クールな幼なじみが本気になったら

中小路かほ

文字の大きさ
上 下
11 / 23
山ではぐれてしまったら

2P

しおりを挟む
5つ目のスタンプ台のところで、先生にそう声をかけられた。


スタンプを6つ集められなかったらいけないというわけではないけど、すべて集めた班にはちょっとした景品が用意されていた。


できることなら、その景品をゲットしたい。

だから、残り時間もあとわずかだけど、芽依たちは諦めていなかった。


わたしも、ここまできたのなら最後の1つを見つけたい。


だけど、地図を一切見せてもらえないから、わたしはただ3人のあとをついて行くしかなかった。


「先生、ヒントちょうだい~!」


芽依が甘えたように、先生にお願いする。


「…う~ん。それはちょっとできないけど、最後のスタンプはここからそう遠くないから、がんばったら今からでも間に合うかもよ!」

「ホント!?じゃあ、早く見つけなきゃ!」

「ありがとう、先生~!」


俄然やる気の出た3人は、地図とにらめっこしながら最後のスタンプ台を探すのだった。



その途中、偶然りっくんの班とすれ違う。


「しずくじゃんっ」

「…りっくん!」


りっくんに声をかけられ、思わず反応する。


「スタンプ、全部見つけられた?」

「ううん。最後の1つがまだで…」


という些細な会話でさえも、芽依はヤキモチを焼く。


「律希くんのところは、もう見つけたのっ?」


すぐさま、芽依が入ってきた。


「篠田さんも、しずくと同じ班だったんだ」

「もちろん!だって、あたしたち親友なんだからっ♪」


芽依が満面の笑みで腕を組んでくる。

りっくんに芽依とぎくしゃくしていることを悟られてはいけないと思って、わたしもなんとか笑ってみせる。


「俺たちの班はさっき全部揃って、今からコテージに戻るとこ。がんばって」

「ありがとう、律希くん!」


芽依は大きくりっくんに手を振り、りっくんの姿が見えなくなると、パッとわたしから腕を離した。


そして、何事もなかったかのように歩き出すのだった。



りっくんの班はスタンプを全部見つけたと話していたから、おそらく近くにあるはず…。


しかし、それと共に迫る時間。

3人の顔に、焦りの色が見え始める。


「…こうなったら、手分けして探すしかないねっ」


ぽつりと芽依が呟いた。


「しずく!」


後ろをついてきていたわたしのところにやってくる芽依。


「あたしたちはこっちの道を探すから、しずくは逆の道を探してくれない?もしスタンプ台を見つけたら、また戻ってきて」


そう言って、芽依が指差したほう…。

それは、木がうっそうと生い茂っていて、太陽の光があまり届かない薄暗い道だった。


これまでのハイキングコースはきれいに整備されていたけど、この道だけ雑草が好き放題に生えていて、『道』と呼べるのかどうかも怪しいところ。


だけど、ここは二手に別れている道だから、わたしにはこの道をたどって探してほしいと言う芽依。


パッと見て、こっちの道ではないような気はしたけど、時間も迫っているから、ここでもたもたするわけにもいかなかった。


「…じゃあ、わたしはこっちに行くね」

「ありがとう、しずく♪」


これまでの態度が嘘かのように、芽依はにっこりと笑ってくれて、わたしの手を握った。



まさか、こんな足場の悪い道を進むことになるとは思わなかった。

七分丈のズボンを履いてきてしまったせいで、素肌が見えているくるぶし辺りには、草木が擦れて細かな切り傷がいくつもできた。


一体、どこまで続いているのだろうか…。


10分ほど歩いて、そこで足を止めた。


やっぱり…おかしい。

先に進めば進むほど、人の手が加えられていない背丈の高い雑草が茂っているし、『野犬注意』なんていう壊れた看板も立っている。


絶対、こっちの道なんかじゃない。


そう思って、きた道を引き返そうとしたとき…。

頬に、冷たいなにかが当たった。


手をやると、それは水滴。

もしかしてと、木々で覆われた空を見上げようとしたら、一瞬のうちに大量の雨が降ってきた…!


「…夕立!?」


突然の雨に、わたしは必死に走った。

もともと草木が生い茂って薄暗い道だったから気づかなかったけど、空は黒い雨雲で覆い尽くされていた。


なんとか目に留まった大きな木の下に入って、わずかなスペースで雨宿りをすることに。


しかし、ここでふと思った…。


「あ…れ。ここって…どこ?」


辺りを見渡してみたけど、進んできたコースらしき道が見当たらない…!


