初恋の王子様

中小路かほ

文字の大きさ
上 下
12 / 21
王子様のいない旅

1P

しおりを挟む
長い夏休みが明け、数週間前から2学期が始まった。


「いよいよ、明日だね♪」

「そうだねっ」


アミとあたしは、顔を見合わせてにんまりと笑う。


その手には、本のようにしてホチキスでとめられた冊子。

その冊子の表紙には、『旅のしおり』と書かれている。


そう。

これは、修学旅行のしおり。


この中学生活の一大イベントと言っても過言じゃない修学旅行が、明日に迫っていた。


行き先は、京都。

2泊3日の予定になっている。


途中、自由時間もあり、班の人たちと好きなところを巡れることになっている。


あたしの班はというと、もちろんアミ。

そして、優馬くん!


優馬くんといっしょに京都観光できるなんて、幸せすぎる。


早く明日にならないかな…。


そう思いながら、あたしは眠りについた。



次の日。


集合場所の駅に向かうと、すでに花森の制服姿の制服たちがたくさん集まっていた。


「ほのか、おはよー!」


すぐに、アミがあたしに気づいてくれた。


「修学旅行、ずっと楽しみにしてたけど、今から京都に行くっていう実感あんまりないね」

「うん、確かに」


あと、数時間後には京都…。


テレビでは見たことはあるけど、実際に行くのは初めて。


知らないところへ行くけど、アミと優馬くんといっしょなら絶対に楽しいはず。


そう思っていたのに…。


「あ!優馬だっ」


もうすぐ新幹線に乗るために点呼を取ろうとするときに、アミが優馬くんに気づいた。


「優馬~!こっちこっち!」


ピョンピョンとジャンプしながら、手招きをするアミ。


「遅いよ、優馬~」

「ごめんごめん、寝坊しちゃった」

「優馬が寝坊だなんて、珍しいねっ」


そんな話をしているうちに、先生が点呼を取っていた。


「ほのかちゃん、そのヘアピンかわいいね」

「えっ…!」


あたしの耳元で、そう囁く優馬くん。

突然のことで、あたしは思わず照れてしまった。


今日のために新しく買ってもらったお花がついたヘアピン。

それをほめてもらえて素直にうれしかった。


恥ずかしさで顔が赤くなるのがわかったから、あたしは優馬くんから顔を背けた。


…なんか今日の優馬くん、いつにも増して…ストレート。


でもこれがお世辞だったとしても、…嬉しい。


新幹線に乗り込むと、アミと隣同士の席に座った。

優馬くんはあたしの後ろの席に男友達のグループといっしょに座る。


「じゃあ、さっそくウノしようぜ!」


新幹線が発車し、後ろの席からそんな声が聞こえる。


すると…。


「え、ウノ?俺はパスで」


盛り上がる男の子グループの中からそんな声が聞こえた。


まさかとは思ったけど、その声はあたしがよく知る声。


「俺寝てるから、やるなら静かにしてくれよな」


チラリと後ろをのぞくと、優馬くんが不機嫌そうに顔をしかめていた。


「なんだよ、優馬!昨日までは、あんなに乗り気だったじゃんか!」

「昨日?そんなの知るかよ…」


ノリの悪い優馬くんに、困惑する男友達たち。


…もしかして!


「俺、ちょっとトイレ」


席を立つ優馬くん。

そのあとをあたしは追った。


「待って、優馬くん…!」


あたしが呼ぶと優馬くんが足を止めて振り返る。


「…なに?」

「ちょっと見せてね…!」


あたしは、優馬くんの右耳の付け根を確認した。


そこには、ホクロがなかった。


まさかとは思ったけど…。


「燈馬くんでしょ…!?」

「バカっ。声でけぇよ」


燈馬くんは、その大きな左手であたしの口を塞ぐ。


左腕に付けられた、パワーストーンのブレスレット…。

これも、燈馬くんだという証。


さっきまでは、左手をポケットに突っ込んでいて気づかなかったけど。


「…燈馬くん、そろそろこの手…どけてくれるかな」


あたしは燈馬くんに、口を塞がれたまま。

なんとか、隙間から声を絞り出す。


「だってお前、声でけぇんだよ。センコーにバレたら、どうすんだよ」


もしそうなったら…。

燈馬くんだけじゃなく、優馬くんにも迷惑がかかるから避けたいところだけど…。


まさか、修学旅行でさえ入れ替わってくるなんて。


「…じゃあ、優馬くん本人は…?」


気になるところは、そこ。


この修学旅行をずっと楽しみにしていた優馬くん。

観光したいところだって決めていたのに…。


「優馬は、病欠。体調悪いんだってさ」


優馬くんが、体調不良…?

大丈夫かな…。


それなら、今日こられなくても仕方ないよね…。


「そのかわり、星華は明日から修学旅行だから、優馬はそっちに行くみたいだけどな」

「そうなの?星華は、どこ行くの?」

「北海道」

「北海道…!?いいなー!アタシも行ってみたい~!」


突然後ろから声がして、あたしたちは驚いて振り返る。

そこにいたのは、アミだった。


どうやらアミは、あたしたちのことを不審に思ってついてきていたようだ。

それで聞き耳を立てていたら、ここにいるのは優馬くんではなく燈馬くんだということを知ったらしい。


「でもさ、燈馬くんも優馬みたいに振る舞おうって思えばできるんだね」

「どういう意味だよ?…え~っと…」

「アミだよ」


あたしがそう言うと、思い出したというような表情を見せる燈馬くん。

まだ燈馬くんは、アミの名前覚えられていない様子。


話題は、さっきアミが話していた燈馬くんについて。


優しい口調の優馬くんと違って、無愛想な燈馬くん。

いくら容姿が同じでも、口を開いたら燈馬くんだってすぐにわかる。


でも、さっき集合場所に着いたときは…。


“遅いよ、優馬~”

“ごめんごめん、寝坊しちゃった”


と、優馬くんみたいな無邪気な顔を見せていた。

言葉遣いも、まるで優馬くんそのものだった。


会ったときは、まさか燈馬くんだって疑いもしなかった。


もしかして、燈馬くん…。

無愛想なのは照れ隠しで、実は優馬くんみたいなー…。


「ああ、あれ?あんなに周りに生徒やセンコーがいたら、さすがに優馬のフリしねぇとバレるだろ」


あたしは、ガクッと肩を落とした。


…だよね。


さっきのは、“優馬くんのフリをした演技”で、やっぱり燈馬くんはこんな性格だった。


「気疲れハンパねぇから、新幹線くらい寝たいっていうのに…ウノとかっ」


双子とはいえ、正反対の人間の役をやるとなると、もちろん気疲れもするだろう。

だから、ウノに巻き込まれそうになり席を立ったのだと。


しかし、そこへ…。


「ねぇねぇ優馬くん!いっしょに写真撮ろうよ♪」


女の子たちが押し寄せてきた。


寝たいと話していた燈馬くん。

それに、あまり女の子にも興味なさそうだから、てっきり無視して寝るかと思ったけど…。


「いいよ!そっちまで行くから待ってて」


あたしに見せていたさっきまでの表情とは一変、爽やかさスマイルで受け答えしていた。


一瞬にして変わるものだから、ある意味すごい。


「意外。燈馬くんって、ああいうお誘いに乗るんだ」

「仕方ないだろ。優馬じゃないってバレる方がめんどくさいから」

「それは、そうかもしれねぇけど…」

「それに、優馬だったらこうするだろ」


あたしたちの前では、あれだけ文句を言っていた燈馬くんが、自ら女の子の輪の中に入って行った。


中身は、燈馬くん。

だけど、今は優馬くん。


常に周りを意識して見ている…。

本当は燈馬くんって、あたしが思っているほど悪い人じゃないかもしれない…。


あたしは燈馬くんの後ろ姿を眺めながら、そう思った。


…だけど。


「そういえば…」


今朝、会ったとき…。


“ほのかちゃん、そのヘアピンかわいいね”

”えっ…!”


あのときは突然のことで、考える暇もなく、思わず照れてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

隣の席の一条くん。

中小路かほ
児童書・童話
人気アイドルの女子中学生 花宮 ひらり (Hirari Hanamiya) ✕ 金髪の一匹狼の不良 一条 晴翔 (Haruto Ichijou) 絶対に関わることのなかった2人が、 たまたま隣の席になったことで 恋の化学変化が起きる…。 『わたしは、一条くんのことが好き』 だけど、わたしは “恋愛禁止”のアイドル。 ※ジュニア向けに中学生設定ですが、 高校生の設定でも読める内容になっています。

おばあちゃんのおかず。

kitahara
児童書・童話
懐かしい… 懐かしいけれど、作れない…。 懐かしいから食べたい…。 おばあちゃんの思い出は…どこか懐かしくあたたかいな…。 家族のひとくくり。 想いを。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

キミと踏み出す、最初の一歩。

青花美来
児童書・童話
中学に入学と同時に引っ越してきた千春は、あがり症ですぐ顔が真っ赤になることがコンプレックス。 そのせいで人とうまく話せず、学校では友だちもいない。 友だちの作り方に悩んでいたある日、ひょんなことから悪名高い川上くんに勉強を教えなければいけないことになった。 しかし彼はどうやら噂とは全然違うような気がして──?

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

彼と私のお友達計画

百川凛
児童書・童話
幼少期の嫌な思い出のせいで男子が苦手な中学三年生の笹川一花。 男子嫌いを克服するため親友の中原皐月から紹介された同じ学年の男子生徒、鳴海優人と友達になるべく交流を始める。 一花は男子嫌いを克服し、鳴海と友達になれるのだろうか?

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

処理中です...