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幼なじみが本気になったら

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顔のほてったりっくんが、上から覆いかぶさる。


「り…りっくん!?」


突然のことで、わたしはただただりっくんの顔を見つめるばかり。


「ようやくしずくと付き合えたんだから、あんなことやこんなことしたいに決まってんじゃんっ」


りっくん、高熱で体がだるいはずなのに――。

わたしの腕をつかむ力は…強い。


熱で浮かされているせいだろうか…。

クールだと思っていたりっくんが、余裕なくわたしに迫ってくる。


「言っておくけど、熱でどうにかなってるわけじゃないから。好きな女と2人きりになったら、フツーの男だったら理性きかなくなるって」


わたしの首元に顔を埋め、耳元でりっくんが囁く。


りっくんは昔から、他の男の子よりもどこか大人びていて落ち着きがあった。

だから、いつしか遠い存在のように感じていたけど…。


『フツーの男だったら理性きかなくなるって』


りっくんが言うように、りっくんも他の男の子と同じ、ごく普通の男の子だったんだ。



「もう夜も遅いから。早く部屋に戻らないと、このままキスするぞっ」

「…キ、…キキキキキ…キス…!?」


キスって…、あのっ…。

お互いの唇と唇が触れ合うやつだよね…!?


…恋愛ドラマとかでよく見かける。


それを、りっくんが…わたしに!?



あまりにも驚いていた顔をしていたからか、なぜかりっくんが笑いだした。


「…なんだよ、その拍子抜けた顔!」


お腹を抱えて、りっくんが上体を起こした。

ようやくりっくんから解放されて、わたしも体を起こす。


「そんなに驚くことないだろ。俺たち、付き合ってるんだからっ」

「で…でもでも!」


わたしとりっくんがキスなんてっ…。

…想像すらできない!


「ほんと、そういう初々しい反応をするところが、しずくってたまんない」

「もう…!冗談はやめてよね…!すごくびっくりしたんだか――」

「冗談なんかじゃねぇよ。俺は本気だったけど?」


……へ…?


「俺は、しずくにキスしたい。かわいいしずくをもっと知りたい」


真剣なまなざしで、りっくんがわたしを捉える。

その瞳からは、りっくんの本気が窺える。


これはもう、冗談なんかじゃない。

りっくんは、本気でわたしを求めてくれているんだ。


「しずくのファーストキスを、俺が奪いたい」

「…りっくん」

「いい…?しずく」


りっくんが、わたしの肩にそっと手を添える。


わたしをまっすぐ見つめるりっくんを見ていたら、自然と首を縦に振っていた。


「しずく、目…つむって」

「うん…」


わたしは、ゆっくりと目をつむった。


前は見えないけど、ゆっくりとりっくんの顔が近づいてくるのがわかる。

そして、りっくんの吐息が鼻にかかる。


胸の高鳴りがピークに達する。


わたし、りっくんとキス…するんだ。


そう思っていた…そのとき!



「遠野~!体調はどうだ~?」


静まり返っていた部屋に、先生の声が響く。


驚いたわたしたちはハッとして目を開け、一瞬にして距離を取った。


「おやっ?花岡、まだついていてくれてたのか?」


部屋に、りっくんのクラスの担任の先生が入ってくる。


わたしはそばで正座をしていて、りっくんは布団にくるまって寝たフリをしていた。


「花岡。もう9時過ぎてるから、そろそろ部屋に戻りなさい」

「は…はい。でも…」

「心配なのはわかるが、先生たちも夜中に見回りにくるから大丈夫だ」


そうして先生に促されるまま、わたしは仕方なく部屋へと返された。



部屋に戻ると、すでに中は暗かった。

恋バナをしているかと思ったけど、みんな素直に就寝している様子。


だけど、1つの布団だけぼんやりと中が明るかった。

そして、わたしがその隣の布団へ行くと、バッと掛け布団が剥がれて、中から芽依が顔を出した。


「どうだった?律希くんっ」


どうやら芽依は、就寝時間後も布団の中でスマホをいじって、わたしの帰りを待っていたらしい。


「あ…うんっ。芽依のおかげで看病もできたし、ちゃんとりっくんとも話せたよ」

「てことは、付き合えたんだ…!?」


周りのみんなを起こしちゃいけないと、小声で話してくる芽依に、わたしはゆっくりと頷いた。


「よかった~…!って、ついこの間までのあたしならそう思わなかっただろうけど、本当によかった~!」


正直すぎるのが芽依らしくて、思わずクスッと笑ってしまった。


「今まで、ずっと2人でいたの?」

「うん」

「そっか~。…じゃあ、律希くんに押し倒されたりしたんじゃない?」

「えっ…」


どうして芽依が…そのことを……。


固まったわたしを見て、芽依がポカンと口を開ける。


「…えっ?冗談で言っただけなのに、まさか本当に押し倒されたの?」


こうなってしまっては、もう下手な嘘はつけない。

眠たいのに、芽依に根掘り葉掘り聞かれてしまった。



「ヤダ~♪律希くんって、ああ見えて積極的♪」

「だ…だれにも言っちゃダメだよ…!」

「言わないに決まってるじゃん~♪」


そうは言っているけど、とろけそうなほどのにやけた芽依の顔を見たら、言いたくてたまらないって感じがプンプンする。


そうしてわたしたちは、夜遅くまで語ったのだった。



次の日。


昨日のうちに、芽依がわたしとの誤解を解いてくれたおかげで、クラスで無視されることはなくなった。

朝食も、みんなと楽しく食べることができた。



林間学習、2日目

午前中は、浅瀬の川で自由時間だ。


だけどわたしは、りっくんのことが気になってコテージにいた。


りっくんの部屋へ入ると、座椅子に座ってテレビを見ているりっくんがいた。


「…りっくん!寝てなくてもいいのっ!?」

「おお、しずく。もう熱は下がったからな」


そう言って、りっくんはリモコンでテレビを消した。


「平熱になったから大丈夫だって言ったのに、まだ病み上がりだから部屋にいるようにって先生に言われて」

「…そうだったんだ」


りっくんのおでこに手を添えると、確かに昨日みたいに熱くはなかった。

顔色もいいし、朝食もこの部屋で完食したらしい。


「しずくは?川遊びに行かなくてもいいの?」

「あ…うん。やっぱり、りっくんのことが心配で…」

「そっか、ありがとう」

「荷物はまとめられた?まだなら、わたしが手伝うよ」


すると、机に手を突き立ち上がろうとしたわたしの腕を、りっくんが引っ張った。


その弾みに、わたしの体はりっくんのあぐらの上へ。

そして、後ろからギュッと抱きしめられた。


2人だけのこのドキドキの状況に、思わず緊張で体が強張る。

そんなわたしに対して、りっくんはクスッと笑う。


「もしかして、昨日のこと…思い出しちゃった?」


耳元でそんなことを囁かれたら、頬が徐々に熱くなっていくのがわかった。


「りっくんは、ずるいよっ…。わたしは初めてのドキドキばかりで、いっぱいいっぱいだっていうのに…」

「俺だって、初めてのことばかりだよ。それに、その相手がしずくだから余計にドキドキしてるっ…」


そう言いながら、りっくんはそっとわたしの右手を取った。

そしてその手を自分の胸へと導く。


手のひらに伝わる…りっくんの鼓動。


速くて、力強かった。


「これでわかっただろ?…俺のほうこそ余裕ねぇよ」


見ると、りっくんの頬も赤くなっているのに気づいた。


「…しずく。俺、我慢のしすぎでどうにかなっちゃいそうだから、昨日の続き…してもいいかな」


りっくんがわたしを愛おしそうに見つめてくる。

その熱い瞳に視線を奪われながら、わたしは小さく頷いた。


「わたしも…してほしい」


小さく呟くと、りっくんがそっとわたしの頬にキスをした。


まるで、マシュマロが触れたかのような柔らかい感触。


顔を離したりっくんと目が合って、2人同時に照れ笑い。


そうして、またゆっくりと視線が重なり――。

まるで吸い込まれるように、どちらからともなくキスをした。



りっくんとのキス。

好きな人との…キス。


その甘くて優しい初めてのキスに、うれし涙がじわりと滲むくらい、体中が幸せで満たされた。



「な…なんだか、やっぱり恥ずかしいね」


恥ずかしさのあまり、りっくんの顔を見ることができずに、りっくんの腕の中でうつむく。


そんなわたしの顎に手を添えて、りっくんがクイッと顔を上げさせる。


「まだ足りないっ」


思わぬりっくんの発言に、わたしは目が点になる。


「…でも、今さっきしたばかりだから、あれで十分でしょ…?」


体の中がぽわぽわになるくらい幸せな気持ちになったけど、同時にとてつもない恥ずかしさもあった。


今のわたしには、あの1回で精一杯。


「だから、もうこれで十分――」

「ダーメ。昨日はお預けくらったから、今日はむちゃくちゃに愛したい」


すり抜けようとしたわたしを逃すまいと、りっくんがギュッと抱きしめる。


「ダメだよ、りっくん…!」


そう言って抵抗してみるも、りっくんの力には勝てっこない。


「俺のこと、クールな幼なじみだと思わないことだな」

「…え?どうして?」

「だって俺、クールでもなんでもないよ?しずく目の前にしたら、こんなに好きすぎてたまらなくなるからっ」


確かに、こんなにオオカミのように迫ってくるりっくんは見たことがない。

だけど、これが本当のりっくんなのかもしれない。


クールなりっくんは、モデルとしての律希。

でも、わたしのことを愛しく求めてくるりっくんは、わたししか知らないりっくんの姿。


「俺、もう遠慮なんかしないから」


りっくんはわたしの耳たぶに優しく噛みつくと、そのまま唇を奪ったのだった。



一見クールだと思っていた幼なじみが、本気になったら――。

実は、わたしだけに甘々な彼氏だったのだ…!
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