9 / 31
君の気持ち
大河side 1P
しおりを挟む
青城中学に入学して、無我夢中で野球をしていたせいか、気づけば中学3年生になっていた。
去年の夏、先輩たちが引退してから、俺は野球部の部長に。
悠は、副部長に任命された。
バッテリーとしてだけではなく、2人で力を合わせて野球部を牽引していく。
悠は、的確なアドバイスをしてくれるか、すごく助かる。
そしてもう1人、俺の支えになってくれているのが――。
「なに、これ!また同じクラスなんだけど…!」
3年になった初日の登校日。
クラス分けの紙を見て、驚く1人の女子…。
胸くらいまである髪が、風でなびいている。
そう、莉子だ。
出会った当初は肩までしかなかった髪が、この2年の間にかなり伸びていた。
莉子とは、中1、中2と同じクラスで、しかも席替えもよく隣同士になるほどの腐れ縁。
「ほんまやんっ。さすがに、最後の年くらい離れたかったわ~」
「それは、こっちのセリフ。それに、悠もいっしょだしね」
今回は離れるだろうと思っていたら、またしても同じクラスになっていた。
でも、腐れ縁なのは悠も同じ。
『離れたかった』なんてことを莉子に対して言ってみるけど、実際はそんなことは思っていない。
莉子は、初めこそ消極的なのかと思っていたが、声をかけたらまったく違った。
意外と思っていることをズバズバと言うし、いっしょに話していたらなんだか清々しい気分になる。
そういうところがよかったのか、すぐに友達も増えていった。
俺も、女子の中では断トツに話しやすかったから、俺が野球部に入るとき、莉子もいっしょに誘った。
「俺、野球部に入るねんけど――」
「それは、言われなくてもわかるよ」
「…そうじゃなくて!もしあれやったら、莉子もどう?」
「…え、野球部?それって、男の子だけでしょ?」
「ちゃうちゃう!野球部のマネージャーなっ」
野球部は、女子のマネージャーも募集してた。
俺たち部員のサポートをしてくれる女子なら、なんでも話せる莉子がいいなと思った。
そして、莉子は俺の誘いもあって、野球部のマネージャーとして入部することになった。
「おい、大河っ。あのコ、お前が誘ってきたんやって?」
部活の休憩中に、野球部の先輩にひじで脇腹を突つかれる。
「莉子っすか?」
「そうそう、莉子ちゃん。東京から引っ越してきたんやっけ?」
「みたいっすね」
「なかなかかわいいコやん!お前、ああいうのがタイプなんや?」
「…はっ、はぁ…!?俺、べつにそんなつもりで野球部に誘ったんじゃ――」
「なに、慌ててんねんっ!動揺しすぎやろ~」
俺の反応を見て、先輩はケラケラと笑っている。
「まあ、莉子ちゃんかわいいし、野球部がパッと明るくなったって感じもあるから、連れてきて正解やったな!」
「そうっすか?それなら、よかったっすけど」
莉子は愛想もよくて仕事も一生懸命にしてくれるから、野球部の先輩にもマネージャーの先輩にもかわいがられていた。
「そういや、莉子ちゃんって彼氏とかいるんかなー?」
「…なんでそんな話になるんすかっ」
「だって、隙あらば狙っちゃおっかなって♪大河、莉子ちゃんに彼氏とか好きな男おるとか聞いといてーやー」
「浮いた話は聞いたことないっすけど、そんなの自分で聞いてくださいよ~…」
そんな莉子を狙う先輩も少なくはなかった。
そこに関しては、莉子を野球部に誘って正解だったかはわからない。
莉子は、俺の『仲間』みたいなもの。
だから、莉子に彼氏ができたとか、ましてやそれが同じ野球部の先輩だとか――。
そんな話は、あまり聞きたくはない。
なんとなく莉子に気があるんじゃないだろうか。
そんな感じの先輩や同級生は何人かいたが、結局告白したのかどうからわからない。
もしそれで、別れて気まずくなって、莉子が野球部を辞めるとか言い出したら困る…。
なんて思っていた。
しかし、俺の心配をよそに、莉子は毎日放課後の部活を楽しみにしてくれていた。
俺も、そんな莉子がいたから、さらに野球部で野球をすることが楽しくなった。
莉子のことを狙う先輩が引退、そしてまた引退して、今日から中学3年生になった俺たち。
先輩はいなくなっても、今度は莉子を狙う後輩が現れた。
だから、俺の心配がなくなることはなかった。
「なぁ、莉子!クラスどうやった?」
昇降口で靴を履き替えていたとき、この前まで同じクラスだった女友達が莉子に話しかけにきた。
「わたしは2組だったよ」
「ちなみに、大河と悠とは?」
「…それが、また同じクラスだったんだけど」
「ほんまに!?3人、どんだけ仲いいん!?」
大笑いされた。
べつに俺だって、好きで莉子と同じクラスになってるわけじゃ――。
「そんなに仲いいなら、どっちかと付き合えばいいやん!」
それを聞いて、俺はその隣で瞬時に振り返った。
……はぁ…!?
なんで、そんな話になるっ…!?
…いやいや。
こんなじゃじゃ馬娘と付き合うとか、こっちが勘弁――。
「やめてよー。野球バカと付き合ったら、バカが移るじゃん」
そう言って、莉子はケラケラと笑っている。
それを聞いて、莉子も俺と同じで、付き合うことなんてまったく考えていなくて…よかったような…。
でも、素直には喜べないような…。
なぜだか、そんな複雑な気持ちになった。
「そういえば、今日は部活ないんだよね?」
「ああ。やから、学校帰りに莉子ん家行こって、さっき悠と話しててん」
「…えっ!?なんで、わたしん家!?」
「だって、この前のゲームの決着、まだついてへんやんっ」
「まあ…いいけど。お母さんに連絡しておくっ」
「よろしく~」
莉子のお父さんがゲーム好きとかで、莉子の家には最新のテレビゲームやソフトがある。
初めは、それ目当てで遊びに行っていたけど、莉子のお父さんもお母さんもすごく優しくて、毎回もてなしてくれるから、すっかり居心地がよくなってしまった。
だから、頻繁に莉子の家に遊びに行くようになっていた。
莉子も、俺や悠の家に遊びにくることも多い。
女友達と遊ぶよりも、俺たちとつるむほうが多いんじゃないだろうか?
まあ、人の家にきてパンツが見えそうなくらいの大股を開いて、寝転びながらゲラゲラとマンガを読むような女子は、野郎といるほうが気が楽なのかもしれない。
その日の帰り。
俺と悠は、莉子の家へ行った。
「大河くん、悠くん、久しぶり~!」
莉子のお母さんが、玄関までパタパタと駆けてきて出迎えてくれた。
中からいい匂いがすると思ったら、どうやらこの前きたときに出されてうまかった、手作りクッキーを用意してくれていたらしい。
「莉子のお母さんのクッキー、めっちゃ好きなんすよ!」
「まあ、うれしい!たくさんあるから、どんどん食べてね~!」
ゲームしている間も、次から次へとクッキーが運ばれてきた。
まるで、無限クッキーだ。
でもうまいから、悠といっしょに口の中に放り込む。
「よかったら2人とも、晩ごはんもウチで食べていったら?」
「「いいんすか!?」」
「もちろん!今日は、お父さんも早く帰ってこれるから、2人に会える楽しみにしてると思うから」
「やった~!莉子のお母さんの料理、めちゃくちゃうめぇよなー」
「ああ。遠慮なくいただきまーす!」
莉子のお母さんは、お菓子作りだけでなく、手料理もうまい。
調理実習で失敗ばかりする莉子とは、大違いだ。
それに、莉子のお父さんもおもしろい人。
友達にプロ野球選手がいるとかで、その人の話を聞くのが毎回の楽しみだった。
晩ごはんのあと、俺は莉子の部屋にいた。
この前貸したマンガを返してもらうためだ。
「確か、ここに置いて…」
と、机の上を探す莉子。
しかし、見当たらない。
「あれっ…?こっちだったかな?」
莉子が自信なさげな声を漏らしながら、部屋の中を探している。
それを後ろから、心配そうに見てみる。
「おいおい。失くしたんとちゃうやろな~」
「そんなことないよ。だって、昨日見かけたし」
昨日見かけたなら、そのあたりに置いてありそうだけど、ぱっと見てはなかった。
だから、俺も仕方なくいっしょに探すことに。
そして、10分後。
「…あっ!思い出した!」
莉子はハッとした顔で立ち上がると、ベッドの横にある本棚へ向かった。
莉子の行動に視線を移していると、本棚の一番上の棚に莉子のマンガに混じって、俺のマンガの背表紙が見えた。
「そういえば、昨日本棚にしまったんだった…!」
「それにしても、…なんであんな高いところに」
「おもしろかったから、もう1回読み返そうと思って~」
「いや、あそこに置いてる時点で、借りパクしようと思ってたやろ」
