隣の席の一条くん。

中小路かほ

文字の大きさ
上 下
5 / 28
保健室で

2P

しおりを挟む
初めて見る、一条くんの笑った顔だった。


いつも表情のない一条くんでも、空気が読めない爽太くんの行動には、笑うしかなかったみたい。


「ああ。アタシ、一条くんと仲よくなれそうな気がする」


それを見た彩奈が静かに呟いた。



その事件?以来、わたし、彩奈、爽太くんは、さらに一条くんと仲よくなった。


休み時間になれば、わたしと一条くんの席に、彩奈と爽太くんがやってくる。


「…爽太、お前っ。あんまり髪触るな。ワックスつけてるんだから」

「いや、でもこんなに染めてて、髪傷まないのかな~って不思議で」


不良の一条くんと空気の読めない爽太くんとのコンビは、予想外の化学反応を起こしていて、なんだかんだで仲がいい。


「爽太、もうやめなよ~。一条くんが困ってんじゃん!」

「…島田さん、もう少しきつく言って。じゃないと、こいつ…やめないからっ」

「彩奈は、爽太くんの保護者だね~!」


そのやり取りを見て、お腹を抱えて笑った。


一条くんとわたしたちがこんなに仲よくなれるだなんて、1ヶ月前には想像もできなかった。


だけど、それをよく思っていない人がいることに、このときのわたしはまだ気づいていなかった。



それから、数日後。


わたしは、リコーダーを抱えて廊下を走っていた。


次の授業は、視聴覚室で音楽。

休み時間に移動したものの、リコーダーを教室に忘れたことに気づいて、1人で取りに戻っていた。


さっき予鈴が鳴ったから、急がないと本鈴が鳴って授業が始まってしまう。


そのせいで焦っていて、周りをよく見ていなかったのもある。


廊下の曲がり角で、向こうからきた人とぶつかってしまった…!


反動で尻もちをついて、廊下にわたしのリコーダーが転がる。

ぶつかってしまった人も、抱えていた教科書類を落としてしまっていた。


「ごめんなさい…!大丈夫ですか…!?」

「いった~…。なんなのよ、あんたっ」


その人は、金のメッシュが入った茶髪の前髪をかき上げる。


第ニボタンまで開いた胸元。

そこから見える、シルバーのネックレス。


…あ。

この人…知ってる。


確か、3年4組の――。


「…エリ?」


突然、頭上から声がした。

見上げると――。


「一条くん…!」


リコーダーを肩に担ぐようにして持っている一条くんが立っていた。


「…花宮さん?こんなところでなにしてんの?先に視聴覚室に行ってなかったっけ?」

「あ……うん。リコーダー忘れて、教室に取りに帰ってて」

「そうなんだ。…で、大丈夫?」


一条くんはわたしの腕を握ると、軽々と持ち上げてくれた。


「わたしは大丈夫だけど…。そんなことよりも、ケガしてないですかっ!?」

「気安くエリに触んないでっ!」


わたしが近づこうとしたら、腕で払い除けられてしまった。


「じゃ、俺先に行くから。花宮さんも早く行かないと遅れるよ」


一条くんは、何事もなかったかのようにわたしたちの横を通り過ぎようとした、――そのとき。


「…待ってよ、晴翔!」


尻もちをついていたエリさんが、一条くんのズボンの裾をつかんで呼び止めた。


「…なに?エリ」

「エリのことは、抱き起こしてくれないの…?」


廊下にへたり込んだまま、一条くんを見上げるエリさん。


「なに言ってんだよ。俺らもう、そういう関係じゃないだろ。…じゃ」


それだけ言うと、一条くんは行ってしまった。


その場から動かないエリさんにかける言葉が見つからず、わたしはとりあえず廊下に散らばったエリさんの教科書類を拾い集める。


「あ…あの、これっ…」


わたしが拾ったものを差し出すと、奪い取るようにエリさんは抱きかかえた。

そのとき、ちょうど一番下になっていた国語の教科書の裏表紙が見えた。


そこには、消えかけていたけど黒のマジックでこう書かれてあった。


【一条晴翔】


国語の教科書は、友達に貸したと言っていた一条くん。

てっきり男友達にだと思っていたけど――。


「その教科書…、一条くんのですよね?」

「…だったら、なに」

「一条くん、国語の教科書がなくて困ってるみたいなので、返してあげてほしいんですけど…」

「は?あんたに関係ないでしょ」

「でも一条くん、いつも国語の先生に指摘されているので――」


キーンコーンカーンコーン!


エリさんと話していたら、本鈴が鳴ってしまった…!


…やばいっ!


「じゃあ、…わたしは行きますねっ。ぶつかってしまって、すみませんでした…!」


エリさんに頭を下げ、急いで視聴覚室に向かおうとしたとき――。


「うざいんだよ」


陽が傾き、影のできた校舎内に重くて低い声が響く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初恋の王子様

中小路かほ
児童書・童話
あたし、朝倉ほのかの好きな人――。 それは、優しくて王子様のような 学校一の人気者、渡優馬くん。 優馬くんは、あたしの初恋の王子様。 そんなとき、あたしの前に現れたのは、 いつもとは雰囲気の違う 無愛想で強引な……優馬くん!? その正体とは、 優馬くんとは正反対の性格の双子の弟、 燈馬くん。 あたしは優馬くんのことが好きなのに、 なぜか燈馬くんが邪魔をしてくる。 ――あたしの小指に結ばれた赤い糸。 それをたどった先にいる運命の人は、 優馬くん?…それとも燈馬くん? 既存の『お前、俺に惚れてんだろ?』をジュニア向けに改稿しました。 ストーリーもコンパクトになり、内容もマイルドになっています。 第2回きずな児童書大賞にて、 奨励賞を受賞しました♡!!

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~

水鳴諒
児童書・童話
【完結】人形供養をしている深珠神社から、邪悪な魂がこもる人形が逃げ出して、心霊スポットの核になっている。天神様にそれらの人形を回収して欲しいと頼まれた中学一年生のスミレは、天神様の御用人として、神社の息子の龍樹や、血の繋がらない一つ年上の兄の和成と共に、一時間以内に出ないと具合が悪くなる心霊スポット巡りをして人形を回収することになる。※第2回きずな児童書大賞でサバイバル・ホラー賞を頂戴しました。これも応援して下さった皆様のおかげです、本当にありがとうございました!

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

だから開けるなと言ったでしょう

平井敦史
児童書・童話
浦島太郎に玉手箱を持たせて地上に送り返した乙姫の胸の内は。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...