16 / 28
図書館で
3P
しおりを挟む
「俺、花宮さんのことが好きだから。だれにも渡したくないくらい好きだから」
静かな図書室に響く――。
一条くんの告白。
一瞬、なにが起こったのかわからなくて、…夢かと思った。
だって、あの一条くんが…わたしのことを……?
しばらくの間、ポカンとしてしまった。
「おーい」と言って、わたしの顔の前で手をひらひらさせる一条くんに気づいて、ようやく我に返る。
「突然変なこと言って、びっくりさせたよな。ごめん」
謝る一条くんだけど、なにもいやなことはされていない。
…むしろ、嬉しい。
一条くんの気持ちが知れて。
「あ…あのね!わたし――」
『わたしも一条くんのことが好き』
そう伝えたかったんだけど、なぜだかわたしの口元を塞ぐように、一条くんがちょこんと人差し指を触れさせた。
「返事はいらない。花宮さんとどうなりたいとも思ってない。だから、今のは忘れてくれていいから」
……忘れる?
さっきの告白を…!?
「どうして、そんなこと――」
キーンコーンカーンコーン…!
わたしが聞き返そうとすると、それを遮るように下校を告げるチャイムが鳴った。
「…もうこんな時間か。じゃあ、今日はここまで」
一条くんは、まるで何事もなかったかのように立ち上がると、散らばった資料集を元の棚に戻した。
…結局、一条くんにはそれ以上聞くことができなかった。
あの一条くんから告白されて、嬉しいはずなのに――。
『返事はいらない。花宮さんとどうなりたいとも思ってない。だから、今のは忘れてくれていいから』
わたしとのこれからのことは考えてくれていない…。
ただ、気持ちを伝えただけ。
わたしだって、この胸の中にある気持ちを伝えたかったのに――。
そんな機会すら与えてもらえなかった。
その次の日。
どんな顔して会えばいいのかわからなかったけど、一条くんはいたっていつも通りだった。
昨日のことがまるで嘘だったかのように、授業中は寝ているし、気分で話しかけてくる程度。
あの告白は、実は夢だったのかと思ってしまうほど、何事もなく数日が過ぎて行った。
そんなある日。
わたしは登校するとすぐに、彩奈の席に向かった。
彩奈にいい知らせがあるからだ。
「彩奈。今度の土曜日って空いてる?」
「土曜日?空いてるよー。どうしたの?」
「実は、土曜日に近くでドラマの撮影があるんだけど、特別に友達を呼んでもいいって監督さんが言ってくれてっ」
「…マジ!?もしかして…怜也にも会えるの!?」
1限の苦手な数学の用意を嫌々していた彩奈の表情が、一瞬にして変わる。
「怜也もいるよっ。最後のシーンだからね」
「やった♪行く行く!」
想像以上に喜んでくれた。
ファンの俳優を間近で見れるんだもんね。
わたしでも興奮する。
「…でも、アタシだけとなるとちょっと行きづらいかも」
「大丈夫。2~3人くらいだったら、連れてきてもいいって言われたから」
「そうなの!?…じゃあ、爽太と~。一条くんも誘おっかな♪」
…『一条くん』。
その名前に、勝手に体が反応する。
「一条くんは…どうだろ?ドラマの撮影現場とか、あんまり興味ないんじゃないかな~…」
わたしは、どうにかして彩奈が一条くんを誘わないように仕向けたかった。
…なぜなら。
今回撮影する、学生時代のラストシーン。
訳あって、別れなければならなくなった2人が、最後にデートをするシーンを撮る。
だから、もちろん恋人繋ぎで街を歩いたり、別れを惜しむように抱きしめ合う場面がある。
それらはすべてお芝居なんだけれど…。
まるで、本当の恋人かのように怜也と接しなければならない。
そんな場面を、一条くんには見られたくなかった。
だから、一条くんにはきてほしくなかったのに――。
「…俺がなんだって?」
声に驚いて振り返ると、わたしのすぐ後ろに一条くんが立っていた。
もちろんその流れで、彩奈から撮影現場の見学の話がされ――。
「いいよ。ちょっとは興味あるし」
そう言って、一条くんはあっさりと了承した。
そして、撮影日となる…土曜日。
普段もカップルが行き交う大きな噴水のあるこの並木道が、今日の撮影場所。
「…ごめん、お待たせ!」
わたしはメイクを済ませると、スタッフに混じって見学にきた彩奈たちのもとへ向かった。
「うわ~。なんだか大人びて見えるね~」
「メイクのおかげだよ。高校3年生の設定だからね」
静かな図書室に響く――。
一条くんの告白。
一瞬、なにが起こったのかわからなくて、…夢かと思った。
だって、あの一条くんが…わたしのことを……?
しばらくの間、ポカンとしてしまった。
「おーい」と言って、わたしの顔の前で手をひらひらさせる一条くんに気づいて、ようやく我に返る。
「突然変なこと言って、びっくりさせたよな。ごめん」
謝る一条くんだけど、なにもいやなことはされていない。
…むしろ、嬉しい。
一条くんの気持ちが知れて。
「あ…あのね!わたし――」
『わたしも一条くんのことが好き』
そう伝えたかったんだけど、なぜだかわたしの口元を塞ぐように、一条くんがちょこんと人差し指を触れさせた。
「返事はいらない。花宮さんとどうなりたいとも思ってない。だから、今のは忘れてくれていいから」
……忘れる?
さっきの告白を…!?
「どうして、そんなこと――」
キーンコーンカーンコーン…!
