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保健室で
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帰りは、だいたいいつも1人だ。
学校を出るときは彩奈といっしょだけど、途中で別れる。
…だけど、今日は違う。
なぜかと言うと――。
「どう?足。…って、まだ痛むに決まってるよな」
わたしの隣を歩く、金髪の不良男子。
…そう!
それは、一条くんだった!
途中までは、全然気づかなかった。
だけど彩奈と別れてすぐに、後ろにいた一条くんが駆け寄ってきた。
一条くんの家の場所は知らないけど、たぶんわたしと同じ方向ではない。
なのに、一条くんはなにも言わずに、わたしに肩を貸してくれた。
わたしもそれに甘えて、一条くんの肩に手を添えて、いつもより遅いペースでゆっくりと家に向かっている。
初めは、こわいイメージだった一条くん。
でも、隣の席になって、実はそうでもないということがわかって――。
今回ケガをして、実は女の子に優しくて、面倒見がいいのだと知った。
じゃなきゃ、保健室からの帰りや今みたいなこと、普通ならしないはずだし。
「一条くんって、もしかして弟か妹かいる?」
「なんで?」
「だって、面倒見いいからさ」
「いや、いない。兄貴ならいるけど」
…あれ、違った。
そんな話をしている間に、わたしの家に着いた。
いつもなら歩いて15分ほどの距離なのに、今日はその倍かかった。
でも、一条くんがいなかったらもっとかかっていたに違いない。
「ありがとう、一条くん。助かったよ」
わたしは、一条くんが持ってくれていたカバンを受け取る。
「…いや。元はと言えば、俺のせいだし…」
エリさんのこと…、まだ気にしてるのかな。
もう別れてるんだし、一条くんがエリさんのしたことで責任を感じることはないのに。
「でも、一条くんがこんなに気にかけてくれる人だとは思ってなかった!…って、失礼だよね」
まるで、一条くんが無関心みたいな言い方。
でも実際、こんなに気を利かせてくれたのは一条くんだけだ。
そりゃ、クラスの男の子も心配してはくれたけど、「大丈夫?」とか「仕事に影響ない?」とか聞いてくるだけで、肝心なことはなにもしてくれなかった。
「一条くんにこんなふうに優しくされたら、みんな印象変わるんじゃないかな~?特に女の子なら、尚更!」
クラスメイトも、一条くんにこんな一面があることは知らない。
『こわい』という印象だけじゃ、もったいない。
そういうつもりで言ったんだけど――。
…ふと、わたしの頬をなにかが掠めた。
「俺、べつに優しさ振り撒くつもりないから」
顔のすぐ横には、壁についた一条くんの大きな手。
そこからたどるように視線を向けた先には、少し怒ったような一条くんの顔。
「勘違いしてるようだから言うけど、だれにでもこんなことするわけじゃないから」
…え?
それって、どういう――。
「花宮さんじゃなかったら、こんなことしない」
わたし以外には…しない?
わたしを捉えて離さない、一条くんの瞳。
その瞳に見つめられたら、なぜか胸の鼓動が速くなる。
…待って、待って。
ちょっとよくわからないっ。
一旦落ち着いて、整理すると――。
この一瞬で、いろいろなことを考えた。
考えたのだけれど…、すべては同じ結論にしかならない。
もしかして一条くん…。
…わたしのことがっ――。
「じゃあ、俺帰るから。家には1人で入れるよね?」
「…あ。う…うん」
わたしがそう答えると、安心したように一条くんが微笑んだ。
「また明日」
「うん。ありがとう」
一条くんの後ろ姿に向かって、手を振る。
地味な色の家が並ぶこの閑静な住宅街には、やたらと映えて見える――一条くんの金髪。
同じクラスだったとしても、隣の席にならなければ、決して仲よくなることはなかった。
仲よくなることがなければ、一条くんの素顔を知ることもなかった。
それを知ってしまった、…今。
『花宮さんじゃなかったら、こんなことしない』
わたしの胸が、キュンと跳ねる。
こんな感覚は、初めてのことだ。
…だけど、この感覚の正体がなんなのかはわかる。
きっと、これが――『恋』なんだ。
わたしはきっと、一条くんのことが好きなんだ。
初めて、人を好きになった。
周りの女の子の恋バナには、いつもついて行けなかった。
だって、恋をしたことがなかったから。
それに、わたしには恋は必要ないと思っていた。
…仕事が忙しいし。
いや、それだけじゃない。
わたしが恋をしない理由。
それは、わたしが所属する事務所は、“恋愛禁止”だから。
一条くんのことは好き。
だけど、わたしのこの気持ちは、決して表には出してはいけない…。
“恋愛禁止”のアイドルとして。
学校を出るときは彩奈といっしょだけど、途中で別れる。
…だけど、今日は違う。
なぜかと言うと――。
「どう?足。…って、まだ痛むに決まってるよな」
わたしの隣を歩く、金髪の不良男子。
…そう!
