隣の席の一条くん。

中小路かほ

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図書館で

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「俺、花宮さんのことが好きだから。だれにも渡したくないくらい好きだから」


静かな図書室に響く――。

一条くんの告白。


一瞬、なにが起こったのかわからなくて、…夢かと思った。


だって、あの一条くんが…わたしのことを……?



しばらくの間、ポカンとしてしまった。


「おーい」と言って、わたしの顔の前で手をひらひらさせる一条くんに気づいて、ようやく我に返る。


「突然変なこと言って、びっくりさせたよな。ごめん」


謝る一条くんだけど、なにもいやなことはされていない。


…むしろ、嬉しい。

一条くんの気持ちが知れて。


「あ…あのね!わたし――」


『わたしも一条くんのことが好き』


そう伝えたかったんだけど、なぜだかわたしの口元を塞ぐように、一条くんがちょこんと人差し指を触れさせた。


「返事はいらない。花宮さんとどうなりたいとも思ってない。だから、今のは忘れてくれていいから」


……忘れる?

さっきの告白を…!?


「どうして、そんなこと――」

キーンコーンカーンコーン…!


わたしが聞き返そうとすると、それを遮るように下校を告げるチャイムが鳴った。


「…もうこんな時間か。じゃあ、今日はここまで」


一条くんは、まるで何事もなかったかのように立ち上がると、散らばった資料集を元の棚に戻した。


…結局、一条くんにはそれ以上聞くことができなかった。


あの一条くんから告白されて、嬉しいはずなのに――。


『返事はいらない。花宮さんとどうなりたいとも思ってない。だから、今のは忘れてくれていいから』


わたしとのこれからのことは考えてくれていない…。

ただ、気持ちを伝えただけ。


わたしだって、この胸の中にある気持ちを伝えたかったのに――。

そんな機会すら与えてもらえなかった。



その次の日。

どんな顔して会えばいいのかわからなかったけど、一条くんはいたっていつも通りだった。


昨日のことがまるで嘘だったかのように、授業中は寝ているし、気分で話しかけてくる程度。


あの告白は、実は夢だったのかと思ってしまうほど、何事もなく数日が過ぎて行った。



そんなある日。


わたしは登校するとすぐに、彩奈の席に向かった。

彩奈にいい知らせがあるからだ。


「彩奈。今度の土曜日って空いてる?」

「土曜日?空いてるよー。どうしたの?」

「実は、土曜日に近くでドラマの撮影があるんだけど、特別に友達を呼んでもいいって監督さんが言ってくれてっ」

「…マジ!?もしかして…怜也にも会えるの!?」


1限の苦手な数学の用意を嫌々していた彩奈の表情が、一瞬にして変わる。


「怜也もいるよっ。最後のシーンだからね」

「やった♪行く行く!」


想像以上に喜んでくれた。


ファンの俳優を間近で見れるんだもんね。

わたしでも興奮する。


「…でも、アタシだけとなるとちょっと行きづらいかも」

「大丈夫。2~3人くらいだったら、連れてきてもいいって言われたから」

「そうなの!?…じゃあ、爽太と~。一条くんも誘おっかな♪」


…『一条くん』。


その名前に、勝手に体が反応する。


「一条くんは…どうだろ?ドラマの撮影現場とか、あんまり興味ないんじゃないかな~…」


わたしは、どうにかして彩奈が一条くんを誘わないように仕向けたかった。


…なぜなら。

今回撮影する、学生時代のラストシーン。


訳あって、別れなければならなくなった2人が、最後にデートをするシーンを撮る。


だから、もちろん恋人繋ぎで街を歩いたり、別れを惜しむように抱きしめ合う場面がある。


それらはすべてお芝居なんだけれど…。


まるで、本当の恋人かのように怜也と接しなければならない。

そんな場面を、一条くんには見られたくなかった。


だから、一条くんにはきてほしくなかったのに――。


「…俺がなんだって?」


声に驚いて振り返ると、わたしのすぐ後ろに一条くんが立っていた。


もちろんその流れで、彩奈から撮影現場の見学の話がされ――。


「いいよ。ちょっとは興味あるし」


そう言って、一条くんはあっさりと了承した。



そして、撮影日となる…土曜日。


普段もカップルが行き交う大きな噴水のあるこの並木道が、今日の撮影場所。


「…ごめん、お待たせ!」


わたしはメイクを済ませると、スタッフに混じって見学にきた彩奈たちのもとへ向かった。


「うわ~。なんだか大人びて見えるね~」

「メイクのおかげだよ。高校3年生の設定だからね」
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