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山ではぐれてしまったら

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『わたしもりっくんのことが好き』


芽依にちゃんと伝えよう。

正直に話したら、きっと芽依もわかってくれるはず。


そう心に決めた、次の日。



教室に着くと、芽依が自分の席に座って友達と話している姿が見えた。


「…め、芽依!」


わたしは緊張で震える声で、後ろから芽依に声をかけた。

しかし…。


「そうだよね~」

「行こ行こ~」


芽依は振り向くことなく、友達といっしょに教室から出ていってしまった。


…あれ。

聞こえなかったのかな。


まるで、わたしがきたことに気づいていなかったかのように。


そして、朝礼が始まる直前まで芽依は教室に戻ってはこなかった。


朝一番で伝えるつもりだったのに、タイミングを逃してしまった。

だけど、まだ休み時間もお昼休みもある。


そのどこかで、なるべく早く伝えるようにしよう。


いつ芽依に声をかけるか。

そんなことを考えていたら、なかなか授業に集中できなかった。



しかし、授業と授業の合間の休み時間には、芽依はすぐに教室を出ていって、声をかける機会すらならかった。

いつもなら、休み時間のたびにわたしの席まできてくれるのに。


いつもと少し違うことを不思議に思っていたけど、それはわたしの思い過ごしなんかではなかった。



決定的だったのは、お昼休み。


毎日、机を向かい合わせにしていっしょにお弁当を食べている。

それは、芽依と友達になってから欠かさずにしていたこと。


だけど、今日は芽依がやってこない。


「芽依…?お弁当――」

「いい天気だし、屋上に行って食べよー!」


芽依はそう言って立ち上がると、周りの友達を連れて教室から出ていってしまった。

その場に、1人残されるわたし。


朝、声をかけたときも無反応だった芽依。

あのときは、声が聞こえてなかったのかなと思っていたけど…。


そうじゃない。


さっきのでわかるように、わたしは芽依に無視されているんだ。

まるで、存在しないかのように。


…でも。

突然、どうして……。


昨日までは、いつも通りだったのに。



もしかしたら、わたしなんかよりも、他の友達といっしょにいたいときだってあるかもしれない。


そう思っていたけれど、1日たっても2日たっても、芽依はわたしのところへはこなかった。

わたしを拒絶しているような…。


りっくんは、なにも聞いてこない。

急かしたらいけないと思っているのだろう。


だから、わたしもなにも言わない。

余計な心配はさせたくないから。


いつの間にか、芽依と口が利けなくなってから1週間ほどが過ぎていた。


芽依とこんなままじゃイヤだ…!


わたしはそう思って、1人で下校していた芽依を見つけて呼び止めた。


「…芽依!」


芽依の腕を握ると、驚いた顔をして芽依が振り返った。

そして、わたしを見るなり伏し目がちに睨みつける。


「なに…?」


芽依のこんな顔…初めて見る。


芽依は、わたしに対してなにか怒っている。

それは、すぐにわかった。


「芽依っ…。あの…話が……」

「…話?もしかして、律希くんと付き合うことになったっていう自慢話?」

「えっ…」


どうして芽依が…そのことを。


…いや。

実際には付き合っていないのだから、そこは訂正しないと…!


「…違うの!そうじゃなくて――」

「なにが違うの?あたしがなにも知らないとでも思ってるの?」


芽依の口調から、明らかにイライラしているのは読み取れた。


そして、芽依は続ける。

体育祭後の帰り道、りっくんに送ってもらったあとの出来事を。



芽依はあの日、りっくんにパン屋さんまで送ってもらった。


りっくんと2人きりになれて喜んでいた芽依と違って、りっくんはどこか上の空。

芽依をパン屋さんまで送り届けるなり、慌ててもときた道を引き返して行ったんだそう。


その行動が気になって、りっくんのあとをつけてみたら――。


わたしといっしょにいる現場を目撃したのだ。


あの場にはだれもいないと思っていたけど、実は隠れていた芽依に聞かれていたのだ。


『俺はべつに、篠田さんといっしょにいたいんじゃない。俺がいっしょにいたい相手は、しずくだってわからない?』

『これまでは、“幼なじみ”だから言い出せなかったけど…。俺、しずくのことが好きだから。ずっとずっと前から好きだから。だれにも渡したくないくらい好きだから』


りっくんの気持ちを知ってしまった芽依は、どんなにショックを受けたことか――。



「律希くんは、ただ小学校がいっしょだっただけって言ってたのに、“幼なじみ”とか…なに?聞いてないんだけど」

「それは…」

「しずくって、親友に平気で嘘つけるんだね。信じらんないっ」


芽依の怒っている理由は…これだったのか。


しかも、芽依はそのすぐあとにその場を去ってしまったらしく、そのあとの話は聞いていない。

わたしとりっくんが付き合っていないことすら知らない。


話の流れから、すでにりっくんと付き合っていると思い込んでいるんだ。



「…芽依!そのことで芽依に話がしたくて、わたしずっと――」

「聞きたくないって、そんな話。応援するフリして、親友を裏切るとかマジでありえないからっ」


芽依はそう吐き捨てると、わたしが止めるのも聞かずに帰ってしまった。



『花岡しずくは、裏切り者』


そんな噂が流れたせいか、芽依だけじゃなく、クラスの他の女の子からも無視されるようになってしまった。


友達と楽しそうに談笑する芽依と違って、わたしは1人ぼっち。


そんな孤独な日々が続いた、ある日…。



「いよいよ今週末は、待ちに待った林間学習です!」


ホームルームで先生からのアナウンスに、喜びの声を上げるクラスメイトたち。


林間学習は中学に入ってから、初めてのお泊りだ。

3年生になったら修学旅行があるけど、1年生では日帰りの遠足しかなかったから、林間学習もみんなが楽しみにしている一大イベントだ。


バスで1時間ほどのキャンプ場へ行き、お昼ごはんに班でカレー作りをする。

そして、食べ終わったらスタンプラリー。


次の日は、浅瀬の川で自由時間。

そうして、普段ではなかなか体験することのできない自然を満喫して、1泊2日で帰ってくるのだ。


もちろん、わたしも楽しみにしていた林間学習。

…だけど、それは芽依が同じ班に誘ってくれたから。


芽依との関係がぎくしゃくしてしまった今では、同じ班で過ごすことを憂鬱に感じていた。


しかし、そんなわたしの気も知らないで、林間学習の日を迎える。



1クラスで1台の観光バスを貸し切って、キャンプ場へと向かう。


本来であれば、わたしの座席の隣には芽依が座っていて、持ってきたお菓子をシェアしたりしながら、楽しいバスの時間を過ごしていたはずだ。

だけど芽依は、一番後ろの5人掛けの席で、他の友達と楽しそうにお菓子を食べている。


わたしの隣には…だれもいない。


わたしの問題なのに、こういうときに限って、りっくんを頼ってしまいたくなる。

前を走るバスの中には、りっくんがいる。


今の孤独な気持ちを打ち明けてしまいたい。


そう思って、りっくん宛てのメッセージを開いたけど…。

わたしは思いとどまった。


りっくんだって、きっとこの林間学習を楽しみにしていたはず。

そんなときに、わたしがこんな話をするだけ迷惑に違いない。


わたしとりっくんは、まだ付き合っているわけではないんだから…。


だから、りっくんには知らせるべきじゃない。


わたしは空席の隣の席で、周りのはしゃぐ声を耳にしながら、寝たフリをするしかなかった。



そして、バスは無事にキャンプ場へ到着。

荷物をコテージに置くと、さっそく班に分かれてカレー作りが始まった。


わたしの班は、わたし、芽依、その他2人の女の子といっしょの4人班。


みんな、料理はあまりしたことがないのか、おそるおそる包丁を握っていた。


「…ヤバイ!玉ねぎ、目にしみるんだけどっ」

「目が痛くて、切れない~!」

「あれ?切り方って、これで合ってる?」


3人は楽しそうに、玉ねぎに包丁を入れていた。


その横で、わたしはなにも言われていないけど、ニンジンとジャガイモの皮を包丁で剥いていた。


わたしは、家でも料理を手伝うこともあるから、カレーも何度か作ったことがある。

各班に作り方の紙は渡されているけど、それを見なくても作ることはできた。


だから、作り方を見ながらの他の班とは違って、だいたいのことは1人でやってしまった。

芽依たちが玉ねぎを切り終わる頃には、ニンジン、ジャガイモ、牛肉は、ひと口大サイズに切っておいた。


あとは、その玉ねぎも鍋に加えて、炒めてルウで煮込むだけ。


3人で楽しそうに調理して、わたしはなにも言われなかったから残りのことを1人でしていただけだけど…。

どうやら、それが気に食わなかったらしい。


「玉ねぎが切れたら、この鍋に入れてもらってもいいかな…?」

「なに?料理できますアピール?」

「1人で張り切っちゃって、芽依の機嫌でも取ろうとしてるんじゃないの~」


そんなつもりなんて一切なかったのに、同じ班の子からはそう言われて、芽依はプイッと顔を背けて無視だ。


みんなのためにと思ってやったことだったけれど、かえってそれが裏目に出てしまった。



飯ごうで炊いたご飯をお皿に盛りつけ、その上にカレールウをかける。

食欲をそそる、おいしそうなカレーの匂い。


「「いただきま~す!!」」


仲よく3人で手を合わせる芽依たちから、人1人分空いた席でわたしは静かに手を合わせた。



昼食のカレーライスも食べ終わり、午後からはスタンプラリーだ。

これも、班に分けれて行う。


ハイキングコースの中に、6つのスタンプが隠されている。

それぞれのスタンプ台のところには、先生が待機してくれている。


ハイキングコースもなだらかな道で、いくつか二手に別れる箇所もあるけど、最終的には合流できるようになっているから、迷うこともない。


だから、勝手にコースを外れない限り、遭難する恐れはない。

…本来であれば。



各班に、それぞれ1枚ずつのハイキングコースの地図が渡される。

それを班のリーダーである芽依が受け取った。


芽依を先頭に、わたしたちはスタンプラリーのハイキングコースを進んだ。


「あ!あれがそうじゃないっ!?」


班員の1人が、遠くのほうにスタンプ台とその隣に立つ先生の姿を見つけた。


駆け寄ると、先生は手を振ってくれた。


「おー、きたきたっ。ここが1つ目か?」

「はい!」

「まぁここは簡単だが、最後の1つは難しいからがんばれよ」


先生に見送られながら、次のスタンプ台を目指す。


2つ目、3つ目と順調にスタンプをゲットしていく。

しかし、徐々にスタンプ台のある場所を指し示すクイズが難しくなってきた。


わたしには見せないようにと、3人だけで地図を見ている。


時間が迫る中、なんとか4つ目と5つ目のスタンプ台を見つけることができた。



「時間もあと少しだけど、大丈夫そう?」
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