12 / 31
君に救われた
莉子side 1P
しおりを挟む
わたし、そして大河たち中学3年生の引退をかけた夏の大会――。
わたしたちは、決勝戦の舞台の上に立っていた。
9回の裏、ツーアウト。
あとアウト1つで勝利という目前のところで、先攻で守備の青城中学は満塁の大ピンチ。
点数は、わずかに1点差。
ヒットが出れば、同点…。
いや、サヨナラだってありえる。
だれもが固唾を呑む。
まさか、こんな展開になるとは思っていなかった。
なぜなら、1回から登板していたピッチャーである大河は、それまで無失点で抑え、青城中学は5回までに4点差をリードしていた。
しかし、中盤の5回裏。
初戦から投げ続けていた大河だったが、ここにきてその疲れが出たのが、腕の痙攣を訴えた。
手が痺れて、コントロールがうまくできないと。
そこで、大河は途中降板。
大河が降板後、徐々に点差を詰め寄られ、この9回の裏で、逆転サヨナラのピンチを迎えていたのだった。
そんな体が強張りそうなほどの緊張感の中――。
ベンチで声がかかった。
「…大河、いけるか?」
「もちろんです」
見ると、わたしの隣で安静にしていた大河が、キャップを被り直して立ち上がった。
「…待って、大河!大丈夫なの!?」
「ああ。もうすっかりよくなったし」
って言っても、まだ若干指先が震えてるじゃん…。
大河が無理しているのはわかっていた。
でも、無理してでも自分の手であと1つのアウトを取りたいという大河の気持ちは、痛いほど伝わってきた。
だって途中降板するとき、悔し涙を目に浮かべていたから。
だから、それ以上わたしはなにも言えなかった。
「なんで泣きそうな顔してんねんっ」
「べつに…、泣いてなんかっ…」
「大丈夫やって!勝つのは俺らやから」
そう言って、大河はわたしの頭をくしゃくしゃに撫でた。
わたしが泣きそうなっているのは、青城中学が負けるかもしれないという心配からじゃない。
もし、ここで無理に登板して、大河になにかあったらという不安からだった。
「莉子は、そこで黙って見てるだけでいいから。…3球で決めてくる」
大河はキャップのつばをギュッ握ると、まるでスポットライトが当たっているかのような、眩しい太陽の光が降り注ぐマウンドへ駆け出していった。
『3球で決めてくる』
大河は、わたしにそう言った。
すると、その宣言どおり――。
1球目、見逃しのストライク。
2球目、空振りのストライク。
…そして、最後の3球目。
大河は、左手に握ったボールに目を移す。
1球目も2球目も、ストレートだった。
だから、わたしには3球目もわかっていた。
なににでもまっすぐな大河らしい、自慢のストレートで勝負するって。
ノーボール、2ストライク。
あと、1球…。
わたしは、顔の前で両手を握りしめ――祈った。
――そして。
「ストラーーーーイク!!」
球審の声が、静まり返ったマウンドにこだまする。
大河が投げたストレートの球は、バッターが大きく振ったバットにかすることもなく…。
まるで吸い込まれるように、悠のキャッチャーミットの中に収まったのだった。
その瞬間、グラウンドにいた部員と、ベンチから溢れ出した部員が、マウンドに立つ大河に駆け寄った。
みんな人差し指を掲げて、マウンドの上で飛び跳ねている。
去年と一昨年は決勝戦で破れ、悔し涙を呑んだ。
わたしたちは、決勝戦の舞台の上に立っていた。
9回の裏、ツーアウト。
あとアウト1つで勝利という目前のところで、先攻で守備の青城中学は満塁の大ピンチ。
点数は、わずかに1点差。
ヒットが出れば、同点…。
いや、サヨナラだってありえる。
だれもが固唾を呑む。
まさか、こんな展開になるとは思っていなかった。
なぜなら、1回から登板していたピッチャーである大河は、それまで無失点で抑え、青城中学は5回までに4点差をリードしていた。
しかし、中盤の5回裏。
初戦から投げ続けていた大河だったが、ここにきてその疲れが出たのが、腕の痙攣を訴えた。
手が痺れて、コントロールがうまくできないと。
そこで、大河は途中降板。
大河が降板後、徐々に点差を詰め寄られ、この9回の裏で、逆転サヨナラのピンチを迎えていたのだった。
そんな体が強張りそうなほどの緊張感の中――。
ベンチで声がかかった。
「…大河、いけるか?」
「もちろんです」
見ると、わたしの隣で安静にしていた大河が、キャップを被り直して立ち上がった。
「…待って、大河!大丈夫なの!?」
「ああ。もうすっかりよくなったし」
って言っても、まだ若干指先が震えてるじゃん…。
大河が無理しているのはわかっていた。
でも、無理してでも自分の手であと1つのアウトを取りたいという大河の気持ちは、痛いほど伝わってきた。
だって途中降板するとき、悔し涙を目に浮かべていたから。
だから、それ以上わたしはなにも言えなかった。
「なんで泣きそうな顔してんねんっ」
「べつに…、泣いてなんかっ…」
「大丈夫やって!勝つのは俺らやから」
そう言って、大河はわたしの頭をくしゃくしゃに撫でた。
わたしが泣きそうなっているのは、青城中学が負けるかもしれないという心配からじゃない。
もし、ここで無理に登板して、大河になにかあったらという不安からだった。
