クールな幼なじみが本気になったら

中小路かほ

文字の大きさ
上 下
12 / 23
山ではぐれてしまったら

3P

しおりを挟む
りっくんも、わたしのことを探してくれていたのだろうか。

緊張で強張っていた表情が、少しずつ緩んでいく。


「…しずくがいないって聞いて。心臓が止まるかと思った。…でも、よかった。しずくが無事で、本当によかった」


泣きそうなのを堪えているのか、くしゃっとしたりっくんの顔。

いつもクールなりっくんの…こんな顔、見たことがない。


そして、痛いくらいに抱きしめられる。

だけど、今のわたしにはそれが心地いい。



「先生たちも近くまで探しにきてる。しずくがいたこと、早く知らせに行かないと」

「そうだね。…でも、ごめん。足に力が入らなくて、思うように立てなくて――」


と言い終わる前に、体がふわっと軽くなった。

まるで、無重力になったような…そんな感覚。


驚いて顔を上げると、すぐ目の前にはりっくんの顔。


それもそのはず。

なんとわたしは、りっくんにお姫様抱っこをされていたのだった…!


「立てないなら、これでいいだろ?」


恥ずかしさで顔が真っ赤なわたしとは反対に、りっくんは余裕の笑みを見せている。


「お…下ろして、りっくん!1人で歩けるよ…!」

「ついさっき、立てないって言ってたヤツがなに言ってんだよ」

「で…でも。こんなところ、先生に見られたらっ…。恥ずかしいよ……」

「俺はべつに構わないけど?それに、恥ずかしがるしずくがかわいすぎて、ずっとこうしていたい」


耳元でそう囁かれ、わたしは顔から火を吹きそうなほど。


お姫様抱っこなんて、ドラマや少女マンガの中だけだと思っていたから、実際に自分がされるなんて…恥ずかしすぎる。


でも、…まだ自分の力で歩けないのも事実。


「ちょ…ちょっとの間だけだからね…!」


そう言ってみたものの、りっくんに包み込まれるようなお姫様抱っこは心地よくて…。

ずっとこうされていたい、なんてことを思ってしまったのだった。



そのあと、わたしのことを探してくれていた先生たちと合流。

無事に、りっくんといっしょにコテージに戻ったのだった。



すでに時刻は、18時過ぎ。


わたしたちは雨に濡れた体を温めるために、すぐにお風呂に入った。

そして、今はコテージの医務室で先生に診てもらっている。


「よかった…。擦り傷や切り傷程度で、大きなケガはしていなくて」


引率していた保健室の先生が、丁寧に絆創膏を貼ってくれる。

先生の言葉に、りっくんもほっとしたような表情を浮かべる。


すでに食堂では夕食の時間らしく、わたしとりっくんの夕食は医務室へ運ばれてきた。


「先生たちは一旦抜けるから、もしなにかあったら呼びにきてね」

「わかりました」

「ごめんね、こんなところで食事だなんて」

「いいえ、構いませんっ」


わたしは先生に笑ってみせる。


だって、みんなといっしょに食べる食堂だったら、クラスごとに座ることになる。

クラスの違うりっくんとはいっしょにはなれない。


だけど、ここならりっくんと2人きりで、顔を合わせて食事をすることができるから。

それが、うれしいんだ。


「なんだよ。さっきから人の顔をじろじろ見て」

「な…なんでもないよ!」


ついつい、目の前に座るりっくんに見惚れてしまっていた。


…今まで自分じゃ気づいてなかったけど。


りっくんの気持ちを知って、頼りになりすぎるくらいのりっくんの姿を見て――。

わたし、めちゃくちゃりっくんのことが好きなんだ。


「あれ?りっくんは食べないの?」


わたしは、デザートのゼリーに手を伸ばしたところだけど、りっくんはほとんど食事に手をつけていない。


「…ああ、うん。あまりにもしずくがおいしそうな顔して食べるものだから、ずっと見ていたかっただけ」

「なにそれっ…。そんなに見ないでよ…!」


りっくんに見られていると思ったら、余計にゼリーが食べづらい。


――そのとき。

医務室のドアが勢いよく開け放たれた。


驚いて目を向けると、そこに立っていたのは芽依。


急いできたのだろうか、息を切らしている。


「め…芽依?」


ドアのところでハァハァと息継ぎをする芽依に、おそるおそる歩み寄ると…。


「しずくっ…!ほんとにごめんなさいっ!!」


なんと、芽依が泣きじゃくりながらわたしに抱きついてきた。


子どものように、その場でわんわんと泣く芽依。

こんな芽依の姿、今までに見たことがない。


「…どうしたの?なにかあった?」

「なにかあったもなにもっ…。あたし、…しずくにひどいことした」


…『ひどいこと』。

わたしを無視していたことだろうか…。


「もういいよ、芽依。無視されても平気だったって言ったら嘘になるけど、こうして謝ってくれたなら、それで――」

「…違うの」

「え…?違うって?」


わたしが顔を覗き込むと、芽依は涙を払ってわたしを見つめた。


「スタンプラリーで、しずくのほうの道にはスタンプ台がないのをわかっていたのに…。あえてそっちに行かせたの…」

「そう…だったの?でも、どうしてそんなこと…」

「…ちょっと意地悪して、困らせたかっただけ。でも、そんなの間違いだったって、…律希くんに言われてようやく目が覚めたの」

「…りっくんが?」



どうやら、わたしがみんなとは違う道を進んだあと、芽依たち3人は最後のスタンプ台を見つけることができた。

そして、わたしはすぐに引き返してくるだろうと思っていたんだそう。


しかし、10分たっても20分たってもわたしが戻ってくることはなかった。


怖くなった芽依たちは、近くにいた先生に報告。

そして、先生たちが手分けしてわたしを探すこととなった。


ひとまず、先にコテージに返された芽依たち。