それは、一条くんだった!
途中までは、全然気づかなかった。
だけど彩奈と別れてすぐに、後ろにいた一条くんが駆け寄ってきた。
一条くんの家の場所は知らないけど、たぶんわたしと同じ方向ではない。
なのに、一条くんはなにも言わずに、わたしに肩を貸してくれた。
わたしもそれに甘えて、一条くんの肩に手を添えて、いつもより遅いペースでゆっくりと家に向かっている。
初めは、こわいイメージだった一条くん。
でも、隣の席になって、実はそうでもないということがわかって――。
今回ケガをして、実は女の子に優しくて、面倒見がいいのだと知った。
じゃなきゃ、保健室からの帰りや今みたいなこと、普通ならしないはずだし。
「一条くんって、もしかして弟か妹かいる?」
「なんで?」
「だって、面倒見いいからさ」
「いや、いない。兄貴ならいるけど」
…あれ、違った。
そんな話をしている間に、わたしの家に着いた。
いつもなら歩いて15分ほどの距離なのに、今日はその倍かかった。
でも、一条くんがいなかったらもっとかかっていたに違いない。
「ありがとう、一条くん。助かったよ」
わたしは、一条くんが持ってくれていたカバンを受け取る。
「…いや。元はと言えば、俺のせいだし…」
エリさんのこと…、まだ気にしてるのかな。
もう別れてるんだし、一条くんがエリさんのしたことで責任を感じることはないのに。
「でも、一条くんがこんなに気にかけてくれる人だとは思ってなかった!…って、失礼だよね」
まるで、一条くんが無関心みたいな言い方。
でも実際、こんなに気を利かせてくれたのは一条くんだけだ。
そりゃ、クラスの男の子も心配してはくれたけど、「大丈夫?」とか「仕事に影響ない?」とか聞いてくるだけで、肝心なことはなにもしてくれなかった。
「一条くんにこんなふうに優しくされたら、みんな印象変わるんじゃないかな~?特に女の子なら、尚更!」
クラスメイトも、一条くんにこんな一面があることは知らない。
『こわい』という印象だけじゃ、もったいない。
そういうつもりで言ったんだけど――。
…ふと、わたしの頬をなにかが掠めた。
「俺、べつに優しさ振り撒くつもりないから」
顔のすぐ横には、壁についた一条くんの大きな手。
そこからたどるように視線を向けた先には、少し怒ったような一条くんの顔。
「勘違いしてるようだから言うけど、だれにでもこんなことするわけじゃないから」
…え?
それって、どういう――。
「花宮さんじゃなかったら、こんなことしない」
わたし以外には…しない?
わたしを捉えて離さない、一条くんの瞳。
その瞳に見つめられたら、なぜか胸の鼓動が速くなる。
…待って、待って。
ちょっとよくわからないっ。
一旦落ち着いて、整理すると――。
この一瞬で、いろいろなことを考えた。
考えたのだけれど…、すべては同じ結論にしかならない。
もしかして一条くん…。
…わたしのことがっ――。
「じゃあ、俺帰るから。家には1人で入れるよね?」
「…あ。う…うん」
わたしがそう答えると、安心したように一条くんが微笑んだ。
「また明日」
「うん。ありがとう」
一条くんの後ろ姿に向かって、手を振る。
地味な色の家が並ぶこの閑静な住宅街には、やたらと映えて見える――一条くんの金髪。
同じクラスだったとしても、隣の席にならなければ、決して仲よくなることはなかった。
仲よくなることがなければ、一条くんの素顔を知ることもなかった。
それを知ってしまった、…今。
『花宮さんじゃなかったら、こんなことしない』
わたしの胸が、キュンと跳ねる。
こんな感覚は、初めてのことだ。
…だけど、この感覚の正体がなんなのかはわかる。
きっと、これが――『恋』なんだ。
わたしはきっと、一条くんのことが好きなんだ。
初めて、人を好きになった。
周りの女の子の恋バナには、いつもついて行けなかった。
だって、恋をしたことがなかったから。
それに、わたしには恋は必要ないと思っていた。
…仕事が忙しいし。
いや、それだけじゃない。
わたしが恋をしない理由。
それは、わたしが所属する事務所は、“恋愛禁止”だから。
一条くんのことは好き。
だけど、わたしのこの気持ちは、決して表には出してはいけない…。
“恋愛禁止”のアイドルとして。
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