隣の席の一条くん。

中小路かほ

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保健室で

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好きな人の物は、どんなものでもいいから手元に置いておきたいもの。


――それが、借りたままの教科書だったとしても。


エリさんはあの国語の教科書が唯一、一条くんと繋がっていられるものと思っているんじゃないのかな。

だってそれさえあれば、教科書を取り戻しにきた一条くんとまた話すきっかけが作れるから。


そんなことだとも知らずに、赤の他人のわたしが首を突っ込んできたら、…そりゃ怒るよね。


「わたしのことはいいよっ。エリさんにちょっかいかけちゃったのは、わたしのほうだから」

「だからって、こんなことしていい理由にはならない」


…一条くんが怒ってる。


こわいイメージだったときの一条くんの表情とは、まったく違う…。

本当に怒っているときは、こんな顔をするんだ。


今からでも、エリさんのいる教室に乗り込みに行きそうな勢いの一条くん。


するとそのとき、6限の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「一条くん、教室に戻ろっ!」


わたしは、一条くんのシャツの袖を引っ張る。


「花宮さ~ん。体調どう?」


それにちょうど、保健室の先生がカーテンを開けて様子を伺いにきた。

そこで、いっしょにいた一条くんと目が合う。


「…一条くん。サボりとか言って、花宮さんを口説きにきたの~?」


ニヤニヤしながら、肘で一条くんを突付く。


…もうっ、先生。

そんなわけな――。


「そうっす」


…えっ、そうなの!?


思いもよらない声が聞こえて、わたしは一条くんを二度見する。


「じゃあ、戻る?花宮さん」

「…あ、うん」


少し驚いたけど、何事もなく一条くんは話を続けた。

たぶん、ただの冗談っぽい。


だけどここで、疑問が浮かぶ。


右足は捻挫で痛くて、歩くのも辛い。

だけど、教室は3階。


…どうやって、階段を上るの?


「でも、先生…。わたし、足が痛くて教室までは――」

「問題ないっす。俺が連れて行くんで」


連れて行く…?

どうやって?


と思ったときには、わたしの体はふわっと宙に持ち上げられていた。


えっ…。

ちょっと…これって……!


とっさに、一条くんの首に抱きつくように腕をまわしたけど――。

これって、いわゆる…お姫様抱っこってやつじゃん…!


こんなの、現実じゃありえないから!

ドラマとか、少女漫画とか…!


しかも、される側はかなり恥ずかしい…!!


「…下ろして、一条くん!」

「なんで?これならすぐじゃん」

「だって、こんなの…恥ずかしすぎる!…せめて、おんぶ!」

「おんぶなら、パンツ見えるけどいいの?」


その言葉に、抵抗しようとバタつかせていた手足がピタリと止まる。


「それは…イヤ」

「じゃあ、おとなしくして」

「でも、これでもパンツ見えるんじゃ…」

「覗き込まれなかったら、大丈夫だって」


…やっぱ見えるんじゃん!


「それじゃあ、先生。花宮さん連れていきます」

「うん。気をつけてね~」


先生も先生で、にこやかに手を振るだけだった。



「…一条くん、ありがとう。もう大丈夫だから、下ろしてっ」


さすがに、このまま教室に入るのはマズイ。


だから、教室の手前で下ろしてもらった。


教室に戻ると、彩奈と爽太くんがすぐさま駆け寄ってきてくれた。


「…も~!なかなか視聴覚室に戻ってこないと思ったら、階段で転んでたなんて…心配するじゃん!」

「ごめんごめんっ…」

「体中、アザだらけじゃん…!アイドルがケガしてどうするの!」

「こんなの、大したことないよ。意外とメイクさんがきれいに隠してくれたりするし」


アザくらいなら、どうってことない。

それよりも、彩奈が強く抱きつくほうが痛かったりする。


「あれ~?一条といっしょだったの?」


爽太くんにそう言われて、ハッとして後ろを振り返る。


見ると、ドアに手をかけて、「そこにいられると邪魔なんだけど」とでも言いたそうに、わたしを見下ろす一条くんがいた。


「そういえば、一条くんも保健室にいたんだよね?」

「ああ。1人で寝てた。で、さっきそこで前を歩いている花宮さんを見かけて」


そう、彩奈に話す一条くん。


『1人で寝てた』

『さっきそこで前を歩いている花宮さんを見かけて』


一条くん、嘘をついている。


保健室ではわたしといっしょにいたし、それに教室に戻ってくるまでは、一条くんにっ――。


さっきのことを思い出したら、一瞬にして顔が熱くなった。


「…あれ?なんかひらり、顔赤くない?」

「そ…そんなことないよっ!」


いくら親友の彩奈でも、一条くんにお姫様抱っこされていましただなんて、恥ずかしくて言えない…!



その日の帰り。
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