そこで、さっきすれ違ったりっくんに、なぜわたしがいないのかと問いただされる。


その重圧に耐えられなくなり正直に話したところ、りっくんは激怒。

芽依たちを怒鳴りつけ、わたしが進んだ道を聞き出すと、一目散に探しに行ったんだそう。



「律希くんに怒られて、とんでもないことをしてしまったって後悔して…。しずくが戻ってこないかもと思ったら、こわくて仕方がなかった…」

「…芽依」

「あのとき、すごい剣幕で怒ったけど、俺は間違ったことをした篠田さんたちに謝るつもりはないから。俺の中では、しずくが一番大事だから」


りっくんのその言葉を聞いて、芽依はゆっくりと頷いた。


「それで、ようやくわかったの。あたしがどんなことをしたって、2人の間を引き裂くことなんてできないんだって…」


芽依は、ただただりっくんのことが好きだっただけ。

その好きという気持ちに、わたしは邪魔な存在だった。


だから、わたしのことを無視したり、いやなことをしてきた。


芽依がしたことは簡単に許せるものではないけど、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらわたしに謝ってきた。

自分の行いに、とても反省している。


わたしだって、芽依は悪い子じゃないのは知っている。


芽依がわたしに話しかけてきてくれなかったら、地味なわたしは今もクラスで1人浮いていたことだろう。


芽依がいてくれたから、学校生活が楽しかったわけだし。

だから、もういいの。



「しずくには、友達の縁を切られたっておかしくないと思ってる。あんなにひどいことをしてきたんだから…。だから――」

「じゃあ、わたしのお願い…聞いてくれる?」

「お…お願い?」


予想外の言葉に、少し顔を強張らせる芽依。

そんな芽依に、わたしはにっこりと微笑んだ。


「もう一度、わたしと友達になってくれる?」


わたしだって、できることなら芽依とこのまま友達の縁を切るなんていやだ。

せっかくわかり合うことができたんだから。


だから、もしこんなわたしでよければ、もう一度友達になってほしい。



わたしの問いに、芽依の瞳にまた涙が浮かぶ。


「…当たり前じゃんっ。だってあたしたち、“親友”でしょ!」


芽依の言葉に、わたしも笑顔がこぼれた。


また、芽依と新しい関係を築くことができた。

だからこそ、芽依はわたしの“親友”なんだ。



「それにしても、しずくのことがめちゃくちゃ好きって気持ちが、律希くんからビリビリに伝わってきたよ」

「…えっ、りっくんから?」

「そうだよ。やっぱり幼なじみって最強だね」

「そ…そんなこと…!ねぇ、りっく――」


わたしがりっくんに声をかけようとしたそのとき、イスに座っていたりっくんの体が斜めに傾いたと思ったら…。


…ガチャン!!


テーブルの上にあったりっくんの食器類が床に散らばり、けたたましい音とともにりっくんが倒れた。


「りっくん…!?」


慌てて駆け寄って、体を起こす。

すると、すぐにわかった。


りっくんの体が、ほてって熱いことに。


虚ろな目をして、苦しそうに息をするりっくん。


おでこに手をやると…。


「すごい熱…」


力なくわたしにもたれかかるりっくんに、わたしは戸惑うばかり。


「しずく、あたしが先生呼んでくるから…!」


なにもできないわたしの代わりに、芽依が先生を呼びにいってくれた。


そして、りっくんは先生に抱えられながら、別室へと移されたのだった。


そんなりっくんの様子を遠目に見守る。


「…りっくん、大丈夫かな」


全然食事に手をつけないと思っていた。


『…ああ、うん。あまりにもしずくがおいしそうな顔して食べるものだから、ずっと見ていたかっただけ』


りっくんはああ言っていたけど、本当は体調が悪くて食欲がなかっただけなんだ。


わたしは木の下で雨宿りしていて、あまり濡れることはなかったけど、りっくんはあの土砂降りの雨の中、わたしを探していて…。

そのせいで、体が冷えて体調を崩してしまったに違いない。


すると、心配そうに見つめるわたしの背中を芽依が痛いくらいに叩いた。


「な~に、こんなところで突っ立ってるの!」

「い…痛いよ、芽依」

「ボサッとしてないで、早く行ってあげなよ」

「…え?」

「だって、しずくは律希くんの“彼女”なんだからっ」

「…べつに、まだ“彼女”ってわけでは。それに、わたしが行っても迷惑だろうし…」

「そんなことないでしょ!こういうときにそばにいてくれたほうが、律希くんもうれしいに決まってるじゃん!」


ニッと笑ってわたしの背中を押す芽依。

りっくんとの仲をまだ説明できていなかったけど、芽依はすでにわたしたちの関係を理解してくれていた。


「しずくがいるから律希くんのことは諦めたけど、あたしは“モデルの律希”のファンだから。ちゃんと看病しないと許さないよ!」


芽依にそう言われ、わたしはクスッと笑った。


「ありがとう、芽依」


そうして、わたしはりっくんが案内された部屋へと向かったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ありがとう、ばいばい、大好きだった君へ

中小路かほ
恋愛
君と出会って、世界が変わった。 初めての恋も、 まぶしいくらいの青春も、 かけがえのない思い出も、 諦めたくない夢も、 すべて君が教えてくれた。 ありがとう、大好きな君へ。 そして、ばいばい。 大好きだった君へ。 引っ越してきたばかりの孤独な女の子 桜庭 莉子 (Riko Sakuraba) × まっすぐすぎる野球バカ 矢野 大河 (Taiga Yano)

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

処理中です...