化させたんだけどね。


「ひらりの学校の友達って、初めて見たよ」

「そうだね。あのコが、怜也の大ファンでさ」

「マジかっ!それに、あのコの彼氏もいい人そうだね」


彩奈と爽太くんのやり取りを微笑ましそうに見つめる怜也。

だけど、そばにいた一条くんを見るなり、その表情は一変する。


「…で、キミもひらりの友達?」


まるでたしなめるかのように、一条くんを上から下へと睨みつける。


「そうですけど…、なにか?」

「おいおい、冗談だろ?ひらりに、こんな不良の友達がいるなんて思ってなかったよ」

「…怜也!、たしの友達に、なんてこと言うの!」


突然の怜也の無礼な態度に、わたしは怜也の腕を引っ張って反論する。


子ども扱いするようにわたしをなだめる怜也だけど、ニヤリと口角を上げる。


「それに……。本当に…ただの友達?」


意味深な怜也の言葉。


それに素直に反応してしまって、すぐに言葉が出てこなかった。


――だって。


『俺、花宮さんのことが好きだから。だれにも渡したくないくらい好きだから』


一条くんの気持ちを知ってしまったから。


忘れてくれていいよと言われたけれど――。

わたしたちはもう、前みたいな『ただの友達』…ではない。


「…まさか、彼氏?」


わたしの困っている反応が楽しいのか、怜也が茶化すように聞いてくる。


告白はされた…。

だけど、それだけ。


わたしと一条くんは、それ以上なにも…。


「…一条くんは、ただの――」

「ただの友達です」


わたしが言うよりも先に、一条くんが口を開いた。


迷いのない言葉と、そのまっすぐな視線が怜也に向けられる。


と同時に、その無機質な言葉はわたしの胸に突き刺さる。


「な…なんかキミ、こわいね~。そんなに睨まなくてもいいじゃんか」

「…すみません。もともとこういう顔で」

「まぁ…それならいいんだけどさっ。2人のやり取り見てたら怪しくて、隠れて付き合ってるのかなって思っただけー」


怜也は、悪びれる様子もなくケラケラと笑う。


怜也にとっては、冗談半分だったのかもしれない。
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