どこもかしこも、背の高い草でうっそうとしていた。

探し回るにしても、まだ雨は止みそうにない。


リュックに入れていたスマホを見てみたけど、…ここは圏外だった。

つまり、コテージまでの経路を検索することもできないし、だれかと連絡を取ることすらできなかった。


雨は、一向に上がる気配がない。

スマホに表示された時間では、スタンプラリーの時間はとっくに終了していた。


だから、わたしがいないことにだれかが気づいてくれるはず。

そうして、きっと探しにきてくれるに違いない。


…だけど、こんなどこかもわからないような場所。

一体、だれが見つけてくれるというのだろうか。


芽依たちは、無事に帰れたかな。


ふと、芽依の顔が頭に浮かんだ。


わたしが、こっちの道をきて正解だったのかもしれない。

芽依は虫が大の苦手だから、こんな草まみれの道なんて通れなかったはず。


だから、わたしがきてよかった。


そう自分に言い聞かせて、孤独と不安で押し潰されそうな心を、なんとか励ますしかなかった。



スタンプラリーが終了して、1時間がたとうとしていた。


初めは、雨の湿気で蒸し暑いと思っていたものの、徐々に体が冷えてきて寒くなってきた。


太陽も傾き、もしかしたらこのまま夜まで見つけてもらえないんじゃ…。

そんな不安の波が押し寄せてきた。


雨は上がりつつあるけど、徐々に空が薄暗くなり始める。

思い描いていた最悪の事態が現実になるような気がして、わたしは恐怖で体が震えた。


「だれか…。だれかいませんか…!?」


わたしは、必死になって助けを呼んだ。


「道に迷いました!…助けてくださいっ!」


今出せる限りの力で、声を上げた。


どちらに進んでいいかもわからないわたしにとって、この場で声を上げることしかできない。


しかし、どれだけ叫んでも…返事が返ってくることはなかった。


わずかに残されていた希望は消え去り、わたしは絶望してその場にしゃがみ込む。


俯いて、目をつむった真っ暗な視界の中に、お父さんとお母さんの顔が浮かぶ。


「お父さん…、お母さんっ…」


涙声混じりで小さく呟く。


そして、次にふと頭に浮かんだのは…りっくんの顔。


「りっくん…りっくん…」


りっくんのことを思い浮かべるだけで、涙が溢れた。


だれにも見つけてもらえずに、もう二度とりっくんにも会えないんじゃないか…。


そんなことを考えていたから。


わたし、まだりっくんになにも伝えてないのに…。

『好き』って言えてないのに。


もし、願いが叶うなら――。

…今すぐにでも、りっくんに会いたい。


わたしは、そう心の中で呟いた。


――そのとき。


…カサカサッ


妙な音が、わたしの耳に入る。

驚いて目を向けると、茂みの草がわずかに揺れていた。


風で揺れているのではなく、その一箇所だけが不自然に動いている。


なにかがいるのは確かだった。


そういえばさっき…。

『野犬注意』と書かれた看板を見かけた。


…まさかっ。


わたしは恐怖で体が強張り、足に力が入らなかった。

逃げたいのに、その場にへたり込んでしまう。


茂みの揺れは徐々に大きくなり、なにかがこちらに近づいてきているのは明らかだった。

動けないわたしはゴクリとつばを飲み、ただその怪しげに動く茂みを見つめることしかできない。


…こわい。

逃げたい…!


そう思って、ギュッと目をつむり身構えた…そのとき!



「…しずくっ!!」


わたしを呼ぶ声が、雨上がりの静かな雑木林に響く。


その声に反応して、ゆっくりと目を開けると…。

そこには、わたしに駆け寄るりっくんの姿があった。


「り…、りっくん…!」


わたしは泣きながら、思わずりっくんに手を伸ばしていた。


「…しずく!こんなところで、なにしてんだよ…!」

「ごめん…。ごめんね…」


りっくんはその胸にわたしを抱き寄せると、両手を背中にまわしてギュッと抱きしめてくれた。


りっくんの匂い。

りっくんの息づかい。

りっくんの鼓動。


不安と恐怖で支配されていた心が、徐々にほぐれていくのがわかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。

立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は 小学一年生の娘、碧に キャンプに連れて行ってほしいと お願いされる。 キャンプなんて、したことないし…… と思いながらもネットで安心快適な キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。 だが、当日簡単に立てられると思っていた テントに四苦八苦していた。 そんな時に現れたのが、 元子育て番組の体操のお兄さんであり 全国のキャンプ場を巡り、 筋トレしている動画を撮るのが趣味の 加賀谷大地さん(32)で――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

処理中です...