わたしが聞き返そうとすると、それを遮るように下校を告げるチャイムが鳴った。
「…もうこんな時間か。じゃあ、今日はここまで」
一条くんは、まるで何事もなかったかのように立ち上がると、散らばった資料集を元の棚に戻した。
…結局、一条くんにはそれ以上聞くことができなかった。
あの一条くんから告白されて、嬉しいはずなのに――。
『返事はいらない。花宮さんとどうなりたいとも思ってない。だから、今のは忘れてくれていいから』
わたしとのこれからのことは考えてくれていない…。
ただ、気持ちを伝えただけ。
わたしだって、この胸の中にある気持ちを伝えたかったのに――。
そんな機会すら与えてもらえなかった。
その次の日。
どんな顔して会えばいいのかわからなかったけど、一条くんはいたっていつも通りだった。
昨日のことがまるで嘘だったかのように、授業中は寝ているし、気分で話しかけてくる程度。
あの告白は、実は夢だったのかと思ってしまうほど、何事もなく数日が過ぎて行った。
そんなある日。
わたしは登校するとすぐに、彩奈の席に向かった。
彩奈にいい知らせがあるからだ。
「彩奈。今度の土曜日って空いてる?」
「土曜日?空いてるよー。どうしたの?」
「実は、土曜日に近くでドラマの撮影があるんだけど、特別に友達を呼んでもいいって監督さんが言ってくれてっ」
「…マジ!?もしかして…怜也にも会えるの!?」
1限の苦手な数学の用意を嫌々していた彩奈の表情が、一瞬にして変わる。
「怜也もいるよっ。最後のシーンだからね」
「やった♪行く行く!」
想像以上に喜んでくれた。
ファンの俳優を間近で見れるんだもんね。
わたしでも興奮する。
「…でも、アタシだけとなるとちょっと行きづらいかも」
「大丈夫。2~3人くらいだったら、連れてきてもいいって言われたから」
「そうなの!?…じゃあ、爽太と~。一条くんも誘おっかな♪」
…『一条くん』。
その名前に、勝手に体が反応する。
「一条くんは…どうだろ?ドラマの撮影現場とか、あんまり興味ないんじゃないかな~…」
わたしは、どうにかして彩奈が一条くんを誘わないように仕向けたかった。
…なぜなら。
今回撮影する、学生時代のラストシーン。
訳あって、別れなければならなくなった2人が、最後にデートをするシーンを撮る。
だから、もちろん恋人繋ぎで街を歩いたり、別れを惜しむように抱きしめ合う場面がある。
それらはすべてお芝居なんだけれど…。
まるで、本当の恋人かのように怜也と接しなければならない。
そんな場面を、一条くんには見られたくなかった。
だから、一条くんにはきてほしくなかったのに――。
「…俺がなんだって?」
声に驚いて振り返ると、わたしのすぐ後ろに一条くんが立っていた。
もちろんその流れで、彩奈から撮影現場の見学の話がされ――。
「いいよ。ちょっとは興味あるし」
そう言って、一条くんはあっさりと了承した。
そして、撮影日となる…土曜日。
普段もカップルが行き交う大きな噴水のあるこの並木道が、今日の撮影場所。
「…ごめん、お待たせ!」
わたしはメイクを済ませると、スタッフに混じって見学にきた彩奈たちのもとへ向かった。
「うわ~。なんだか大人びて見えるね~」
「メイクのおかげだよ。高校3年生の設定だからね」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
初恋の王子様
中小路かほ
児童書・童話
あたし、朝倉ほのかの好きな人――。
それは、優しくて王子様のような
学校一の人気者、渡優馬くん。
優馬くんは、あたしの初恋の王子様。
そんなとき、あたしの前に現れたのは、
いつもとは雰囲気の違う
無愛想で強引な……優馬くん!?
その正体とは、
優馬くんとは正反対の性格の双子の弟、
燈馬くん。
あたしは優馬くんのことが好きなのに、
なぜか燈馬くんが邪魔をしてくる。
――あたしの小指に結ばれた赤い糸。
それをたどった先にいる運命の人は、
優馬くん?…それとも燈馬くん?
既存の『お前、俺に惚れてんだろ?』をジュニア向けに改稿しました。
ストーリーもコンパクトになり、内容もマイルドになっています。
第2回きずな児童書大賞にて、
奨励賞を受賞しました♡!!
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ミズルチと〈竜骨の化石〉
珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。
一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。
ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。
カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。
【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~
丹斗大巴
児童書・童話
どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
家族のきずなと種を超えた友情の物語。
わたしたちの恋、NGですっ! ~魔力ゼロの魔法少女~
立花鏡河
児童書・童話
【第1回きずな児童書大賞】奨励賞を受賞しました!
応援して下さった方々に、心より感謝申し上げます!
「ひさしぶりだね、魔法少女アイカ」
再会は突然だった。
わたし、愛葉一千花は、何の取り柄もない、フツーの中学二年生。
なじめないバスケ部をやめようかと悩みながら、掛けもちで園芸部の活動もしている。
そんなわたしには、とある秘密があって……。
新入生のイケメン、乙黒咲也くん。
わたし、この子を知ってる。
ていうか、因縁の相手なんですけどっ!?
★*゚*☆*゚*★*゚*☆*゚*★
わたしはかつて、魔法少女だったんだ。
町をねらう魔物と戦う日々――。
魔物のリーダーで、宿敵だった男の子が、今やイケメンに成長していて……。
「意外とドジですね、愛葉センパイは」
「愛葉センパイは、おれの大切な人だ」
「生まれ変わったおれを見てほしい」
★*゚*☆*゚*★*゚*☆*゚*★
改心した彼が、わたしを溺愛して、心をまどわせてくる!
光と闇がまじりあうのはキケンです!
わたしたちの恋愛、NGだよね!?
◆◆◆第1回きずな児童書大賞エントリー作品です◆◆◆
表紙絵は「イラストAC」様からお借りしました。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる