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ー 宗治side ー
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「宗治、覚悟しやがれ!」
背後からの声とともに、あるものが俺の背中めがけて飛んできた。
それを目視することなく気配だけでかわすと、俺は後ろにいたヤツに飛びかかる。
「くらえっ!」
そして、大きく振りかざしたまくらを投げつけた。
今は、修学旅行2日目の夜。
俺がいる男子部屋は、夜遅くまでまくら投げが白熱していた。
「また宗治の勝ちかよ~…」
「お前、…ほんと強すぎ」
「なんで、見ないでまくらをかわせるんだよ」
俺の華麗な身のこなしに、同室のヤツらは疲れて息が上がっていた。
「…よ~し。体力も回復してきたところだし、もう1試合――」
そのとき、勢いよく部屋のドアが開けられる。
「いつまで起きてるつもりだ!!もうとっくに消灯時間は過ぎてるぞ!」
これからというときに、先生が怒鳴りながら部屋に入ってきた。
時刻は、もうすぐ日付が変わろうとする23時47分。
さすがに廊下にまで俺たちの声が響いていたようで、先生が再度注意にきた。
「明日も早いんだから、すぐに寝ること!」
「「…は~い」」
ということで、仕方なく部屋の明かりを消して寝ることに。
同じ部屋の他の5人からは、すぐに寝息が聞こえてきた。
しかし俺は、なかなか眠ることができなかった。
なぜなら、『桜華』のことが気がかりだったから。
片時も離れたくなくて、この修学旅行に竹刀と偽ってこっそり持ち出してきた桜華。
竹刀袋に入れて、俺の荷物といっしょに保管していたが、まくら投げが荒々しく、壁の端にまとめた荷物に向かって、流れ弾ならぬ流れまくらが飛んでくる始末。
それが桜華に当たって、万が一傷がついたりでもしたら…俺はもはや立ち直れない。
だから、まくら投げが始まったあとに、桜華をびぃのいる女子部屋に避難させていた。
これで傷つけられる心配はないが、やっぱり手元にないことが不安で、俺はそわそわして眠れなかった。
それからしばらくは、静かに布団の中で横になっていた。
そして、ぱっちりと開いていた目が、ようやくうとうとと閉じようとしていたとき――。
突如、鐘を叩きつけるようなけたたましい音が部屋中に鳴り響き、俺は飛び起きた。
〈火事です!火事です!至急、安全な場所へ避難してください!〉
天井から、女の声が聞こえる。
ここは男部屋で、女なんていないはずなのに。
「…どこだ!どこにいる!?下りてこい!」
天井に向かって叫んでいると、さっきまで熟睡していた部屋のヤツらが慌てて起き出した。
「なんだ、この音…!?」
「火事だって言ってるぞ!」
…火事だと?
どこに火の手があるっていうんだよ。
「おい。さっきから上で女の声が――」
「…宗治なに言ってんだよ!だから、火災警報器のアナウンスがスピーカーから聞こえてるんだって!」
「…“カサイケイホウキ”?」
「とにかく、逃げるんだよ!」
どうやら、その『カサイケイホウキ』とやらは、いち早く火事を知らせるものなんだとか。
自分の目で確かめたわけではなく、まだどこが燃えているかもわかっていないため半信半疑ではあった。
しかし、周りのただならぬ空気から緊迫した状況だということはわかる。
「みんな!早く外へ!!」
ドアの外からは、先生たちの声が聞こえた。
そして、部屋から出てわかった。
焦げる臭いが漂ってきていることに。
俺が死ぬ原因となったのも火事だった。
都子姫を助け出せたのだから後悔はしていないが、煙の臭いを嗅いだら嫌でもあのときの記憶が蘇る。
「宗治、なにぼうっとしてんだよ!逃げるぞ!」
「あ…、ああっ」
押し寄せる人の波にのって、宿の外へ飛び出した。
誘導してくれていた先生たちも避難し、外でクラスごとに点呼を取ると、どうやらみんな無事のようだった。
生徒と生徒の隙間から、びぃの姿も確認できた。
調理場からの出火のようだが、神代中学の生徒や先生も含め、他の客や従業員も全員無事とのこと。
すると闇夜から、甲高い音が聞こえてきた。
この音は、『消防車』という消火活動を行う赤い車の『サイレン』というものらしい。
俺の時代では、消火活動は桶に水をくんで運ぶ手作業だった。
しかし、こっちでは消防車から勢いよく水が出てくるのだとか。
原理はよくわからないが。
サイレンの音で、消防車がすぐ近くまできていることがわかる。
被害は最小限で収まりそうだと思っていると、なんだか周りがざわつき始めた。
みんな口々になにかを話している。
「…おい、どうしたんだよ?」
近くにいた同じ部屋のヤツに声をかけると、眉間にシワを寄せて深刻そうな顔で俺に伝えた。
「よくわかんねぇけど、あっちで菅がなんか言ってる…」
「菅さんが?」
「…だれかがいねぇとかって」
いないって、さっきの点呼で全員いることは確認済みだろ?
「ちょっとごめん」
俺は、生徒と生徒の間を縫うようにして菅さんのもとへ向かった。
「ねぇ先生!なんとかしてよ…!」
先生に向かって、ものすごい勢いでなにかを訴えている菅さん。
俺はそんな菅さんの肩を叩いた。
「どうかした?」
「宗治くんっ…!」
菅さんは、涙がたまる瞳で俺を見つめた。
「そういえば、…びぃは?」
さっきまで、菅さんのそばにいたはずだけど――。
すると、菅さんは視線を落とした。
「…いないの」
「え?」
「都美…、いなくなっちゃったの」
「いなくなったって…」
「…宿の中に戻って行っちゃったの!」
俺の腕をつかむ菅さんの手が小刻みに震えている。
…どういうことだよ、それ。
宿って…、あの燃えてる旅館のことだろ?
「どうしよう…。あたし、都美を止めたんだけどっ…」
そう言って、泣きじゃくる菅さん。
俺の額から、冷たい汗が流れ落ちた。
そのとたん、体が勝手に動いた。
「どこ行くの!?…宗治くん!」
「びぃは、必ず俺が連れ戻す!」
「ダメだよ!宗治くんまで…!」
「戻りなさいっ!!春日井くん!」
菅さんや先生が止めようとする声も聞かずに、俺は黒い煙が上がる宿に向かって走っていった。
風向きで火の勢いが強くなった。
消防隊員なんて待ってられない。
…あのバカ、なにしてんだよっ。
頼むから、無事でいてくれ…!
中へ入ると、さっき避難したときとは状況がまったく違った。
黒い煙が漂い、息をするとむせ返る。
びぃがいるとするなら、自分の部屋に違いない。
迷うことなく、びぃがいた女子部屋へと向かう。
ところが、そこで目にした光景に、俺は一瞬息をするのも忘れてしまった。
なんとそこには、煙の中でうつ伏せで倒れるびぃの姿があった…!
死んでんじゃねぇぞ、…バカ!
すぐさま駆け寄り、びぃの体を抱き起こす。
「…びぃ!びぃっ!」
すると、俺の問いかけに少しだけまぶたが動いた。
「…宗治……?」
びぃが目を開けた。
それを見て、素直にこう思った。
よかった…、生きてた。
張り詰めていた糸が解け、脱力した。
と同時に、沸々と俺の中でなにかがあふれ出ようとしていた。
それが、大きな怒鳴り声となって発せられる。
「こんなところでなにしてんだ、お前はっ!!!!」
びぃの虚ろだった目が、その声に驚いて大きく見開けられる。
「び…、びっくりした~…」
しかも、出てきたのが緊張感のない言葉だったから、さらに俺の感情が爆発した。
「のんきなこと言ってる場合かっ!バカか、お前は!!死にてぇのか!」
前々からアホ面でバカだとは思っていたが、ここまでバカだとは思ってなかった!
背後からの声とともに、あるものが俺の背中めがけて飛んできた。
それを目視することなく気配だけでかわすと、俺は後ろにいたヤツに飛びかかる。
「くらえっ!」
そして、大きく振りかざしたまくらを投げつけた。
今は、修学旅行2日目の夜。
俺がいる男子部屋は、夜遅くまでまくら投げが白熱していた。
「また宗治の勝ちかよ~…」
「お前、…ほんと強すぎ」
「なんで、見ないでまくらをかわせるんだよ」
俺の華麗な身のこなしに、同室のヤツらは疲れて息が上がっていた。
「…よ~し。体力も回復してきたところだし、もう1試合――」
そのとき、勢いよく部屋のドアが開けられる。
「いつまで起きてるつもりだ!!もうとっくに消灯時間は過ぎてるぞ!」
これからというときに、先生が怒鳴りながら部屋に入ってきた。
時刻は、もうすぐ日付が変わろうとする23時47分。
さすがに廊下にまで俺たちの声が響いていたようで、先生が再度注意にきた。
「明日も早いんだから、すぐに寝ること!」
「「…は~い」」
ということで、仕方なく部屋の明かりを消して寝ることに。
同じ部屋の他の5人からは、すぐに寝息が聞こえてきた。
しかし俺は、なかなか眠ることができなかった。
なぜなら、『桜華』のことが気がかりだったから。
片時も離れたくなくて、この修学旅行に竹刀と偽ってこっそり持ち出してきた桜華。
竹刀袋に入れて、俺の荷物といっしょに保管していたが、まくら投げが荒々しく、壁の端にまとめた荷物に向かって、流れ弾ならぬ流れまくらが飛んでくる始末。
それが桜華に当たって、万が一傷がついたりでもしたら…俺はもはや立ち直れない。
だから、まくら投げが始まったあとに、桜華をびぃのいる女子部屋に避難させていた。
これで傷つけられる心配はないが、やっぱり手元にないことが不安で、俺はそわそわして眠れなかった。
それからしばらくは、静かに布団の中で横になっていた。
そして、ぱっちりと開いていた目が、ようやくうとうとと閉じようとしていたとき――。
突如、鐘を叩きつけるようなけたたましい音が部屋中に鳴り響き、俺は飛び起きた。
〈火事です!火事です!至急、安全な場所へ避難してください!〉
天井から、女の声が聞こえる。
ここは男部屋で、女なんていないはずなのに。
「…どこだ!どこにいる!?下りてこい!」
天井に向かって叫んでいると、さっきまで熟睡していた部屋のヤツらが慌てて起き出した。
「なんだ、この音…!?」
「火事だって言ってるぞ!」
…火事だと?
どこに火の手があるっていうんだよ。
「おい。さっきから上で女の声が――」
「…宗治なに言ってんだよ!だから、火災警報器のアナウンスがスピーカーから聞こえてるんだって!」
「…“カサイケイホウキ”?」
「とにかく、逃げるんだよ!」
どうやら、その『カサイケイホウキ』とやらは、いち早く火事を知らせるものなんだとか。
自分の目で確かめたわけではなく、まだどこが燃えているかもわかっていないため半信半疑ではあった。
しかし、周りのただならぬ空気から緊迫した状況だということはわかる。
「みんな!早く外へ!!」
ドアの外からは、先生たちの声が聞こえた。
そして、部屋から出てわかった。
焦げる臭いが漂ってきていることに。
俺が死ぬ原因となったのも火事だった。
都子姫を助け出せたのだから後悔はしていないが、煙の臭いを嗅いだら嫌でもあのときの記憶が蘇る。
「宗治、なにぼうっとしてんだよ!逃げるぞ!」
「あ…、ああっ」
押し寄せる人の波にのって、宿の外へ飛び出した。
誘導してくれていた先生たちも避難し、外でクラスごとに点呼を取ると、どうやらみんな無事のようだった。
生徒と生徒の隙間から、びぃの姿も確認できた。
調理場からの出火のようだが、神代中学の生徒や先生も含め、他の客や従業員も全員無事とのこと。
すると闇夜から、甲高い音が聞こえてきた。
この音は、『消防車』という消火活動を行う赤い車の『サイレン』というものらしい。
俺の時代では、消火活動は桶に水をくんで運ぶ手作業だった。
しかし、こっちでは消防車から勢いよく水が出てくるのだとか。
原理はよくわからないが。
サイレンの音で、消防車がすぐ近くまできていることがわかる。
被害は最小限で収まりそうだと思っていると、なんだか周りがざわつき始めた。
みんな口々になにかを話している。
「…おい、どうしたんだよ?」
近くにいた同じ部屋のヤツに声をかけると、眉間にシワを寄せて深刻そうな顔で俺に伝えた。
「よくわかんねぇけど、あっちで菅がなんか言ってる…」
「菅さんが?」
「…だれかがいねぇとかって」
いないって、さっきの点呼で全員いることは確認済みだろ?
