隣の席の一条くん。

中小路かほ

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保健室で

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席替えから数日後。

国語の時間。


「…今日、一条くんが日直だから、絶対先生当ててくるよ!」

「え~…、また?俺、眠いんだけど」


先生には聞こえないように、小声で一条くんに話しかける。

だるそうにわたしの話を聞きながら、また一条くんが寝ようとしたとき――。


「それじゃあ一条くん、読んでちょうだい」


わたしの予想通り、一条くんが当てられた。


「…うわ、ほんとだ。これ、借りるよ」

「うんっ」


一条くんはわたしの国語の教科書を手に取ると、ゆっくりと立ち上がった。


席替えをしてから、国語の時間だけこうして席をくっつけて、教科書の貸し借りをしている。


「…一条くん。あなた、いつも教科書持ってないみたいだけど、どうしたの?」

「友達にパクられてます」

「それなら、その友達に早く返してもらいなさい」

「はい」


悪びれる様子もなく、読み終わった一条くんが席に座る。


いつも机には出していないだけで、国語以外の教科書はあるらしい。

だけど、国語の教科書は友達に貸したままだというのは、今初めて知った。


でもそのおかげで、たった数日で一条くんと仲よくなれたような気がする。


床のタイル2個分の距離とは言え、教科書の貸し借りがなければ、おそらく話しかけることもなかっただろう。

話しかけることもなければ、一条くんを知るきっかけもなかった。


見た目がこんなだから、話しかけにくいオーラが出ているように感じたけど、実際はただの思い込みだった。


話してみたら、口数は少ないけどちゃんと受け答えはしてくれる。

…寝ているときを除いて。


それに、わたしの教科書に無断でラクガキしたりと、見かけによらずちょっと子供っぽいところもあったりする。


「…ねぇ、なにこの絵っ」

「は?犬に決まってんだろ」

「これが犬…!?一条くん、絵心なさすぎ~」


わたしの国語の教科書の端に、よくわからない生き物を描いていると思ったら、どうやら犬らしい。

変な絵を描くから、思わず笑い声が漏れてしまった。


「そこ!静かにしなさいっ」


そのせいで、先生に怒られてしまった。


「…もうっ!一条くんのせいで、怒られたじゃない」


と言って、見たときにはすでに一条くんはタヌキ寝入りをしていた。



そのあとの休み時間。


「なんかひらり、一条くんと仲よくない?」


トイレに行く途中で、彩奈が話しかけてきた。


「仲いい?そうかな?」

「席替えしたときは、あんなに嫌がってたのにっ」

「あ~、確かにそうだったね。でも一条くん、見かけによらずおもしろいんだよ!」

「そうなの?じゃあ、アタシが話しかけても大丈夫かな?」

「大丈夫、大丈夫!彩奈なら仲よくなれるよ!」


彩奈は社交的だから、知らない間にだれとでも仲よくなっている。

わたしが一条くんと話せて、彩奈ができないことはない。


「なんか見た目こわいから、変に緊張しちゃうんだよねー。話しかけて、怒られないかな?」

「そんなことで怒らないって!一条くん、そんなキャラじゃないから」

「そっか!じゃあ、戻ったら話してみようかなっ」


親友の彩奈と、隣の席の一条くんが仲よくなってくれたら、なんだかわたしもうれしいし。


「でもたぶん、クラスの男子は一条くんに嫉妬してるんじゃないかな~?」

「嫉妬?なんで?」

「だって、授業中もひらりと仲よくしてるんだよ?心の中では『ひらりちゃんと楽しそうにするな~!』とか思ってるよ、絶対」

「それなら、直接言えばいいのにっ」

「だから、それは一条くんがこわくて、面と向かって言えないんだって」

「なにそれ~。男の子にも、いろいろと事情があるんだね」



そしてトイレから戻ると、一条くんの席のそばにだれかが立っていた。

見ると、それは彩奈の彼氏の爽太くんだった。


爽太くんと一条くんのツーショットは初めて見る。


少し離れた場所から聞き耳を立てていると…。


「一条って、なんで金髪なの~?やばくね?ただの不良じゃん」


おそろしくドストレートな質問をしていた…!


恐れ多いと言うか…。

怖いもの知らずと言うか…。


「いきなりなんだよ、お前」

「オレは、爽太。よろしくな~」


会話が成立しているのかしていないのかはわからないけど…。

…やっぱり爽太くん、いろんな意味で空気が読めていない!


「俺が金髪だろうと、お前には関係ないじゃん」


突然、パーソナルスペースに侵入してきた爽太くんに対して、なんだか一条くんが敵意を向けているように感じる。


このまま爽太くんがその空気を読まなければ、なにかが勃発しそうな予感…!


「いいから、俺に関わるなよ」

「いや、そうはいかないんだよな~。せっかく同じクラスになったんだしさ、仲よくしようぜ~」


やっぱり爽太くん、空気が読めていない…!


彩奈に目を移すと、呆れた顔をしていた。


「爽太、あれ…やばいでしょ。一発ボコられるんじゃない?」


彼女である彩奈はそう言いつつも、内心ヒヤヒヤしながら様子を見ている。


「なぁなぁ、なんで金髪なの~?先生に怒られない?」


爽太くん、もうやめて…!

これ以上一条くんを刺激したら、なにが起こるかわからない。


クラスのみんながこの空気の異変に気づいて、目を向けた――そのとき。


「その髪色、めっちゃかっこいいよな~。オレ、そういう髪型に憧れてるんだよな~」


ピリついた空気に、気の抜けた爽太くんの話し声。

思わず、目が点になる。


「…は?お前、わざわざそんなこと言いにきたの?」

「うん。オレも金髪にしたいけど、先生に怒られるのイヤだし、そもそもオレには似合わないから。だから、オレの分まで不良がんばって!」


それだけ言うと、爽太くんは満足したのか、自分の席に戻っていった。


ゲリラのように突然現れ、そして去っていった爽太くんにポカンとした表情を浮かべる一条くん。


そして、フッと笑みが溢れたのが見えた。
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