なぜ、読み終わって借りたマンガを自分の本棚にしまう必要がっ…。
俺が目を細めて莉子を見ると、慌てたように顔の前で手をブンブンと横に振る莉子。
「…そんなことないよ!それに、大河だってわたしのマンガ、借りパクしてるじゃん!」
「あれは、まだ読んでへんねん」
「何ヶ月前に貸したと思ってるの~!?それこそ、借りパクだよっ」
確かに、莉子から借りたマンガをずっと持っていたまんまだった。
…くそっ。
そう言われたら、なにも言い返せない。
莉子は俺を押しのけると、本棚に手を伸ばした。
しかし、俺のマンガに莉子の指先が届くことはなかった。
莉子なりに、目一杯背伸びをしているみたいだけど。
なんでそこにしまえて、取るときには届かねぇんだよ。
踏み台かなんか使ったんじゃないのか?
そう思いつつも、本棚の一番上の棚は、俺にとってはそれほど高くはなかった。
――だから。
「じゃあ、返してもらうからな」
莉子に任していてもらちが明かないから、俺は莉子の後ろから本棚に手を伸ばした。
「よしっ、取れた」
プルプルと震える莉子の指先を飛び越えて、俺は軽々と本棚に挟まっていた自分のマンガを抜き取った。
――と、そのとき。
踏み込んだ足の裏に、なにか固いものが当たった。
それはまるで、足ツボを刺激するかのように、俺の足の裏にめり込む。
「…うわぁ!」
思わず、変な声が漏れる。
足の裏の微妙な痛みと不安定感で、俺は体のバランスを大きく崩してしまった。
去年の夏、先輩たちが引退してから、俺は野球部の部長に。
悠は、副部長に任命された。
バッテリーとしてだけではなく、2人で力を合わせて野球部を牽引していく。
悠は、的確なアドバイスをしてくれるか、すごく助かる。
そしてもう1人、俺の支えになってくれているのが――。
「なに、これ!また同じクラスなんだけど…!」
3年になった初日の登校日。
クラス分けの紙を見て、驚く1人の女子…。
胸くらいまである髪が、風でなびいている。
そう、莉子だ。
出会った当初は肩までしかなかった髪が、この2年の間にかなり伸びていた。
莉子とは、中1、中2と同じクラスで、しかも席替えもよく隣同士になるほどの腐れ縁。
「ほんまやんっ。さすがに、最後の年くらい離れたかったわ~」
「それは、こっちのセリフ。それに、悠もいっしょだしね」
今回は離れるだろうと思っていたら、またしても同じクラスになっていた。
でも、腐れ縁なのは悠も同じ。
『離れたかった』なんてことを莉子に対して言ってみるけど、実際はそんなことは思っていない。
莉子は、初めこそ消極的なのかと思っていたが、声をかけたらまったく違った。
意外と思っていることをズバズバと言うし、いっしょに話していたらなんだか清々しい気分になる。
そういうところがよかったのか、すぐに友達も増えていった。
俺も、女子の中では断トツに話しやすかったから、俺が野球部に入るとき、莉子もいっしょに誘った。
「俺、野球部に入るねんけど――」
「それは、言われなくてもわかるよ」
「…そうじゃなくて!もしあれやったら、莉子もどう?」
「…え、野球部?それって、男の子だけでしょ?」
「ちゃうちゃう!野球部のマネージャーなっ」
野球部は、女子のマネージャーも募集してた。
俺たち部員のサポートをしてくれる女子なら、なんでも話せる莉子がいいなと思った。
そして、莉子は俺の誘いもあって、野球部のマネージャーとして入部することになった。
「おい、大河っ。あのコ、お前が誘ってきたんやって?」
部活の休憩中に、野球部の先輩にひじで脇腹を突つかれる。
「莉子っすか?」
「そうそう、莉子ちゃん。東京から引っ越してきたんやっけ?」
「みたいっすね」
「なかなかかわいいコやん!お前、ああいうのがタイプなんや?」
「…はっ、はぁ…!?俺、べつにそんなつもりで野球部に誘ったんじゃ――」
「なに、慌ててんねんっ!動揺しすぎやろ~」
俺の反応を見て、先輩はケラケラと笑っている。
「まあ、莉子ちゃんかわいいし、野球部がパッと明るくなったって感じもあるから、連れてきて正解やったな!」
「そうっすか?それなら、よかったっすけど」
莉子は愛想もよくて仕事も一生懸命にしてくれるから、野球部の先輩にもマネージャーの先輩にもかわいがられていた。
「そういや、莉子ちゃんって彼氏とかいるんかなー?」
「…なんでそんな話になるんすかっ」
「だって、隙あらば狙っちゃおっかなって♪大河、莉子ちゃんに彼氏とか好きな男おるとか聞いといてーやー」
「浮いた話は聞いたことないっすけど、そんなの自分で聞いてくださいよ~…」
そんな莉子を狙う先輩も少なくはなかった。
そこに関しては、莉子を野球部に誘って正解だったかはわからない。
莉子は、俺の『仲間』みたいなもの。
だから、莉子に彼氏ができたとか、ましてやそれが同じ野球部の先輩だとか――。
そんな話は、あまり聞きたくはない。
なんとなく莉子に気があるんじゃないだろうか。
そんな感じの先輩や同級生は何人かいたが、結局告白したのかどうからわからない。
もしそれで、別れて気まずくなって、莉子が野球部を辞めるとか言い出したら困る…。
なんて思っていた。
しかし、俺の心配をよそに、莉子は毎日放課後の部活を楽しみにしてくれていた。
俺も、そんな莉子がいたから、さらに野球部で野球をすることが楽しくなった。
莉子のことを狙う先輩が引退、そしてまた引退して、今日から中学3年生になった俺たち。
先輩はいなくなっても、今度は莉子を狙う後輩が現れた。
だから、俺の心配がなくなることはなかった。
「なぁ、莉子!クラスどうやった?」
昇降口で靴を履き替えていたとき、この前まで同じクラスだった女友達が莉子に話しかけにきた。
「わたしは2組だったよ」
「ちなみに、大河と悠とは?」
「…それが、また同じクラスだったんだけど」
「ほんまに!?3人、どんだけ仲いいん!?」
大笑いされた。
べつに俺だって、好きで莉子と同じクラスになってるわけじゃ――。
「そんなに仲いいなら、どっちかと付き合えばいいやん!」
それを聞いて、俺はその隣で瞬時に振り返った。
……はぁ…!?
なんで、そんな話になるっ…!?
…いやいや。
こんなじゃじゃ馬娘と付き合うとか、こっちが勘弁――。
「やめてよー。野球バカと付き合ったら、バカが移るじゃん」
そう言って、莉子はケラケラと笑っている。
それを聞いて、莉子も俺と同じで、付き合うことなんてまったく考えていなくて…よかったような…。
でも、素直には喜べないような…。
なぜだか、そんな複雑な気持ちになった。
「そういえば、今日は部活ないんだよね?」
「ああ。やから、学校帰りに莉子ん家行こって、さっき悠と話しててん」
「…えっ!?なんで、わたしん家!?」
「だって、この前のゲームの決着、まだついてへんやんっ」
「まあ…いいけど。お母さんに連絡しておくっ」
「よろしく~」
莉子のお父さんがゲーム好きとかで、莉子の家には最新のテレビゲームやソフトがある。
初めは、それ目当てで遊びに行っていたけど、莉子のお父さんもお母さんもすごく優しくて、毎回もてなしてくれるから、すっかり居心地がよくなってしまった。
だから、頻繁に莉子の家に遊びに行くようになっていた。
莉子も、俺や悠の家に遊びにくることも多い。
女友達と遊ぶよりも、俺たちとつるむほうが多いんじゃないだろうか?
まあ、人の家にきてパンツが見えそうなくらいの大股を開いて、寝転びながらゲラゲラとマンガを読むような女子は、野郎といるほうが気が楽なのかもしれない。
その日の帰り。
俺と悠は、莉子の家へ行った。
「大河くん、悠くん、久しぶり~!」
莉子のお母さんが、玄関までパタパタと駆けてきて出迎えてくれた。
中からいい匂いがすると思ったら、どうやらこの前きたときに出されてうまかった、手作りクッキーを用意してくれていたらしい。
「莉子のお母さんのクッキー、めっちゃ好きなんすよ!」
「まあ、うれしい!たくさんあるから、どんどん食べてね~!」
ゲームしている間も、次から次へとクッキーが運ばれてきた。
まるで、無限クッキーだ。
でもうまいから、悠といっしょに口の中に放り込む。
「よかったら2人とも、晩ごはんもウチで食べていったら?」
「「いいんすか!?」」
「もちろん!今日は、お父さんも早く帰ってこれるから、2人に会える楽しみにしてると思うから」
「やった~!莉子のお母さんの料理、めちゃくちゃうめぇよなー」
「ああ。遠慮なくいただきまーす!」
莉子のお母さんは、お菓子作りだけでなく、手料理もうまい。
調理実習で失敗ばかりする莉子とは、大違いだ。
それに、莉子のお父さんもおもしろい人。
友達にプロ野球選手がいるとかで、その人の話を聞くのが毎回の楽しみだった。
晩ごはんのあと、俺は莉子の部屋にいた。
この前貸したマンガを返してもらうためだ。
「確か、ここに置いて…」
と、机の上を探す莉子。
しかし、見当たらない。
「あれっ…?こっちだったかな?」
莉子が自信なさげな声を漏らしながら、部屋の中を探している。
それを後ろから、心配そうに見てみる。
「おいおい。失くしたんとちゃうやろな~」
「そんなことないよ。だって、昨日見かけたし」
昨日見かけたなら、そのあたりに置いてありそうだけど、ぱっと見てはなかった。
だから、俺も仕方なくいっしょに探すことに。
そして、10分後。
「…あっ!思い出した!」
莉子はハッとした顔で立ち上がると、ベッドの横にある本棚へ向かった。
莉子の行動に視線を移していると、本棚の一番上の棚に莉子のマンガに混じって、俺のマンガの背表紙が見えた。
「そういえば、昨日本棚にしまったんだった…!」
「それにしても、…なんであんな高いところに」
「おもしろかったから、もう1回読み返そうと思って~」
「いや、あそこに置いてる時点で、借りパクしようと思ってたやろ」
なぜ、読み終わって借りたマンガを自分の本棚にしまう必要がっ…。
俺が目を細めて莉子を見ると、慌てたように顔の前で手をブンブンと横に振る莉子。
「…そんなことないよ!それに、大河だってわたしのマンガ、借りパクしてるじゃん!」
「あれは、まだ読んでへんねん」
「何ヶ月前に貸したと思ってるの~!?それこそ、借りパクだよっ」
確かに、莉子から借りたマンガをずっと持っていたまんまだった。
…くそっ。
そう言われたら、なにも言い返せない。
莉子は俺を押しのけると、本棚に手を伸ばした。
しかし、俺のマンガに莉子の指先が届くことはなかった。
莉子なりに、目一杯背伸びをしているみたいだけど。
なんでそこにしまえて、取るときには届かねぇんだよ。
踏み台かなんか使ったんじゃないのか?
そう思いつつも、本棚の一番上の棚は、俺にとってはそれほど高くはなかった。
――だから。
「じゃあ、返してもらうからな」
莉子に任していてもらちが明かないから、俺は莉子の後ろから本棚に手を伸ばした。
「よしっ、取れた」
プルプルと震える莉子の指先を飛び越えて、俺は軽々と本棚に挟まっていた自分のマンガを抜き取った。
――と、そのとき。
踏み込んだ足の裏に、なにか固いものが当たった。
それはまるで、足ツボを刺激するかのように、俺の足の裏にめり込む。
「…うわぁ!」
思わず、変な声が漏れる。
足の裏の微妙な痛みと不安定感で、俺は体のバランスを大きく崩してしまった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
期末テストで一番になれなかったら死ぬ
村井なお
青春
努力の意味を見失った少女。ひたむきに生きる病弱な少年。
二人はその言葉に一生懸命だった。
鶴崎舞夕は高校二年生である。
昔の彼女は成績優秀だった。
鹿島怜央は高校二年生である。
彼は成績優秀である。
夏も近いある日、舞夕は鹿島と出会う。
そして彼女は彼に惹かれていく。
彼の口にした一言が、どうしても忘れられなくて。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
吉祥寺行
八尾倖生
青春
中古のスケッチブックのように、黙々と自宅、学校、アルバイト先を行き来する淀んだ白い日々を送る芳内克月。深海のように、派手派手しい毎日の裏に青い葛藤を持て余す風間実。花火のように、心身共に充実という名の赤に染まる鳥飼敬斗。モザイクのように、過去の自分と今の自分、弱さと強さ、嘘と真実の間の灰色を彷徨う松井彩花。
八王子にある某私立大学に通う四人の大学生は、対照的と言うべきか、はたまた各々の穴を補うような、それぞれの「日常」を過ごしていた。そうして日常を彩る四つの運命が、若者たちの人生に色彩を与える。
知っているうちに並行し、知らないうちに交差する彼らの一週間と二週間は、彼らの人生、生き方、日常の色を変えた。
そして最後の日曜日、二人のゲストを迎え、人々は吉祥寺に集結する。
イーペン・サンサーイのように
黒豆ぷりん
青春
生まれたときから間が悪い真野さくら。引っ込み思案で目立たないように生きてきたけれど、中学校で出会った秋月楓との出会いで、新たな自分と向き合って行こうとするお話。
ふてくされた顔の君、空に浮かぶくせ毛
あおなゆみ
青春
偶然同じ喫茶店に通っていた高校生の彼女と僕。
NO NAMEという関係性で馴染んでいった二人だったが、彼女がその喫茶店でアルバイトしている大学生の陽介と付き合い始めたことで、僕の彼女への想いは変化してゆく。
切ない想いを抱きながらも彼女のそばにいる喜びと、彼女を諦めなくてはいけないという焦りを抱く僕。
大学生になった僕には、僕を好きだと言ってくれる人も現れる。
そんな中、僕らのNO NAMEな関係は、彼女が悪気もなく名前をつけたことで変化した。
彼女と一度は距離を置くが、偶然は一度起きるとその確率を高めてしまいーー
片想いする相手への切なさと許容と執着、愛しい青春。
月夜の理科部
嶌田あき
青春
優柔不断の女子高生・キョウカは、親友・カサネとクラスメイト理系男子・ユキとともに夜の理科室を訪れる。待っていたのは、〈星の王子さま〉と呼ばれる憧れの先輩・スバルと、天文部の望遠鏡を売り払おうとする理科部長・アヤ。理科室を夜に使うために必要となる5人目の部員として、キョウカは入部の誘いを受ける。
そんなある日、知人の研究者・竹戸瀬レネから研究手伝いのバイトの誘いを受ける。月面ローバーを使って地下の量子コンピューターから、あるデータを地球に持ち帰ってきて欲しいという。ユキは二つ返事でOKするも、相変わらず優柔不断のキョウカ。先輩に贈る月面望遠鏡の観測時間を条件に、バイトへの協力を決める。
理科部「夜隊」として入部したキョウカは、夜な夜な理科室に来てはユキとともに課題に取り組んだ。他のメンバー3人はそれぞれに忙しく、ユキと2人きりになることも多くなる。親との喧嘩、スバルの誕生日会、1学期の打ち上げ、夏休みの合宿などなど、絆を深めてゆく夜隊5人。
競うように訓練したAIプログラムが研究所に正式採用され大喜びする頃には、キョウカは数ヶ月のあいだ苦楽をともにしてきたユキを、とても大切に思うようになっていた。打算で始めた関係もこれで終わり、と9月最後の日曜日にデートに出かける。泣きながら別れた2人は、月にあるデータを地球に持ち帰る方法をそれぞれ模索しはじめた。
5年前の事故と月に取り残された脳情報。迫りくるデータ削除のタイムリミット。望遠鏡、月面ローバー、量子コンピューター。必要なものはきっと全部ある――。レネの過去を知ったキョウカは迷いを捨て、走り出す。
皆既月食の夜に集まったメンバーを信じ、理科部5人は月からのデータ回収に挑んだ――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる