時をこえて、またキミに恋をする。

中小路かほ

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幕末剣士、修学旅行へ

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「な…なに、宗治!?」


なんで怒ってるの…!?


「菅さん、悪い。ちょっとこいつ借りるからっ」

「…あ、うん。どうぞどうぞ」


いきなり怒った宗治が現れたものだから、七海も何事かとポカンとしている。


宗治はわたしの手首をつかむと、そのまま引っ張っていった。

そして、町家と町家の間の路地に連れ込む。


「どうしたの、急にっ…」


さっきまで、女の子たちにチヤホヤされてたくせに。


「どうしたじゃねぇよ!どうしてくれんだよ、これっ」


そう言って、宗治は足元を指さした。

見ると、宗治のつま先が消えかけていた。


「…あ」


わたしの口から、間の抜けた声がもれた。

同じ学校内であれば離れていても大丈夫だったからその感覚でいてたら、どうやら離れすぎてしまっていたようだ。


消えかけていることがだれかにバレたら大変だった。


「びぃが勝手にどっかに行くから、危うく消えるところだったんだよ」

「そんなこと言ったって…!あの場にいたくなかったんだから、しょうがないじゃん!」


そう宗治に叫んだあと、ハッとしてとっさに口を手で隠した。


わたしったら、なにを口走って…。


「あの場にいたくなかったって、…なんで?」


幸い宗治はその意味をわかっていなくて、眉間にシワを寄せて難しい顔をして首をかしげている。


「…なんでもない!」


わたしは宗治から顔を背けた。


宗治なんかにわたしを気持ちを悟られたくない。

だって、宗治の答えは聞かなくてもわかっているから。


宗治は都子姫のことが好きだし、振られるのは目に見えている。

それに、いつかは元の時代へ帰るのだから、気持ちを打ち明けたところでどうにもならない。


そもそも、もしわたしが宗治のことを好きだなんて言っても、きっと宗治は本気と捉えず軽く流されるだけ。


だから、宗治への想いはわたしの心の中に閉まっておく。


そのあと、わたしは七海と、宗治は男友達と合流した。

そして宗治は、一見男友達たちと団体行動をしているかのように見せながら、わたしと七海のあとを追いかけていた。


わたしと離れすぎないように。


「宗治、あっち見にいこうぜっ」

「…待て!こっちのほうがおもしろうだから、こっちな!いや、絶対こっち!」


なにかと理由をつけて、わたしとつかず離れずの距離を保っていた。


そうして、修学旅行1日目が終わった。


修学旅行2日目。

今日は自由行動で、街の散策として好きなところへ出かけられる。


わたしはもちろん七海と。

しかし、…必然的にもう1人。


「菅さん。悪いけど、俺も混ぜてくれる?」


それは、宗治だ。


街の散策となるとバスやタクシーに乗って出かけるスポットがあるから、さすがに宗治と離ればなれになることになる。

昨日、テーマパークで離れただけでも消えかけていたから、さすがに今日は本当に消えてしまうだろう。


だから、宗治もいっしょのグループとしてまわることに。


「あたしは全然かまわないよ♪」


七海が快く受け入れてくれたことに感謝する。

わたしも宗治と行動をともにするのがいやというわけではないけど、宗治がわたしのグループに入ったことで、わたしは他の女の子から敵視されるハメに…。


「宗治くん、いっしょにまわらない?」

「こっちのグループにきてよ~♪」


モテる宗治は、いろんな女の子グループからのお誘いがあった。


いつもみたいに愛想よく断ってくれたらよかったものの――。


「いや、俺、びぃといねぇと死んじまうから」


と言って、わたしの肩を抱き寄せた。


宗治の胸板に頬が押しつけられて、予想もしていなかった行動にドキッとしてしまった。