「ちょっとごめん」
俺は、生徒と生徒の間を縫うようにして菅さんのもとへ向かった。
「ねぇ先生!なんとかしてよ…!」
先生に向かって、ものすごい勢いでなにかを訴えている菅さん。
俺はそんな菅さんの肩を叩いた。
「どうかした?」
「宗治くんっ…!」
菅さんは、涙がたまる瞳で俺を見つめた。
「そういえば、…びぃは?」
さっきまで、菅さんのそばにいたはずだけど――。
すると、菅さんは視線を落とした。
「…いないの」
「え?」
「都美…、いなくなっちゃったの」
「いなくなったって…」
「…宿の中に戻って行っちゃったの!」
俺の腕をつかむ菅さんの手が小刻みに震えている。
…どういうことだよ、それ。
宿って…、あの燃えてる旅館のことだろ?
「どうしよう…。あたし、都美を止めたんだけどっ…」
そう言って、泣きじゃくる菅さん。
俺の額から、冷たい汗が流れ落ちた。
そのとたん、体が勝手に動いた。
「どこ行くの!?…宗治くん!」
「びぃは、必ず俺が連れ戻す!」
「ダメだよ!宗治くんまで…!」
「戻りなさいっ!!春日井くん!」
菅さんや先生が止めようとする声も聞かずに、俺は黒い煙が上がる宿に向かって走っていった。
風向きで火の勢いが強くなった。
消防隊員なんて待ってられない。
…あのバカ、なにしてんだよっ。
頼むから、無事でいてくれ…!
中へ入ると、さっき避難したときとは状況がまったく違った。
黒い煙が漂い、息をするとむせ返る。
びぃがいるとするなら、自分の部屋に違いない。
迷うことなく、びぃがいた女子部屋へと向かう。
ところが、そこで目にした光景に、俺は一瞬息をするのも忘れてしまった。
なんとそこには、煙の中でうつ伏せで倒れるびぃの姿があった…!
死んでんじゃねぇぞ、…バカ!
すぐさま駆け寄り、びぃの体を抱き起こす。
「…びぃ!びぃっ!」
すると、俺の問いかけに少しだけまぶたが動いた。
「…宗治……?」
びぃが目を開けた。
それを見て、素直にこう思った。
よかった…、生きてた。
張り詰めていた糸が解け、脱力した。
と同時に、沸々と俺の中でなにかがあふれ出ようとしていた。
それが、大きな怒鳴り声となって発せられる。
「こんなところでなにしてんだ、お前はっ!!!!」
びぃの虚ろだった目が、その声に驚いて大きく見開けられる。
「び…、びっくりした~…」
しかも、出てきたのが緊張感のない言葉だったから、さらに俺の感情が爆発した。
「のんきなこと言ってる場合かっ!バカか、お前は!!死にてぇのか!」
前々からアホ面でバカだとは思っていたが、ここまでバカだとは思ってなかった!
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