「莉子は、そこで黙って見てるだけでいいから。…3球で決めてくる」
大河はキャップのつばをギュッ握ると、まるでスポットライトが当たっているかのような、眩しい太陽の光が降り注ぐマウンドへ駆け出していった。
『3球で決めてくる』
大河は、わたしにそう言った。
すると、その宣言どおり――。
1球目、見逃しのストライク。
2球目、空振りのストライク。
…そして、最後の3球目。
大河は、左手に握ったボールに目を移す。
1球目も2球目も、ストレートだった。
だから、わたしには3球目もわかっていた。
なににでもまっすぐな大河らしい、自慢のストレートで勝負するって。
ノーボール、2ストライク。
あと、1球…。
わたしは、顔の前で両手を握りしめ――祈った。
――そして。
「ストラーーーーイク!!」
球審の声が、静まり返ったマウンドにこだまする。
大河が投げたストレートの球は、バッターが大きく振ったバットにかすることもなく…。
まるで吸い込まれるように、悠のキャッチャーミットの中に収まったのだった。
その瞬間、グラウンドにいた部員と、ベンチから溢れ出した部員が、マウンドに立つ大河に駆け寄った。
みんな人差し指を掲げて、マウンドの上で飛び跳ねている。
去年と一昨年は決勝戦で破れ、悔し涙を呑んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


クールな幼なじみが本気になったら
中小路かほ
恋愛
わたしには、同い年の幼なじみがいる。
イケメンで、背が高くて、
運動神経抜群で、頭もよくて、
おまけにモデルの仕事もしている。
地味なわたしとは正反対の
かっこいい幼なじみだ。
幼い頃からずっといっしょだったけど、
そんな完璧すぎる彼が
いつしか遠い存在のように思えて…。
周りからはモテモテだし、ファンのコも多いし。
……それに、
どうやら好きなコもいるみたい。
だから、
わたしはそばにいないほうがいいのかな。
そう思って、距離を置こうとしたら――。
「俺がいっしょにいたい相手は、
しずくだけに決まってんだろ」
「しずくが、だれかのものになるかもって思ったら…。
頭ぐちゃぐちゃで、どうにかなりそうだった」
それが逆に、
彼の独占欲に火をつけてしまい…!?
「幼なじみの前に、俺だって1人の男なんだけど」
「かわいすぎるしずくが悪い。
イヤって言っても、やめないよ?」
「ダーメ。昨日はお預けくらったから、
今日はむちゃくちゃに愛したい」
クールな彼が
突然、わたしに甘く迫ってきたっ…!
鈍感おっとり、控えめな女の子
花岡 しずく
(Shizuku Hanaoka)
×
モテモテな、完璧すぎる幼なじみ
遠野 律希
(Ritsuki Tōno)
クールな幼なじみが本気になったら――。
\ とびきり甘く溺愛されました…♡/
元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は
小学一年生の娘、碧に
キャンプに連れて行ってほしいと
お願いされる。
キャンプなんて、したことないし……
と思いながらもネットで安心快適な
キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。
だが、当日簡単に立てられると思っていた
テントに四苦八苦していた。
そんな時に現れたのが、
元子育て番組の体操のお兄さんであり
全国のキャンプ場を巡り、
筋トレしている動画を撮るのが趣味の
加賀谷大地さん(32)で――。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま
初恋の呪縛
泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー
×
都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー
ふたりは同じ専門学校の出身。
現在も同じアパレルメーカーで働いている。
朱利と都築は男女を超えた親友同士。
回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。
いや、思いこもうとしていた。
互いに本心を隠して。
斎藤先輩はSらしい
こみあ
青春
恋愛初心者マークの塔子(とうこ)が打算100%で始める、ぴゅあぴゅあ青春ラブコメディー。
友人二人には彼氏がいる。
季節は秋。
このまま行くと私はボッチだ。
そんな危機感に迫られて、打算100%で交際を申し込んだ『冴えない三年生』の斎藤先輩には、塔子の知らない「抜け駆け禁止」の協定があって……
恋愛初心者マークの市川塔子(とうこ)と、図書室の常連『斎藤先輩』の、打算から始まるお付き合いは果たしてどんな恋に進展するのか?
注:舞台は近未来、広域ウィルス感染症が収束したあとのどこかの日本です。
83話で完結しました!
一話が短めなので軽く読めると思います〜
登場人物はこちらにまとめました:
http://komiakomia.bloggeek.jp/archives/26325601.html
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる