クールな幼なじみが本気になったら

中小路かほ

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文化祭で愛を誓ったら

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りっくんは、黙ってわたしを引っ張っていく。


「急に…どうしたの、りっくん!」


なにも語らない背中に呼びかけてみるけど、りっくんからの返事が返ってくることはない。



連れてこられたのは、体育館。


この時間、体育館では文化祭の最も人気のイベントが開催されていた。


その名も、『愛の告白大会』。


参加者が1人ずつステージに立ち、自分が想いを寄せている好きな人の名前を叫ぶ。

呼ばれた相手はステージへ上がり、参加者からの告白を受け入れるかどうかを決めるのだ。


『愛の告白大会』は文化祭の一大イベントで、ほとんどの在校生がそれを観に、この時間この体育館に集まっている。


大勢の前で告白するのには勇気がいるし、見事この場で成就することができたら、そのカップルは永遠に結ばれると言われている。


また、すでに付き合っているカップルでも、ここでありったけの愛を叫ぶこともできる。


そんなイベントの場に、どうしてわたしを…?



「りっくんって、こういうイベント好きだっけ?」

「いや、そうじゃないけど」


そうだよね。

他人の恋愛話とかあまり興味なさそうだし。


「とにかく、しずくはここで待ってて」


りっくんはそれだけ言うと、わたしをその場に残してどこかへ行ってしまった。


言われた通り、りっくんの帰りを待ちながら、参加者たちの熱い告白を遠くから眺めていた。


想いが通じて付き合う人。

その逆に、フラれてしまう人。


わたしだったら自分から告白なんかできないし、みんなの注目を浴びるあのステージに立つことすら無理だ。

名前を呼ばれたほうもステージに上がらなきゃいけないし、控えめなわたしには無縁のイベント。


――そう思っていたら。



〈な…なんと!次は飛び込み参加で、あの人が登場しますっ!!〉


司会の人が興奮しているのか、マイクを通した声のボリュームに、キーンとハウリングが起こっている。


〈この場にいる女子のみなさん!あのイケメンに告白されるのは、あなたかもしれませんよっ!?〉


司会の人が、女の子の期待を煽っている。


…ということは、今から出てくるのは男の子。


この学校でイケメンで有名で、彼女がいない人って、だれがいたっけ?


3年生の生徒会長…?

それとも、サッカー部のエースの人?


でも確か、どちらも彼女がいたような。


司会の人がああ言うからには、女の子に人気のイケメンであるには違いない。


だけど、他にイケメンって言ったら――。


りっくんの顔が頭に浮かんだ。


…そりゃりっくんはかっこいいけど、そんなはずない。

だって、りっくんがこんな人前で愛を叫ぶなんて想像できない。


それに、わたしたちのお付き合いはヒミツだから、あのステージにりっくんが立つことはない。


だからその数秒後、あまりの驚きに心臓が止まるかと思った。


だって、全校生徒のほとんどが集まるこの『愛の告白大会』のイベントのステージに――。


わたしがよく知る、黒髪の長身のイケメンが現れたんだから。


そう。

それは、紛れもなく…りっくんだった!



「キャーーーーー!!律希くんだー!」

「ウソ!?マジ!?あの律希が、告白するの!?」


体育館内の女の子たちのボルテージは最高潮に。


モデルの律希の好きな人が、この学校にいるという驚き。

そして、告白されるのは自分かも知れないという期待で、女の子たちは盛り上がっていた。


わたしは、違う意味で驚いている。


どうして、りっくんがあの場所にっ…。


なんだか悪い予感が頭を過ぎる。


もしかしてりっくん、実はわたしに愛想を尽かして、この場で違う女の子に告白するんじゃ…。

実はわたしたちって、付き合ってなかった…とか!?


