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君にありがとう

大河side 3P

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毎日が練習、練習、練習。

合間に、莉子とデートしたり。


莉子がいるから、日々の練習も乗り越えることができた。


悠は、1年の間に着実に実力を上げていき――。

その成果が認められ、高校2年でベンチ入りを果たした。



俺は、今年もレギュラーで迎えた夏の大会。

今年こそは甲子園出場を目指して、試合に挑んだ。


結果的に明光学園は優勝し、見事に甲子園出場の切符を手にした。


しかし…。

甲子園の舞台に、俺の姿はなかった。


なぜなら、夏の大会の準々決勝で、俺は肩を壊してしまったから。

ドクターストップがかかり、試合はおろか、練習さえも参加できない状況となった。


甲子園に出場した明光学園は、3回戦で敗退。


それを俺は、スタンド席から見つめることしかできなかった。


さすがに、このときばかりは野球ができなくて荒れかけた。

これまでの俺の人生は、野球しかなかったから。


だけど、そうじゃなかった。

そばに莉子がいてくれた。


愚痴を吐いて、八つ当たりするどうしようもない俺を、莉子は優しく包み込んでくれた。


俺が莉子を支えると誓ったはずが…。

莉子に支えられるかたちとなった。


そんな莉子のためにも、俺はまたレギュラーになってみせる。


そう心に決めた、高2の秋だった。



そして、俺たちは高校3年生になった。


ケガをして荒んでいた去年が嘘かのように、それから1年後の夏――。

俺は夏の大会の決勝戦で、思いきりボールを投げていた。


俺のボールを受け止めるのは、もちろん小学校のころからバッテリーを組んできた、キャッチャーの悠だ。


俺と悠は、高校3年生でともにレギュラー。

そしてバッテリーとして、決勝戦の舞台に立っていた。


莉子は、応援席で応援してくれている。


「俺が、甲子園に連れていってやるから」


試合前に、そう約束して。


1年のときは、その夢は叶わず。

2年のときは、ケガで途中降板したため、俺の力で甲子園に行けたわけではない。


だから、今年は絶対に。

莉子と悠といっしょに、甲子園に行くんだ。


そうして俺は、決勝戦を投げきったのだった。



試合結果は、3ー1で――。

見事、明光学園が2年連続の甲子園出場を果たしたのだった。



「かっこよかったじゃんっ」


試合後、莉子は俺のところへきてくれた。


「まあな。俺ならできると思ってたし」

「よく言うよ~。満塁になったときは、ヒヤヒヤしたんだからっ」

「あ~、あれな。内心、俺もヒヤヒヤしてた」


なんて、今だからこんなことも莉子に話してしまえる。


「じゃあ次は、甲子園優勝だね」


その莉子の言葉に、俺は思わず飲んでいたスポーツドリンクを噴きそうになった。


「は…!?甲子園優勝…!?」

「え?むしろ、優勝しないでどうするの?」

「…いや。俺だって、できることなら優勝したいけど…」


それがどんなに大変なことか…。


「去年だって、3回戦敗退やん。やから、優勝なんてそうそうできるものじゃ――」

「できるよっ。大河なら」


迷いのない莉子の言葉に、少し戸惑った。

どこからそんな自信が…。


「だって、これがあるからっ」


そう言って、莉子はバッグからなにが取り出した。

そして、俺の手のひらにそれを差し出す。


「…これ」


それは、赤と黄色の紐で編み込まれたミサンガだった。


この色のミサンガは、中3の引退試合前に莉子が作ってくれたものと同じだった。


「今度は、『甲子園優勝できますように』って、お願いしておいたからっ」


だから、大丈夫。


莉子は、そう言いたいらしい。


ミサンガ1つで優勝できるのなら、だれも苦労なんてしない。


しかし、3年前も大事な場面でミサンガが切れて、ご利益を発揮したことがあった。


だから今回も、ミサンガだからといってバカにすることもできない。

それに、莉子が俺のために作ってくれた。


それだけで、俺は力が湧いてくるのだった。



そして夢に見た、憧れの甲子園の舞台。

俺は左手首に莉子からもらったミサンガをつけて、出場したのだった。


甲子園の初マウンドは、今まで見てきた風景の中で、一番まぶしくて輝いて見えた。


熱い応援。

鳴り響くブラスバンド。


そのすべてが、俺に程よい緊張感を与える。


…初めてだからって、こわくなんかない。

楽しまなきゃ損だ。


俺は、キャッチャーの悠にわずかに微笑んでみせると、悠も同じく返してくれた。


さあ、俺たちの最後で最高の闘いが始まる。


俺は、大きく振りかぶったのだった。



負けて悔し涙を流す学校がある中で、明光学園は着実にトーナメントを勝ち上がっていった。


去年敗退してしまった3回戦では、関東の優勝候補を撃破。

さらに波に乗った明光学園は、続く4回戦の準々決勝も勝利し、5回戦の準決勝にも勝利した。


無我夢中でボールを投げ続けていたが、気がつけば決勝戦進出。

莉子と約束を交わした、甲子園決勝の舞台へと駒を進めていたのだった。



そして、決勝戦。

相手は、一昨年の甲子園優勝校だった。


体力温存のため、俺は初回マウンドにはいなかった。

控えピッチャーの立ち上がりはまずまずで、序盤は無失点に抑える。


しかし、徐々にヒットが続き、相手にペースが傾きつつあるのはなんとなく感じ取っていた。


そして、4回の裏でようやく試合が動く。

大きな当たりが出て、初めて点を許したのだった。


この回で、2点を取られた。


だけど、まだ2点。

これから、挽回のチャンスはある。


そして、次の5回からは、いよいよ俺がピッチャーとして登板した。


泣いても笑っても、これが甲子園最後の試合。

そして、高校最後の試合となる。


だったら、もう勝つしかない。


スタンド席から見てろよ、莉子。

絶対、優勝してやるから。



明光学園は、6回と7回で1点ずつ加え、2ー2の同点で8回を迎えた。


しかしこの終盤で、初めて俺は失点した。

先攻の明光学園は、あと9回の表しか攻撃がないというタイミングの8回の裏…相手チームの攻撃。


ここで、大きな1点を入れられてしまったのだった。


なんとかそのあとは抑えたが、ここにきて3ー2の1点差。

俺たちの攻撃のチャンスは、…あと1回。


一瞬、一昨年のスリーランホームランが頭によぎった。

あれで逆転されて、一昨年は甲子園に行けなかったから。


不安が残るまま迎えた、9回。


味方がなんとか粘ってくれて、2塁と3塁にランナーがいる。

しかし、ツーアウトで迎えた…俺の打席。


緊張で、震える手。

こんな状況で、プレッシャーを感じないほうがおかしい。


一打出れば、同点の可能性。

しかし、俺がここでミスれば…。


すべてが終わる。


――そのとき、ふと左手首に視線を移すと、赤と黄色のミサンガが目に入った。


…莉子のミサンガ。


『今度は、『甲子園優勝できますように』って、お願いしておいたからっ』


莉子の言葉が思い出される。


そうだ、俺は1人じゃない。

この場には、莉子もいっしょだ。


待ってろよ、莉子。

かっこいいところ、見せてやるからな。


俺は、バッターボックスに立つと応援席を見つめて、そして相手ピッチャーに目を向けた。



1ボール、2ストライクと追い込まれた…4球目。


俺が振ったバッドは、相手ピッチャーが投げた変化球を捉え――。

前進守備だった外野の頭上を飛び越えていったのだった。


歓声で沸き立つスタンド。


結果は、ツーベースヒット。

そして、土壇場で2点の追加で逆転したのだった。


その後のバッターがフライで打ち取られ3アウトとなったが、流れは完全に明光学園のものだった。

9回の裏の守備も俺は全力で投げきり、三者凡退。


その瞬間、明光学園は甲子園優勝を成し遂げたのだった。


チームメイトと抱き合い、悠と力づくでお互いの頭を撫で合う。


去年、一昨年と悔し涙を流したが――。

今年は、最高のうれし涙となった。



その日の帰り。

俺たち野球部員を乗せたバスが、学校へと到着する。


バスを降りた俺を待ってくれていたのは――。

もちろん莉子だった。


「おかえり、大河」


にっこりと微笑む莉子。


「…それと。優勝おめでとう、大河」

「ああ。ありがとう、莉子」


俺たちは人目を気にすることもなく、まるで引き寄せられるかのように抱き合った。


あの場面でヒットを打てたのも、そのあとの相手の攻撃を抑えることができたのも――。

すべては、莉子のミサンガのおかげ。
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