だけど、それが宗治狙いの女の子たちから鋭い視線を浴びることになってしまった。


「死んじゃうって、宗治くんってそんなに高倉さんのことが好きなの…!?」


宗治は『死ぬ=消える』という意味で言ったつもりだろうけど、そんなことを周りが知るはずもない。


「なにあの2人…、いとこ同士じゃないの?」

「距離、近すぎない!?」

「…まさか!宗治くんの好きな人って、高倉さん!?」


女の子たちが口々に言っているけど、そういうことには鈍感な宗治の耳にはまったく聞こえていない。


「俺から絶対に離れるなよ」


宗治はかがんで、わたしと目と目が合うようにして言った。


…そんな言葉、彼氏でもないのに言わないで。


離れたら消えてしまうから、そう言っているのはわかっている。


でも、そんな言い方されたら…。

ちょっとだけ期待してしまうから。


宗治はわたしの気持ちなんておかまいなしに、自由行動を楽しんでいた。

昔からあるお城やお寺を訪れた際は、とても感激していた。


「すっげー!俺の時代と変わんねぇじゃん!」


興奮した宗治が周りを気にせずそんなことを言うものだから、七海が不思議そうに首をかしげていた。


「“俺の時代”…って?」

「そ…それはね!たぶん、『俺の地元』と言い間違えたんじゃないかな…!?」

「あ~、なるほど。宗治くんの地元にも、お城やお寺があるんだ」


わたしの苦し紛れの言い訳を怪しむことなく納得してくれた七海。


もう…。

バレたら大変なのに、宗治ってば。


そうして、修学旅行2日目の自由行動はあっという間に終わった。


指定された時間までに、今日宿泊する宿へと戻る。


昨日はホテルだったけど、今日は平屋の旅館だ。

ロビーを挟んで、男子部屋と女子部屋が左右に分かれる造りになっている。


宗治とはロビーで別れ、七海と女子部屋へ向かう。


部屋は6人部屋で、他に同じクラスの女の子4人といっしょだった。

荷物を置き、夜ごはんまでの時間で今日のそれぞれの自由行動の話をしていると――。


…コンコン!


部屋のドアがノックされる音がした。


「は~い!」


七海はそう返事をすると、ドアを開けに向かってくれた。

しかしすぐに戻ってきて、ひょこっと顔を覗かせる。


「都美、宗治くんだよ」

「…え、宗治?」

「うん。なんか渡したいものがあるんだって」

「渡したいもの?」


部屋から出ると、宗治が長いなにかを持っていた。


その長いなにかとは、竹刀袋。

文字通り、竹刀を入れる袋のことだ。


宗治は、修学旅行の荷物といっしょに竹刀袋も持ってきていた。

行きに「それって必要?」と聞いたのだけれど、素振りをするのが日課だから竹刀を持っていきたいのだと。


修学旅行中にも素振りをするなんて真面目だなぁと思っていたけど、どうしてそれを…この女子部屋へ?


「これ、預かってほしい」

「なんで?自分の部屋に置いておけばいいじゃん」

「今日は大部屋だろ?あいつら荷物を雑に扱いそうだから、女子部屋のほうが安全だと思って」


昨日は大きなホテルで2人部屋だった。

だけど、今日は6人部屋。


しかも男子部屋は、早くもまくら投げが始まっていて、荷物が荒れ放題の状況らしい。


「そんなに竹刀が心配?べつに折られるわけでもないのに」

「…とにかく!今晩だけ預かってくれ!」


そう言うと、宗治はわたしに竹刀袋を押しつけた。

「も~…」と小声でつぶやき、竹刀袋を受け取る。


わざわざ女子部屋にわたしを訪ねにきてくれたから、何事かと思ったけど。

やっぱりたいした用事ではなかった。


だけど、……あれ?


ここに入っているのは、竹刀のはず。

なのに、竹刀にしてはずっしりと重みがあるような…。


「…まさか!」


わたしは宗治が止めるのも聞かずに竹刀袋の紐を解いた。

そして、中から現れたものを見て目を疑う。


「宗治…!こんなところに、なに持ってきて――」
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