いつもクールな無表情に近いりっくんからは、今なにを考えているのかは読み取れない…。


そこへ――。


「うわぁ~、すごい人気っ!さすが、一大イベントなだけあるね~」


わたしのすぐそばで声がして、振り返ってみると、そこにいたのはミュウちゃんだった。

撮影が終わったからか、文化祭を見てまわっているようだ。


ミュウちゃんがこの体育館にやってきたということは…。


ますます胸騒ぎがする。



なにも、告白する相手が同じ学校の生徒じゃないとダメだというルールはない。


他校やそれ以外であっても、『愛の告白大会』のときに相手がこの体育館にいればいいのだから。



今日のりっくんとミュウちゃんの撮影…。

とっても息がピッタリに見えた。


まるで本当の彼氏彼女みたいで。

やっぱりりっくんには、ああいうかわいくてオシャレな女の子がお似合いなんだな…。


なんて、改めて思い知らされた。


ちょっとメイクしてみて芽依に褒められたけど、わたしもミュウちゃんみたいにもっとかわいかったら…。


うらやましげに、横目でミュウちゃんのことを見ていると――。


「…あーっ!もしかして、さっきのフランクフルト屋さん!?」


ミュウちゃんがわたしを指さした。

とっさに顔を背けたけど、時すでに遅し…。


「やっぱりそうだ~!フランクフルト屋さんじゃん♪」

「は…はいっ。覚えててくれてたんですか…?」

「当たり前だよ~。だって、ひと目見てかわいいなって思ったから」

「わたしが…ですか!?」

「うんっ♪」


ミュウちゃんは、満面の笑みで頷いてくれた。

信じられないけど、とても嘘を言っているようには見えない。


「ここへは、どうしてこられたんですか…?」

「あ~、律希くんに言われたんだよね。この体育館にくるようにって」

「…えっ」


りっくんが、ミュウちゃんに…そんなことを。


それを聞いて、わたしはあからさまに肩を落としてしまった。

りっくんからミュウちゃんを誘ったということは、…決定的だ。


この大勢の集まる場で、ミュウちゃんに告白するに違いない。



〈それでは遠野律希さん。愛の告白をする相手を、このマイクに向かってどうぞっ!〉


このままじゃ、りっくんがミュウちゃんに告白する場に居合わせてしまうっ…。


そんなの…聞きたくないよ。


「あれ?帰っちゃうの?」


ステージに背中を向けて、体育館を出ていこうとするわたしをミュウちゃんが呼び止める。


「…はいっ。もういいんです」


わたしは、唇を噛みしめる。


だって、今すぐにでもここから逃げ出したい気持ちでいっぱいなんだから。


そんなわたしに、ミュウちゃんは首を傾げる。


「なんで帰っちゃうの?残された律希くんがかわいそうじゃんっ」

「そんなこと言ったって、りっくんはわたしのことなんか――」

「なに、落ち込んでるの~。だってあなたって、律希くんの彼女なんでしょっ?」


思わぬミュウちゃんの言葉に、わたしは振り返る。


どうして、ミュウちゃんがそのことを…。


という心の声が顔に出ていたのか、わたしを見てミュウちゃんがクスッと笑う。


「さっき律希くんが教えてくれたの。フランクフルトを売ってたのが、俺の彼女だって」


りっくんが…そんなことを!?


「律希くんって、恋愛とかオープンにしないタイプだと思ったからびっくりしちゃって~。『ウソだ~』って茶化してみたら、『じゃあ、俺の本気を見せてやるよ』って言われてさっ」


それで、この体育館にくるように言われたんだそう。


「だから、あなたは帰っちゃダメだよ。だって――」

〈しずく、こいよ〉


ミュウちゃんと話していたら、突然体育館内にマイクを通してわたしの名前が響いた。


その声は、りっくんのもの。


見ると、ステージの上でマイクを握るりっくんが、まっすぐにわたしを見つめていた。


そのりっくんの視線を追うように、体育館内にいた他の生徒の視線も一斉に浴びることに。


…みんながわたしを見ている。


それだけで、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまった。


「ほらほら♪愛しのカレがお呼びだよ~♪」


緊張で固まるわたしの背中をミュウちゃんが押した。


みんなの視線が痛いくらいに刺さる中、わたしは人混みをかき分けてステージへ。


「しずくって、…あの隣のクラスの?」

「あのコって、律希くんと同じ小学校ってだけの仲じゃなかったの…!?」

「…え、ヤダ。信じらんないっ。あんなコに負けたの…!?」


口々に聞こえるそんな声。


顔もよくて、頭もよくて、運動神経も抜群で、おまけにモデルの仕事をしている完璧なりっくんの相手が…まさかわたしだなんて。


周りの女の子たちは、信じられないという顔をしていた。


その途中、だれかに足を引っ掛けられた。
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